第3話 パワー×スピード×やべーやつ

目をキラキラさせながら、高校生改め一条はそう宣言した。学ランや笑顔など、元の容貌を残してはいるが、どこかゲームキャラのような、神々しい感じがした。


「おお……おお、おお!!!」


「稲咲さん、これは……」


「間違いない、成功だ!」


「いやったぁぁぁ!」


今までの暗い心がパッと明るくなり、その勢いのまま、叫びを地面に叩きつけた。死の恐怖や、自分への劣等感などは、いつの間にかどこかに消えていた。ただ心の中に「生きれる」という幸福だけが残っていた。


「ウォォォォォ!」


さっきも聞いた、不快な金属音が聞こえた。振り返ると、そこには私達を捕捉し、手を伸ばそうとしている電球の神がいた。


「ふんふん、俺はとりあえずあいつをぶっ殺せばいいんだな?」


一条はそれを指差しながら軽く質問した。そうだ、今の私達は無力じゃない!私達には「神様」がついているんだ!


「そうだよ!やっちゃって一条!二度とあいつが起き上がれないくらい、コテンパンにやっつけて!」


「お安い御用!そのためにこの力を手にしたんだからな!」


一条は私に向かってVサインをした。彼はやはり神々しい雰囲気を放っていた。が、その笑顔はどこかあどけなさを感じさせた。


「任せたよ!「私たちのヒーロー」!」


「当たり前だ!」


そう言った瞬間、大きな突風が私を襲った。この風は……一条のダッシュで生まれたものだ!


「うっひょぉぉぉ!力が溢れてくるぜぇぇぇ!」


自慢の快速を更に飛ばして、一条は電球の神へと向かっていく。その姿はまさに「韋駄天」だった。


「その自慢の拳、どうやらガラスで出来ているみてぇだな!ガラスなら、俺の力でも割れそうだな!」


一条はそのスピードを保ったまま、大きく踏み込んで宙へと舞った。彼の向かう方向には、電球の神の腕についた、電球のような拳があった。


「ぶっ壊れろぉぉぉ!」


一条は拳を前に大きく突き出し、拳目掛けて突撃する。この攻撃が決まれば、あいつは攻撃手段を失う。そうすれば私達の、勝ちだ!


パキン


ガラスが割れたかのような、甲高い音が響く。それは紛れもなく、あいつの拳から出た音だった。


「やったか!?」


稲咲さんはその光景を見上げながら、小さくガッツポーズをした。いや、稲咲さん……それ、フラグじゃ……


「あ?割れてねぇじゃねぇか!」


ほらやっぱり。フラグなんて立てるもんじゃないよ……まぁまだ大丈夫。ヒビを入れられただけでも意味は……


「おいおっさん、誰がこの1発で終わりだと言った?」


「……は?」


一条は笑いながら、拳の上でマウントポジションの体勢をとった。そして、白と黄金のオーラを纏った右腕を振り上げ――


「あっはっはっはっはぁぁぁぁ!」


目にも止まらぬ勢いで殴り始めた。拳が1発、2発と当たる事に、砕けた破片が周囲へと散った。それを数秒続けている内に、ヒビはもう裂けそうなほど大きくなっていた。


「砕けぇぇぇ!」


一条は渾身の力を込めて、割れ目を叩いた。拳が直撃した瞬間、パキッという甲高い音と共に、ガラスで出来た拳はパラパラと崩壊した。


「やったぁ!」


これであいつはもう右腕を使えない!あいつに残された攻撃手段は、左腕と足だけだ。それならば、一条のスピードで避けることができる。この勝負、もらった!


「へっへー!これが俺の神の力だぁっ!」


電球の神の、針金のような腕に乗っかって、一条はピースサインを作る。テンション高いなぁ……私はそれくらいにしか感じていなかった。だが……


「あ、危ない!」


「え?」


一条の身体を、無慈悲な鉄槌が吹っ飛ばした。腕の上で調子に乗っていた一条と、それを見て喜んでいた私たちの隙を完璧に突かれてしまった。


「ぐうぉぉぉぉぉ!」


怪力で 吹っ飛ばされた一条は、私たちの目の前の地面に勢いよく落下した。


「大丈夫!?」



私たちは急いで駆け寄った。普通の人が受けたら、即死は間違いない位の衝撃。いくら神の力を手に入れているとはいえ……怪我は必至だのはずだ。


「う、うごけねぇ……手と足、両方の骨を骨折しちまったのかもしれねぇ……」


おいおいおいおい。そりゃあまずいって。稲咲さんの自転車がない以上、今あいつとまともに戦えるのは一条ただ1人。その一条が負傷をしてしまったら……もしかして、相当やばい状況なんじゃあ……


「稲咲さん! 何か手はないの!?」


「大丈夫! こんな時のために応援を呼んでおいた! その応援が来るまで耐え切ればなんとかなるかもしれない。とりあえず、一条を死なせちゃいけない! こいつを連れて、どっか適当な物陰に隠れよう!」


「了解!」


稲咲さんの指示通り、一条を運ぼうと体を掴んだその時だった。


「!!」


突如、一条の体に纏われていたオーラが、負傷した手と足に集中し始めた。そしてそのオーラは光の粒となって、体に入り込んでいった。


「……ん?お!体が動かせる! やべぇ、腕も! 足も! なんともねぇぞ!」


一条はそれをアピールするかの如く、その場でぴょんぴょんと跳ねて見せた。その動きに違和感はない。少なくとも、骨折している男がしていい動きじゃなかった。


「稲咲さん、これって……」


「ああ……これは、神の力を手にした人間が入手出来る「神力しんりき」と呼ばれる特殊能力だ! 今の様子から察するに、彼の神力は……」


「怪我を一瞬で治す、「超回復」!」


おおおおお! なんだか凄そうな感じがするぞ! 食らった怪我が一瞬で治るなら、死の心配はない。はっきり言って、最強クラスの能力だ!


「おーおー、すげぇじゃねぇか! これならよぉ! 骨折り放題じゃねぇか!!!」


「……」


やべーやつだ、こいつ。うん。いくら治るからといって、骨が折れるのはとてつもない痛みが来る。それを折り放題なんて……死を恐れない時点でとんでもないやつだとは分かっていたが。


「っしゃあ! 切り替えていくかぁ!」


一条は敵目掛けて一目散に駆けていった。動く姿はかっこいいのになぁ。


「グォォォォォ!」


「邪魔ぁ!」


向かい来る鉄拳を、間一髪で避け続ける。辺りには、拳によって空いたクレーターだらけになっていた。


「よっし! そろそろ決めっぞ!」


電球の神を目の前とした一条は、地面を思いっきり蹴ってバッタもびっくりの大ジャンプで、頭の電球を優に超える高さへと到達した。


「この角度なら……」


「てめぇのそのふざけた頭を1発で吹き飛ばせるなぁ!!」


空中で体制を整えた一条は、足を前に突き出して、ライダーキックのポーズを取る。そして重力を体に乗せながら、電球目掛けて一直線に進み始めた。


「くたばりやがれぇぇぇ!」




ピシッ


一条の足は電球の神の頭に直撃し、そのままガラスを突き破った。そして、脳だと思われるフィラメントを破壊しながら、脳天に穴をぶち上げた。


「グァァァァァァ!」


脳を破壊された電球の神は、力無く倒れた。そしてそのまま、動くことはなかった。


「勝った。勝った……勝ったんだ! これで生きられるんだぁ!いいっやったぁあ!」


私は藤咲さんと、その身を合わせながら抱き合った。変な緊張から解放されたからか、私達の目には涙が溢れていた。


「へへ……なんとか勝ったぜ……ざまぁみろ……だ」


後ろでブイサインを掲げていた一条は、捨て台詞を放ちながら地面へと倒れ込んだ。私達は咄嗟に彼の元に寄り添った。


「大丈夫!?」


返事はない。もしかして、死んじゃった!? よく見たら、あの凄そうなオーラも無くなっちゃって、ただの学生服になってるし……


「いや、疲れて寝ちまってるだけだ。よく見てみろ」


私は一条に顔を近づける。その表情は死んでいるかのように変わらなかったが、微かに小さな呼吸音が聞こえた。


「神の力に覚醒したての頃は、みんなこうなっちまうんだ。逆に、よく耐えた方だよ」


私はほうほうと納得した。あそこまでのスピード、パワーをいきなり得たんだから、体が疲れるのも当然だよね。むしろ、そこまで頑張ってくれた彼に感謝しなきゃ。頭はだいぶおかしいけど、ちょっとかっこよかったな。


「……さてと。こいつが力に目覚めちまったからには、ちょっーとめんどい手続きをしなくちゃいけねぇんだなぁ……こいつ1人を連れてくのもあれだし……そうだ! お前ついてこいよ! 証人としても使えるだろ!」


「……えええええ!?」


私は稲咲さんに手を引っ張られながら、そこら辺にあった軽自動車に乗り込んだ。とほほ、今日は早く帰りたかったのにぃぃぃ!

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