第6話 天国案内人
「夜見、怪我はねぇか!」
鬼気迫る表情で一条はそう言った。普段の表情との落差に、私はこくこくと頷くことしか出来なかった。
「ならいい。お前が傷ついちまわなくて、良かったぜ」
一条は優しく微笑みかけた。素の顔のかっこよさも相まって、なんだか正義のヒーローみたいに見えた。一条がそんなふうに見えるなんて……私は少ししゃくだった。
「じゃ、
ズドォン
一条がそう言った瞬間、突如降り注いだ雷が、屋根を貫き一条を襲った。辺りを衝撃で発生した埃が覆う。これはもしかしてだけど……敵の神の攻撃!?
「いーや、心配するなよ。これが俺の変身方法なのかもしれねぇ」
一体を覆っていた煙が晴れた。そこには、黄金色のオーラを纏った白髪の男――一条がゆったりと立っていた。
「この狭い小屋じゃ、俺の自転車の神は使えねぇ。一条、任せたぞ!」
「分かったぜ、1分でケリをつけてやる」
一条は目にも止まらぬ速さで敵の神へ向かって行った。
「まず1発!」
勢いを乗せたまま拳を前に突き出す。敵は軽く後ろにのけぞった。が、遅すぎた。一条のスピードに適応出来なかったそいつは顔面にパンチを受け、小屋の壁へと叩きつけられた。
どんがらがっしゃん。大きな音を立てて敵は倒れる。しかし、まだやられはしない。すぐに身体を起き上がらせ、一条をぎらりと睨んだ。
「なーんだ、電球の神より全然弱いじゃねぇか。こりゃ楽勝だな」
一条はハハハと笑った。でも……この流れ……このフラグの立て方……どこかで見たことあるような……
「……うわ、消えた!」
一条の驚く声がした。私は前を向く。そこには――何もいなかった。先程までいたあの神の姿は、見られなかった。
「気をつけろ! 隙をつけて襲ってくる作戦だ!」
稲咲さんが大きな声で忠告した。一条は戦闘体勢を維持したまま、周囲を警戒する。
「あ、後ろ!」
「来たか!」
私の声は間に合わなかった。さっき一条が神にやったように、一条の身体が吹っ飛ばされる。だが……そこまで痛そうな素振りは見せていない。
「思ったよりもパワーはねぇな……そうだ! 夜見、稲咲、アイツが来る瞬間、一瞬だけ姿が見えるだろ? だから、来る方向を教えて欲しい。モグラ叩きみてぇによぉ!」
「お、わかった」
稲咲さんにつられ、私も頷いた。私はよーく、目を凝らす。
一瞬、壁の一部が歪んだ。そしてそれは分離して、一条の方向へと向かう。これが、敵だ!
「右後ろ!」
「了解!」
一条は瞬時にそちらへ振り向き、ガードを固める。そして、敵の攻撃を上手くいなし……
「しゃぁっ!」
顔面に綺麗なカウンターを決めた。
「やった!」
私は思わず歓喜の声をあげる。少しでも戦いの役に立てて、嬉しかったからだ。
「壁に引っ付いて、周りに溶け込む能力……そこから推察するに、「ヤモリの神」とでも言ったところかな。さ、行くぞ!」
「おう!」
そこから何回も、攻撃をいなしてはカウンターを決めてのやり取りが繰り返された。一条はいくら傷を負っても、能力で回復できる。一方、ヤモリの神は一条の鉄拳を食らって疲労
「よっし、次で決めるぞ! アシスト頼むぜ!」
一条は拳をぎゅっと握った。私はより一層気持ちを込めて辺りを見回す。
だが、どこからも来そうな気配はなかった。左側を担当している稲咲さんも反応がない。一体、どこから来るの……?
「あ、夜見ちゃん危ない!後ろだ!ヤモリの神は、夜見ちゃんを狙っている!」
「え!?」
後ろを振り向く。そこには、今にも私の所へ飛び込んで到着しそうなヤモリがいた。私は咄嗟に身をかがめる。しかし、あいつは徹底的に私を狙っている。逃れられそうにない。パワーは無いと言ったが、それはあくまで一条からしたら。生身の人間である私が食らったら、最悪死も有り得る……
「い、いや……」
私は目を瞑った。
「ごぉぉぉらぁぁぁぁぁ!」
とてつもない光と音を感じた。これは、一条のだ。稲咲さんの声を聞いた一条が、神速で私の元へ辿り着き、ヤモリを吹っ飛ばしてくれたんだ!
「あ、あ、ありがとう……!」
「礼には及ばんよ。……さて」
「神様よぉ! あんた、いい度胸してんねぇ!? 俺に攻撃するのはいいとして、夜見を狙うなんてなぁ!? こっからはよぉ、本気モードだぜ!」
どかん、空気が破裂する音が聞こえた。一条が風を切ってヤモリへと向かっていく音だった。
「死ね死ね死ね死ね死ねぇぇぇ!」
壁に叩きつけられ、動けなくなったヤモリをこれでもかと言うほど殴る。殴る。殴りつける。ヤモリは必死に抜け出そうともがくが、一条のパンチのスピードに追いつけなかった。
「俺はどれだけ死にそうな思いしようが、最後には回復するぅぅぅ! でも、夜見に限ってはそうじゃねぇ! この世の数少ねぇ美人を減らそうとしたてめぇにはぁ!」
「天に帰るのがお似合いだぜぇぇ〜!」
渾身の一撃が顔面をえぐる。ヤモリは
「そんなに美人が好きなら、天国でやっとけよ、ばーか」
一条はそう吐き捨て、こちらにピースサインをした。白い髪、神々しいオーラ、キラリと輝く歯、爽やかな顔……
「か、かっこいい……」
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