第164話 レミィ54歳


「じゃあ乾杯。あ、この酒私が持ってきたヤツだから」


レミィは3にお酒を注ぐと、コップを持ち上げてこちらに差し出してくる。


「へいへい。盗賊業で稼いだカネで買ったんだろ。まあ、酒に罪はない」


「ひどいなぁ。私は一度死んだからノーカンって言ったのあなたじゃん」


俺はそのコップを受け取り、レミィのコップとカチンと接触させる。


残り1つのコップはティラマトの分だ。こいつはこの状態でお酒が飲めるらしいのだ。しかも酔う。この赤いスライムのボディは、血液じゃなかろうか。


「どうだ? ここでやって行けそうか? もう2日目だけど」


「私はどこででもやってきたから、多分、ここでも大丈夫。別に敵に突撃しろってんならするし、なんなら格闘技でもいいよ。あ、でもひどい怪我をしたらお肉頂戴ね。あなたの」


「贅沢なやつめ。ダチョウで我慢しろ。格闘技は一度見てみたいな。ダルシィムか小田原さんと試合すればいい」


「別にいいけど。お仕置きセック○はどうする? あり? なし?」


このレミィという女は、地下組織の興業で格闘技をやっていた時期があったとか。負けたら体を破壊されながら犯されるという悪趣味な興業だ。


「別にそこまでしなくてもいい」


「あらぁ? 優しい旦那様。じゃあ私、ここで何をしたらいいの? もう知ってる内容全部しゃべったよ?」


「お前ほどのスキルラインナップがあったら、普通に冒険者ができるだろう」


「勿体なくない? それに私、目標があった方が燃えるのよね」


「お前さ、これまで目標あったんだ」


「ま。失礼な弟ね。最初、くそ冒険者らに盾にされてた時は、絶対に盾がうまくなってやるって思ってたし、地下格闘技の時は、いつかチャンピオンのキンタマ蹴り潰してやろうっていう目標があった。セック○してくるやつらは、私の虜にしてやろうって頑張ってたし」


「ホークの時は?」


レミィは少し目線を下げて、「あの時は、そうね、分かって貰えないかも知れないけど。ホークの死に際を見届けたいって思ってた」と言った。


「長寿のエルフの死に際?」


「そう。あいつ、頭に何かが入ってて、どこか死にたがっていたから。いつか馬鹿なことやって死ぬって思ってた。それまでは、私がいてあげたいなって」


「ホークがする『馬鹿なこと』というのが、人の恨みを買いそうなやつだからタチが悪い。それに、それはお前も死ぬ可能性高いってことだろ?」


「そうね。私も、何時死んでもいいかなって思ってたから」と、レミィが応じる。


一瞬流れる無言の空気。


俺としたことが。ホークのネタを出すべきではなかったか? それに、ついつい言葉の端に棘があったかもしれない。こいつはもう許したのだから……


「提案いい?」と、俺達の様子を見守っていたティラマトが言った。


「提案?」


「そ。あなたらは、地下迷宮に挑戦するのよ」と、ティラマト。赤スライムの一部をにょきっと伸ばし、コップの中に突っ込んでいる。ああして少しずつお酒を体に取り込んでいるらしい。


「地下迷宮って、またお前の本体に会いに行くってやつか?」


ティラマトがいるのは確か100階層だから、相当のロジスティクスが無いと到達は不可能だ。まったく俺達にメリットが無いのだが。いや、これは人生の目標を与えるという話かな?


「私に会いに来てくれるのも嬉しいんだけど、レミィの母親もそこにいるわけ。一発ぶん殴る権利はあるはずよ」


「ああ。実験のためにレミィをつくって地上に放置していたという。母親の方だったのか」


「そうそう」


「それってさ、その吸血鬼、人間との間に子供をつくったということ?」


「遺伝的にはそうなるね。お腹を痛めて産んだのは地上の人間だけど」


「結局何のためだったんだろ」


「一応、吸血鬼全体の未来のためって言ってたけどね。私らがどのように人の世に入って行けるかの実験」


地下の吸血鬼らは、地上に出たがっているんだろうか。


「ふうん。どうするレミィ」


「え?」


「いや、お前が決めるべきなんじゃ?」


「き、決めていいの? 私が?」


「これは自分の目標の話だからな。そいつを殴ると決めたら、そのためにはどういうことが必要か、ロードマップを検討するんだ。そして、それに向けて訓練するとか、お金を貯めるとか、やりがいが出来るんじゃ?」


「そうね。そういえば私、自分でそういった方向性決めたことないや。あはは。どうしよう」


「乗り気じゃなさそうだな」


「うん。別に両親とかどうでもいいもん。父親の方はもう老人だろうし、吸血鬼の母親と関わるのも面倒臭そう」


「お前は、今ある境遇の中で自分の目標を決めていくタイプなんだな」


「そういうことになるのかな」


「せっかく長寿でほぼ不死の体を持ってるのに。どうすっかな」


今、俺は迷っている。こいつを俺達の目的に巻き込むかどうかを。正直、サイフォンらを巻き込むかどうかすら迷っている。話をするのは、ひとまずスイネルに着いてからにしようと考えているけど。


「何? 何かある? 何でもするからね。旦那とだったら、別に夜も呼んでいいし」


「お前な。数日前まで別の男のオンナだったの忘れてねぇか?」


「はっきり言ってくれてある意味気が楽だけど、私的には、ホークはここ10年くらいのバカやってた相棒って感じ。好きか嫌いかを聞かれたら、好き……だったんだと思うけど、それ以上でも以下でもない。結局、私は私が一番大事なのかなって思ってて。でも、私を助けてくれるティラマトと、体をくれたあなたは恩人だと感じてる」


「さすが54年生きているだけあるな。うん。そうだなぁ。お前は、普段は俺達の冒険者家業を手伝って貰いたいとは思ってんだけど、に巻き込んでしまおうかなと考えている」


「歳は余計だけど、とある仕事? 貴族の護衛じゃないの?」


「今の仕事はそうだけど、俺達三人のおっさんには、使命があるんだ。そのお仕事。お前は器用そうだから役に立ちそうだ。ひとまず、追放も婚約破棄も逆恨みも、無性欲にも縁が無さそうだし」


「何の話かぴんとこないけど、無性欲じゃないのだけは確か」


レミィはそう言って、少しだけ距離を詰める。こいつまさか、俺を誘惑するつもりじゃ……


「使っていいよ。私の体」


「いや、足りてるし」


口には出さないが、女性の知り合い一杯出来たし。モテ期到来してるし。


「ごめんなさい。正直に言うと、ちょっと夜が寂しくてさ。孤独主義な癖に、寂しがり屋っていうか……私、結構めんどくさいのかも」


「セック○依存症みたいになってるんじゃないだろうな」


「横から失礼。女性を腹心の部下にするんなら、あなたが性も支配しなきゃ。やっちゃいなよ。別の腹心に与えてもいいと思うけど」と、ティラマト。


「お前が口を挟むこと? でも、冷静に考えると……そうなのかなぁ」


確かに、多少男性依存気味なやつを放置すると、寝とられてしまう恐れがあるような……


「私も人の世のウオッチ長いからね。助言よ。レミィは優しくセック○してあげて、手元に置いておくべし。うん。そうしましょ」


「しかしなぁ」


54歳とはいえロリ過ぎる。顔も体も。いや、お尻は少し丸くてふっくらしているけど。


「何? まだ何か引っかかってんの? この子の体、新品にしておいたから。処女だから」と、ティラマト。


「ん? 考えてみたら、レミィの内臓は脳みそ以外ほぼ俺で出来てたな」


「そうそう。あなたがレミィとセック○しても自慰行為みたいなもんよ」


ティラマトが俺とレミィをくっつけたがっている理由は理解出来る。ずっと気にかけていたレミィに仲間ができるし、自分は俺という興味対象と直ぐにアクセスできるようになるから。まさに一石二鳥。


「わ、わたし、処女になったんだ……知らなかった……」


レミィが恥ずかしがっている。処女性って不可逆だから尊いと思う人がいるのでは? 内蔵が新品だからってそれでいいのか?


「そうよレミィ。その体は私からのプレゼント。あなたはこれから新しい人生を歩むの。というか、今回こいつの体を取り込んだから、結構パワーアップすると思う。千尋藻も何か使命があるなら、新生レミィと一緒に頑張りなよ。あ、千尋藻は千尋藻で、おいそれと自分の体を分けない方がいいと思った。危険な気がする」


「……」


数秒考える。俺の体を食ったヤツがパワーアップする? そういえば、俺の本体はクラーケンを食った。その時、相当力が付いたような気がする。ならば、少量とはいえ、俺の体を与えたビフロンスさんとレミィはどうなる?


「俺の体が他人に入ったら強くなる、のか。俺の体を与えた存在が強くなりすぎたり、さらに別の人物に体を分け与えた場合のリスクを考えてなかった」


「それもあってさ、レミィの体の機能を止めるキーをあなたに渡しているじゃない。ねえ、レミィを相棒にする件、本気で検討してよ」


「くう……たし、かに、自分の肉体を与えた強化人間を制御外に置いておくリスクは分かったが……分かったが、俺はロリじゃ無い」


「そんなの、あなた得意の複数プレイでどうにでもなるでしょ。工夫次第よ」


「ああ言えばこう言う」


「ごめんごめん。でも、私レミィには幸せになって欲しくって。それにはあなたの庇護に入るのが一番良いのよ」


理屈では分かる……でも……


「意気地無し。レミィはどう? 自分の気持ちは」


レミィは目をきらきらさせながら、「私はいいよ。純白に生きるのも良いかもしれない」と言った。


こいつは……処女という言葉に酔っているような気がする。今まで不同意のセッ○ばかりの人生だったわけだから、気持ちが分からなくも無いが……


俺は、考え過ぎないように、手元のお酒を一気に呷った。



・・・・・


「くう。何でだ。何で俺がお前と……」


「うふふん。いいじゃない。体は正直だよ?」


「うぐぐ」


レミィは、「おっぱい小さくてごめんよ。でも、体はちゃんと女だし、顔は可愛いでしょ?」と言って、可愛い八重歯を見せる。


真っ暗闇の水ベッドの上で、レミィと相対する。ずるずるとこうなった。誰も助けてくれなかった。というか、俺もハートが弱い。今日は結局、こいつとするんだな……ああ、でも良い匂いがする……


「理屈じゃ分かる。分かるが。つるぺたじゃねぇか」


「いいねぇ。うん。このじらしがいい。夜は長いし、このまましばらく健全に抱き合おうよ。10年くらい、このままプラトニックでもいいよ。でも、早くしないと処女じゃなくなってしまうかもよ?」


レミィの癖に。超上から目線だ。こいつは、泣くまでやり続けてやろうか……いや、お互い体が丈夫だから、それをやっても激しいセック○になるだけな気がする。


もう、流されるか。楽になってしまうか。こいつは長寿だ。付き合いは長そうだ。


でもなぁ……細くて骨っぽくて……俺的には、柔らかいお肉が欲しい……


その時、テントの入り口で気配がしたかと思うと、「失礼します」という声と同時に幕が開く。


だ、誰?


「ビフロンスです。入ります」


「ビ、ビフさん? まじで?」


いきなりのちん入者。


あのレミィがビックリして手で自分の胸を隠して口をぽかんと開けている。尖った耳が下を向き、八重歯が見えて可愛い。


「お困りの様でしたので。お手伝いします」


ビフロンスはそう言って、俺をその巨大な双丘でむぐうむぐうとなるまで抱き締めた。


「私が上を攻めますので、下はレミィにお任せします。これでどうでしょうか」と、ビスロンスが言った。


「彼女もあなたの体を取り込んでいるからねぇ。ちゃんと絆繋いでおいた方がいいんじゃない?」と、どこかにいるティラマトが言った。


いや待て。この人との関係は、ララヘイムに亡命させて終わり……俺はグレートゲームはしない……


「うん。分かった。二人で頑張ろう。あなたがいれば、きっとこの人も満足すると思う」と、レミィ。


「はい。その後は私がやりますので。その時はご協力を」


「よし。じらしプレイはなし。今日で処女卒業」と、レミィが言った。


うごおおお……く、くそ、このままでは負ける。いいようにされてしまう。


俺は、奥の手を使う。助っ人だ。インビシブルハンドで応援を呼ぶ。


2秒経つ。「呼んだ?」と、息を切らせたカシューが入って来た。寝間着姿だ。


「た、頼む。負けそうだ」


「ビフロンスさん!? まじで? いいの? まじで?」


カシューの目がハートになっている。こいつは百合属性の水魔術士……こいつがいると俺が楽になるし、こいつは色んな百合が出来る。まさにWinWin。最近の俺の相棒なのだ。


ビフロンスは、「私からなさいますか? どうぞ」と言って。水ベッドに横たわる。


「いくぞカシュー。お前は右。俺は左」


「おっけー。とりまリラックスさせる感じで。でも、レミィさんはどうすんの?」


レミィは、呆気にとられてぽかんとしている。いかんいかん。レミィを忘れてた。恐るべしビフロンスのお肉。


「レミィも手伝え。こんなボリュームは俺達だけじゃ手に余る」と言ってみる。こいつも、俺達の日常に慣れて貰わないと。


「う、うん。分かった。頑張るよ」


レミィは何故かそのまま双丘の間にダイブし、そしてむぐうむぐうとなった。


アレ、本気で息が出来ないんだよなぁ。

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