第161話 おまけ とある吸血鬼の呟き
私の姉は、変なんです。姉は沢山いますけど、一番上の姉の事です。
私達は、普段鎖で壁や天井に繋がれ封印されているので、体はほとんど動かせないのですが、少しずつ漏れ出す魔力を操って、外の様子は見えるし、他の人間とコンタクトを取ることができるのです。
そして、長い年月をかけて外の人間と『契約』する術を開発し、私達の力を望む人間と契約することが可能になっています。
その『契約』とは、私達の力の一部を外の人間に分け与えることと引き換えに、その人の様々な権利?を手に入れることが出来るというモノです。その権利とは、例えば視界、聴覚に味覚、契約次第では体の全てをレンタルすることも可能になります。
私達姉妹は、そうやって外の世界を擬似的に楽しむことができ、暇を潰しているのですが……
ある時、いきなりその姉の体が
姉は、いつもは女性の契約者の意識を乗っ取ってパーティに参加したり、その契約者の彼氏と疑似セック○を楽しんだり、逆に男性になってその人の彼女を男性として愛したり、英雄の契約者の体で覚醒して魔物ハントを楽しんだり、そうやって退屈を紛らわしているんですが……
その日、その姉はおそらく男性になって女性とセック○を楽しんでいたんだと思います。だって、腰をかくかくさせ、よだれもだらりと垂らして見苦しかったからです。
その姉が、ぼんと音がしたかと思うと、一瞬で体がばらばらになったのです。
マジでびびりました。
私達は、亜神『ティラ』が造った兵器。いずれ起きるかも知れないヤツとの戦争のための兵隊として生み出され、ここにストックされています。すべては『ティラ』を守るために。
当然、強靱な体に膨大な魔力を内包しており、一騎当千の最強兵器なのですが……
一体何事かと皆の視線が爆発した姉に集まります。
体がばらばらになって、大量の血が飛び散りましたが、その血が一箇所に集まり、徐々に体が繋がり始めます。私達は、あのような姿になっても死ぬことはないのかと感心したものです。それが、ティラの娘なのかと。
ですが、なかなか体が引っ付かないようです。これは、呪い? まさか。ここは地下迷宮の最深部なのに、呪い攻撃を受けたの? この姉、何をやらかしたの? まさかノートに喧嘩を売ったとか、ララに敵対したとかそんな事でしょうか。
地獄の様な苦しみを味わっている可能性がありますが、封印されている私達は姉を助けに行くことができません。
ばらばらになった姉は、何度も体を引っ付け、剥がれ、一端魔力が尽きてぐったりし、そして次の日にまた体を引っ付けて……
姉の爆発から、一体何日が経ったでしょうか。ようやく全ての体が一つになって、姉が立ち上がります。
何とか呪い攻撃に耐えたのでしょう。
真っ赤な髪がぱさりと動き、姉の体が露わになります。全裸です。最初に体がバラバラになったとき、身に付けていた戦闘服からこぼれ落ちたからですね。我が姉ながら、なかなか綺麗なバランスのスタイルです。まあ、私にとってあのような大きな胸部は邪魔なだけなのですが。
その姉の手には、何かが握り締められていました。
赤いもじゃもじゃです。アレはなんでしょうか。
姉は、その手で握っている赤いもじゃもじゃを地面にパラパラと撒いて、最後はパンパンと手を鳴らし、一本も残らないように払いました。
あ、分かった。アレって陰毛だ。私の契約者にも生えています。自分には生えていないから、一瞬分からなかった。なぜならば、私はロリタイプ。陰毛なんて生えていませんから。しかし、体が復活してから一番最初にやったことが、あそこの毛を毟ることって……
姉は、全裸のまますたすたと歩き、自分が繋がっていた鎖と戦闘服の前まで行きます。
……いや、いやいやいや、ちょっと待って? 封印の鎖から脱出してる?
まじで? うそ、そんなまさか。他の姉たちも驚愕の表情を浮べています。私達、全員ここから動くことが出来ないはずなんですけどーーー!
姉達の中には自分の契約者にお願いし、地下迷宮に潜って貰うように頼んだ人もいますが、人間がここに辿り着いたことはありません。
ここまで来るには、並大抵の努力では無理だからです。おそらく、数千人規模のロジスティクス部隊を組織し、何年も挑み続ける必要があると思います。
だから未だに、ここに他人が来たことはないし、私達は誰もここから抜け出すことはできていません。
唯一、とある姉が、自分の細胞を地上まで運び、ソレを人の女性の体に仕込ませ、子を作ったことはありますが、基本的に体は封じられたままで成し遂げたことです。
それなのに、この姉は自ら爆発することで、まさか、この神の鎖から抜け出すことに成功するとは……
姉は、無言でキョロキョロと辺りを見渡し、自分の体を眺め、そしてとある姉の元に行きました。
人との間に子を作った姉です。
一番上の姉は、その子を作った姉を怖い顔で見下ろします。
ゴス!
そして、おもむろに顔面をぶん殴りました。何で? いや、『あの実験』は、将来私達がここから脱出した時のノウハウを得るためのモノです。未だに実験中だと聞いていますが、確か、今は一番上の姉が引き継いだはず……。
殴られた姉は、私と一緒のロリタイプです。体が小さく、毛も生えていません。対して殴った一番上の姉はおっぱいもお尻もそこそこ大きく、陰毛もぼうぼう……いや、良く見ると、ほんの少しだけしか生えていませんね。私の頭脳の中にあるデータベースと一致しません。さっき、自分で
体が自由になって、一番最初にした行動が陰毛を毟る行為……そんなに気になっていたのでしょうかね。我が姉は。
そして、一番上の姉は、私達がストックされているルームを出て行きました。
うらやましい。私の契約者は、アル中のおっさんだけです。まだ面白いことは何もできないのです。
一方、一番上の姉は、結構社会的地位のある人と契約していたはず。ただでさえうらやましいのに、自由に動けることになるとは……
他の姉は呆気にとられています。一体、これからどうなるのでしょうか……最後の戦いまで目覚めるはずの無い私達……それが地上に出てしまう。というか、私達を開放してくれないのでしょうか。なんと無慈悲な姉……
しばらく待つと、なんと姉がこの部屋に戻って来ました。
何を考えているのでしょうか。普通は地上を目指すとか、私達を開放するとか……
よく見ると、姉はこの部屋にベッドを運び込んできました。確か、とても上等なスプリングが入った高級品です。こことは別の部屋に保存されていた魔道ベッドのはずです。
姉はおもむろに私達の前にそのベッドを設置すると、その上でグースカと寝始めました。ちゃんと枕と布団も用意してあります。
何故? 他にすること無いの?
でも、うらやましい。私達、全員鎖に繋がれた状態で封印されていて、いつもそのままで眠っているのに……はっ! まさか、見せつけてんの? 私達の目の前で、私達全員の憧れ、横になってぐっすり眠るという行為を見せつけてんの?
一番面倒見がいい姉だと思っていたのに……いや、単に今更生身で外の世界に出て行くのが億劫なだけなような気もします。意識だけ飛ばせば直ぐに地上を体感できますし。
そういえば……私達は、ちょくちょく姉妹同士で話をします。封印されている生身では、お互い会話することはできません。なので、姉妹同士でコミュニケーションを取るためには、地上で他人の体に憑依した状態で話すのです。
私も一番姉とは何回もお話したことがあります。その姉の口癖は、『いつかカレシに迎えに来てもらう』でしたからね。
だからといって、そんな……自分で歩けるようになったはずなのに、自ら眠りにつくとは……
カレシが迎えに来るまで、一歩もここを動かない気でしょうか。
マジかよ……
・・・・
変な姉だと思っていたら、最近さらに変になりました。
寝返りを打ちながら、時々寝言を発するようになったのです。
「またお前か……」
「美味しい。とても美味しい。さいっこう……」
「ああ、美味しい。これなら、何だってするから……い、いぎぞう……」
「ねぇ、付いて行っていい? ねぇん」
「私達、相性いいと思わない? でも、言えない。まだ言っちゃだめよ私っ」
「むにゃん……ねえ、来てよ、私に会いに……私は地下迷宮にいる……どう? 素敵でしょ?」
「わたしと、また繋がって……」
「こ、このいけずぅ~」
「お前をちゅーちゅーしてやるぅう……」
「うひょー。私の前でするのかよ。お前、変態だな」
「私も手伝ってやろうか? ん? ん?」
「ぐへへ、こいつ絶対離さん。絶対に逃がさん。どんなことをしても逃がさん。いいの見つけたったぜ~」
「いやだ。まだ居させてよ。帰らないっ」
「レミィ、ちょっと体を貸して。え? 今セック○中? だからいいんじゃん」
「お前を処女にしてやろうか!」
おお~い。帰ってこ~い。
姉は、ずっとどこかに意識を飛ばしているようでした。
・・・・・
それから何日か経って、ようやく
すでに、他の姉達は、殺意マックス状態です……封印されている私達は、体を動かすことすらできませんが、体から殺意オーラが漂ってきます。
そんな中、何の前触れもなくがばりと起き上がったのです。もちろん愚姉が。
び、びっくりしたぁ。
そして、もの凄い速さで自分が封印されていた鎖の近くまで移動し、そこに散らばる神具類を拾っています。
あれは、私達に与えられた武器や防具類です。そんな大事なものを、あの愚姉は今まで放置していたのです。
二、三点の武具を拾ったでしょうか。愚姉は、そのまま部屋を飛び出していきました。
まったく変な姉です。
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