第225話 アトラス大陸争奪戦と、開戦ウルカーン
アメリカ、UK、日本、三カ国の定期連絡会議……
「大陸統一戦争だと?」
「はい。ご説明しましたとおり、日本人が加勢しているとみられる国家は、今内戦状態にあります。その内戦が終結すると、論理は飛躍しますが、戦争が早期終結して全ての国家が団結してしまう可能性があるのです」と、日本の担当者。
「それは、一体、どういう……」
「今勃発しているのはウルカーン・エアスラン戦争ですが、ウルカーンの内戦を引き起こし、他の国々も巻き込んでいます。ウルカーンの盟友ノートゥンは、治療支援目的にウルカーンとエアスラン軍の間に築いた要塞に立てこもっていますし、農業国ララヘイムはエアスランとウルカーン内のスイネルという街の両方に軍を送っています。西の大国ティラネディーアは、一度はウルカーンに援軍を送りましたが、ウルカーンの巫女に正当性が無いと主張し軍を引き上げました。最強の軍隊を持つと言われるタケノコもスイネルに軍を送っています」
「混沌としているだけじゃないのかね? 私には泥沼に聞こえるがね」と、アメリカの担当者。
「ここで重要になってくるキーワードが日本人なのです。まず、聖女その人が異世界に転生した日本人の記憶と姿を持つ人物らしいのです。聖女はノートゥンで絶大な権力を振るう立場にあるとのことです。ウルカーン首都に進軍を始めたウルカーンの地方都市スイネルのスイネル軍、それに力を貸しているララヘイム軍、そしてタケノコ軍が共同作戦を取るに至った立役者がおりまして、それが日本人男性だというのです」
「スイネル軍の総大将はビフロンスという女性なのだったな。かつてウルカーンで巫女を務めていたとされる人物とある」と、UKの担当者が日本語と英語で描かれたレポートを見ながら言った。
「追放されていたビフロンスを助け、保護したのが異世界転移していた日本人なのです。一度は身分を失った彼女が表舞台に出てきたのも、その日本人の要請と言われています」
「この内戦、スイネル軍は勝てそうなのかね? そもそも、エアスランはどうするのだ。それから、残るティラネディーアとエルヴィンとの関係は?」
「内戦の戦況はこれからでしょうが、今のウルカーンはエアスラン一国すら追い返せないほど弱体化しています。それの隙を突けばウルカーン占領は成功すると見られています。その後、対エアスランに関してどうするのかはまだ不明です。ティラネディーアに関しては、その国の守護神と言われる者がその日本人と一緒にいるのを見たという情報がありまして、おそらくは男女の仲ではないかとのことです。エルヴィンはあまり国際情勢に興味を示さない国らしいのですが、もともとウルカーンから派生した国なので、ビフロンスがウルの巫女に就けば親ウルカーンの国にすることは可能だろうとのことです」
「そうか。少なくとも、あの大陸の中心は聖女、若しくはビフロンスになるのか。内戦の行方を見計らい、アポイントを取りたい。それまでに、戦略を練るとしよう」
「連絡なら、彼の会社が東京にあります。娘とはいつでも連絡が取れるそうですから、何とかなるでしょう」
三カ国の作戦会議は続く。
◇◇◇
C国……
アトラス大陸東部、低木しか生えていない乾燥した空き地で、小さなおじさんが自動小銃を的に向けて連射する。
トタタタタと音がして、木で造られた的がはじけ飛ぶ。
「これが銃か。狩りが少し楽になるかもしれんな」と、小さなおじさんが言った。鼻をしかめている。火薬の匂いが嫌いらしい。
「それは友好の証に差し上げましょう。お酒も、香辛料も甘味料もどれだけでも持ってきます」と、C国軍人が言った。
「まあ、わしらはこの国の役人じゃない。だが、異世界人がやって来たのは初めてではないし、遠い国では彼らが村を築いたという話も聞く」
「はい。私達があの海岸に村を築くことを認めてくださって感謝しております。出来れば友好を続けて貰えれば」
C国軍人はにこにこを笑いながら下手に出る。
「わしらは、うまい酒さえ飲めれば文句は言わんよ」
C国軍人はにこりと笑い、「沢山持って来ますとも」と応じた。
『新大陸に領地獲得』
C国は、そのことの国際承認を得るために、根回しを開始した。
◇◇◇
R国……
鉄の壁、明るいライトで照らされた冷たい部屋の中、防護服に身を包んだ数人の人物が、ベッドの上の何かをいじりながら駄弁る。
「こいつら、人間とほぼ変らなかったらしいな」と、一人が呟く。
「遺伝的な話をしているのか? それならサンプルを送ってまだ結果が出ていない」と、別の人物が応じる。ベッドのブツから何かを切り離し、ぬちゃりとステンレスの皿に乗せる。
「あそこの話だ。こいつらを連れてきた兵士は、散々楽しんだらしいぜ」
「物好きだな。一発いったら、どうせ飽きるくせに」
ぬちゃり。テキパキと塊ごとに分けながら、ステンレスの皿に乗せて行く。
「お前は興味ないのか?」
「エロフの話か? ファンタジーは嫌いなんだ」
「おっぱいは大きくて柔らかく、あそこの締まりも感度も最高。顔は美形でお肌も綺麗、体はまるで子供のようにしなやかだそうだ」
「耳が長いってだけで、俺はパスだ。気持ち悪い」
パシャリ。部屋の中でフラッシュが焚かれ、彼らが切り取ったブツを別の班が写真撮影していく。
「耳の形が嫌いなら、切り取ってからすればいいじゃないか。まだうようよいるらしいぜ。森の中によ。皆狩りまくってるぜ」
「よくやるよ。相手も反抗するだろうに」
「反抗と言っても殆ど弓矢らしいぜ。銃の敵じゃねぇ。あいつら、上官に極上を献上してお遊びを見て見ぬ振りしてもらってやがる。まあ、そのお陰で俺もこいつらで性処理できるんだがな」
「手が休んでいるぞ。今日中にこいつをばらして写真を撮って、サンプルを国に送らにゃならん。サタンかどうか調べるんだとよ」
R国は、研究から始めたようだ。
◇◇◇
F国
島しょ部の島影に、
その軍艦の甲板にはテーブルが置かれ、海軍服を着た男性が二名、肌の露出が多い女性二名が座っていた。
そこに、綺麗な白い皿に盛られた料理が運ばれてくる。
「どうぞお嬢さん方。我々を案内してくれたお礼にご馳走しましょう」
海軍服を着た片方が合図をすると、料理人がワイングラスを女性の前に置き、それにワインを注いでいく。
「葡萄という果物で造ったお酒です。芳醇な香りをお楽しみください」
女性の方は、ワイングラスに顔を近づけ、上品に香りを楽しむ。
「ほう。これは食中酒か? 肉料理に合いそうだ」
「はい。ゴクウ殿。今日のメインディッシュに併せた一本ですよ」
女性は始めて見る料理と食器に戸惑いつつも、小さな口で少しずつ食べていく。
「それで、我々の話は信じてくださいましたか?」と、F国軍人。
ゴクウと呼ばれた女性は、「自分達はF国という国から来たこと、この船は軍艦だが私達と戦う意思はないこと、ついでに、私達と国交を持ちたいということ、この理解でいいのか?」と言った。
「はい。是非に。いつか、我が国にも来ていただきたいのです」
その時、船員が一気に慌て出す。
食事中のF国軍人が何事かと水兵に聞くと、水中に何か巨大なものがいますとの答えが返ってきた。
F国軍人が慌てた様子でゴクウの方を向くと、「ああ、あいつだろう。珍しい船が来たのでな。様子を見に上がって来たのだと思う」と答えた。
F国軍人が少し不安そうな顔をしたからだろうか、ゴクウは隣に座る赤いスプリットタンの女性に向けて、「おい。ボーゼルだったら一発殴って水底に送り返してこい。サーペントだったら仕留めて刺身をここに持ってこい。この酒と合せてみたい」と言った。
隣の女性は、無言で首だけ伸ばして海にドボンと飛び込んでいった。
ゴクウは、唖然とするF国軍人達を余所に、そのまま食事を続行する。
しばらく経つと、軍艦の真横に巨大な背びれが水上に現われ、そしてまた沈んでいく。
怪物が去った後、巨大な引き波が発生して軍艦を揺らす。
ゴクウは獰猛な笑みを見せ、「やっぱりボーゼルだった。アイツは船を沈める癖があるから気を付けよ」と言った。彼女の毛むくじゃらのしぽが上機嫌に揺れる。
その後、終始モンスター娘らのペースで食事会が進み、それは船中の酒を飲み干すまで続けられた。
F国は、人材交流から始めた様だ。
◇◇◇
K国……
「ありました! 王朝時代に浮島が南方に飛んだという記述のある文章が見つかりました」
「よし、我が民族とその島の関わりについて、我が国の頭脳達に分析させるのだ!」
K国は、歴史を調べるところから始めたようだ。
「はい。それから我が国の彫刻家が作成した黄金の銅像で魔力を集める実験ですが、成功しました。ですが、力を降ろした者の精神が不安定になるという現象に悩まされています。戦力化はもう少しお待ちください」
「分かった。ついでに我が国のS州島に発生した巨大怪異をヒデヨシのせいにして日本に謝罪と賠償を要求する作戦も進めろ。譲歩と引き換えに日本の魔術回路技術移転を……」
K国は独自路線でいくようだ。
◇◇◇
夜明け少し前。肌寒い空気が満ちる中、騎馬に乗ったゴンベエがマツリに近づき、「気を付けてね」と言った。
マツリは自分でスレイプニールを操り、「ありがとゴンベエさん。戦争は、私達で戦う」と応じる。マツリは僕っ子を返上し、自分のことを私と呼ぶことにしている。戦乱の世を生き抜く領地貴族としての自覚がそうさせているのだろう。
ゴンベエの故郷『ヨシノ』は、エアスラン国の地方都市。マツリは、自分達の戦争は自分達の力で戦いたいと考えていた。
「敵が見えた! ネム隊は南から回って、残りは私に続け! 速度を上げよ!」
マツリは下知を下し、スレイプニールにムチを入れた。突撃を開始したナナフシ軍の先には、薪の煙が上る廃村があった。エアスラン軍100人が占領する場所である。
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