タンク―未来の地球の物語―

よるのうみ

第1話

今日も僕は暗い部屋の中で青白いライトを浴びている。ビルの3階、パソコンののったデスクがずらりと並ぶ見飽きた景色。

小学生の頃に父を亡くし、中学生の頃に母を亡くした僕に、高校に進学するお金なんて全く無かった。そんな僕は、流れるようにこの企業の社員になった。そこから現在までの約3ヶ月半、この地獄の日々には終わりが見えない。そう、この企業はとんでもないブラックだったのだ。

入力作業を適当な所まで終わらせたので、必要な書類を取りに行くついでにトイレに行くことにした。暗い部屋の中に自分の足音だけが響き渡る。このフロアはわりと広いので、人がいないと動作一つ一つの音が大きく感じる。用を済ました後、手を洗いながら何となく洗面台の鏡を見た。耳の辺りまで伸びたボサボサの髪、青みがかった黒いスーツ、パッとしない顔。いつもと変わらない、自分の姿のそばに、何かキラリと光る物が目に止まった。不審に思って見てみると、それはガラスの欠片のような見た目をしている。なぜこんな場所にガラスが?不思議に思い、手を伸ばす。冷えきった鏡に指が触れた瞬間だった。

固体だったはずの鏡は、僕の指をのみ込んだ。まるで液体のように。考える暇もなく、僕は全身、鏡に吸い込まれていった。





多分、現世での記憶はこれが最後だ。

気づけば僕は、青々とした芝生の上に、仰向けで横になっていた。澄んだ空気に、澄んだ空。時折吹く風からは、春の匂いがする。

長い夢でも見ていたのだろうか。暖かい日差しに包まれながら、そういえばしばらく太陽の光を浴びていなかったことに気がつく。

そして、春の陽気に誘われるまま、重い瞼がゆっくりとおちていった。



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