第2話 新しい地球

冷えきった鏡に指が触れた瞬間、それは自分が全く予想もしていなかった動きをした。ガラスの欠片を摘むはずが、気づけば人差し指の第二関節まで鏡の中に取り込まれていた。急すぎる展開に、思わず手を引っ込めた。が、全く動く気配がない。それどころか、鏡に引っ張られて、もう自分の掌が見えなくなってしまった。何とか手を鏡から抜かなければ。力を振り絞り腕を引っ張ろうとしたその時、頭をよぎったのは今までとは全く別の考えだった。

……これで、本当にこれでいいのだろうか。

このまま鏡に呑み込まれてしまえば、もうあの残業地獄へ戻らなくても良くなるのではないだろうか。

高鳴る心臓を深呼吸で少し落ち着かせた。もう体は肘あたりまで鏡の中だ。どうせ後戻りは出来ないだろうから、覚悟を決めるしかない。もう一度深く息を吸うと、勇気をだして鏡の中へ飛び込んだ。



そこは、暗い暗い闇の中。何も見えない。それどころか、自分まで闇に染まっていくようだ。頭がぼんやりと霞みがかったようになっている。

ふと、目の前に小さな光が差し込んだ。暗闇の中で見たそれは、まるで、山道を照らす月のように煌々と輝いている。あまりの美しさに、思わず指先で触れると、体全体にその光がベールのように包んできた。それは、とても心地よく、疲労困憊だった僕はいつの間にか眠りに落ちていた。









重たいまぶたをゆっくりと開く。久しぶりにとてもぐっすりと眠れた気がする。まだ少し夢見心地の体をゆっくりと起こす。異様すぎるくらい綺麗に澄み切った空気。自分が横たわっているのは丘の上に広がる青い芝生。スーツに付いた芝をはらいながら、ふと顔をあげると遠くにはとんでもない景色が続いていた。SF漫画で見るような、近未来的な建物、変な形や色、角度をした建物。なかにはよく分からない空を飛んでいる物体もある。




………いったい僕はどこに来てしまったのだろう…。



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