第2話 拾う神、参上
白色と黒色が、中央でハッキリと別れた、綺麗な球体の物質だった。手に取ってみる。重い。手のひらサイズの石とは思えないほどの重量だった。それ以外、特に変わった所は無い。だが、私はこの石に不思議な魅力を感じていた。神秘的で、幻想的で、美しかった
「その石は……まさか……」
稲咲さんがそう呟いた。まさかこんな事になるなんて、そう言いたげな声だった。
「やっぱりこれは神の力が宿った石なのね!?」
私は興奮しながら叫んだ。まるで、宝物を見つけた子供のように。
「ああ……確かにそうなんだが……」
「?」
稲咲さんは顔を曇らせながら言った。もしかして、何か問題でもあるのだろうか。私は心拍数を高めながら耳を傾けた。
「その石には、神の力が詰まっている。俺もその石を食べて神の力を手にした。しかし、誰もがみんな神の力を扱えるわけではない。確率で言うと……0.01%未満だな。もし力に適応出来なかった場合は……」
「死よりも恐ろしい結末を迎える」
「死よりも……恐ろしい……」
その言葉を聞いて、私は足がすくんだ。あの時の、ライトマンと対面した時の事がフラッシュバックする。蛇に睨まれた蛙のように縮こまった体。死が近づく度に吐き出しそうになった心臓。死であそこまで恐怖した私が、「それを超える恐怖」に耐えらるわけ、なかった。
「やっぱり……駄目だ……」
私は無意識に、石を落としてしまった。そしてそのまま、手を地面につきながら、倒れ込んだ。
「うっ、うっ……私の、ばかやろぉぉぉぉ!」
私は人目もはばからず泣いた。泣いた。泣き叫んだ。あまりにも惨めで、あまりにもうるさいその叫びは、空虚の曇り空へと消えていった。そして私は自分の無力さに失望しながら、「死」を覚悟した。
「そこまでだ。よく頑張ったな、お嬢ちゃん」
若い男の声がした。その声の方向を向く。そこには、学ランを身にまとった、長身の男が立っていた。
「誰……?」
消えそうなほど小さな声で私は尋ねた。高校生はふふ、と小さく笑いながら答えた。
「俺はただのしがない男子高校生さ。制服見りゃ分かるだろ?」
当たり前だ。そんな事見りゃ分かる。問題は、「どうしてここにいるのか」と、「何で私に話しかけてきたのか」ということだ。あんな化け物に追われている最中で、こんな気狂い女の元に来るなんて、ふつーじゃない。
「まぁ細けぇことはいいんだよ。俺は、君たちを助けに来た、言わば「正義のヒーロー」だな。でも……このままじゃあいつと戦う事が出来ねぇ。だからさ」
「その石、俺にくれねぇか?」
高校生は、悪魔のような顔で囁いた。その顔は、爽やかさと狂気が入り交じった、なんとも言えない不思議な表情だった。
「お前、さっきの話聞いてたのか?もし聞いてたのならいいんだが……」
稲咲さんが軽く忠告をした。高校生は笑いながら答えた。
「あったりまえよ。そんなん承知済みだぜ」
「俺にはよぉ、叶えなきゃいけねぇ夢があるんだ。俺が生きている理由と言っても過言では無い。それを叶えるために、「神」の力が必要なんだ。……使っちまって、いいか?」
高校生はニカッと笑って稲咲さんの方を向く。それに応えるかのように、稲咲さんは微笑み返した。
ああ、まただ。また他人任せだ。せっかく神様が私の願いを叶えてくれたというのに、少しのリスクを恐れて、挑戦する機会を失った。あの高校生は自分の夢に向かって、歩き出しているというのに。自分の愚かさが、自分の弱さが、恨めしい。
「おいおい、泣くなって。……嬢ちゃん、君の祈りの力がなかったら、そもそも俺たちゃ全員死んでた。嬢ちゃんの真っ直ぐな欲望があったからだ。かっこよかったぜ」
高校生はそう言って軽く微笑んだ。私が、かっこいい?
「そうだよ。今の時代、すーぐに物事を諦めちまう奴らが沢山いる。その中で嬢ちゃんは諦めず、神に祈ることが出来たじゃないか。それが出来るあんたは、いいオンナだな。」
「でも、ここは俺に任せて下さいよ。いいオンナが死ぬ事は、俺にとっちゃあ1番の大損害だからな」
再び笑顔を作る。今回の笑顔は満面の笑みだった。そしてその笑顔のまま、手からこぼれ落ちていた石を拾い上げ、口元に持っていった。
「狂ってる……こんな、誰もやりたがらねぇ、リスクだらけの事を喜んでやるなんて……最っ高に狂ってるぜ!」
稲咲さんはハイテンションでそう言った。さっき笑顔を返されたように、今度は高校生が笑顔で返した。
「その言葉、褒め言葉として貰っとくぜ。だって……」
「こんな状況、狂ってねぇと乗り越えられねぇからなぁ!!」
高校生は口の中に石を放り込んだ。すると
「うわっ、眩しっ!」
彼を中心に、まばゆい光が迸ほとばしった。私達は咄嗟に目を閉じる。さっきのネオンなんか比じゃないほどの明るさだった。
「ねぇ稲咲さん!これって成功してるの!?」
「……神の力を受け取る際には、その神特有の反応が起こる。失敗するも成功するも、この段階では誰にも分からない」
「でも、もし失敗していたら、もっと苦しむ声が聞こえてきてもおかしくない。だがこの光の中からは、叫び声なんかこれっぽっちも聞こえてこない」
「つまり……」
「あの高校生は賭けに勝った!確率の壁を乗り越えて、神の力を手にしやがったッ!」
「おーおー、随分と待たせちまったなぁ!」
光の中から、あの、少しガラついた声が聞こえた。目をくらませるような眩しさはもう感じられない。私は状況を確認するべく目を開けた。そこには―
「ヒーローは遅れてやってくる、ってか!」
綺麗な白髪を逆立たせ、首には勾玉、足には紐を垂らし、謎のオーラを纏っている、あの高校生がいた。
「
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