自然と結託★
「いんやぁ、ごちそうさま。」
カレンが満足した頃、ディアラントは両手を合わせてカレンを拝む。
「それに引き換え、うちの天然ボーイは……」
そう呟いたと同時に、ディアラントの顔になんとも複雑そうな色が広がった。
誰のことを言っているのかは明白。
「まあ、あれはある意味問題よね……」
脳裏に、天真爛漫なキリハの笑顔がひらめく。
どこかぽやぽやとしている人畜無害。
みんなに愛される癒しっ子。
ただ―――無自覚で乙女心をプッシュしちゃうのが玉に
「サーシャちゃんはどう? ちゃんとアプローチできてる?」
「無茶言わないでよ。引っ込み思案のあの子が、キリハにも分かるレベルのアプローチができるわけないでしょ。」
「ですよね~…」
「というか、あの鈍感が気付くレベルのアプローチって何? まさか、あのレベル?」
「むうぅ……」
訊ねると、ディアラントが途端に渋い顔をする。
まるで、史上最大の難問にぶち当たったかのようだ。
自分だって、サーシャにアドバイスをあげられるなら、とっくの昔にあげている。
しかし、純粋・無欲・平等の三拍子が揃ったキリハは、下手な
〝みんな大好き! オンリーワンだもん♪ キラッ★〟というキリハに、どうしたら〝特別〟という感情を植え付けられるというのか。
「カレンちゃんってさぁ……」
その唇が、薄く開く。
「普段カジュアルでだぼっとしてる服が多いから分かりにくいけど……―――結構、巨乳だよね?」
その瞬間、周囲の空気が凍った。
カレンはもちろんのこと、周囲にいた数少ない人々も、つい飲み物を噴き出したりと動揺を
永遠のようにも、刹那のようにも思えた魔の空白。
―――ゴッ
それを突き破ったのは、
「殴られたいの? このセクハラ男…っ」
「な、殴ってから言わないでください……」
カレンに全力の鉄拳をお見舞いされ、ディアラントは頭を押さえて
「……って、違う違う。別に、エロい目で見てたわけじゃなくてね?」
「あと一言でも余計なことを言ったら、今度は玉を蹴り上げてやるわよ。」
「やだ怖い。」
さっと己の肩を抱くディアラント。
とりあえず、懲りていないことだけは分かった。
無言で拳を震わせるカレンを見て、ディアラントがにわかに焦り始める。
「だから、違うんだって! キリハって、色仕掛けは効くのかなぁーって思って、つい……」
「あの子に色仕掛けぇ?」
〝何言ってんだ、こいつ〟という本音を全面に出しつつも、カレンは少し考える。
「効かないに一票。」
「うん。オレも限りなくそっちなんだけど、ワンチャンあるかなぁーって……」
「その根拠は?」
「いやねぇ……」
ディアラントは、また難しげな声をあげる。
「あいつも、完全にそっち方向に無知ってわけじゃないのよ。エロ本で顔を赤くするくらいの反応はできる。初めて見た時なんて、パニックになって毛布にくるまったくらいだし。」
「最っ低。」
カレンは
あのキリハが、自分からそんな低俗なものを読むわけがない。
十中八九、ディアラントが無理やりキリハに読ませたのだろう。
「いや、そんなハードなやつを見せたわけじゃないんだって! あくまでもソフトに、段階を踏んでね!?」
「あんたがハードなやつを読んでるってことしか伝わってこないわよ。」
「オレじゃなくて、学生時代に周りが読んでたんだってーっ!! 剣術の専門校なんて、男ばっかだから!! それにキリハの場合、あれも教育の一環だったのよ!? あいつ中学から学校に行ってないし、みんな良心が痛んでキリハにそういうことを教えられないって言うから、オレが教えてやるしかなくてぇ…っ」
さすがに、エロ大臣の称号はもらいたくないらしい。
眉を下げるディアラントは、情けない声でわんわんと喚いている。
良心が痛んで教えられない。
それは分かる。
自分だって、サーシャにそんな話題を振れるかと問われたら、多分できないと答える。
(あら…? あの二人、どうやったら恋人らしいことができんのかしら…?)
仮に奇跡が起こって、キリハとサーシャが付き合ったとしよう。
だけど、あの二人の恋人の時間って?
なんだか二人で並んで座って、手を繋いでおしゃべりして終わりみたいな、そんなおままごと展開しか見えないんですけど?
それはそれでこう……面白くないというか、なんというか。
「―――試してみる?」
カレンの瞳が、きらりと光る。
「マジで?」
それを聞いたディアラントもまた、よからぬきらめきで瞳を輝かせるのであった。
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