第190話 3000円おじさん
ガタン ガタタン ガタタン ゴトトン…
繰り返し繰り返し響くこの不思議な音と振動は、各駅停車の列車が鉄道を走る音。
時折、ガァーーーーーと鳴って我に返るが、それは列車が鉄橋などの上を通った時の音だろう。
繰り返し、繰り返し、返しては繰り返すこの音は、まるで人の鼓動のようで、どこか安心し、また、別の世界に
今日は土曜日。俺達の快気祝いの日なのだが、ケイティのお誘いで朝からお出かけすることに。
家にあいつをほったらかしにして。あいつは何故か日本語が読めるらしいので、ネットで時間を潰すらしい。
あいつ……そういえば、俺はあいつの名前を知らない。神敵だと認識しているが、あいつはそう名乗ったことはないと言っていた。今度聞くか。
あいつとは、結局昨日もやりまくった。食前に10回。食後に数え切れないほど。夜中に起きて10回くらい。朝起きてからも3回した。一体どうしたことだろう。まったく飽きない。不思議な体だ。
俺には嫁も子供もいるというのに、小さな女性を家に連れ込んでやりまくり。異世界の倫理観をそのまま日本に持ち帰ってきたというか何というか……嫁に不満がないと言えば嘘になるのだが、それでも簡単に一線を越えてしまったもんだなぁ。まあ、救いなのは、あいつは普通のヒトではないということ。性行為をどうとらえているのか知らないが、少なくともうちの家庭を壊そうとしているわけではないし、子供を欲しているわけでもない。
だが、この国で嫁がいる男性が他の女性と致すのは非常にマズイ。いずれ、何らかの決着を……
ポケェとしていると、マスク姿のなかなか綺麗な目をした女性が電車に入って来て、そして俺の斜め前にお尻を向けて立ち止まった。
撫でたくなるような良いお尻だ。少し前までの俺は、訓練と称してお尻を撫でまくっていたのだ。最近はネムのやつしか撫でていなかったけど。それでも、インビジブルハンドを使えばいつでもいくらでも誰でも撫でることが出来たのだ。
俺は、何となくインビジブルハンドを展開させるイメージを造る。
もちろん、俺の見えない手が発動するわけでも……ん?
女性のお尻に近づく男が一人……手で触る分けでは無い。そろっと近づいて、自分のふとももで相手のお尻に触れている。
女性の方は、じっと耐えているようで、何も反応しない。
こ、これは……まさか……
だが、俺はその女性の知り合いでもない。助けたところで、別にさせてくれるわけでもなし。無視だ。
横目でチラチラと眺めていると、男の方が徐々に女性の方に体を近づけていく。女性の方は少し地味目の30代くらいで、男の方はもう少し若い感じだろうか。
まあ、どうでもいいかと思いながら、俺は仕事や異世界の事について考え事をする。
考え事をしていると、直ぐに次の駅に着く。
そこでは、他の客に混じってケイティが入って来た。ヤツの最寄り駅はココだから、別に不思議ではない。
ケイティは、俺に気付いて小さく手を上げると、さっさと俺の3つほど隣の席に座ってしまう。これが、おっさん同士の距離感。
近づき過ぎず離れ過ぎない。お互いのプライベートゾーンを守りつつ、それなりに関係を持ち、それでいて疎遠にしない。
俺も、目的地に着くまでポケェと一人の時間を楽しむ。先ほどのお姉ちゃんのお尻を探す。
あった。少し緩い感じの生地のズボンをはいている。撫でたらお尻のお肉の重みを感じるくらいの緩さだ。
俺がお尻を眺めていると、男の手の甲がお尻に触れる。
ほう。ついにやったな。いや、まだ偶然かもしれない。電車の揺れのせいで手が動いただけなのかもしれない。
俺は、彼女のお尻をこっそり観察する。
女性が俺の方に移動してくる。男から逃げているのだろうか。だが、男の方も時間差で移動する。そして、また触り出す。今度は手の甲ではなくて、手のひらだ。
ふむ。これは痴漢だな。
ふと、ケイティの方をみると、ヤツはスマホをじっと眺めていた。いや、スマホの角度が何かおかしい。あいつのことだ、俺達の目の前で繰り広げられる痴漢行為を撮影しているのだろう。
でもどうしよう。まあ、やるか。俺は、最近モラルハザードを起している。ここは良い事をして徳を積もう。今の俺は、多少殴られてもびくともせんし。ケイティが動画撮影しているんなら、俺が冤罪などで巻き込まれる可能性も少ないだろう。
俺は、座席から立ち上がった瞬間、男の手を握る。あくまで優しく握る。本気で握ったら潰れる。
そして、男の方の顔を見る。これで諦めてくれたら、警察沙汰にはしたくない。面倒だし。
「ごめんなさい」と、意外な場所から声がした。
ふむ!?
「あの、違うんです」と、女性が言った。お尻を触られていた方の女性だ。どういうこと?
「プレイなんです」
「え?」
男の方は少しふてくされてそっぽを向いている。
「その、触って欲しくて頼んでいるんです」と、その女性が言った。
あーそうですか。痴漢プレイを楽しんでいたわけね……
・・・・
「災難でしたね」と、ケイティが言った。
「お前、あの動画撮った?」
「撮りましたけど、流石にどこにも流しませんよ」
「ネットには流すなよ。あ、でも綾子さんに見せて感想聞こうぜ。話のネタにはなるだろ」
「とりあえず今晩ですね。あのお店も久々です」
「そうだな。懐かしい。ところで、今日は何処に行くんだ? 昼前に御徒町に集合だなんて」
「ええ。実験ですよ。魔術の実験です」
「ほう……まさか、マジカルの方か」
こいつの魔術でわざわざ街まで出てきて実験するというと、鑑定かマジカルTinPOしかない。鑑定は別にどこでもいいわけで、それならば消去法でマジカルTinPOだ。
「そうなんですよ。私、こっちでは素人童貞だったでしょう?」
「そうだな。ジークに筆下ろししてもらったんだよな」
「今も性的パートナーなんて居ませんから、これから出会いに行くのです」
「そ、そうか、俺は別にいいんだが……」
俺は、既婚者だしあいつとやりまくっているから、出会いなんてどうでもいいだけなんだが、それは言えない。だが、神敵がこの世界に来ていることは小田原さんと三人でいるときに伝えようと考えていた。
「いえいえ。一人では寂しいですし、入場料と連れ出し料金は奢りますよ。嫌なら観察だけして帰ればいいのです」と、ケイティが言った。
どうも、俺はこれからケイティ行きつけのお店に行くらしい。
俺とケイティは、休日でもの凄い人出の狭い路地を歩いて行った。
・・・・
狭い階段を上がり、受付で前金を払い、そして不思議な部屋に入る。俺達の他に、男性が4人ほどいる。
説明はケイティがしてくれるとのことで、俺は分けも分からずに部屋に通された感じだ。
そこは、まず暗い部屋があって、その周りに明るい廊下がぐるりと囲んでいる。明るい廊下と中央の暗い部屋は、マジックミラーで仕切られ、男性は暗い部屋へ、女性は明るい廊下に居るという仕組みだ。
明るい廊下の方には、狭い通路沿いに椅子が設けられており、その椅子の頭上には番号があった。
男性部屋の方にはその番号が書かれたカードが掛けられており、そのカードにそこに座る女性のプロフィールが書かれているという寸法だ。
もちろん、女性の方から男性は見えず、男性は椅子に座る女性達を品定めしながら、今から遊ぶ女性を選ぶというシステムだ。
ここは、風俗店ではない。単なる出会いの場を提供するお店だ。なので、気に入った子が居たらその子が座る椅子の座席番号を店員に知らせ、そして別室に移動し1対1で本当に出会うことが出来る。そこからの交渉はお店側は一切タッチせず、それ以降は全て自己責任となる。
ここは、いわゆる出会い系の喫茶店だ。その実態は、パパ活女性の巣窟。俺は、明るい女性席に座っている人達を一通り観察する。
案外若い子が多い。若い子でなければ、買い手が付かないからだろうと思う。
若干歳を食っている人もいる。プロフィールを見ると35歳だったが、どう見ても50歳近い。
ケイティからスマホでショートメッセージが入る。ここは、おしゃべりは御法度のようだ。
『5番は商売女っぽいから遊んでも面白く無いと思います』
『りょ』
ふむ。どうしよう。ここは、どうみても売買春の現場だ。
社会的にこういうのが必要なのも分かるが、こんな観光地で堂々とこういうのが営まれているのも凄いと思った。でも、自分で相手を選べるだけいいのか。風俗のお店に勤めれば、お店がお客さんを集めてくれる代わりに、拒否権がほぼない。まあ、お店側もある程度人は見るのだろうが……。だが、ここは出会ってみて、その後の行為が嫌なら嫌と言えばいいのだ。そういう意味では、少しだけ健全なような気がする。
ここは一つ、女性らを観察してみよう。
落ち着きのない胸元が開いた女性。ミニのジーンズスカートで足を組んでいるふとももが綺麗な女性。だぼっとしたワンピースの女性。自分の巨乳を惜しげもなく強調したような服装の幼い顔つきの女性。買い物袋を下げている主婦っぽい女性。やけに細い少し不健康そうな女性。
その時、がちゃりと女性側の扉が開く。男性ルームに居る猛者達の目線が一斉に集中する。
入って来た女性はプロっぽい感じで、ミススカートで化粧が濃い目の30代だった。男性陣の興味が一気に失せるのが分かる。ここは、こういう世界なのか。おそらく、プロはお呼びでないのだ。
何となくプロフィールカードを見る。食事、カラオケ、遊ぶなどが列記してあり、それに○を付けるようになっている。食事がNGな人もいるし、逆に遊ぶのがNGな人もいる。パパ活にも色々あるのだと思う。こうしてみると、この世界も面白い。
『ミニのジーンズはヤル気はないでしょう。お食事を奢って欲しいだけの人です』と、ケイティより。
ふむ。ああして男性受けしそうな格好をしておいて、男をおびき寄せているんだろう。
また、女性側の扉がガチャリと開く。今度はヴィトンのバッグにピンヒールの女性が入って来た。お店の職員がその人のカードを持ってくる。
カードを確認すると、22歳の学生らしい。東京にはこんな学生がいるのかと少しショックを受けた。娘があんなになったらどうしよう……
『7番は、多分させてくれると思います。行かれます?』
7番の子は、だぼっとしたワンピースの女性だ。26歳と書いてある。見た目も未成年ではなさそうだ。お顔も悪く無く、どこか田舎から出てきたような感じの女性だ。
しかし、俺はあまりヤル気がないのだ。でも、そうだなぁ。あいつは細いから、母性的な部分が恋しくもなってくる。どうしよう。あのワンピースの子、多分、巨乳だと思うんだよなぁ。隠しているだけで。
だが、今回はパス。乗り気ではない。ケイティいいぞ。と返す。
ケイティは、俺からの返答をスマホで確認すると、にこりと笑ってその子のプロフィールカードを持って部屋を出て行った。出会う気だろう。
しばらくすると、『先ほどの子とホテルに行って来ます』とショートメールが入った。あいつは上手くやったようだ。
ついでに、『誘い出すコツは、セック○目的、若しくはヤリモクとはっきり伝えることです。それで、相手は安心します』というメールがケイティから入って来た。どっち付かずが一番よくないのだろう。
さて、どうしよう。改めて見ると、幼い顔つきの巨乳ちゃんが居なくなっている。そうなると……
買い物袋を下げている主婦っぽい女性が気になってきた。マジックミラー越しによく観察すると、買い物袋の中身は洗剤とカップラーメンだった。この人、日用品の買い物帰りにここに寄ったのか?
歳はカードには30歳と書いてあるが、おそらくもう少し上だろうと思う。
どうしよう。何故か焦ってきた。別に見学だけでもいいのだが、ケイティが出会うことに成功したため、俺としても誰かと出会わなければと思ってしまう。
俺は、そこから30分ほど悩み、洗剤が入った買い物袋を持っている女性のカードを持って、受付に行くことにした。
・・・・
個室に通され、待つこと1分ほど。めちゃくちゃ緊張した。個室入り口のカーテンが開き、先ほどガン見していた女性が入って来て「こんにちは」と言った。
「あ、どうも。初めまして」
俺がそう言うと、その女性はおそるおそる俺の隣に座ってきた。現代の日本人らしい体型。お尻がむっちりしていて、運動能力が低そうな感じ。でも、それが意外と斬新だったりする。
「あの、ヤリモクなんです」と、言ってみた。
その女性は少しだけにこりと笑って「ストレートですね。でも、はい。いいですよ」と言った。
やれるのか。まじか。こんな簡単に。日本経済は一体どうなっているのか。
「あ、お食事はどうされます? 私はどうでも良いですよ」とその女性。
「出来れば食事は無しが良いです」
「いいですよ。お車代は、ホテル抜き2で良いですか? 最後までありで」
ん? お車代? そうか、売春代の言い換えか。そういえば、お金の事はあまり考えていなかった。出会いと言うから、風俗より高くないだろうくらいは思っていた。ホテル代も割り勘かなと何となく判断していた。というか、2って2万だよな……
「あの、もう少し、そのですね。お値段を」
女性は数秒無言になり、その後「お兄さん、ちゃんとしていそうだから、いちごでいいですよ」と、言った。簡単に値引いてくれた。
「私ココ始めてなんですが、この辺のホテル代ってご存じです?」
「ピンキリですけど、七千円もあれば2時間は大丈夫だと思います」
俺は、瞬時に財布の中身とこれから掛かるであろう金額を頭の中で計算し、お車代なるものに出せる予算を設定する。
「さ、三千円、三千円でどうでしょう!」
その女性は、ドン引きしてそそくさと部屋を出て行った。
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