第147話 マルコの大冒険 炎のマルコ編

はあ、はあ、はあ……


これが戦場。地下迷宮の魔物退治とは、まったく異なる緊張感。さっき、生き物に向かって攻撃魔術を放った。初めての経験。相手は不気味な怪物だったけど、それでも嫌な気分になる。


旦那様に買ってもらった火魔術レベル1。


異性からもらうプレゼントのうち、私の人生初は、多分、この白いストック。旦那様と初めて地下迷宮に潜ったときの帰りに貰った綺麗な棒だ。魔術用の杖としてもなかなか優秀なようで、火魔術を使うときにも使っている。


そして、人生二番目のプレゼントが、今、体に宿している火魔術レベル1。


とっても嬉しかった。私、旦那様になら抱かれてもいいのに、なかなかお呼びが掛からない。まあ、あの人、愛人大量にいるからね。私なんかお呼びじゃないというのは分かっているけど。でも、何故か付き人は私なんだよね。それが、今の私の自慢であり誇り、そして存在意義。


そんな私が、旦那様達が護衛している大事なお客様の最終防衛ラインで戦闘をしている。


隣にはネムちゃん。そしてベルさんと、少し離れた所にイタセンパラさんと戦闘メイドさん。


対する敵は、さっきまで4体で、2体は足元に転がっているはずなんだけど、何時のまにか10体くらいになっている。


そいつらは、一旦距離を取って、2つに分れ、今度は私達の左右から攻めてくる。


「くっ、今度は左右同時か。イタセンパラは左を固めて。私は右に対処します」と、ベルさんが言った。


「はい!」と、イタセンパラさんが返事する。


私の役目は、右から来る敵に対し、ネムちゃんの攻撃の隙に彼女が狙われないように、別の相手に火魔術を当てること。頑張る。


右からの敵は、1体が先行し、後ろに3体いる感じです。


「テンタクル!」


ベルさんお得意の触手魔術が発動! 水の大盾から手の指くらいの太さの触手が出てきて、相手を絡め取ります。


いや、絡め取るんだけど、先頭の1体が足を止め、触手が空を切る。動きが読まれていた!?


触手の動きと連動していたネムちゃんが攻撃のタイミングを逃し、あと一歩を踏み出せない。


その隙を突くように、後ろにいた3体がネムちゃんに飛びかかる。


敵も学習してるのか、でも、ああ、これは……あのパターンで行ける!


「カイザー・フェネクス!」


広範囲に広がる火炎放射!


火魔術レベル1で使用できる魔術は2種類。1つ目はファイア。これは火の球を遠くに飛ばす攻撃魔術。私は旦那様の助言でファイア・バードと呼んでいます。2つ目はフレイム。これは、前方広範囲に放つ火炎放射。本来は薪に火を付けるためのもの。この魔術も、私は旦那様の助言で別のスペルを付けています。本当はフェニックスが良かったらしいのですが、パクりになるから嫌だということで、フェネクスになったそうです。私には意味がよく解りませんが。


私の名前はスザク。その名は、旦那様の国における神の鳥。だから、未熟者の私の名前はマルコです。


ですが、私には想像できます。優雅に羽ばたく火の鳥が。何故ならば、それは私の名前なのですから。


幅3メートルくらいの火の鳥が、羽ばたきながら敵に向かう。


魔術はイメージだ。鳥ならば、途中で軌道を変えても良いはずだ。


私は、ネムちゃんを包囲している敵に向かうように、火の鳥に命じる。敵を焼けと。私のカイザー・フェネクスにより、三人纏めて炎に巻かれ、足が止る。


だけど、私の魔力は多くありません。これで、限界かも。


「セイ!」


カイザー・フェネクスのタイミングに合わせ、ネムちゃんが敵に斬りかかる。敵の首から血が吹き出ています。流石です。


「後ろだ!」 ベルさんの声。直ぐに後ろを……


え? 


気持ち悪いヤツラが3体ほど私の背中に。その先では、イタセンパラさんが何か白い糸に絡まれ、その上から怪物に伸しかかられています。逆側から抜かれた!?


「おった!」


そいつらは、私を見てそう言いました。どういう意味?


ぶしゃっと、口から何か白い物を吹きかけられた。すさまじい嫌悪感けんおかんが。


こいつらの顔には目がありません。口は大きく、沢山の牙が生えています。その口の中から、何かタンのようなものが……


いや、これは粘っこくて手が動かせない。ひょっとして、拘束するため?


そして、その怪物は、私を抱え、他の個体の背中に乗せて……


「しまった、マルコ!」


「前からも来た」


私は敵にもみくちゃにされながら、前からさらに5体くらいの気持ち悪い敵が来ているのを確認した。


ああ、旦那様、早く……


その時、荷馬車から、とんでもない量の炎が吹き出て、敵の増援を包み込みました。


炎の中で、敵がもがき苦しんでいる様が確認できます。私の炎なんか足元にも及ばない、綺麗な炎。あれはおそらく、荷馬車の中の誰かの魔術なのでしょう。あんな綺麗な火魔術……嫉妬してしまいます。


「マルコ!」


美しい炎を眺めていたら、私を呼ぶ声が遠くなっているような気が。ええつと……


私、運ばれてる!? 攻撃されるのではなくて、持ち上げられて移動してる!?


私の名を呼ぶベルさんやネムちゃんが、どんどん遠くになっていきます。彼女らは彼女らで、襲い掛かる敵に対処しています。


! そこに颯爽と現われるジェイクさんとヒリュウさん。ナイスです。


しかも、私に気付いています。


私も必死に動きますが、少しだけもぞもぞと動くだけで、外れません。


後は、あの二人に……でも、遅い? ジェイクさん、足が遅い。あっという間に後ろです。


ヒリュウさんは……へ? 服を脱ぎながら走ってる? 何で? お着替え?


おっぱいがぶるんぶるんってなってて……ブーツも脱ぎ捨てて……その姿はぐんぐん離れていきます。


もう、無理でしょう。私は、どこかに連れ去られるようです。




◇◇◇


うおおおお、何だ、何だあの全裸の巨人は。


変な叫び声が聞こえたかと思うと、いきなり屹立した巨人。場所は俺達の野営地だ。


「ほう。巨人だな」と、ティラマトが言った。他人事のようだ。というかこいつは、本当に見学したいだけのヤツなのかもしれない。


今、俺達は廃村の防塁の上を駆けている。


「言われんでも分かっとる。アレは、ケイティかもしれない」


その巨人は、横浜にいるガン○ムくらいの大きさだ。その風貌は、どことなくケイティに似ている。髪は黒で、七三分けだし。


そして、その手には、何かを握り締めている。あれはおそらく、敵ボスのホークだ。


俺が倒したと思い込んでいた。ケイティ、すまん。こんな奥の手を使うまで、追い詰められたんだ……


俺達は、おそらくここの創造神的な何かに異世界転移させられた。そして、改造を施された。


俺はあまり記憶にないが、ケイティと小田原さんはあるらしい。その時、彼らは願った。改造の内容を。


ケイティはエロスキル、小田原さんは素手ゴロスキルを願ったのだが……この二人は実はラノベ好き。いや、聖女の言葉を信じるならば、ラノベ好きだからこそ、この異世界転移に選ばれたと言ってもいいだろう。


そういうおっさんが、単にエロいことが出来るスキルのみを選ぶはずがない。おそらく、


だから、巨人あれはケイティで、おそらくは、とんでもない能力があるのだろう。そして多分、ケイティ本体はあの巨人のうなじの辺りに隠れており、どれだけ体を切られても無事という……


いや、ケイティのことだ。うなじの急所は造っていない可能性もある。


その巨人の腕に握られたホークに、地上から白い光線が照射される。


あれは……あれはおそらく、かつて、サイフォンから聞いた最強水魔術だ。


俺のバブル・パルスからのジェットとはコンセプトが異なる最強魔術。多分、『絶対零度砲』だ。最低でも500人規模の水魔術士がいないと発動しないと言われるもの凄く燃費が悪い魔術だが、魔道具の備蓄があればその燃費問題はクリアされる。広範囲の敵を一瞬で凍らせ、粉々に打ち砕くかなりえげつない魔術だ。


個人の敵にそこまでする必要があるのかとも思ったが、ホークとやらは各種耐性にドレイン、それに回復系のスキルを有していた。俺の握り潰しに耐えたというのなら、仕方が無いのかもしれない。


俺が、ティラマトうしろのこいつと遊んでいた際に、きっと一悶着あったのだろう。あの時、完全に握り潰したと思ったのに。まあ、200歳エルフは伊達では無かったのだろう。


「美しい魔術だ」と、後ろのティラマトが言った。こいつの感覚でいうと、そうなるらしい。


「課題は、それでホークとやらを倒せるか否かだ」と、応じる。


「絶対零度砲が本当に絶対零度なのは、手元の芯だけだ。それに、水分が多い人体は意外と冷めにくい。多少、巨人の手が邪魔しているように見える。あの男の耐性スキルなら、危ういぞ?」と、ティラマトが言った。助言してくれるらしい。


「お前は、俺の足場インビジブルハンドが見えるのか?」


「どうとでもなる」


「来い」


俺は、空中一直線にインビジブルハンドを展開し、稲葉の白ウサギのごとく、空を駆けて行った。

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