第2話 自己紹介

「あっ、由美子お姉さーん」


 ほわっ!?

 翌日、授業も終わって帰るべーと鞄を手に、靴をはきかえて校門へ向かうと、赤いランドセルを背負ったJSが大声で私を呼んでぶんぶん手を振っている。

 そしてめっちゃ注目されていた。私のバカ! ロリっ子が校門まで迎えに来るとか、目立つに決まってるじゃない! なんで気づかなかったし!


 部活ないし、掃除当番でもないから今くらいに校門でいいよ、とか追加メールしてる場合じゃなかった! 近くの公園で待ち合わせとかにしとけばよかった!


「りょ、涼子ちゃん! ダッシュ!」

「へ? ど、どこに行くんですかー!?」


 とりあえず、涼子ちゃんの手をひいて走って逃げた。あ、誘拐じゃないから! そこ! 指差してんじゃないよ!

 とりあえず近くの公園へ。


 学校からそう遠くない、住宅街の中にある小さな、滑り台と鉄棒しかない公園へ移動する。もうちょっと行ったら大きな公園があるから、ここは基本的に人がいないし、まして高校生が近寄るところでもない。

 よし、これで私が女子小学生にちょっかいかけてた、なんて噂はたたないでしょう。


「ごめんね、いきなり」

「いえ、大丈夫、です。私こそ、大きな声をだして、ごめんなさいです」


 おっと、涼子ちゃんは息切れをしている。考えたら普通に私のペースで走っちゃったし、無理もないか。自分で言うけど、私結構足早いし。

 涼子ちゃんははぁぁと大きく呼吸して息をととのえると、ぱんぱんと自身のスカートを叩いて身なりを整えると、にっこり笑った。ほっぺはちょっぴり赤い。


「改めまして、私、篠原涼子、10歳です。由美子お姉さんのことが、その、大好きですっ。お友だちからお願いします!」


 涼子ちゃんは四年生にしてはよりあどけない顔つきだけど、素直に可愛い。大好きと好かれて嫌な気分はしないけど、そう言う意味だとするとやっぱり戸惑うし、ちょっと恥ずかしくもある。


「う、うん。えと、山口由美子です。その、涼子ちゃん」

「はい。なんですか?」

「私たち、初対面、よね? その、どうしてこういう、告白、しようと思ったのかしら? 言いたくないならいいんだけど、ちょっと疑問と言うか」


 私が男女問わず見惚れるような傾国の美貌を持ってるなら不思議はないかも知れないけど、そうじゃないし。一目惚れって言うのはちょっと無理があると思う。だから手紙ではああ言いつつも、何か、理由があるのかもしれない。

 だから聞いたんだけど、涼子ちゃんはうーんと右手の人差し指をほっぺたにあてて、首をかしげた。わざとらしいポーズだけど可愛い。


「えっとー、由美子お姉さんと私の家、わりとご近所さんみたいでたまに見かけてたんですけど、ギャルっぽいのに優しくて素敵だなーって思ってて、それで、段々好きになっちゃいました。一目惚れです!」

「ひ、一目じゃないと思うんだけど」


 と言うか、て、照れる。照れるんだけど、私別にそんなギャルでもないし、優しいか?

 そう訪ねると涼子ちゃんはきょとんとする。


「え、だって金髪だしー、爪もきらきらしてるし、あ、あとお化粧もしてますよね? それとお姉さんってスーパーで買い物するときに妊婦さんとかお婆さんの買い物籠を台にはこんだり、自転車倒して困ってる人を手伝ってたじゃないですか。あ、あと、電車で席譲ってたのも見ました!」

「う、うーん。別に、優しいとかじゃないんだけど」


 確かに、私服はそうでもないけど、制服だとわからんしね。染髪も化粧も校則違反じゃないし、私はファッションには興味ないけど、可愛いものが好きだから、昔から化粧とかネイルは好きだった。うん、わかった。見た目がギャルっぽいのは認めよう。


 だけど優しいというのは、うーん?

 スーパーでのは単に早くしてほしいのもあるし、自転車とか席譲るのは当たり前のことだから、別に親切ってほどじゃないと思うんだけど。できるのにしないと、後々になって自分が嫌な気持ちになるし、いいことしたなっていい気持ちになりたくてやってるみたいなものだし。それで、いい人だって言われると、なんと言うか、面映ゆい。


「そう言う謙虚なところが素敵なんです!」

「あ、そ、そうなの」


 と言うか、その自転車の時見てたなら手伝えよ。てか私、なんでこんなこと聞いてるんだろう。

 自爆しちゃってる気がする。普通に友達はともかく、付き合う気はさらさらないのに、こう言う空気に持っていっちゃだめでしょ。


「りょ、涼子ちゃんの気持ちはわかったわ。とりあえず、当初の予定通り帰りながらお話しましょうか」

「はい!」

「あと、ちなみになんだけど、明日からも?」

「ご迷惑でなければ、是非」

「いいんだけど、こっちの公園で待ち合わせでもいい? ほら、ランドセルで校門って目立つし」


 歩き出して一緒に公園を出ながら、涼子ちゃんはまたきょとんとする。え、今更と言う顔に見えなくないけど、そうじゃないと思いたい。


「はぁ、由美子お姉さんがそう言うなら。じゃあ、明日からの待ち合わせは、またメールでお話しましょうか」

「え? ええ」


 え、なんで今話さないの?って思ったけど、これわざと帰ってからも話せるように話題残したのか! く、テクニカル(?)ねっ。


「んで、私たちってほら、やっぱりお互いのことよく知らないですし、色々聞いてみたいんですけど、いいですか?」

「まぁ、いいけど」

「やった。じゃあ、好みのタイプを教えてください。過去に好きだった人の傾向とか」

「え、あ、ええ。今まで好きになったのは……年上ね。私、結構流されやすいし、リードしてくれるようなタイプが好きよ」

「じゃあ、私ももっとしっかりするよう頑張りますね」

「あ、うん」


 凄い、ぐいぐいくる。何て言うか、私一人ちょっと気まずいような。だいたい、本当のことだけど年上が好きって言ったのは、諦めさせようと言う意図があったのに全くめげないってどういうことよ。

 なんか、優しいとか言われてるのに私、いじわる婆さんみたいにちいさーく嫌み言ったみたいで恥ずかしい。うう。


「あと、お友だちからをオーケーしてもらえたと言うことで、ないとは思うんですけど、その、恋人的な存在がいたりは、しませんよね?」

「まあ、いないけど」


 いないし、状況的にそう言う気持ちになるのはわかるけど、ガッツポーズとるのやめてくれる? 恋人いないのって私的にはあんまり言いたくないポイントなんだから。


「あ、ちなみに、過去に恋人さんとかは? あ、別に私、終わった人に嫉妬したりしませんから。ただ参考にと言いますか。あと、ついでに、今好きな人とかも、教えてくれちゃったりしたら、嬉しいなー」

「……どっちも、いません」

「よしっ」

「あの、あんまり明け透けに喜ばないでくれる?」

「あ、ご、ごめんなさい。でも、私もいませんから。初めて同士ですねっ」


 ぽ、ポジティブ! そしてすでに恋人前提のように話してくる! この子……話してて気持ちいいわ。普通に友達にいたら楽しそう。

 この迫りようにはちょっとひくけど、明るいし話をする分にはいいかも。


 気持ちを楽にして、この場でばいばいじゃなくて普通に話をしていくことにする。私からも気になること聞いていこっかな。


「涼子ちゃん、普通に好き好き言ってくれるけど、女の人を好きになったことには抵抗とかないの?」

「んー? ないですね。いいじゃないですか、女の子同士でも。あ、由美子お姉さん気になっちゃう感じですか? だったら俺、明日から男装しましょうか。全然いいっすよ」

「ノリノリね。別に、気になる感じだけど、普通でいいわよ」


 男装させたら、大分前向きみたいだし、ちょっと引き返せなさそうなので断ったのに、涼子ちゃんはちょっと不満そうに唇をとがらす。


「えー、でも、男装してないと、恋人になったとき外でキスできなくないですか?」

「きっ、し、しないわよ! 外とか、そんな、おかしいでしょ!」


 確かに最近そう言う人いるけど、誰が見てるかわからないところでキスなんてできるわけない。相手が男の人でも関係ない。

 思わず頬があつくなって否定する私に、涼子ちゃんは年に似合わないにやっとした笑みを浮かべる。


「由美子お姉さんて、やっぱりギャルっぽいのに中身は純情系なんですね。そう言うとこ可愛いです」

「ぐ」


 さっきから涼子ちゃんは攻め攻めなので、普通に顔が可愛いと言われても、それは流せるつもりだったけど、反応が可愛いとか言われると、照れざるをえない。


 その後、家につくまで涼子ちゃんと交互に質問しあって、割りと仲良くなったと思う。この調子で友達になれたらいいんだけど。


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