第3章 三匹のおっさん、起承転結の『転』に遭遇す
第162話 3章のプロローグ
追放……また追放が起きないかなぁ。
僕の回りでは、何故か追放がよく起きる。
こいつ追放されないかなぁと思っていたら、何故かそいつが追放される。
そして、試しに自分が追放されないかなぁと思っていたら、本当に自分が追放されてしまった。
あの冒険者パーティ、僕がいなくなってから、多分まともに冒険できていないと思う。だって、全員脳筋だったから。
でも、まあ、僕が追放されたのは、僕がそう願ったから不思議なことが起こったのではなくて、リーダーのお尻ばっかり見つめていたからなのかもしれないけど。可愛い女性だったな……お尻が良い形していて、とても魅力的だった。
くっくっく……
でも、ここはいいなぁ。女性のお尻を見ても、侮辱の視線を向けられるだけで、別に追放されたりしないし。というか、リーダーが一番見てるし。女性のお尻。彼は絶対に尻好きだ。
しかも彼、相手が視線に気付いているの、全く気にしていない。いや、気付かれていることに気付いていないのかな? まあ、おっさんだから、仕方が無いか。
まあいいや。
でも、ここまで平和だと、逆にここで追放騒動が見たくなるなぁ。
どうしよう、誰がどのように追放されるのが良いのだろうか。今からわくわくだ。あの子にしようかな。そうしたら、ここの組織がめちゃくちゃになって、あとでザマァってなるかなぁ。
いや、あの子が追放になったら、僕がそっちに付いて行けば落とせるんじゃないかな。追放からザマァの裏で、僕だけいちゃいちゃして気持ちいい生活してやるんだ。
どうしよう。迷う。
はあ……でも、本当に……本当に僕が追放したいと思った人が追放されるのだとしたら、僕は一体何者なのだろう。
実は僕は、自分が誰なのかよく理解していない。
名前は○○○○、冒険者になる前は学校にも通って、魔術の勉強をしたはずだ。だけど、その時の知り合いは? どんな学校? その時の授業内容は?
どれもこれもぼやけている。そもそも、他の人たちは、家族というものがいるらしい。その中でも、父親と母親というものは、必ず存在しているというのだ。もちろん、何らかの理由で亡くなったり別れたりはあるのだろうが、生き物として、必ずその二人は存在していなければならないはずらしい。
それならば、僕の父親と母親は誰なのか。
孤児なら、それは物心付いた時には別れているはずだから両親を知らなくても当たり前らしいのだけど、僕は孤児であった記憶すらない。
最初に今の僕というものがあって、他の過去の記憶は、それの必要最低限の設定しかない。おかしいけれど、これが自分。他人の事なんて、体験した事も無いし知らない。
僕は、誰が追放になったら面白いか、水ベッドの中で悩みだした。
◇◇◇
ふう~
ため息が。いけないな、ため息は。タダでさえ気分が沈んでいるに、それに拍車をかけてしまう。
私は敵に捕まって、皆に迷惑をかけてしまった。
私はその時に、敵のボスに犯されそうになった。怖かった。
でも、結果として犯されなかった。
それが何故なのか非常に気になっているけど、あれはおそらく一緒にいたビフロンスさんの魔術か何かだろうと整理している。
私はこれまで、一度も男性との性経験はない。孤児の極貧生活の中で、別の同じ境遇の女子らは、男子や街のお金持ちに体を差し出して対価を得ていたというのに、何故か私だけそんなイベントは無かった。生活に困り娼館の門を叩いたときも、雇って貰えなかった。
旦那様の元に就職してからも、一度も夜にお呼ばれすることもなく今に至っているし、魔物の雌とセック○できる
今日、サイフォンさんから呼ばれて、二人っきりでお話をしました。
サイフォンさんからは、悩みはないか、あの時の事を思い出して怖くなったりしないかなど、沢山のことを聞かれました。どうも、私の心のケアを気になさっているようでした。
とてもありがたい事です。私、この冒険者パーティに入って本当に良かった。みんな優しいし、旦那様は何の取り柄も無い私を付き人にしてくれて、火魔術も買ってくれて。敵のアジトからも助け出してくれて……
そういえば、その時のサイフォンさんは、私に性欲があるか少し気になさっているようでした。何故そんなことを聞くのかよく分かりませんが、どうも全員に同じ事を聞いているようです。
私は正直に、性欲というか、男性に興味がありますと答えました。でも、パートナーがいませんから処女ですとも伝えました。その時のサイフォンさんはとても優しい顔をなさって、いつかきっと、あなたにふさわしい男性と出会いますよとおっしゃられました。
ならば良いのですが……
まあ、私も少し反省しないといけません。夜はいつも旦那様の寝床を覗いていますが、きっとそういうところがモテない理由なんだと思います。ちゃんと女性としての魅力を身に付けなければ……
今度、誰かに相談しよう。できれば女性としての魅力がある方……私と一緒に盗賊に捕まっていたあの人とかどうだろう。あの方、あの時は手足が無いと思っていたのに、次の日には普通に五体満足で歩いていたあの方……
私とは比べものにならないボリュームのお胸とお尻をお持ちの格好いい方。よし、そうしよう。
◇◇◇
カカッ! ドォゴゴゴゴゴゴ・・・・・ゴロゴロゴロ・・・・
近い。こりゃ雷雨が来るな。
空は分厚い曇天、空気は生ぬるく。
今は冬前だというのに、雷だとは。
「ピーカブーさ~ん! まだ進む?」
「そだねー! 左前方の丘見えるー?」
「そこでキャンプ?」
「そうしよ!」
俺とピーカブーさんが、20メートル近く離れる荷馬車の屋上同士で会話する。ピーカブーさんは、スカウトのアンモナイト娘だ。直系2メートルくらいの巨大な縦巻き貝の中に美少女が入っている感じのモンスター娘だ。
さて、廃村から目的地『スイネル』の中間地点『ナナフシ』に向けて出発した瞬間これだ。
雨が降りそうな気はしていたんだけど……
ホーク襲撃事件の2日後、俺達はようやく移動を再開した。そう思ったらこれだ。
曇天の空に稲光が見えて、ゴロゴロと鳴っている。
俺達は、街道の先、左に外れた所にある少しだけ地面が高くなっている丘に向けて荷馬車を走らせた。
・・・・
「急げ! 雨が来るぞ。テントを張れ」
現場に着くと、まずは周囲の魔物や有害生物を排除するため、警戒班4人1組3セットが散らばっていく。
さらに、水魔術士らが水の壁を立てていく。高さは2メートルほどの小型にした。
同時に、その他大勢で一気にテントやタープの準備を開始する。
手慣れたもので、一瞬で野営地が整っていく。
「うひゃぁあああああ!」
「どうした!?」
「ご、ごめんなさい。虫が……」と、俺の後ろにいたマルコが言った。
マルコは俺の付き人だ。本名はスザクで愛称がマルコ。
今年20歳くらいの細身の女性だ。
もともとポーターにマッパーに記録係にと、補助系の仕事をしてもらっていたのだが、先日ノリで火魔術を買ってあげたところ、意外と適性があったらしく、先日の敵襲の時には火魔術要員として活躍したらしい。
ここ数日一緒に訓練しているのだが、彼女は普通の火の球を鳥の形にするという特技を持っている。今は、ランニング・ファイアバードというダチョウ型の火魔術の練習をさせている。二足歩行の火の鳥が、相手を走って追いかけるという必殺技だ。
孤児出身で、最近一緒だった冒険者パーティを追放されたらしいのだが、気付いたら今のポジションに収まっていた不思議なヤツだ。
先日は、敵にモンスター娘と間違えられて捕まって怖い思いをさせてしまった。でも、俺がずっと見張っていたんだぞと言ったら、なら大丈夫だったんだ、と言って、ほっこりした顔をした。
なかなか可愛いところもあると思うのだが、彼氏はいない。
「虫かよ。人騒がせな」
「申し分けありません」と、マルコ。いや、怒っている分けではないんだけれど。
この丘の上は、膝下くらいの高さの草が生い茂っていた。虫くらいはいるだろう。
マルコの叫び声に気付いて、警戒班が戻ってくる。
そいつらに心配無いと言って、任務に戻す。しかし、確かにこの草は邪魔だ。
「草を刈って燃やそう。これから雨が降るし、燃え広がらんだろう」
「いいんじゃないです? 学生らの手が空いてるし、頼んで来ましょうか」と、マツリが言った。
彼女は、孤児出身バッタ男爵令嬢の僕っ子だ。今から向かう荘園『ナナフシ』は、バッタ男爵の領地である。
「じゃあ、マツリ、頼める? ハルキウ達連れてここを更地にして」
マツリは、「はい。草を焼き払ってきます。タープを燃やさぬように」と言って、荷馬車の中にいる人物の元に急ぐ。
ここには学生らが三人いるが、護衛対象ではないダルシィムくんは、警戒班の一員として付近の魔物討伐に出かけている。残り二人の学生は、ハルキウ・ナイルとカルメン・ローパーだ。二人とも火魔術が得意であるため、草を刈ったり、焼いたりするくらいは出来るだろう。
そんなとき、ぽつぽつと雨が降り出した。
「旦那様、備蓄の魔力使うよ。雨よけ用」と、水魔術士のカシューが言った。彼女はララヘイム11人衆の一人で、百合属性の小柄な快活女性だ。
ホークとの戦いで大怪我を負ってしまったが、全快してよかった。実は彼女は、最近の夜の頼もしい味方なのだ。妙に俺と仲良くなっているため、こういうふうに俺にちょっと頼み事をする役を頼まれるらしい。
「分かった。後で魔力補充するから、使い終わったら魔道具持ってこい」
「了解、じゃね~」
カシューは走り去って行く。おそらく、水魔術で即席の巨大屋根を造り、馬などを守るのだろう。
間一髪で、何とか雨対策は間に合うようだ。
・・・・・
サーーサーーと、雨がテント幕に降り注ぐ音を聞きながら、俺とジークでポケェと地平線を眺める。
ジークはデーモン娘で、紫色の肌でハートアンカー型の尻尾の持ち主だ。なお、羽根は生えていない。美巨乳美尻のエロバディなのだ。歯がギザギザだけど、笑顔は可愛い。
「千尋藻、今日はどうするんだ?」と、そのジークが言った。
「もう、ここで野営しようぜ。通り雨の様な気もするが、ここまで雨具を出したんだ。もはや動く気力が起きん」と返す。
「そうだな。ここで急いでもな。俺達も宿泊準備をするか」と、ジークが言った。
今回は、そこまでの長旅ではない。物資にも余裕がある。なので今日は、ここで一泊だ。
「ん? ジーク、お前、足に何か付いてるぞ。黒い葉っぱ?」
ジークはくるぶし上までのブーツを履いてはいたが、ふくらはぎと太股は露出している格好だった。そのふくらはぎに、何か黒いモノが着いている。
「あん? ああ、こりゃあ、ヒルだな。ほっときゃ自分でどっか行くよ」
「ヒル? それならいいんだが」
ヒルは、無理矢理剥がした方が傷になるというしな……
辺りを見ると、草刈りと水製の巨大屋根造りは概ね終わっているようで、これならこの雨の中のキャンプでも大丈夫だと思った。
俺はジークと別れ、野営することを各担当に伝えていく。各々の担当者が、寝床やトイレ、食事の準備に取りかかっていく。警戒班も、周囲の魔物を駆逐し、続々と帰ってくる。
皆手慣れたもんだ。この護衛、最初は色々と心配だったけど、皆よくついて来てくれる。助かるよ。
ザザーーー・・・・
本格的に降り出した。
雨宿りの判断をしてよかった。
俺達は大粒の雨の中、野営の準備を続けることとした。
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