第180話 献杯、大乱闘、両性具有、そして邂逅


「ヘイ!」


「おうわ!」


お尻に衝撃を受ける。


誰!? と思って後ろを振り向くと。ちびっこ魔道士ティギーがいた。俺に後ろから体当たりしたようだ。


「こら、ティギー! スイネルまでだからね」


炎の宝剣の女スカウトが走り回るティギーを追いかけている。


「どした?」


近くに同じパーティの斧使いがいたので聞いてみる。


「リーダーがティギーに性的興味発言をしただろ?」


「そ、そうだな」


「だから、しばらく隔離することにしたんだ。済まんけど、ティギーとあいつはしばらく旦那のとこのテントでお世話になるぜ。サイフォンさんには話を通してある」


「あ、ああ。だからああしてはしゃいでいるのか。小さい時って、寝床が変ると興奮するよな。両親の実家に行った時とか」


俺達の目の前では、はしゃぎまくるティギーがいた。


「まあな。もうすぐ疲れてコテンと眠るだろう。済まんな」


「いいってことよ」


「ふっ。ティギーは、迷宮で拾った子供なんだ」と、斧使い。


「そ、そうか。珍しいな」


「ああ、珍しい。若かった俺達は、あいつを育てることにしたんだが、いつの間にかあいつ中心のパーティになってしまった。だが、心が和むだろ?」


「そうだな。子供の笑顔はいいもんだ」


「そうだ子供だ。それをあいつは……リーダーは、アーシャが毎日抜くことにした。手で。事故防止のためにな。そういうわけだ」


「そっか。じゃあ安心だな」


「ああ。では、またな。スイネルまでまだあるし、また飲もうぜ」と、斧使い。


「そうだな。飲もう」


彼は、このコンボイで貴重な男性だ。俺はそんな彼と別れ、食事の準備の手伝いをする。いやいや、皆の顔もたくましくなったもんだ。やはり、戦いを経験すると凜々しくなる。


ケイティや小田原さんもテキパキと椅子とテーブルをセットしている。何時の間にか雨も小粒になっている。今日は色々あって、夕飯が少し遅くなった。なので、皆で準備している。ジェイクがあんなことになって少しショックだったが、今はあまり考えないようにする。難しいことは聖女が何か考えてくれるだろう。


レミィとマルコとネムが一緒にお酒の樽を運んでいる。あの二人も凹んでいなくてよかった。歳が近い兄ちゃんだったからな。あいつは。


キャンプの隅っこで、ビフロンスとティラマトが金の鎌を見ながら駄弁っている。話の内容が少し気になるが、色々と話すことがあるのだろう。なお、今のティラマトは、女性陣有志により、ちゃんとした服を着せられている。サイフォンの服がぎりぎり入ったようである。


「お疲れ様ですおじさま」


後ろを振り向くと、カルメンがいた。今日はツインテだ。


「ああ、お疲れ。今日はこのコンボイ名物バーベキュウだぞ」


「うふふ。そのようですわね……ねえ、わたくし、今日は『努力』いたしませんわ。だから、わたくし、その、わたくしとですね……」


いくら俺が女性の心が分からない男といっても、これは分かる。だが、俺は15歳こいつに手を出すつもりはない。こいつも、いくらなんでも気の迷いだろう。


「まあ、一緒に飯が食いたきゃ、俺らのテーブルに来な。だけど、周りは皆おっさんかおばさんだぜ?」


俺は、ひとまずそう言ってこの場を後にする。何故ならば、先ほどから、トイレの近くでセイロンがちらちらとこちらを見ているからだ。


セイロンは先ほど追放されたからな。かわいそうに。慰めてあげなければ。


俺は、ふらふらとトイレの方に歩いていった。



・・・・


「乾杯!」


「いや、俺は一応、献杯けんぱいにしておくよ」


何故か宴会が始まる。レミィがお酒を持ち込んでからというもの、毎日飲んでいる気がする。今日は一応仲間を失った日だ。どういうヤツであろうと、あいつは一度は仲間だったのだ。さらにいうと、本人に悪気は無かったのだ。悪いのは、あいつをああいう形でこの世に送り込んできた存在なわけで。


それはそれとして、今はジークと杯を交したところだ。


「お疲れ。ところで、どうなった?」


「どうなったって何が?」


「いや、追放しただろ? 全員」


「ああ、あれか。うちらの話なら、明日朝からキャラバンの結成式することになっている。今日は、何となく解散したままだ」と、ジーク。


「そうなのか。特に混乱は無く?」


ジークは少しだけニマニマと笑い、「いや、ギランのヤツがふてくされている。あいつ、本気でお前についていくつもりだったみたいだぜ?」と言った。


「そ、そっか。いや、逃げるつもりはないんだけど、俺と来るのも大変だと思うぜ?」


「ギランはまだ若いから、子が出来たらまた考えが変るのかもな」


「そうよ。毎回一人くらいいるらしいのよ。帰りたくないっていう子。でも、ギランは素直な子だから、だめと言われたら諦めるとは思うけど。だけど、なるべく長く一緒に居てあげてね」と、シスイ。実はドラゴン娘だったシスイ……何ドラゴンなんだろう。白いからホワイトドラゴン?


ジークはお酒をじっと見つめながら、「どうせ今日もまた引っ付いて寝るだろうからな。まあ、よろしく頼むぜ」と言った。


「旦那はギランの最初で最後の男になるのか。ナインも完全にあっち行っちゃってるし」と、シュシュマが言った。


この子は、一番歳下に見えるが、かなり客観的に物事を見ているような気もする。


「あ、セイロンはすでに貴方に落とされてるから、最後まで面倒みてね。子作りの」と、シスイ。


「はっきり言うなよ。あっちの世界では、一夫一婦制で教育されてきたから、複数人とすると何となく罪悪感を感じてしまうんだ」


「何言ってんの。私達と出会って初日にピーカブーに中出○したでしょ」と、シスイ。


「うぐ。アレは不意打ち。でも、後悔はしていない。うん」


シスイは邪悪な顔をして、「私の誘いも断らずに何度もしてさ。あなた、私に避妊してって一度でも言った? 私、あの魔術使ってないよ?」と言った。


「え? まじ?」


「まじ。私、恋人見つけるの面倒臭いもん。早くタケノコに帰ってゴロゴロしたいし。いい所に良いにょっきがあったって感謝してる。と、いうわけで、出来るまでよろしく。いや、もう出来てるかも」と、シスイ。


引くわぁ……でも、やったの俺だし……


「たぶん、ウマ娘も彼で決めるよ。というか、ムーはアレが来ていないって言い出したし」と、シュシュマが遠い目をして言った。


ムーが? アレって、毎月のあれ?


どうしよう。でも、ここは日本じゃない。彼女らは、子供は国家が育てる。それならば、多分、やったもの勝ちだ。多分……


俺は、現実逃避するために、千里眼で皆の風景を眺める。


ティラマトがいた。ヤツは、水魔術士軍団と楽しそうに飲んでいる。レミィもそっちに行っているようだ。


小田原さんとケイティは、ナイン、セイロン、ウマ娘らと一緒のテーブルでお食事だ。何気にそのテーブルにビフロンスもいる。豪快にお酒をかぱかぱと呷っている。レミィが持ち込んだお酒が無くなるのも時間の問題だ。


学生組は……ヒリュウやマルコと一緒にお話している。ネムは今は警備かな? そういえば、一人足りない気が……


そいつを探すと、俺の近くにいた。カルメンがコップを持ってこちらに入りたそうにしている。


はあ。今、このテーブルの話題は、子供が入ったらドン引きするような内容だ。だが、話を変えるにはちょうど良いかなと思い、俺はカルメンをテーブルに呼ぶ。彼女は笑顔になって、こちらに歩いて来た。


さて、しばらく猥談無しで飲むか。


俺は、ロープ趣味のカルメンの性癖を把握すべく、どんなセック○が好みかねちねちと質問攻めにした。やはり、拘束プレイに興味があることが判明した。




・・・・・


そして、その晩は大乱闘が始まった。さすがにカルメンが酔い潰れて寝た後に。


目玉はティラマトだ。カシューが血の涙を流すように懇願するので、一緒に戦いを挑んだ。


だが、ティラマト必殺の両性具有モードであえなく撃沈した。仕方がないので、レミィを犠牲にして俺とカシューは逃げた。


そしてそのままシスイを襲った。ヤツは何事も無いかのように寝たままじっとしていた。


その後は、夜警明けのマルコとまったりした。


マルコとカシューが仲良く眠ったので、その後はサイフォンらとまったりしながら駄弁った。


最後には、ビフロンスが待ち構えていたのでむぐうむぐうして貰っていたら、ギランが夜警から戻って来た。三人でしまくった。



・・・・・


空が白ずむ……


早朝、俺は千里眼を発動する。


何故ならば……


ふと、俺を見る視線に気付く。目の前のビフロンスが起きている。起きているのは、彼女だけみたいだ。ティラマトすらもグースカ眠っている。俺は、彼女らを少しだけ眺め、そして立ち上がる。


ビフロンスは俺の顔を見ながら、「行かれるのですね」と言った。


「うん。どうやら、」と、返す。


「貴方を待つものは、きっと貴方を愛してくれます」


「そっか。今まで待っていてくれたんだからな。さぞかし愛してくれているんだろう」


「貴方は、これから旅に出ます」


「旅? 旅というなら、今までがそうだったんだ」


俺は、寝室の入り口の幕を持ち上げる。うっすらとした光が入ってくる。


「お行きなさい。これから出会うその人は、ヒトを愛する者です」


「人、ヒト? 人とは一体なんなのだろう」


「ひと、とは、文明の始点。神に祝福されたもの。本来のこの世界には無く、別世界からの異邦人なのです」


「そっか。俺達の世界が迷惑をかけたのか? いや、違うか。この世界はやっぱり……」


神の箱庭、神の実験場、……


「はい。この出会いは、全てこの世界のために。願わくば、あなた自信の幸せに資することを」


俺は、ゆっくりとブーツを履き、そして立ち上がる。雨は、夜のうちに止んでいた。


「世界は、この時より変るのです。私は、何時までも待ちましょう」


俺は、ビフロンスには何も答えず、歩き出した。ざっくざっくと未舗装のキャンプ地を歩く。湿度と気温の関係なのか、幻想的な朝霧が出ている。その朝霧に紛れて、二匹のおっさんがいた。


「行くか」と、小田原さんが言った。早朝からここで待っていたようだ。


「行きましょう」と、ケイティが言った。昨日はハードセック○だっただろうに。こいつは平常モードでここにいる。さすがセック○特化の改造人間だ。


「そうだな。行くしかない」


俺達三匹は、太陽も昇りきっていない砂利の上を歩く。


「アレは、私の鑑定では『スキル無し』の人間でした。おそらく、魔術回廊としてのスキルは有していないということですが、それだからこそ……不気味です」


「真の強者というものは、何となく分かるもんだ。、あれはおそらくジェイクじゃねぇ。別物だ」


俺も同感。あの時の最後のやつは、まるで俺達を試すかのようだった。一方のジェイクの方は、俺達に対する憎悪、いや、あの姿は人類に対する冒涜ですらある。全く異質なものだ。



徐々に、何かに近づいて行く。その何かは、ピクリとも動かずに、俺達を待っていた。いや、待っているように思った。


その何かは、長い髪を靡かせ、一歩も動かず立っていた。華奢で、直ぐに壊れてしまいそうに思えたが、両手をぐっと握り締め、力強く立っていた。壊れそうなくらい細かったが、同時に無限のエネルギーを内包しているかのような力強さも感じてしまう。


三匹のおっさんが、ざくざくと歩む。その存在に向けて。


徐々に太陽が昇り、ヤツの姿が露わになる。そいつは、天を見上げていた。俺もその空を見上げてみると、雲一つないあけぼのの空だった。


なので俺は、「良い天気だな」と言った。


そいつは、こちらを見ずに「良い天気だ」と返した。


思えば、こいつの正体は最初から分かっていたような気がする。意識が認めようとしなかっただけで。認めたら、世界が変ってしまうような気がしたから。なぜ認めようとしなかったのか、それは多分、この世界で今の生活をずっと続けたかったから。


だけど、出会ってしまった。だから、仕方が無い。物語りを進める必要がある。


「お前が神敵だな」


俺がそう言うと、その華奢なヤツは、どこか哀愁のある表情で、ふっと笑った。


ウルトラマリンの髪をなびかせながら。

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