第151話 カシャンボ娘とマジックマッシュルーム娘

ど、どうしよう。マルコがピンチだ。でもこの男、例え首をちぎったとしても、本当に動かなくなるか不明なのだ。だから、許せマルコよ。


今、千里眼から見下ろす画像には、ホークがマルコのズボンをずらした状態で足の上に座り、尻を撫で回している状態が映っていた。


本当は、ホークがアジトの部屋に入る前のタイミングで狙えば良かったのかもしれないけど、そのタイミングは見逃してしまった。つくづく許せマルコよ。俺も万能ではないのだ。


さて、このまま行くと、マルコは犯されてしまう。


だけど、ホークはマルコの尻をぼーっと撫で回すだけで、それ以上はしようとしない。というか、アレも大きくなっていない。どうも、カシャンボがどうとか言って、ヤル気が起きないらしい。


「ううむ、どうしたらいいと思う?」と、隣のティラマトに問いかける。


「ど、どうしたらって、どうしたいのよ」と、返される。ティラマトは、千里眼の地下迷宮限定特化バージョンを持っている。


今、俺とティラマトは、一緒に仲良くマルコとホークのやり取りを眺めている。


どうもマルコをモンスター娘と勘違いしているのか、手をかけるそぶりは無かったから安心していたのだが、レイプしようと思い立ったらしい。


助けようと思ったのだが、この狭い部屋には、もう一人虜囚の身と思われる女性がいた。四肢がなくとても痛々しいが、本人の目の輝きはとてもしっかりしている。その人の境遇とか事情は分からないが、この部屋でホークに暴れられたら、その人を守り切る自信がない。


マルコ一人だったら、どうにかなると思うのだが。例えば、マルコをインビジブルハンドでがっちりとガードし、その他を水魔術でめちゃめちゃにするとか。


そんなこんなで手を出せずにいると、ゾンビみたいな状態のホークがマルコのズボンを脱がし、寝バックの姿勢で襲おうとしたのだ。ごめんなマルコ。怖い思いをさせて。いざとなったら、チン○バッチンするからな。


だけど、どうも様子がおかしい。


ゾンビ状態のホークは、マルコのお尻を撫で回すだけで、首をかしげながら何か悩んでいるように見えた。


というか、カシャンボって何なのだろう。今、このテーブルには、ジークがいる。少し聞いてみるか。


「あのさ、ジーク」


「おう、何だ?」


「カシャンボって何?」


「ほう。妖怪だな。それがどうした?」


「カシャンボ娘っているの?」


「いるぞ。強いぞ。今代のカシャンボ娘の一人は、タケノコ最強のレスラーだ」と、ジーク。


そ、そうなんだ。


「うちにマルコっているだろ?」


「ああ、知っている」


「マルコがカシャンボ娘の可能性は?」


「は? 無い。そもそも彼女は、普通の人間だろう」と、ジーク。


「そ、そうかぁ……」


さて、どうしよう。。この状態で、俺から小田原さんらに話かけることは出来ないから、細かな指示伝達ができない。せいぜいインビジブルハンドで何かしらの信号を送る程度だ。


「あいつら、マルコがカシャンボ娘と勘違いしてる。このまま勘違いさせておいた方がいいのだろうか」


「何? まさか、マルコが攫われたのは、モンスター娘と思われたからか?」


「あいつら、そんな会話をしている。というかマルコ、犯されそう……で、犯されない。どうしよう」


「じらしプレイか? マニアックな男め。その男、さっさと殺したらどうだ?」


「いや、その部屋、もう一人いて。多分虜囚。助けられるものなら助けたい」


「お人好しで贅沢なヤツだ。ここは仲間マルコを優先してやれ。二つ同時には、手に入らないものもある」と、ジークが言った。彼女は、キャラバン隊を率いる責任者だ。そう思うと、彼女の言葉は重い。逆に、俺の考えは甘いのだろうな……


「ううん。ホークってね、絶倫エルフなのよ」と、ティラマトが口を開く。


「そ、それで?」


「その絶倫男が、何故かマルコとやらを犯すのをためらっているみたい」


「ふうむ。理由は知らないが、時間稼ぎにはなるか。さて作戦。ホークを殺すには、理想はこの迷宮で一人になってもらうこと。どうしたらいい?」


迷宮の移動中に発見できたら良かったのだがなぁ。何時のまにかこの部屋にいた。俺の千里眼も万能では無い。


「お題は、この四肢がない女性とマルコを助けつつホークを殺すってことよね。そうね、例えば、私達がそこに近づいているってことを、気付かせてみたらどうかしらね」と、ティラマトが言った。


こいつ、この状況を楽しんでいる気がする。というか、こいつはおそらく、ホークがこの四肢の無い女性を連れていることは知っていたはずだ。それを放置していたわけで、やっぱり、この目の前の女は怪物で、まともな神経はしていないような気がする。


まあ、こいつが力を貸しているのはホークではないし、力を貸した人物の善悪を指導するようなことはいちいちしていないだけなのだろうけど。今、この辺の思考はスルーだ。


「あいつ、敵が近づいていると気付いたとして、一人で逃げるかな。レミィが戻らないと動かないんじゃ?」


「いや、流石に緊急回避的に移動はするでしょ。問題は、戦利品であるマルコを持って移動したり、自分の血肉にするために食べないかということ」と、ティラマト。


「ううむ。今からお前があそこに行って、レミィの振りをしてどこかに誘うってどう?」


「時間的に無理。それにばれるでしょ。普通に」


「そっか、仕方が無い。マルコの安全優先で行く。ホークがマルコから離れた隙に、大きな音を出そう。そうしたら、何かしらアクション起すだろうから、その隙に……」


「待って、そいつの仲間が部屋に向かってる。あなた、そいつを半殺しにしてみたら?」と、ティラマトが言った。


ほう。要は、攻撃を受けていると認識させる訳か。


俺は、「分かった」と言って、ティラマトが発見した敵兵のところに千里眼を移動させた。




◇◇◇


「肌は、綺麗だな……肌は。たぶん、俺の経験的に最高ランク」


うつ伏せの私の太ももあたりに座っている男が、そんなことを言いました。おそらくですが、私のお尻のお肉の話ではないかと思われます。今もずっと撫で回していますし。


悔しい。悔しいけれど、少しだけ、いや、結構嬉しいと思っている私がいます。


「でもなぁ。たねぇ」


死体男は、そう言って私から立ち上がってしまいました。殺してやりたくなりました。


じゃらり……


鎖が大きく動きます。


死体男は、その音の方を向いて、「こいつでするか」と言った。


私では駄目だったから、あの人とするのでしょうか。あの、私を励ましてくれている人を。いや、まさか、私の事を助けてくれたのでしょうか。わざと音を立てて、注意を引き付けて。まさか、死体男が私で勃起しなかった理由も、ひょっとして、何らかのスキル……いや、多分そうです。絶対にそうです。


「ふむ。ソレ、もう少し短くてもいいだろ。食うか。やりながら」


どういう意味なのでしょう。まさか、食べるのでしょうか。彼女の手足を。


ドガッカカカ……


音? 遠くの音。この部屋の外辺りから音がしました。


「ちっ、何だぁ?」と、死体男。


死体男は、急いで部屋の隅にあったズックか何かを漁り始めました。


ばさっと音がして、しゅるしゅると何かを身に付けています。


服か、若しくは武器だと思うのですが……


「オラ、立て」


「ひぐうっ!」


立てと言われつつ、腰を持ち上げられて無理矢理立たせられました。私は、両腕と膝も拘束されているので、自分で立ち上がることは出来ませんが、持ち上げられて立たせられたら、その場で立っておくことはできます。


そして、そのまま音がした方の扉に私を連れて行きます。これは、盾です。人の盾です。ごめんなさい。私、人質になってしまいました。


でも、これはひょっとして、旦那様達が救出に来ていると言うことでしょうか。


コンコン……


今度は、別の扉からノックがしました。


死体男は、私の腰を持ったまま、ノックした扉とは別の扉に移動しました。この部屋には、扉がいくつかあるようです。


ギィギギギィイイ……


さらに、ノックのドアとは別のドアが開きました。最初に音がした方のドアです。


もの凄い力で、死体男は私の後ろに隠れました。意外と小心者ですね。


「ヤ、ヤラレタ」


そこに入って来たのは四つん這い。それが2体ほど全身血まみれでズリズリと入って来て……


「どうやってやられた?」


と、私の後ろの男が言った。全然警戒を解いていない。


「ワカラナイ。イキナリダ」


?」


四つん這いは、無言で部屋に入って来て、「テアテヲ……」と言った。相当出血しているようです。この四つん這い、体は全身くすんだ茶色ですが、血は赤いようですね。


「おい、カシャンボ」と、後ろの死体男。


無言でいると、体を揺すられ、「お前達の仲間に、インビジブルハンドの使い手はいるか?」と言われました。


インビジブルハンド? そんなの聞いた事ありませんが……しかし、見えない手? ひょっとして、旦那様? 旦那様は、念力のようなものでモノを掴んだり運んだり……


「答えろ!」


「し、知りません。そんなの、聞いた事無い!」


「ちっ、じゃあ、『ヨシノ』だ。ヨシノの長がいないか?」


「はい?」


「ヨシノだ! 忍者だ! チッ、本当に貧乏くじだ。ここも危険だ」


死体男はそう言うと、私から手を離し、あの人の鎖を壁の器具から外そうとします。彼女も連れて行く気なのでしょうか。何とも欲張りな男……


でも、片手なので手間取って……


その瞬間、私の体がもの凄い勢いで部屋の隅に飛んで行き、バン! と勢いよく扉が開き、そして、そこから見知った顔が。


頭部が光った男が死体男に飛びかかり、ヒリュウさんが四つん這い2体に突撃し、そして何故かシュシュマがここにいて、変な形のナイフを思いっきり死体男に投げつけました。


電光石火というやつです。


ボゴン!


爆発音!?


強烈な振動が内臓に伝わり、私は……



◇◇◇


ハア、ハア、ハア……


逃げる、逃げてやる。


俺は、最強だ。俺は、死なない。


ずっとこうやって生きて来た。200年間も、ずっとこうやって。


ああ、息が出来ない。何故だ?


俺の体は、強力な自己回復能力があるはずだ。特に、肺や心臓や肝臓は直ぐに治る。


だから、どんなにやられても……そう、この力を手に入れてからというもの、俺はずっとそうやって生きて来た。ああ、何故か、生まれ故郷を思い出してしまう。俺の故郷、生まれ育ったエルフの里を思い出した。


あそこは、俺の村は、まるで墓場のような所だった。


平均年齢は優に200歳を越え、楽しみと言えばお茶を沸かして飲むくらいだ。


そして、皆多重人格者だった。朝は陽気なおっさんだったのに、昼には根暗になり、夜にはエロオヤジになるといった具合だ。


エルフというのは、人間と比べてとても長寿だ。だからなのか、皆100歳を迎える頃には、人格が2つか3つになっていた。1つの人格では、精神が持たないためと言われている。


俺は、そのような故郷がとても嫌だった。


何故ならば、死を待つばかりだから。エルフは見た目が若いとはいえ、100歳を越えると性欲は衰える。


生殖活動をしなくなってしまう。


そうなってしまうと、最早子供もできない。俺が物心ついた頃、その村はジジババだらけになっていた。


物心着いた当時10歳の俺が、村で最年少と知った時には、戦慄を覚えた。だから俺は、80歳で村を出た。俺は、多重人格だけは嫌だった。俺が、俺で無くなる気がしたからだ。


ゴフ!


口から何か出た。何だこれ。もさもさと。ああ、目も痛い。顔を触ると、何かが付いている。何だこれ……


まあいいや。そうだ、村を出たんだ。村を出てからは新鮮だった。


村の外には、女がいた。いや、性欲がある女がいたのだ。その時の俺は、童貞だった。80年間、一人の女性ともしなかった。周りに、同年代の若い女がいないのだから、仕方がない。


そんな時、あいつと出会った。まるで太陽のような笑顔のあいつ……



ホークは、その意識の中で、遠い昔の事を思い出した。

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