第155話 襲撃後の朝
ちゅん、ちゅん、ちちち……
スズメの音が聞こえる。
ハルキウ・ナイルは、真っ暗などこかで目を覚ます。
体の調子はすこぶるいい。ぐっすりと眠れたようだ。
ここは、そこそこ暗い場所のようだった。なので、朝を感じられず、少し長めに眠っていたのかもしれないとハルキウ少年は考えた。
それに、『努力』の痕が無かった。昨日も寝る前にちゃんと努力したはずなので、誰かが処理してくれたということだ。なので、心地良い朝を迎えられた。
「う、うううん……は、はあうん……」
!! ハルキウは、心臓が跳び上がった。自分の真隣で、女性の声がした。
少年として、その声はどことなく、えっちな声に聞こえてしまった。だが、その声には聞き覚えがあった。
「え? まさかカルメン?」
「う、はううん……」
隣のカルメンが伸びをした。
「あ、ああ、ハル? ハルなの!? 何であなたが隣で寝ているのかしら……」
カルメンは寝ぼけ
「いや、自分も今起きたばかりで。何が何だか」
カルメンはにこりと笑い、「まあ、いいですわ。ぐっすり眠れましたし。あなたは紳士ですから? 私を性的に襲う事はしていらっしゃらないのでしょう?」と言った。
「う、うん。まあ、そうだね。何もしてないよ」
「そう。起きましょうか。ココは暗いけど、隙間から漏れている日の光は強い。きっと、そこそこの時間なのですわ」
「う、うん。ここ、荷馬車の中だよ。何時の間に移動させられたんだろう」
ハルキウとカルメンは、一緒に寝床の中から出ていった。
・・・・・
そこには、昨日とあまり変わらぬ風景が広がっていた。
要するに、片方は土の壁、壁が無い所は水の壁、そして、その中に広がっているテント群。
そして、太陽は結構昇っている。いつもは早朝からみんな訓練などを開始するから、音で起されるが、今日の朝は静かだった。
ハルキウとカルメンはとぼとぼと歩くと、「おや、やっと起きたの? 早く食べなさい」と、赤髪のアイサが言った。彼女は、厨房スペースで洗い物をしつつ、鍋を温めているようだった。
アイサはおっぱいが大きく、とてもくびれが大きい艶めかしい体付きをしている。なので、ハルキウは目線をおっぱいと股間に向けながら、「はい。いただきます」と言った。
「あの、今日の出発はいつくらいになりますの?」と、カルメンが言った。
「ん? それは聞いていないな。準備でき次第だとは思うけど……それが何時になるかは分からない」と、アイサが答える。食器に朝食のスープを注ぎながら。
「分からない? ふうん」と、カルメン。
「そういえば、ネムは? 今朝も訓練をやっているはずだけど」と、ハルキウが言った。
「そういえば私も、訓練に混ぜていただこうと話をしておりましたの」と、カルメンが言った。
この二人は、昨晩ネムらと一緒に食事を取ったため、その際に訓練の約束をしたようだった。
「ネムなら、寝てると思うな」と、アイサが返す。
「そ、そうなんだ。まだ寝てるのか」と、ハルキウ。
「それならおじさまは? おじさまとも訓練できるのでしょう?」と、カルメン。
「おじさま? あ、ああ、旦那様か。あの人は忙しいからなぁ。でも、今日はもうしばらくここに留まるようだから、少しくらい遊んであげる時間はあるかもな」と、アイサ。
その後、二人に朝食が渡される。
その二人は、仲良く朝食を食べ始めた。
◇◇◇
「忙し~」
「ぼやかない。頑張ってよ」と、ファンデルメーヤさんが言った。
俺の仲間達は、今は交代で睡眠を取っている。昨日はほぼ徹夜だったからだ。
そして、日が昇ってからは、ホークの腕を聖女の元に空輸して、ナイル伯爵とエリエール子爵に伝言を書いて、そうしたら午前中にもう一度エリエール子爵の本陣に千里眼を飛ばすように要請されて、トマト男爵とエリエール子爵の伝言をそれぞれ交換して、ナイル伯爵の手紙をローパー伯爵の屋敷に届けて……
俺、そろそろ寝たいのだが? だけど、これから、レミィを起すイベントがあるのだ。
レミィは、俺のせいで内臓ぐちゃぐちゃ骨もぼっきぼきになっていた。それを一晩かけて、ティラマトが再生させた。ちなみに、体の材料は俺のお肉だ。レミィの体の内臓の大部分は、俺で出来ていることになる。魔力の方もかなり俺のを吸い取られた。
ティラマトは暇な女で、かつお節介なヤツだ。とてもエリオンくんを殺したやつとは思えないが、ハーフヴァンパイアであるレミィのことをとても気にかけている。
まあ、レミィはともかく、ティラマトとは敵対したくない。あいつは基本的に約束は守るヤツだと思う。ならば、関係を築いておいて損は無い。
「ふう。伝言係は終わりかな? じゃあ、そろそろレミィ復活といきましょうかね」
「ええ~? お茶にしましょうよ」と、ファンデルメーヤさんが言った。
この女はぁ。時間が無いと言うから急いで仕事したんだろうが。この人は手術中、寝落ちしてぐっすり睡眠を取っていたし。
でも、まあ、お茶は眠気覚ましにちょうどいいか。いや、これは、ひょっとして俺のために言ってくれているのかもしれない。
なので、「じゃあ、熱いグリーンティーで」と言った。
ファンデルメーヤさんは嬉しそうに、「はぁ~い。淹れてくるわ」と言って、このテントを出て行った。
ふう。
テントの中で一人、ため息をつく。今回はいろいろあった。
俺は、自分の腕を見る。すらりとした生白い手……。足も白くて細い。
この原因は、あれだ。おそらくだけど、自分がそのように認識したからだ。すなわち……
その時、ふぁさりとこのテントの入り口の幌を開けて、誰かが入ってくる。
じゃくじゃくと土を踏みしめて、入ってくる。
ここからは逆光だが、黄色と赤のライオンヘア。そして巨乳。もちろん、金色であるライオン娘のナハトではない。その人物の造形は、紛れもなく普通の人間だった。いや、どことなく、手足が短い日本人体型だ。
「ああ、ビフロンスさん、寝るんじゃなかったんです?」
彼女は、無言で俺の隣に来て、俺の頭を撫でる。ごつい腕で。
「済みませんね。手足が短くて。それにごつくて。今の俺と交換しましょうか?」
今の俺の手足は細い。もやしみたいだ。これは鍛えなければならない。一方、彼女の手足はごつくて日焼けしている。何故ならば、それは俺の手足だったからだ。
手術が終わったあと、これはしまったなと思ったのだ。
タラレバ論になるが、彼女の四肢の移植手術は、まず俺の四肢を切り落とし、それは一旦保存。そして、俺から生えてくる新しい手足の完成を待って、ソレを再び切断し、彼女に移植。そして、最初の四肢を俺に再び戻す。
この手順でいくべきだったのだ。そうすれば、彼女の手足は白くて細いものになったはずだ。
今、彼女の手足がごつくて俺が生っ白いので、あべこべ感が半端じゃない。なお、すね毛は女性陣有志によって、つるっつるに剃られた。
彼女は、無言で俺の頭を抱き締める。彼女の大きなおっぱいで、むぐうむぐうとなる。これは天然ではなくて、おそらく分かってやっている。こうやると、俺が喜ぶと思っているのだろう。まあ、喜ぶけど。だけど、俺としては、日本人的倫理観を持つ人間なのだから、これは少し恥ずかしい。彼女、おそらく俺を、女体好きの人の形をした魔獣かなにかだと思っている節がある。間違いではないのだが……
彼女の手をチラリと見る。肘の上には、不自然なほどのつぎはぎ跡がある。痛々しいだけではなくて、太さも違うから、違和感がすごい。でも、彼女は気に入ってくれているのか、嬉しそうだ。
彼女は、抱き締めている腕を俺から離すと、俺の顔を見つめてにこりと笑った。
この子の口の中には、俺の舌がある。ああ、これから先、彼女の口の中は、ずっと俺の舌が有り続けるのだ。このことは、彼女はどう思っているのだろう。でも、少なくとも、機嫌は良さそうだと思った。
彼女は、まだ、固形物を食べたりしゃべってはいけないとティラマトに言われているから、まだ言葉でのコミュニケーションは取れない。
彼女の後ろから、ティラマトが入ってくる。そして、おっさん三匹とジークにシスイ。それからサイフォンにダルシィム。そして、その後ろには、お茶っ葉を取りに行ったファンデルメーヤさんがいた。
さて、これからレミィの復活イベントだ。どうなることやら……
・・・・・
「さて、レミィの前に、お前はどうするんだ?」と、ティラマトに言った。こいつは、人に力を貸す代わりに、その人から生殺与奪の権利と、さらに視界と記憶を差し出す契約を結んでいるらしい。
なので、相手が裏切った場合には一方的に殺せるし、力を貸している人の視界と記憶を自由に共有できる。しかも、今のレミィの様に、直接体を乗っ取ることもできるようだ。
まあ、今はずたずたになったレミィの体を死なせないために、緊急的にこのような状態になっているようだが。
さて、ここで一つ疑問があって、レミィが意識を取り戻すということは、こいつの存在が地味になると言うことだ。おそらくレミィの意識が戻ったら、その視界はレミィ本人とティラマトで共有しているのだろうが、ティラマトが自分の意思で気になる所を見たり、自分でしゃべったりなどは出来なくなってしまう。
先ほどの俺の質問は、それでいいの? という意味だ。
「それなんだけど、あなたに引っ付こうかなって。とりあえず」
「どういう意味?」
「レミィと会話をするときだけ、あなたと同化しようかなって。その体にもう一つ頭を生やせばいいし」と、ティラマト。発想が人外だ。
「いやいや、止めてくれ。人外すぎる」
俺は、魔術的なテクニックは低い。ティラマトは、なんとなく信頼できそうなヤツではあるが、取り憑かれるのは困る。というか、頭を二つ生やしたくない。
「そう。どうしよっかな。私、この現場に居合わせたいだけなんだけど」
「魔力があったらどうなんだ?」
「魔力は万能よ? だから、あなたに引っ付いて、ここに存在しておこうと思ったんだけど」
「お前、同化とか言うからびっくりしたけど、じゃあ、魔道具に引っ付くっていうのはどうだ? 魔力の備蓄装置だ」
「高出力のやつなら可能かな。何か持ってない?」
ふむ。それなら、うってつけのヤツがある。俺は、ソレをサイフォンに持ってこさせることにした。
魔力3000人分の、アレだ。
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