第175話 ジークの相談と雨宿り


「雨がマズイ……かな?」


「まじでピーカブーさん。まだナナフシの畑見えてるし」


今、俺はモンスター娘の荷馬車の屋上にいる。暇だしピーカブーさんと駄弁ろうとしていたのだ。


「も少し持つかなぁ。まあ、多少降っても動けないことはないけどさ」


「テント張るのが億劫になるんだよな。雨降ると。どうしよう。もう少しはいいか」


「また雨? まあ、どうせあと2,3日したら着くし。ゆっくり行ったら?」と、ギランが言った。こいつは今は非番で、俺達と一緒に屋上に登ってのんびりしている。


「それはそうなんだが。ナナフシでもう一泊すべきだったかな。でも、後悔はしない」


実際のところ、ナナフシに居てものんびり出来るだけで、バイトは出来ないし、暇なだけなのだ。早く護送対象を降ろして楽になりたいというのが正直な所だ。


でも、スイネルに着いてもビフロンスの件で一悶着ありそうなんだが……


「そうそう。私達ね、スイネルに着いたら本国に連絡を取るって話でしょ?」と、ギラン。


「ジークがそう言ってたな」


「私達のキャラバン、スイネルで終了かも」と、ギランが言った。


「え? 何で?」


「あくまで私達10人のメンバーで、という意味。タケノコのキャラバンはずっと続くよ」


「そうなのか。何だか少し寂しくなるな」


「そうなの?」


ギランはそう言うと、少し固まってしまう。


「どした? というか、メンバーの入れ替えがあるって事?」


「魔王軍を呼ぶついでに、おそらくそうなるのではってね」


「そうか。何でまた」


「子供が出来るから」


「ふぁ?」


「正確には、もう、お相手を決めちゃったというか……」


モンスター娘らの旅の目的は、子種をゲットすること。お相手を決めて子供が出来たら、島の別の女性と交代するのだろう。


実の所、ケイティはマジックマッシュルーム娘のシュシュマとデンキウナギ娘のナインとやりまくっているし、小田原さんはウマ娘とやりまくっている。


俺は、ムカデ娘のセイロンと目の前のオオサンショウウオ娘のギランとやりまくっている。セック○をやったことがあると言うだけなら、アンモナイト娘のピーカブーさんに、ライオン娘のナハト、デーモン娘のジーク、ミノタウロス娘のムーにトカゲ娘のシスイとも……一体誰がお相手を決めた?


「あ、私はもう千尋藻って決めてるから。初日から」と、ピーカブーさんが言った。


「そ、そうなんだ」


「もう一回する? 今晩とかどうかな」と、ピーカブーさん。彼女とは、一回しかしていなかったりする。


「あ、あのね。それでね」と、ギラン。


こいつも、俺と?


「な、何かな?」


ギランは、遠くを見つめながら「私、どうしようか迷ってて」と言った。


「そうか。若いうちは一杯迷った方がいい」


ギランは目線を俺の方に向けて「もう。そんなんじゃなくて。今が良いのか、それとももうしばらく一緒に旅してさ。そしてその後が良いのか、迷ってるの」と言った。


それはどっちにしろ……


「危険な旅なら早くがいいし、でも、一緒に居たいし。どうしよ」


俺としては、最早逃げる気は無い。ギランとはほぼ毎日体を合せているし、こいつがそうしたいのなら、きっとそうなるのだろう。


「ま、じっくり悩みな。それなら、スイネルにはしばらく着かない方がいいんじゃないのか?」


「そうなのかなぁ。なんか、毎回そんな感じだよね。私ら」


「そうだな。ネオ・カーンにウルカーンに、今度のスイネルもな」


「う~ん。まあ、もうしばらく迷ってる」と、ギランが言った。


「あ、この先分岐だ。ちょっと自分とこ戻る」


俺の千里眼が道の分岐を発見する。地図は俺達の荷馬車にある。


後ろを見ると、アイサとマルコが御者席に座り、荷馬車をコントロールしていた。マルコはあの後、至って普通にしている。気持ち、体付きが妖艶になったような気がしなくもない。隣のアイサに比べるとまだまだ貧相だが。


「千尋藻」


自分の荷馬車に移動しようとしていると、荷馬車の御者席からジークが顔を出す。


「ジーク? どした?」


ジークは少しだけ神妙な顔をして「。着いてからでいい」と言った。


俺は「了解」と応じ、インビジブルハンドを展開して空中を歩いて自分の荷馬車に戻って行った。



・・・・・


「今日はここでキャンプしちまうか。雨降るぞこりゃ」


「そだねぇ。急ぐ旅じゃないなら、それが正解だと思うよ」と、レミィが同じく空を見上げながら返す。


今は分岐を少し越えた先、山道に入る手前の河原で小休止を行っていた。


それがこの小休止場、なかなか広くて良い感じだったのだ。ここでキャンプしてもいい気がする。ただ、距離としては実は殆ど進んでいない。ナナフシの極近傍だ。


「ジーク。ここで泊まろう」


俺は、少し遠くにいるジークにそう言った。


ジークは、「分かった。いいぜ。それでな、さっきの話なんだが、キャンプ準備の後、少し時間作ってくれ」と言った。どうも急いでいるような気がした。


「了解。おっさんらは居た方がいい?」


「ああ。三匹揃っていた方がいい。お前達は何か知っていそうだしな」



・・・・


急いでテントを張り、その中におっさん三匹が入る。


その中には、ジークと炎の宝剣のリーダーがいた。シスイやナハトは居なかった。


「どうした? コンボイ会議ではなさそうだな」


俺はそう言いながら、3つ用意してあった椅子の一つに座る。


ジークは、俺達三人が座ったのを見計らい「そうだ。実はな……」と言った。


「ジークさん。私からお話します」と、リーダー。


「アール……まあ、分かった」と、ジーク。アールっていうのかこのリーダー。


「実は……」



・・・・


。まさか、そんなことってあるのか? しかも、同時に二人。


「それは……その話は、誰にもされていませんか?」と、ケイティ。少し興奮している。


ジークは少し辛そうな顔をして、「ああ。最初は、アールから俺宛に相談があったんだ。だけど、。それでな、ひょっとして千尋藻もなんじゃないかって思って。それで相談をしたというわけだ。このことは、仲間の誰にも言っていない」と言った。


どうもシスイにも相談出来ていないらしい。


アールは「私も、誰にも言えませんよ。こんなこと」と言って、顔を両手で覆ってしまう。


「ううむ。俺はそんなことないな。ひょっとして、俺だから大丈夫なのか? ?」


「ちっ。偶然か、それとも故意の攻撃なのか。これは厄介だぜ」と、小田原さん。


「私に、策があります」と、ケイティ。


「策だと? どうする?」と、ジーク。


「はい。。もちろん、他の人達には秘密で。後で撤回すれば別にいいでしょう」と、ケイティ。


「よし。これは急ごう。皆を集めて実行しよう。俺達は、その時の皆の反応を観察すればいいんだな?」


「そうです。怪しいそぶりを見せる人物を特定するのです」


その時、テント幕の天井からばらばらと音がし出す。雨が降ってきたようだ。


「一応、聖女にも伝えておこう」と、小田原さん。


「分かった。サイフォンやレミィには伝えていいかもしれないが……時間がないか。集まり次第始めてしまおう」


「助かります。もう我慢が出来そうになかったんです」と、アールが言った。顔から脂汗が出ている。これは本当に急いだ方がいい。


俺達は、その準備のため、急いでテントの外に出た。


外では、ほぼテントの設置は終わっており、巨大な水の傘も張られていた。水の壁はまだ360度構築出来ていないが、ここには川があるため、その水を使用すればいつもより少ない魔術で築造できるだろう。


小田原さんが、「自分はダルシィム探してくるぜ」と言って、荷馬車の方に駆けて行く。


「私は全員を水の傘の下に集めます」と、ケイティ。


「よし、俺は水壁の構築手伝ってくる。早く始められるように」


ひとまず解散だ。全員を一箇所に集める。千里眼も用意せねば。急がないと。


急いで水壁班の所に移動する。そこでは、ベルが陣頭指揮を執っていた。


「ベル。手伝うぞ。その後は少し皆に話がある」


「あ、はい助かります」


俺は、川の水を一気に操り、壁の材料にする。小魚ごとすくい取ってしまったようで、壁の中を魚が泳いでいる。これ、大丈夫なのだろうか。酸素がなくなって死ぬ気がする。


その泳ぐ小魚を見て、ちびっ子のティギーがきゃっきゃと喜んでいる。好奇心旺盛なこの子は、水壁造りを見物していたらしい。


まあ、これだけ大きな水塊なら、一日くらい持つか。なので、この小魚はこのままにしておこう。


と、雨の中をぱしゃぱしゃとこちらに走ってくる人物がいる。顔が雨で濡れないように、腕をおでこに当てている。


誰か外に出ていたのか?


もうすぐ壁で閉じようとしていたのに。


「ベル。誰か外に出してる?」


「はい。付近の魔物狩りに2班です。もうすぐ戻ってくると思います」


「なら、入り口開けておかないとな」


「そうですね。一箇所でいいと思いますけど」


「魔物狩りって、1班何人?」


「4人です」


そうこうしているうちに、走っている人物が俺達の目の前までやってくる。


どうみても1人だ。軽装だ。かなり小さいやつだ。そのフォルムは、どこかで見覚えがあるような……


走って来た人物は、水壁の手前までくると、顔の前の腕を降ろし、そしてその可愛いおでこが露わになる。


どうしてこの子がここにいるのだろうか。何の荷物も持っていない。もちろん武器も、雨具も。頭からずぶ濡れになっている。


近くで猟か釣りでもしていたのだろうか。雨に降られて走ってきたのだろう。


その子供は歩みを止めて、「入っていいか?」と言った。勝手に入ってはいけないと思ったのだろうか。


まあ、知らない子でもないしな。いや知らない子だけど、知り合いの領の子供だ。


「入れ。風邪引くぞ」


ずぶ濡れの美貌の少女は、少しだけ慈愛ある笑みを見せ、そしてゆっくりと水壁の隙間を入って来た。


超深青色ウルトラマリンの髪が、水に濡れて神秘的に輝いている。そしてこの子の瞳の青は、深海のような深みのある黒い青。


すらりとした手足に整った顔。綺麗な瞳だが、くっきりとした大きな目は、少し突き刺すような印象を受ける。


よく見ると、腕輪に足輪。足にはサンダルのようなものを履いている。


少女は俺の目を見て、「少し世話になる」と言った。


俺は、子供らしくないこの子の瞳に、しばしの間見とれてしまった。

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