第189話 スイネル到着


街道をキャラバンが進む。


「よし、そろそろ旗を立てよう」と、デーモン娘のジークが言った。


一斉にナイル伯爵旗、そしてローパー伯爵旗が掲げられる。


ここスイネルは、ララヘイム国と海路で繋がっているために、ララヘイム派筆頭貴族のナイル伯爵家はとても有名であったし、また権力もあった。ここの領主はナイル伯爵家と縁が深い貴族なのである。


ファンデルメーヤ・ナイルは、荷馬車横を歩きながら旗が掲揚される様子を見て、「一応、無事に着いたわね」と言った。今回、彼女とその孫のハルキウ・ナイルは、ここまではお忍びの旅であったが、この旗が掲げられてからは、また貴族に戻ることになる。


隣で同じように歩く人物は、「はい。」とだけ返した。


ファンデルメーヤは、「ねえ、サイフォンさん、あなた方、これからどうするの? 良かったら、ナイル伯爵家で抱えるわ」と言った。


サイフォンは、「ありがたいお誘いですが、私はあの方に永遠の忠誠を誓った身。このまま彼女らを率いて、この組織を守りたいと考えています」と言った。


「そう。何度お誘いしても駄目か。でも、若い子達はバッタ男爵領に戻るのよね。54歳と年齢不詳が混じっていますけど」と、ファンデルメーヤ。


「彼女らは、意外としたたかです。ウルカーンが戦争特需で沸いていますから、スイネル・ウルカーン間の貿易で一儲けする気でいます。ネムを筆頭に、マルコ、ガイ、アイサ、レミィ、それから変なロバは、そっちに行くみたいですね」と、サイフォン。


「ティラマトさんはどうなさるのかしら」


「彼女はレミィと一緒にひとまずバッタ男爵領に。ですが、彼女は世俗の戦いには参加しないでしょう。おそらく、どこかで地下に戻ると思います」


「そっか。彼ら三匹が居なくなったけど、なんだか円満に別れたわね」


「彼らは、こちらの世界であまり権力や財産を求めませんでした。心のどこかで、彼らはやはりここは異世界で、いずれは元の世界に帰ると考えていたのかもしれません」


「そっか。神敵に討たれたんじゃなけば、私としてはどうでもいい事よ。貴方達、しばらくは水ギルドで稼ぐんでしょ? パラス・アクアのレンタルの約束は守るし。あの人の魔力もたっぷり残っているようだしね」


三匹のおっさんが神敵に元の世界に戻されたらしいことは、ティラマトの証言により分かっていた。そして、おっさんと契約を果たしていたサイフォンが、彼は死んでいないと言ったことで、混乱せずに済んでいる。


「はい。全ては御貝様の仰せのままに」


サイフォンは、ファンデルメーヤに恭しく頭を下げた。ファンデルメーヤはたった今から貴族を再開した。彼女は、そのことを理解しているのだろう。


彼女らのコンボイは、そのままスイネルの城門に吸い込まれるように入ていった。



・・・・・


コンボイが城門を潜り、ファンデルメーヤが守衛に手紙を渡す。すると、守衛はすぐさま領主の元へ走って行った。


「じゃあ、俺達は先に行くぜ」と、ジークが言った。


「ジークさん、今までお世話になりました」と、サイフォンが頭を下げる。


「いやいや。 俺達、しばらくこの街の港にいるから。会おうと思えば会えるさ」と、ジーク。その横には他のモンスタ-娘達がいる。それぞれ悲壮感はなく、普通にしているように見えた。


「分かりました。これも縁です。連絡を取り合いましょう」と、サイフォンが応じる。


「それは俺からもお願いするぜ。アンタはあいつを食べて、さらに契約もしているんだからな」と、ジーク。


「ところで、あなた方は、ここで本国に連絡を取られるんでしたわね。交代とか補充とかってあるのですか?」と、サイフォン。


ジークは、「そうだ。まあ、ピーカブーとムーは交代だな。出来ちまった。補充は、本国に手紙を送って、魔王軍が着いてだから、まあ、数ヶ月はここに居ると思うぜ?」と言って、にしししと笑った。


「そうですか。落ち着いたら、港にお伺いいたしますわ」


「まあ、あんたらだったら、将来的に本国への渡航も認められるだろう。連絡お待ちしているぜ」


ジークはそう言うと、御者席にいるシスイに目配せする。そして、ごとごと巨大な荷馬車が街道を進んでいく。


サイフォンがその様子をポケェと眺めていると、横からカシューがひょっこり現われ、「ねえ、サイフォン様。彼女ら、個人的に会いに行ってはだめ?」と、言った。


「カシュー、落ち着いてからだったら良いでしょう。ですが、必ず二人以上で行動すること」


「うん。分かった」と、カシュー。とあるおっさんと一緒に駆け回った日々を懐かしんでいるようだ。


「ファンデルメーヤ様! お待たせいたしました」


彼女らの近くでそう言った声が聞こえた。どうやら、この街の領主の使いのようだ。サイフォンらの仕事がようやく完了する。



・・・・・


サイフォン軍団が城門付近でいそいそと書類対応等に負われるいる中、ネムやマルコなど、これから行商をしようと考えているグループは少し手持ち無沙汰で、今後のことについて駄弁っていた。


「ギランさんとナインさんも追放覚悟でこっちに来るって。彼女ら、首ったけだたもんねぇ」と、レミィが言った。


「そっか。男性がガイさんだけってのが少し心配だけど、私ら結構強いもんね」と、ネム。


「でも、あの水ベッドが使えませんね」と、マルコ。


「慣れるまではスイネルとナナフシ間での貿易で頑張ろう。もう少し仲間が欲しいけど、サイフォンさんらはスイネルで内業する予定だし」と、ネム。


「仕方がありませんよ。仲間は、マツリさんに相談してみてもいいですし。私達は荷馬車を使って行商するしか稼ぎがありませんから」と、マルコ。


「しっかし、おっさんら、綺麗さっぱり居なくなっちゃって。大丈夫なのかしら」と、アイサ。


「心配ないよ。きっと戻ってくるって」と、マルコ。


「いや、私は何が心配かっていうと、あの二人、相性がよさそうなのよねぇ。あの神敵、セック○面でも意外とくせ者かもね」と、ティラマト。


「はい? ティラマト様どういうこと?」と、レミィ。


「私、あの瞬間、見たのよね。神敵とあいつが一緒にいるとこ。仲よさそうだった」


「でもさ、あのおっさん、ぼんきゅぼんが好きでしょ。ロリじゃ無いよ」と、アイサ。


「「いやいやいや」」と、マルコとレミィの突っ込みが被る。


「旦那様は、おっぱい無くても平気です」と、マルコが言った。


「ついでに言うと、体がちっちゃくてもちゃんと立つ」と、レミィ。


ティラマトは、少しため息をつきそうになりながら、「それなら、あいつは多分……」と呟く。


「お、ネコだ」と、ネムが言ってネコの方に走って行く。


彼女ネムは、セックスの話になると空気になる。彼女はおっさんらの誰ともセック○していないからだ。おっさんらのセック○の覗きはやっていたし、同年代にレイプされた経験はあったから、男を知らないわけではなかったが、彼女はおっさんらに助けられて、自身を大事にしようと考えていた所だったのだ。


「どうしたのネムちゃん」と、マルコ。


ネムは走って大きなネコを捕まえて戻って来た。


ネムは、両腕で巨大なもふもふのネコを抱きかかえ、「んふふん。ネコ捕まえた」と言った。抱きかかえられたネコは、大人しくじっとしている。体長1メートルくらいの大きな三毛猫だった。


「ネコ? なんでネコ?」と、マルコ。


ネムは、「おまじない。あの人ね、困った時はネコに話掛けろって言ったの」と言った。


ティラマトは、そのネコをじっと見つめ、「そのネコ、多分、人の言葉理解するよ」と言った。


ネムは、「そうなんだ。じゃあ、言うね。おほん。千尋藻の名において言います。私達は困っている。助けてネコちゃん」と言った。ネコを抱き締めながら。


そのネコは、意味が解っているのか、「にゃー」と鳴いた。


ティラマトは、「ああ、こいつあれだ。何だっけ……ああ、ミケ、ミケだ。こいつミケだよ」と言ったが、誰も意味が解らなかった。


その大きな三毛猫は、しばらくネムの成すがままになっていたが、しばらくするともぞもぞと動き出し、ネムの拘束を抜け出す。そして、地面に降り立ちもう一度「にゃー」と鳴いた。


ティラマトは渋い顔をして、「こいつ、『分かった』って言った。やっぱりミケじゃん」と言った。


その大きな三毛猫は、そのまま走って逃げていく。


「ああ、逃げちゃった」と、ネム。


「ネムちゃんどうしたの?」と、マルコ。


「いやね、遺言。あのおっさんね、困ったら猫に話掛けろって言ったから」と、ネム。


「ん? ネムちゃん、あいつ本当にそう言ったの? それなら……」と、ティラマト。



しばらく、荷馬車の荷物の整理などをしながら時間を潰していると、また例の猫が戻ってくる。


「ここか? 本当に千尋藻の知り合いがいるのか?」と、猫の後ろにいたおっさんが言った。その後ろにも数人のおっさんがいる。ちょっと柄がわるそうなおっさん達だ。


「猫がそう言っているんだから間違い無い」と、ムチを持った女性が言った。


「さて、ヨシノの忍者について来てみれば、さっそくあいつの知り合いに出会うとはな」と、おっさん。


怪しげな風貌の二人とおっさん軍団が近づいてくるのを見て、ネムやマルコらに緊張が走る。ネムが腰に下げた剣を左手でたぐり寄せ、直ぐに抜刀できる体勢になる。


「お? その剣には見覚えがある。うちの家宝をなんでお嬢ちゃんが持っている?」


「剣? これは千尋藻の剣だよ」と、ネム。


「ほう。お嬢ちゃんに託したのか? それで、あいつは今どこにいる?」と、おっさんが言った。


ネム達は厳しい顔をして、答えない。


「ちょっとスパルタカス。警戒されてるじゃん。ごめんねお嬢ちゃん。ちょっとうちの猫がついてこいというから」と、ムチを持った女性が言った。


「どうしたの? げっ、あんたら、エアスラン」と、後ろから出てきたカシューが言った。


「うへぇ。ララヘイムの水魔術士軍団がいやがる。どういうことだ?」と、おっさんが言った。


「貴方達、裏切りのサイフォン軍団ね。私はパイパン。今は軍を抜けたの。猫と一緒に諸国漫遊の旅に出たのだけど」


「にゃー」


ティラマトは、「こらミケ。あなた何処をほっつき歩いてたの。アナグマが孤軍奮闘してるわよ」と言って、猫を持ち上げる。


「にゃー」


「今、神敵はいない。思う存分暴れたら?」と、ティラマト。


「ちょっと、うちの猫ちゃんに何言ってんのよ。私は、千尋藻さんにはお世話になったから、ちょっと会いたかっただけ。お陰で妹達を助けることができた」


「まあ、俺らもなんやかやと逃げ延びて、忍者の手を借りつつ、こうして軍を抜けられたんだから、あいつには感謝しているんだぜ? 変な別れ方したから、ちょっと気になっていてな」と、おっさん。


その時、荷馬車の後ろから出てきた女性が、「おや、クメールのところにいたテイマーと、罪人部隊の隊長さんじゃない」と言った。


「あなたはサイフォン。何だか、雰囲気変ったわね」と、パイパンが応じる。


「事情を聞きましょうか?」


サイフォンは、澄ました顔でそう答えた。



・・・・・


スイネルの港街。


「ヒリュウ、ここよ」と、倉庫の影から声が聞こえる。


そこに居るのは男女二人。一人はおっさん、もう一人はロケットおっぱい。


「ゴンベエ。長も」


「ご苦労。報告をよろしく」と、おっさん。


「ある程度知ってるんでしょ? あいつ、神敵と戦って強制送還された。でも、化け貝自体はこの世界に残っていて、サイフォンはそいつとコミュニケーションが取れるみたい。千尋藻が居ないのに、どこまでの知能があるのか不明だし、使える力はかなり制限されているようだけど」と、ヒリュウ。


「そっか。あいつ、この世界にいないのね」と、ゴンベエ。


「合流が遅いよ。でも、合流したところで、神敵には勝てなかったと思うけど。それよりさ。ホークのヤツが出たんだよ。あいつはうちの汚点だったんでしょ?」


「ほう。ホークか。あいつはヨシノの里で修行していたんだからな。その力を悪いことに使いやがって」と、長が言った。


「彼を仕留め損なったのは私。反省点ね」と、ゴンベエ。


「そうなの? でも、ヤツは死んだよ。最後は毒キノコ娘にキノコの苗床にされて、鬼火で骨まで焼かれた」


「そう。それよりも、私と彼の約束はどうなるのかしら」


「一応、あの冒険者パーティはサイフォンが引き継ぐみたい。これから、スイネルで内業をする班と行商をする班に分れて活動するみたいだけどね」と、ヒリュウ。


「長、それなら、うちらも二手に分けてはどうかな」と、ゴンベエ。


「そうね。要注意なのは、サイフォンの方のビフロンス。それからネムの方のレミィとティラマトね。ゲームチェンジャーじゃないかな」と、ヒリュウ。


「ビフロンス? 元ウルの巫女のことか? どうしてそんな人物がここに?」と、長。


「ビフロンスは追放されていた。四肢と口の中を切除されて穴奴隷として地下迷宮に売られていたんだ。それを偶然千尋藻が助けた。手足と口の中は千尋藻の体を使ったから、ビフロンスは超人になっているかもしれない。そんなのが表舞台に出てきたら世の中は変る。ティラマトは地下迷宮の支配者といわれる吸血鬼そのものだし、レミィはハーフバンパイアだし、モンスター娘は魔王軍団呼ぶって言ってるし、あのおっさんらを中心にとんでもないのが集まっている」


「ちょっと待て、エアスラン軍がウルカーンを攻めを好機とみている理由はそれか? ウルの巫女が未熟であれば、亜神の力で反撃される可能性も低い。そうなると、ビフロンスの動きで戦争の行方が変る。スイネルにいるビフロンスがスイネル軍を統帥し、タケノコの魔王軍やララヘイム軍と同盟を組み、ウルカーンに攻めればあの国は瓦解して滅ぶかもしれんな」


「それより、神敵が居なくなったかもしれない。これの事実がもっと大きい。これ、下手したら戦争の行方が変るよ。判断間違えたらヨシノも危ない」


「何? 神敵がいなくなれば、制限していた亜神の力を戦争に使っても良くなるか。ううむ。この世の地獄が現われるかもしれんな。うちのカモメ様と、サイフォンがコミュニケーションを取れるという化け貝との同盟関係を築かねば」と、長。


「じゃあ、さっそくサイフォンとコンタクトを。ここスイネルが、これから一番重要な地になる」


ゴンベエはそう言うと、おっぱいの下で腕を組んだ。

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