第169話 世界の神々
「よろしいでしょうか」
誰かが俺の部屋を尋ねてきた。
下ではレミィと繋がりかけているのに、上では繋がっていない。
さて、どうしよう。
というかこのハスキーボイスは……
迷っていると、レミィが俺の胸肉にがぶりと噛みついた。犬歯を立てて思いっきりかぶりついている。少し痛い。やるなヴァンパイアハーフ。
「ビフさん? 今レミィと一緒なんですよ」
一応、ここはレミィ優先で。ギランだったら通していたと思うけど。
だが、扉の向こうで「そうですか」と言ったかと思うと、扉が開く。
一応、鍵代わりの金具をロック状態にしていたのだが、簡単に弾き飛んだ。鍵よ、仕事しろ……
そしてそこから入って来たのは、やっぱりビフロンスだった。
「ご相談があるのです」と、ビフロンス。
「い、今じゃなきゃ駄目です?」
「はい」
そ、そうなんだ……
ビフロンスが部屋に入ってくる。こりゃもうレミィとラブラブセック○どころではない。
「ええつと、この状態でいいんです? 何のご相談……」
そこまで言いかけて、ビフロンスの後ろにいる人物に気付く。
顔を真っ赤にさせており、どこか焦点の合っていない目をしている。興奮しつつも、極度に緊張しているような印象だ。
「……あ」
マルコが、ビフロンスに手を握られて、俺とレミィの前まで歩いてくる。
「あなたは、『
どういう意味だ?
いや、『
「千尋藻、彼女を見て欲しい」
「見るって言いましてもね。今から何をなさるのでしょう」
「彼女は、お肌も顔も綺麗だ。おっぱいの膨らみはないが、それでも女性としての魅力はある」
「そ、そうですね」
「彼女は、あのホークにレイプされなかった」
「そうですね……」
俺は、千里眼でマルコがホークにレイプされそうでされなかった現場を見ていた。確かに、あの時のホークはマルコのお尻を撫でながら首をかしげていた。
「何かがおかしい」
「おかしい?」
ビフロンスは俺の目をじっと見つめ、「これは呪いかもしれないが、このような呪いは見たことが無い」と言った。
これは多分、真面目な話のような気がする。
「呪いですか。それは、お相手の男性がヘタレになるという呪いだと?」
「そうだとしか思えない。だから、千尋藻に頼むのです」
「呪いの調査ってこと? ええつと。マルコ? お前はどうなんだ? 気持ちとか。ここにはケイティという能力者もいるんだが」
個人的には、適任者はケイティだと思うが……いや、あいつのスキルで無理矢理するより、自然で試した方が良いような気がしなくもないが、結局は彼女の気持ちはどうなのかというと……
「わた、しは……旦那様が、いいです」
目の前ではビフロンスが慈愛の表情をし、隣ではレミィがにニマニマと笑っている。
「お、おう」
どうする、どうすればいい?
俺は、ビフロンスの表情を伺う。
ビフロンスは、慈愛の表情を浮べたまま、俺とマルコを同時に抱き締めた。
数秒後、ビフロンスは抱き締めを緩め、「マルコ、自分で脱いで。今なら大丈夫」と言った。
マルコは腕からするりと抜け出し、急いでぽんぽんと脱ぎだし、そしておもむろに俺にキスをした。
俺は、それを拒まなかった。
俺がこいつを雇った理由はなんだっけ……身寄りも無くかわいそうだったから。カレシ無しでしがらみがなく、雇ってもデメリットが少なそうだった。文字の読み書きができたし体力もあった。何よりも素直で真面目だった。
だけど、年頃の娘なわけで……ヒリュウの様に仕事で俺と一緒に居るわけでもなし。
この一歩外に出たら危険な世の中で、彼女が異性を求める気持ちは痛いほどよく分かる。しかし、俺と彼女が男女の仲になるのか……
マルコも今はマルコだが、いつかきっとスザクらしい女性になるに違いない……
ここは、流されようかなぁ。彼女は大事な仲間で、仲間が俺を異性として好いてくれるのなら。
マルコが横になる。よく見ると、目が小さいが結構可愛い。体も、最初出会った頃よりはふっくらしている。そしてお肌は確かにきめが細かくて柔らかい。
「だ、旦那様……お慕い、しております」
俺は、周りを忘れ、彼女に……
彼女に……あれ?
不思議に思ったマルコが目線を下にした。
マルコが俺のミニマムを見て泣きそうになった。下唇を噛みしめ、今にも食いちぎりそうだ。
「いけない」
ビフロンスさんが、俺を抱き締める。そして、むぐうむぐうとなる。
「何と強力な……マルコさん、躊躇しては駄目。おそらく、一回だけでその呪いは無効になる」
「私も手伝う。なんだか、何かと戦ってんのよね」
レミィが参戦する。
これは、これは呪い。異世界の侵略形態の一つ。思い出せ。俺の使命は何だった?
何故、神は俺の体を絶倫に改造した? 何故11人の肉食獣と一晩中やり続けても大丈夫な体にしたと思う?
そして、何でケイティがあんなエロチートスキルを与えられたのだ?
答えは一つ。
……マルコ、いやスザクよ、俺が助けてやる。
俺は、心の中をエロで満たす。ビフロンスのお肉を借りて。この人はエロだ。エロの塊だ。
レミィが何を勘違いしたのか、俺のお尻を刺激する。気が散るから止めて欲しい。ぼっちをこじらせているレミィは、時にヤル気が空回りする。
だが、そんなことの全てが上書きされる。さすがビフロンス……全てを包み込む最強のお肉よ……
そして……
……。……。……
「おめでとう。呪いは解けました」と、どこかのタイミングでビフロンスの声が聞こえた。
・・・・・
どれだけ時間が経ったのだろう。
ちょっと覚えていない。でも、きっと呪いは解けたと思う。何故ならば、その後は普通に……
ふと気付くと、俺はビフロンスさんの腕枕で眠っていた。普通逆だと思うのだが、気付いたらこうなっていた。
俺の背中にはレミィが張り付いていて、同じく腕枕している。マルコは、俺の反対側で同じく腕枕ですやすやと眠っていた。
その状態で毛布が掛けられ、ぬくぬくと気持ちよく眠れていたようだ。
ふと顔を上げると、ビフロンスさんと目が合った。彼女も起きていたようだ。というか辛くないのだろうか。
「ビフさん、大丈夫?」
俺が小声でそう言うと、「あなたからいただいた腕は、丈夫なので平気です」と返した。
俺は、何となくこのタイミングで気になっていたことを聞いてみる。
「ビフさん、ちょっと聞いていい?」
「何なりと」
「ウルの巫女って、どんな感じだった?」
俺は、本当はウルという亜神から何か神託を受けていないか、何故『
「そうですね。ウルは、人格がありません。正確には、人格を封印した神なのです」
「ほうほう。かつては人格があったと?」
「ウルは、植物の聖獣なのです」
「植物? 炎の神ではなく?」
「植物こそ、炎を生み出す源なのです。ウルは、ずっと長い間ウルカーンを見守ってきましたが、盟約により人格を封印し、そして眠りについたのです」
「ふうん……植物はエルヴィンだと思ってた。それに盟約だって?」
「人格があると、いずれ判断を誤る。そうなったとき、取り返しが付かなくなるから、人格を封じたのです。盟約とは、植物の総意ウル、最初の知性ティラ、無機と触手の神ララ、光と性の神ノートの4柱が、時を同じくして人格を封印するというものでした」
「人格を封印した神はどうなるのだろう。いや、そういう神の巫女ってどんな感じ? それから、他の神はどうなった?」
「せっかちですね。分かりました。あなたには、全てお話しましょう」
俺は、無言で彼女の語る言の葉を聞き続けた。
美しい声、まるで聖母が神話を語るような声だった。
ひとつめの神はララ。この世全ての物質が溶ける母なる海の神。無機と有機の古の細胞。その正体は無限の触手である。この海こそが
ふたつめの神はティラ。知性の根源であるその神は、土に眠る無限の細胞を司る。あまねく細胞を提供し、あらゆる生物はティラより生まれる。その正体は粘菌であり、永遠に生き続ける無限の神。
みっつ目の神はウル。人類とは別の進化を遂げた光を喰らう植物の総意。死してもなおこの世に残り、熱を発して人類を守る。その正体は植性細胞の群体で、こちらも永遠に生き続ける無限の神。
よっつ目の神はノート。月の光を取り込むその神は、夜の海に
なにそれ……その四柱は最強じゃないか……今の人類、ちょっと信仰心を忘れすぎではないか。いや、それは前の世界でも同じか……
ノートは海の獣に、ティラは自分の娘に、ウルは陸の獣に、ララは竜に、国を託して眠りについた。
その全ては神敵との盟約による。
ここでも神敵……
陸の獣に雷獣と風竜あり。それら
ララから
ティラの娘の一つがウルの木を食し、強く大きくなって老いない国を造る。その娘の名前はエルと言った。
ああ、今のこの戦争……とても馬鹿らしいな……建国神話は、どこも一緒じゃないか。ならば、ここの人は一つになれる。
あら、そう考えた人のことを最近聞いたような……
「これが、この大地の建国神話であり、この島で本当にあった神話時代の物語」
「ビフさんは、それをウルから聞いていた?」
「ウルに人格はありません。ただその記憶を見せるだけの神。私達巫女は、その無限にも思える記憶を垣間見て、考え、あるときは判断し、そして子をつくるのです」
「ビフさんは、何で追放されたんだろう。ウルカーンがそれをするとはね」
「これも定め。私が追放されたのなら、その後はきっと因果が巡り、追放も何かの意味を持つ。そして私はあなたと出会った」
「そっか。全ては神の手の内か……」
目の前が、少し暗くなる。ビフロンスが体を起し、横になる俺を見下ろしていた。
「美しく、禍々しき化け貝よ」
綺麗な目で、俺の目を見る。
「その貝は、神話に出てこない」
顔が近づく。
「ならば、貴方は
口と口が重なり合う。
「私の役目は、これだったのだ」
舌が入ってくる。同じ舌が絡み合う。
「世界は、ようやく先に進むだろう」
ビフロンスは俺の上に跨がり、下の方で位置を合せる。
「この永遠の牢獄から、許されるときが来るのだ」
神の箱庭……
箱庭の住人は……ここが箱庭と知る住人にとっては、ここは牢獄なのか……それは、絶望に等しいのかもしれない。
俺は、ビフロンスを受け入れた。
「この出会いこそが、私の存在意義……ああ、愛しているぞ。私の血肉は、このためにあったのだ」
深夜、俺とビフロンスは、もはや第何ラウンドかよく分からない行為を再開した。
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