第8話 いいですか?それでは面接を始めさせて頂きます
「え、え、えぇ〜!? 君、本当に入部希望者!?」
「そ、そうですけど……」
男の子は困ったような顔でそう言った。
「ほらな! 言った通りだろ?」
一条はピースサインを作ってこちらを見た。いや、確かにそうだけどさ……この展開は予想出来なかったな。
「御足労ありがとちゃんなんだけど……まぁとりあえず切り替えて」
「面接を始めましょうか」
一条はそう言うと、どこからともなく、大手企業にありそうなテーブルとパイプ椅子を持ってきて、私たちの目の前に置いた。
「さぁ、どうぞ。椅子におかけください」
一条はいつもの砕けた口調からは想像できないほど、品性溢れる声でそう言った。いや、え、何この状況。
「ご、ごめんなさいね〜。ほんとは一条、こんな変な子じゃないし、良い奴なんだけどね……」
「そこ! 私語は慎みなさい! 面接中ですよ!」
「ご、ごめんなさい!」
私は条件反射的に謝り、パイプ椅子に座ってしまった。もう1人の男の子も、何が何だか分からないようだったが、私と同じように、隣の椅子へ腰掛けた。それを見た一条は「分かればいいんですよ」とでも言わんばかりに、いつの間にかつけていたメガネをクイッと指で押し込んだ。
「では、あなたの出身校とお名前、年齢をお答えください」
「え、えっと。私立
男の子はオドオドしながら答えた。え? 年齢と出身校聞く必要あった?
「分かりました。それでは次の質問に移らせて頂きます。あなたがこの部活に志望した理由を簡潔にお答えください」
あー、この質問ね。定番定番。てか、完璧にこの面接ノリで行くのね、一条。なんかちょっとノリノリになってきちゃってるし。
「それは……」
「お答えずらかったら大丈夫ですよ」
「いえ……私が志望する理由は、もちろん防災意識というのもあるのですが……1番は「神について調査していたら、消えてしまった母に辿り着けるかもしれない」と考えたからです」
男の子は少し答えずらそうにしながらも、ハキハキとした声で話した。お母さんが消えてしまった? どういう事だ?
「詳しく聞かせて貰えますか」
「もちろんです」
武弥は話し始めた。
「私の母は1年前、1人で隣町のショッピングモールに向かっている途中、いきなり行方が分からなくなってしまいました。警察が調査をしてくれましたが、結局、今に至るまで発見されていません」
一条はふんふんと話を聞いている。私も、耳を傾け続ける。
「そして、今日の朝のニュースを見て、もしかしたら、母は神様にやられてしまったのかなって考えて……私は、母がどうなっているのか、今どこにいるのか。その真実だけ知りたいんです! 生死は重要ではありません。真実を、本当の事を突き止めたいのです! それが……私の母への……弔いにもなると思うので……」
今にも涙が落ちてしまいそうな震える声で、武弥はそう言った。
「……なるほどね」
一条が口を開く。
「君の思い、受け取った。合格だ」
「あ、ありがとうございます!」
一条の優しい微笑みに、武弥は嬉しそうに笑った。ここだけ見たら、いい人に見えるんだけどなぁ。
「じゃあ武弥くんの入部と、神様研究会設立を記念して、歓迎会を明日、行います! 朝7時、最寄りの駅集合で!」
そう言うと、一条はイスと机を折りたたむと、抱えてどこかへ行ってしまった。
「……悪いやつじゃないんだけどね。ただちょっと、ノリと勢いが強すぎるだけで」
「分かります……」
私たちはため息をついた。
――
「おーす! やっぱり早く来たな!」
自転車を飛ばして駅へと辿り着いた時には既に、一条と武弥は到着していた。まだ集合時間では無いはずだが……
「ごめんなさい、少し張り切りすぎてしまって」
「俺もだぞー!」
「そかそか、遅れてなくてよかったよー」
休日の朝という事もあって、いつもは人に溢れている駅も、今日はやけに静かだった。私たちの声がよく通る。
「よっし。揃ったみたいだし、出発しますか!」
「OK。でも、一体どこへ?」
私の問いかけに、一条はにっこりしながら答える。
「今日は「テンライドー」に行こうと思う! そこでみんなの性格とか素性とか知っていって、仲を深めていこうかなーって」
テンライドー……確か、創業100年を誇り、全国展開もしている大型ショッピングモールか。あそこなら、飲食店やゲームセンター、ボウリング場もあるし、遊ぶのには困らないか。一条にしてはいいセンスしてんじゃん。
「さ、行っきましょー!」
「「おー!」」
――
まず初めに寄ったのは、チェーンのブティックだった。なんでも、一条が武弥に「洒落てる服を着させてやって、モテモテにしてやりたいから」だと。ま、一条の事だから、どーせ「武弥がモテモテになれば、俺のこと好きになる女の子出てくんだろ!」的な発想だろうけどね。
「さ、着替えてこい!」
服を1式選び終えた武弥が、そそくさと試着室に入っていく。2人でずっっっと話してたみたいだけど……一条のセンスや如何に。
「ど、どうかな……」
試着室から、服を着替えた武弥が出てきた。小柄な体格に合うような淡いパステルカラーの服と、足が長く見える為の暗めのボトムス。中々様になっていた。
「おお!いいじゃん!かっこいいよ!」
「へへ、ありがとう」
武弥は小さく笑った。その顔は照れからか、少し火照っていた。
「あ、ずるい! 俺だって女の子のかっこいいって言われたい! 見てろよ武弥! 夜見!」
一条はそう言って、衣服の山へと駆け出していった。はぁ……馬鹿。ほんっと馬鹿。
――
そこからも、私たちはテンライドーを練り歩いた。フードコート、ゲームセンター、ボウリング……色んな所を周り尽くした。武弥も最初は緊張していたようだが、一条の底なしの明るさと、面白おかしい行動で、徐々に心を許していっていた。
「ふー、楽しんだなぁ!」
一条は満足そうに身体を伸ばした。時刻は3時を回ったところだ。
「僕も……一条くんや夜見さんと周れて楽しかった。本当に……ありがとう!」
「いいってことよ!それより……ちょっと連れていきたい所があるんだ」
一条は、少し落ち着いて言った。素でこんな声を出すのは、珍しかった。
「どこ行くの?」
私は少し不思議に思って尋ねた。
「そ・れ・は・ひ・み・つ! さ、自転車置き場いくぞ! 俺についてこい!」
「わー! まってよー!」
走る一条を追うように、私たちは必死に足を回した。
――
「よっしゃ、着いたぜ」
「ふぅ……ふぅ……ここ、どこ?」
坂を超え、山を登り、ペダルをこぎ……やっとの思いで辿り着いたここは、小さな公園のような場所だった。
「ここは、学校から見えるあのでっけぇ山だ。名前は確か……
私たちは納得した。窓側の席から見える、私たちのいる平地からは少し離れた、あの山か。春には山一体が桃色に染まるから、小学校の時から暇な時、よく眺めていた。
「ここにお前たちを連れてきた理由は……これだ!」
一条は再び走り出す。疲れきった身体にムチを打って、何とか着いて行く。
「これは……」
一条が指さす方向には、赤とオレンジに染められた、美しい街が広がっていた。鮮やかな光を反射して、いつもの街がなんだか少し変わって見えた。酸欠で歪んだ目でも、その美しさは歪まなかった。
「ここは、昔から俺のお気に入りのとこなんだ。だから、お前らにぜひ見せたくってなぁ」
そう言って、一条は少し微笑んだ。その顔は、少し幼い子供のようだ。可愛いとこあんじゃん。
「それと……これ」
一条は何かが握られた手を、私たちの前に出した。それは、この景色と似た赤紫の、小さなバッチだった。
「せっかく組織として成立したなら、なんかそれっぽい事したいっしょ! だからこれは、団結の証。今日から俺たちは、神様研究会という1つの「チーム」だ!」
一条は高ぶる気持ちを抑えずそう叫んだ。身体の芯から、熱いものを感じる。周りの人が好奇の視線を向けていた気がしたが、そんなものも気にならなかった。
私たちは視線を合わせる。
「それじゃあ神様研究会!」
「「「結成だー!」」」
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