第177話 三匹のおっさんvs侵略者
「サイフォン! 全員避難だ。荷馬車の裏に」
「ジークさんらも急いで。ここは私達だけで」とケイティ。
俺達以外は、ヤツの精神攻撃に晒されるかもしれない。
全員わいわいとここから離れて行く。例の綺麗な子供もベルに手を引かれて下がっていった。少し離れた位置で聖女モードのダルシィムだけが残る。聖女もこの顛末を見たいのだろう。
俺達三匹は、笑みがこびりついているジェイクを取り囲む。
「ジェイク、お前は何者だ」
「僕は僕です。貴方達こそ何者ですか?」と、ジェイクが言った。
「ジェイクさん。あなたは、その周りに追放者が沢山いたはずです」と、ケイティ。
「はい。僕の周りには、何故か追放者が多く出るのです」
「しかも、望んだ人が追放される」と、ケイティ。
「はいそうです。何故かそうなるのです。皆は違うんですか?」
「こいつはある種の化け者だ。どうする? 法では裁けんぜ」と、小田原さん。
「ひとまず水牢の刑に処する。いいな、ジェイク」
俺は、水壁の一部に魔力をつぎ込み、ここに引っ張ってくる。
「嫌ですよ。僕は、追放されたティギーとギランとネムと一緒に冒険するんです」
ジェイクは、メイスをカバーから取り出し、両手で握り締める。
こいつは、おそらくサイコパスだ。何故、追放させたいと心で思った人が追放されるのかは、分からないが……
小田原さんが警戒しながら、ジェイクから少し距離を取る。俺の攻撃があると読んでいるのだろう。
俺は、ジェイクが逃げられないようにインビジブルハンドをヤツの周りに展開させる。
そして、操る水をヤツの周囲に展開させる。
「一気に捕らえる!」
大量の水で包み込む。
それから逃げるように、ジェイクが走り出す。だが、逃げようとしたジェイクはインビジブルハンドにぶつかる。
「何だこれ。全身攻撃!」
ジェイクがメイスでインビジブルハンドをペシンと叩く。ずきんと体中に痛みが走る。
「む!? 体が痛い。こいつ……」
これは、ありえん……
「まさか、インビジブルハンドへの攻撃が本体に伝わっているのですか?」と、ケイティ。
「そうみたいだな。信じられない攻撃……」
今のは、深海にいるはずの俺の本体にも伝わった。ティラマトが言うには、俺に攻撃を加えるのは呪い攻撃しかないとのことだった。
だがこいつは……この世の理を越えている?
「ニルヴァーナ!」
インビジブルハンドの中のジェイクを眠らせて、一気に水の中に入れてしまう作戦を実行する。
インビジブルハンドの隙間を通り、大量の水がジェイクを囲む。
「全身攻撃!」
ジェイクが再びメイスをフルスイング。インビジブルハンドに当たり、再びずきんと痛みが走る。この程度で倒されることはないが、地味に痛い。というかこいつ、ニルヴァーナが効かない!?
今まで、これが効かなかったヤツはいない。耐性付けまくりのホークにも効いたのだ。こいつ、本当に人間か?
だが、流石に水は効くだろう。押し寄せる水が、あっという間にジェイクを包み込む。
ジェイクがジタバタと水の中で暴れているが、流石にこれは逃げられないようだ。
「さて、どうしよう。殺してみようか」
「そうですねぇ。ですが、彼は盗賊ではありません。ただ心の中で、誰かが追放されたらいいのに、と願っただけです」と、ケイティ。
「下手にヒトの姿形をしているから面倒だな」と、小田原さん。言うことがひどい。
「ひとまず。水の中で大人しく……」
は? 水の中のジェイクの姿が、変形!? というか、息苦しくないのかこいつは……
「ヒトぉ……ぼくはヒトなんだよぉおお」
顔が、何か別のものになる。足も腕も、いや、全部不揃いのばらばらに変化していく。
右足は大きくたくましいが、右足は細くて長い。おそらく女性の足だ。左右の腕もあべこべだ。その手足も、直ぐに別のものになる。
おっぱいも片方だけ出てきている。顔は、もう原型を止めていない。いや、めまぐるしく変る顔には、見知った顔もある。角が生えてムーの顔になったかと思うと、牙が生えてジークの顔になる。気持ち悪いくらいにカシャカシャと顔が変り、最後には何故かビフロンスの顔になった。
「なんだこいつ」
「まさにヒトモドキ。彼は、おそらくヒトに擬態していたナニカです」と、ケイティ。
「もう全力で行くぜ。こいつは犯罪とかそういうレベルのヤツじゃねぇ」と、小田原さん。
「毒針を使う」
フレンドリ・ファイア避けるため、注意してポイズン・ハープーンを撃ち込む。
ひとまず試しに一本。真っ直ぐに飛んでヤツの腹に突き刺さり、すどんと毒を噴射する。心臓辺りに大きな穴が開く。
「ぐわぁ! ひどい、ひどいなぁ。ぼく、仲間じゃないか。なのに何故」
「毒で死なん。こいつは人間じゃない。化け者だ」
「毒というか、体に穴が空いて平然としていやがる。どうする?」
「ニードルガンで吹き飛ばす。射線に注意!」
ケイティと小田原さんの二人は、俺とジェイクの間から少し距離を取る。
俺はジェイクの気持ち悪い足をインビジブルハンドで掴む。
ジェイクを包んでいて水を操り、両手を拘束しつつ水を退ける。
今のヤツは、両手を大きく広げた状態になっている。
そして、虚空から竹串くらいの細かい針が大量に出現する。
「発射!」
無数のニードルが、超高速でヤツにぶち当たる。
「ぎゃぉおおあああああ!」
ビフロンス顔がぐにゃりと歪み、そしてもとのジェイクの顔になる。思えば、こいつとは一緒に風呂に入った仲だった。何だかとても残念だが、不思議と怒りはない。こいつは、悪意があったわけじゃないと思う。おそらく本能的に行動しただけだ。自分が化け者という自覚すらなかったかもしれない。
ドカカカと音と振動を立てながら、ヤツの肉が少しずつ削られて小さくなっていく。
体は肉片になって吹き飛んで、頭が弾き跳び、そして手と足だけになる。
「よし。燃やそう」
「いや、私達、火魔術は持っていませんよ?」と、ケイティが突っ込みを入れる。
「まじか。ビフさんに頼むか。結構広い範囲に飛び散ってしまった。捕まえておいて絶対零度砲にするべきだったか」
「一応、両方の手足と頭部は残っています。サンプルに残しておきましょう。しかし、あの様子ならまともな中身ではない気がします」とケイティ。
「ああ、ニルヴァーナも猛毒も効かないというのはただ事ではない」
「彼のスキルにはそんな耐性ありませんでしたからね。おそらく、素の能力でレジストしたんでしょう」と、ケイティ。
「残骸に関しては、聖女やティラマトに相談してもいいしな」
俺達三匹は、恐る恐るニードルガンで飛び散った辺りに近づく。
「しかし、ジェイクがな。自分は普通の青年と思っていたぜ」と、小田原さん。
「よく気付いたな、ケイティ」
思えば、最初にジェイクに目を付けたのはケイティだ。
「いえ、最初は本当に何となくなんですよ。鑑定結果も、普通に人間と出ていましたからね」
「ならば何故?」
俺は、残ったりはじけ飛んだジェイクの首やら足やら腕やらを水魔術で集め、そして水棺にしていく。思えば俺も、こう言ったことに慣れてきた。結局、俺も化け者だ。
俺とジェイクの違いは、単に、神の排除対象であったか否かの差でしかないような気もする。
「彼と最初に出会った時、追放の現場だったでしょう? 彼、少し嬉しそうな顔をしていたんです」と、ケイティ。
自分で自分の追放を望み、そしてそれがその通りになって、そして、喜んでいたのか……それは何とも。
「そっか。今回はお前の手柄だな」
「ああ、ようやく本来の仕事ができたぜ」
「だけどこれ、皆に説明せんといかんよな。俺達の目的の話」と、俺。世界の侵略者の話は、本来は秘密にすべしという指示だったはずだ。
「そうだな。まあ、代表者だけでいいと思うぜ? さてと、さっそく聖女の意見でも……」と、小田原さんが言った。
俺は、聖女モードのダルシィムの方を振り向いた。そこに、何か黒いものがいた。その黒いモノは、気持ち悪いくらい滑らかに、すたすたと歩いていた。明らかな異質の黒。表面がつるんとした流線型に足が生えており、二足歩行を行っていた。
そしてヤツの足元には、ダルシィムが転がっている。くっ、やられたのか。
彼我の距離はおよそ20メートル。ダルシムの身長と比較すると、ヤツは体長4,5メートルくらいはありそうだ。こいつが、こいつがボスか?
考える間もなく、黒い二足歩行が今度はこちらに向けて突進してくる。
「戦うぞ!」
俺は、大量のハープーンを辺りに展開させた。
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