第7話 部活設立とか余裕でしょ

「お?お?今俺に対してかっこいいって言ったよな?ん?」


一条はニコニコしながら私をまくし立ててくる。さっきまでのかっこよさが嘘みたいだ。


「ちょ、調子に乗らないで! さっきまでの一条はかっこよかったけど……今のキミは全然かっこよくないから!」


そう言うと、一条はあからさまに落ち込んだ。ざまぁみろ。


「まぁな、そこら辺も勉強だ」


稲咲さんがポンポンと肩を叩く。この流れも鉄板だ。


「さてと、神魂、回収しときますか」


稲咲さんはヤモリの死体があった所へと向かう。そこに、ヤモリは既にいなかった。代わりに、茶褐色で光沢を持つ、宝石のようなものが落ちていた。


「神の死体は死亡後何分後かに消えてしまう。そして、その跡地に現れるのが、ダンジョンにおけるトップトレジャー、神魂って訳だ」


ほぉ。じゃ、やっぱり一条は特例中の特例という事だな。多分、一条以外の神殺特別科のメンバーはダンジョン攻略で手に入れた神魂を使って能力を手に入れたということらしいな。


「なーるほーどなー。話は変わるけど、ダンジョンから出る時はどうするんだ? 出口の鳥居なんてねぇしよぉ」


「それに関しては安心してくれ。このダンジョンは、神の力で作られている。その力の源である神魂を回収してしまえば、ダンジョンはその形を維持できなくなり、現実世界へ帰れるって訳だ……ほら!」


稲咲さんが上を指さした。世界が、ステンドガラスが割れるみたいに、パラパラと崩れ落ちていく。そして、全てが崩壊した後、またいつもの閑静な住宅街へと戻った。


「お! ほんとだ! 戻ってきた!」


空気を吸い込んだ。清く澄んでいて、気持ちがいい。あの辛気しんき臭い小屋とはえらい違いだ。元の世界へ戻ってこれたということを再確認出来た。


「ま、これが一連の流れだな。鳥居へ向かって、ダンジョンを探索して、神をぶっ殺す!……やれそうか?」


私たちは合わせて頷く。少し怖いけど……一条がいれば、何とかなるような気がしている。


「よし! それじゃあ今日は解散としよう! 家に帰る手段はあるか? もし無いなら送って行くけど」


「あ、じゃあお願いしていいですか?」


「お易い御用! 一条はどうする?」


「俺はいいよ。じゃあな、夜見」


一条が軽く手を振る。私もそれに答えるかのように、手を振り返した。


「あ、そうだ!部活動の件、俺に任せとけよー!」


立ち去り際、一条は大きな声で叫んだ。部活……私たちで立ち上げようとしている研究会の事か。こういうアクティブな活動は、一条の方が向いている。私は了承の意を示すピースサインをした。


「じゃ、そういうことで!あーばよー!」


一条は日が沈む方向へと消えていった。川面かわもに反射して煌めく赤口しゃっこうを受けながら走るその姿は、どこか若々しく、生命の伊吹を感じさせた。


「ふふ、青春だなぁ」


稲咲さんがそう呟いた。だいぶ奇妙で不思議な青春だけど。


私たちを乗せた車は、静かに走り出した。


――


「大臣! あの化け物の対策について、意見をお聞かせ願いたい!」


「えー、それにつきましてはですね。今現在、えー、化け物……じゃなかった。神、ですね。その力を手にした者たちを集めた部隊を編成しておりまして……とりあえず国民の皆様は、正体不明の鳥居に近づかないことだけ……」


偉そうなおじさんが情けない声で言う。そう、私たちが討伐した「電球の神」の動画が、世間に流出していたのだ。まぁそりゃそうだろうな。あんなデカくて興味深い奴が世間で話題にならないわけない。しかもそれが敵対するってんだから、そりゃもう心配よね。そんな世間を落ち着かせるために、国防大臣が声明を出したってわけか。でも、さすがに「あの怪物の力を手にした者」はちょっと……ね。ネットでも


[厨二病]国防大臣さん、力を手にした者たちを招集して、神と対峙する準備を始めるwwwwwwww


卍国防大臣さん、神の力を持つ者と契約する卍


みたいな記事が乱立してるし……どうなるんだろ。まぁ、神殺特別科のメンバーが戦ってるところを見れば、こんなこと言えなくなるはずだけどね。


――


「ねぇ、あのニュース見た!?」


「こわーい! あんなのが大量にいるの!?」


「これは神から人類への最終警告だ! 人類は滅亡するぅぅぅ!」


「そんなことより野球しようぜ!」


「おうどんたべたい」


学校でもこの話題で持ち切りだった。直後に現れた謎の物体 (私が呼び出したイザナギの神魂)と合わせて、人類滅亡だと騒ぎ立てるやからもいた。ま、あながち間違いでもないかも……


――


昼休みになっても、教室は賑やかだった。やっぱりみんな、自分の命の危機となると、注目度が上がるもんだねぇ。


私は1人で、ゆっくりと昼食を取っていた。半数くらいの子たちは、同じ中学から進学した友達と喋っているみたいだ。一方の私には、そのような友達がいなかった。まだ入学してから日が浅いから、しょうがない。これから友達も順当に出来るだろう。


ぴーんぽーんぱーんぽーん


校内放送のチャイムが鳴る。私はそれを無視して昼食を食べ続ける。どうせ、どうでもいい内容だ。聞かなくて問題は無い。


「えー、昼食中失礼します! 1年の一条薙と申す者です!」


思わず口からお茶がこぼれそうになった。いや、何やってんの!? 一条!?


「この度、私たちは新たな部活を開設します。その名も、神様研究会、です! 今日のニュース、ご覧になられましたでしょうか! いやー、怖いですよね! ですから、そんな驚異から逃れるため、少しでも「神様」に対する知識をつけておきましょう!っていうコンセプトで作りました! 今現在、2人の部員の参加が予定されています。もし興味があるよー、て方は今日の放課後、校舎裏に集合だ! 待ってるで!」


ぴーんぽーんぱーんぽーん


終わった。……なるほど、これが一条の言ってた「作戦」って訳か。うん……聞いてて恥ずかしいのと、全校に向けてやった事以外はいい作戦だった。タイミングもしっかり捉えてるし、一条の底なしの明るさも出てた。でも……これで人が集まるか!!!???


――


放課後、私は急いで校舎裏へと向かった。そこには、案の定1人でスマホをいじっている、一条がいた。


「やっぱり人来ないじゃん!」


私は少し怒りながらそう言った。


「おーおー。確かにまだ人はいねぇ。けどよぉ、まだまだこれからだぜ。多分1人くらい来るだろ」


そんな上手く行かないよ。私は呆れながら言った。


「だいたいさぁ、あんな放送で人なんて来るわけ……」



「あのぉ、一条さん……でよろしいですか? 入部希望なんですけど……」


「来た!?」


私たちの後ろには、私と同じくらいの背の、少し内気そうな男の子が立っていた。

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