第167話 真実
貸してもらった屋敷には、大きな庭があった。
モンスター娘らは屋敷には泊まらず、この庭でキャンプをすることにしたらしい。マツリにはちゃんと許可を取った。
俺達は屋敷で寝ることにしているが、御飯は一緒に取りたいということで、庭にテーブルや椅子を設置してそこを食事会場にする。
そして俺はと言うと、食事後のお楽しみを造っている。
それはお風呂。まず、庭に丸い穴を掘る。その穴の表面を水魔術の水で薄く覆い、水製の水槽を造る。そうすることで、風呂用のお湯と土が直接当たらないようになり、土で濁らなくなるのだ。
ついでにサウナも造る。サウナの方は簡単で、テント幕を張ってそこに焼けた石を入れ、水をかけるだけだ。お湯の方も熱した石を水に沈めることで暖める予定にしている。
今の俺は、庭の端にひとまず穴を掘っている最中だ。ちゃんとスコップで。これも筋トレの代わりである。
仲間達と一緒に肉体労働をしながら、先ほどの出来事を思い出す。
不思議な子供がいた。
黒く見えるほど深い青の綺麗な髪と瞳。小さな顔にすらりとした手足。
その子供が、俺の臭いを『神』と言った。髪の毛の『カミ』かもしれないが、普通胸の臭いを嗅いで髪の毛を連想するだろうか。
ちなみに、その子はひとしきり俺の臭いを嗅いだあと、どこかに歩いていった。
不思議ちゃんだったなぁ……今は気にしてもしょうが無いか。
「どうなさったんですか、千尋藻さん」と、ケイティが言った。
ケイティは、大きめの石を拾ってきて、浴槽の周りに設置していた。こいつも風呂は楽しみらしい。
「いや、ちょっとな。綺麗な子供がいたんだ。あまり子供っぽくなかったけど」
「そうですか。この町は子供が多いですね。若い女性も多いようです。土地も肥沃でまだまだ多くの人口を抱えることができるでしょう。きっと発展しますよ」
「そうだな。バッタの政治がいいんだろう。ところで、出発はどうしよう。なんだか明日に出るのも勿体ないな」
「そうですね。小田原さんが荷馬車のメンテをやりたがっています。増えた分のスレイプニールを繋いでいる器具もあり合わせですし、レミィさんの荷馬車が少し遊んでいますしね」と、ケイティ。
「そっか。後で改修に必要な日数を聞いてもう少し長居するか。ここからスイネルまで2泊くらいで着くはずだしな」
「そうですね。本格的な改修はスイネルで
「分かったそうしよう。一応、モンスター娘らにも聞いて……」
「ところで千尋藻さん、ティラマトさんはどうなさったんで?」と、ケイティが俺の肩の上を見て言った。
今、俺の肩の上には、件の赤スライムはいない。
「ああ、あいつな。ちょっと家に帰ってくるとか言って、消えた」
「お家ですか?」
「そ、お家に帰ってる。念のための保険って言ってたけど」
「ほうほう」
「まあ、レミィ経由で直ぐに戻ってこれるからな」
「そうですね。彼女、なんやかやと面倒見がいい気がします。きっと長女ですよ」
「そうかな。自分が一番な次女と思えなくもない。ま、どうでもいいけど」
俺は、軽くなった肩を少し気にしながら、穴掘りの作業を進める。
・・・・
「ふう~~~~~~」
気持ちいい……
お風呂だ。温泉ではないが、それでもお風呂だ。
食後の楽しみと思っていたが、時間があったので食前に入る事にした。まだ明るい。
残念ながら男ばかりだが、それでもいい。俺は、カシューに体をクリーンで洗ってもらった後、浴槽に肩まで浸かる。
小田原さんとケイティも浸かる。
他のメンバーは、気を使っているのか簡易サウナの方にいる。
テント幕を張っただけのサウナでは、ちびっ子魔道士ティギーが、元気よく石を火魔術で暖めたり、石に水をぶっかけたりして蒸気を作っている。
一応、みんな気を使って、あそこが見えないように、下にはタオルを巻いている。
ここに居るのはティギー以外は男のみであるため、人数は10人しかいない。
日本人3人の他、炎の宝剣の2人、ガイにジェイクにステラ旦那に学生2人だ。なお、ヘアードはすでにここの領民でお客さんではないため、別のところで早速仕事をしているようだ。
「ふう。ようやくここまで来たな」と、呟いてみる。
「そうだな。長いようで早いもんだ。ネオ・カーンからここまで、まだ一ヶ月程しか経っていないんだぜ?」と、小田原さん。
「そうだよなぁ。その中で、色々あった」
「私はあっという間でしたね。色んな出会いがありました」と、ケイティ。
「最初童貞だったもんな」
「はい。ジークさんには未だに感謝しています。最初の女性が彼女で本当に良かった」と、ケイティが言った。
「ジークは男前だからなぁ」
ジークはリーダーにふさわしいヤツだ。というか、俺が何時のまにかこのチームにリーダーになっているんだが、それでこの二人は良かったのだろうか。
「小田原さんは、ここに来て後悔なさっていませんか?」と、ケイティが言った。
「後悔というか、今回の転移は、別に自分で選んだ分けじゃないだろう。勝手に選ばれたというか。でも、まあ、それなりに楽しんでいるぜ」
「あとは、俺達の『目的』がうまくいけばいいけどなぁ……」
ここで具体的な話をするわけにもいかず、俺はそのままポケェと天を仰ぐ。今日の空は、少し残念だが薄雲がかかっている。
その俺の視界に、ブツが入る。ぷらんぷらんと揺れているブツだ。
「お三方おくつろぎ中に済みません。入ってもいいでしょうか」
こいつはジェイクだ。こいつはタオルを巻かない主義だ。ここには幼女もいるのだから、巻いた方がいいとは思うのだが、幼女だからこそどうでもいいという考え方もある。
「ええどうぞ。別に独占しているわけではありません」と、ケイティが応じる。この風呂は7,8人は余裕で浸かることができるサイズだ。
ジェイクが湯船に浸かる。
「なんやかやと、お前とも長いな」と、俺が声をかける。
「ええ。そうですね。ネオ・カーンからですから」
「お前ってさ。何で追放されたんだっけ」
「追放の理由ですか? 私の生活魔術と攻撃スキルでは冒険の役に立たないからと言われたんですけど」
「そっか。攻撃スキルは『全身攻撃』だっけ? 生活魔術も習得はそこそこ難しいらしいし、両方とも優秀だと思うがなぁ」
「こういったことって、失ってみないと分からないことじゃないですかね。ありがたみが」
「どんなパーティだったんだ?」
「7人パーティですよ。前衛がシールダーと剣士2名の計3名。中衛が槍使いの1名と火魔術士、そしてメイスの私。後衛が1名でスカウトの弓使いでしたね」
「ふうん。それなら、別に生活魔術が使えるメイス使いのお前が居てもいい気がするんだけど」
「そうだとは思います。ですが、私達って地下迷宮ではなくて、比較的短期間で終わる陸上の護衛とか魔物退治でしたから、あまり生活魔術は必要なかったんだと思います」
「そっか。その冒険者チームは今どうなったんだろうな」
ジェイクは少し遠い目をしながら、「分かりません。ネオ・カーンに残っていたかもしれません。今頃どうなっていることやら」と言った。
「そっか……」
異世界からの侵略者の手がかりはないものだろうか。
「でも、そのパーティのリーダーはシールダーの女性だったのですが、私の目線がリーダーのお尻にばかり向いていたせいかもしれませんね。私の本当の追放理由」と、ジェイク。
「それはひどいな。お尻を見たくらいで追放とは……良いお尻だったのか?」
「それはもう。体は細いのに、鍛えられたむっちり太股にぷっくりとしたお尻が見事でした」
「そっか。そういえば、お前のブツを見て思い出した」
「何です?」
「ハルキウ坊やに真実を教えてやって欲しいんだ」
「真実?」
「そうだ。あいつ、包茎だろ?」
「そうですね。まだ若いですからね」
「それがな、あいつ、あの状態が生物として立派だと嘘の説明されていて、それを信じているようなんだ」
「え? まさか、でも、そうなんですね」
「だからよ。お前が教えてあげてくれねぇかな。タイミングを見計らって。俺達おっさんが言うより、お前からの方がいいだろう」
「わ、分かりましたけど……」
さて、どうすっか……こいつは、異世界からの侵略と関係有りや無しや……
再び天を仰ぐと、今度は幼女がやってきた。下から見上げる形になるが、ちゃんとズボンをはいていた。
その幼女は、「おっちゃん、石頂戴。温め直すから」と言った。
それにはケイティが反応し、「はいはい。ティギーは偉いですね」と言って、風呂の底に沈んでいる石を
さて、次はサウナでも堪能するかな……
・・・・・
風呂とサウナを堪能し、ぽかぽか状態で着替えを済ませると、夕食が続々と運ばれてくるところだった。
ジャストタイミングだ。
さて、今日は何処に座ろうかと考えていると、マツリが小走りで寄って来て、「千尋藻さん、領主代行が一緒に食事したいって。最初だけでもいいから付き合って欲しいんだけど」と言った。
「うげ。マジかよ。ファンデルメーヤさんに任せちゃ駄目?」
「あの方、平民扱いのお忍びでここに同行してるから。そういう意味ではビフロンスさんも駄目。美味しいお魚用意しているからさ」
「ほお……俺、お魚にはうるさいぞ?」
「スイネル産と、近くの川魚が入ってるって。料理長は自信満々だったよ」
「任された。歓待よろしく」
「一応、私も同席しますよ」と、ケイティが言った。
「それは助かる。相手が色仕掛けしてきた時の保険」
「千尋藻さんにも、色仕掛けは効かないと思いますけどね」と、ケイティ。
まあ、ここまで美女に囲まれていると、もはや追加が来ても嬉しくないな……
「自分は隅っこでぼちぼち飲んでるぜ」と、小田原さん。彼は大人数での会食をあまり好まない。気心の知れた少数でぼちぼち飲みたい派なのだ。俺もお偉いさんとの会食は得意ではないんだが、リーダーなんだから仕方が無い。
俺達は、マツリに連れられて上座のテーブル席に歩いて行った。
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