第144話 吸血鬼

「死ね! 今度こそ」


復活ロリババアを、大きめのインビジブルハンドで、再び思いっきり握り潰す。有無を言わさず。


グシャっとした感覚がある。あっけない……いや、あっけなさ過ぎる。俺がチートすぎるというだけなら良いんだけれど。


インビジブルハンドの下では、まるでワインを染みこませたフキンを絞ったかの如く、赤いモノがばしゃばしゃと流れ出ている。


人というのは、一皮剥けばほぼ赤いなと思った。


だが、その大量の血液が何か不自然だ。うにうにと動いているような気がする。


そして、地面に溜っていた大量の血が、一気に俺の顔に向けて飛んで来る。


真横に避け、インビジブルハンドで握り絞めていた絞りカスを反対側に投げる。


そうすると、地面の赤い血液が、その絞りかすにに向けてサッと移動し、乾いたスポンジが水を含むように、絞りカスの中に入っていく。


はっきり言って気持ち悪い。おそらく、何らかのチートで、アレでも生きているのだろう、若しくは、そういう生き物だとか。


だが、待ってやらん。


もう一度ヤツの体をインビジブルハンドで握り締める。このインビジブルハンドと言うヤツは、確かにこの世の物を触れるが、質量は無いため、あまり殴ったり叩いたりが得意ではない。握り絞めるのが一番効率的な攻撃手段だったりする。


ヤツの両腕ごと、胴体を握り絞める。


「ごお、ごげらぱ、あー!」


拘束から逃れている頭部が何かしゃべったが、ちゃんと発音できていない。


「ちゃんとしゃべれや気色悪い!」


ロリババアの頭部を、思いっきり右フックする。


顎が半分くらい爆ぜて、さらに首がもげて地面に転がる。胴体がぎたぎただったから、首がいってしまった。


転がった汚い首を、別の小さいインビジブルハンドで掴み、水の壁に向けて突っ込ませる。これで、頭部は多分、無力化できただろう。


さて、こいつはこの様な状態になるとどうなるのだろう。ひたすら首を探して彷徨うのだろうか。まあいいや。


急いで千里眼を発動し、上空から戦況を確認する。本丸の荷馬車は健在で、大盾を構えたベルやそのサイドにネムやマルコがいる。無事どころか、戦闘もしていない。今の所大丈夫だろう。


ケイティの方は、ナインと一緒にズタボロになったホークとやらに電撃を加えている。こちらも多分大丈夫かな。


心配される水魔術士の怪我だが、小田原さんとダルシィムが2名の手当を行っており、その周りで大盾を構えた水魔術士達が陣を構えている。その直ぐ近くで、サイフォンが別の水魔術士数人に何か指示を出している。怪我人は、二人とも意識があるようだ。心配ないだろう。


モンスター娘達の方は、もともと敵の数が少なかったというのもあるが、今は一方的に残敵の処理を行っている感じだ。


ふむ。ひとまず大丈夫か。


俺は、目の前の首なし胴体に向き直る。こいつは、首が無くなったからといって、安心出来ない気がする。


胴体の方も、もう少し分解して、別々の水で水牢の刑にしよう。


俺は、ここで大量の水を生成すべく、水魔術を練る。人一人分の水の生成なら、大した時間は掛からない。


ん? 《目の前の女性と目が合う》。


首が無かったはずのロリババアには、首が生えていた。


いや、この首は、おそらく血だ。血で顔の形を造っている。先ほどまで薄紫色だった髪が、深紅になっている。


そしてその顔は、「」と言って、心底嫌そうな顔をした。


その顔には見覚えがあった。確か、エリオンの時と同じ顔だ。


『吸血鬼』


俺は、そのパワーワードを思い出した。



◇◇◇


「これ、どうしよう」と、デンキウナギ娘のナインが呟く。


「千尋藻さん、レミィさんの方に行ってしまいましたからね。さて、このまま死んでくれたらいいのですが、彼のスキルラインナップ的に、灰にして水で薄め、川に流すくらいしたいところです」と、ケイティが応じる。


今、彼ら2人の目の前には、直立不動の男性がいた。腰から肩くらいにかけて、不自然に細く、下半身が真っ赤に染まっていた。


先ほど、とあるおっさんに握り潰された敵のボスだ。


「じゃあ、焼こう。一緒に行くよ!」「了解です。ナイン」


「「サンダー!」」


師弟コンビの二重サンダーが、立ったままのホークに激突する。


ドンドンバリバリとうるさい音を立てながら。


当たった箇所は水分が蒸発しているが、相手はピクリとも動かない。


「ねえ、灰にするなら炎の方が良くない?」と、ナインが言った。


「そうですね。炎ならダルシィムくんか、先日スキルを宿したマルコさんでしょうか」と、ケイティが応じる。


「なら、私、彼を呼びに行くから、そのままキャラバンの方に行っていい?」と、ナインが言った。


「ええ、向こうに行ってあげてください。ここは、私が……」


そう言ったケイティの目の前にあるはずのホークの体が、忽然と消えていた。


「横!」と、ナインが叫ぶ。


間一髪でケイティが杖を掲げ、弾丸のように近づく何かに向けて放電する。


だが、弾丸のような何かは、電撃を意に介さず、短剣らしきモノをケイティに振るう。


それを杖で遊撃するが、相手は軽くステップを踏んでケイティの腕を切り付ける。


そのまま流れるようにケイティの足の膝関節を外側から蹴りつけ、その勢いでナインの方に向かう。


「何!?」


ナインは剣を構えて遊撃しようとするも、突撃してくる何かは、2メートルほどの距離で止り、手に持っている何かをナインの顔面の前に向けた。


「銃だ! ナイン伏せろ!」


ケイティが叫ぶ。彼の膝は、変な方向を向いている。先ほど蹴られた際に、関節から折れているようだ。


どごん!


ナインの前2メートルの位置で、何かが爆発を起す。その爆発物を持っていたヤツの手の中で。


「うおおお! 痛い。暴発? 何てこった」と、その人物が言った。


先ほどまで体が握り潰された状態で、ただ立つだけだった人物だ。握り潰された時に、銃も何らかの損傷を受けたのかもしれなかった。


彼はまだ血まみれではあったが、その血がじくじくと動き、彼の体にまとわり付いている。


「銃がある。では、先ほどの攻撃は、爆弾かもしれない」と、ケイティが言った。関節部分で不自然な方向を向いていた彼の足は、何時の間にか真っ直ぐになっている。


「銃を知っていると言うことは、異世界人かな? やれやれ、貧乏くじだ。正直舐めてた。こんなことなら、この仕事受けなきゃ良かったよ」と、ホークが言った。右手は先ほどの銃の暴発でズタズタになっている。


「ナイン! ナイン!? 耳が……」


「大丈夫。先にあいつを」


ナインは、聞こえづらくなった耳を少し気にしつつ、剣を構え直す。


「舐められてるな。お前達なんて、片手で十分なんだよね」


ホークはそう言うと、右手の銃の残骸をぽいと投げ捨て、一気にケイティに近づく。

そして、左手で持った短剣でケイティに切り付ける。


ケイティも雷で弾幕を張るも、ホークは意に介さず、肉薄して体をバシバシと切り付ける。


「くっ、マジカルTiNPOも効きませんか」と、ケイティが言った。どうやら、しれっと使っていたようだ。


ホークは、首の辺りを気にしながら、「一番怖いのは状態異常。だから耐性付けまくってんだけど、さっきの毒は効いたな。電撃で目が覚めたけど」と言った。


ナインは、「ケイティ!」と叫び、彼の元に駆け寄る。


ホークは、そんな彼女を見下ろし、「うう~ん。デンキウナギ娘はいいや。あの電撃が面倒臭い。攫うのは他の子にしよう」と言った。


「貴様!」


ナインはぶち切れ、剣を構えてホークに迫る。


「魔王軍でも連れて来な」


ホークは軽口を叩き、見事なバックステップで距離を取る。


ナインは、前に出て、ケイティとの間に自分の体を入れ込もうとする。


一瞬だった。


ホークが放った風魔術がケイティを切り刻む。


そのまま、ナインを迂回して突撃してきたホークが、ケイティの右手首を切り落とし、胸を3突き、頭を2突きし、蹴りで膝を折る。


「ケイティ……」


そのままナインの方に跳んで、彼女の顔面を横一線で切り付け、こちらも膝を蹴って足を折る。


「があ、ああーーー」


顔を切られたナインが剣を落とし、顔の傷を手で押える。折られた足でうまく立てず、そのまま地面にうつ伏せでうずくまる。


ホークは、何も持っていない右手で綺麗な金髪を掻き上げ、「な? 片手で十分だっただろ?」と言った。


そのまま地面でのたうつナインの元にスタスタと近づき、「おや。お前、お尻は俺の好みだな」と言った。


ホークの体の傷はほぼ癒えている。銃が暴発した右手はまだ真っ赤で、じくじくと血が蠢いているが、完治するのも時間も問題であった。


「ちょっと、触らせろ」


そう言って、ジークはナインの後ろに立ち、ズボンに手を掛ける。


自分が何をされるか理解したナインは、血まみれの顔と曲がった足のまま、体をくねらせて全力で抵抗する。


ホークは、「あはは。いいね。ウナギみたいだ」と言って、ズボンを引き剥がす。


黒紫色の、綺麗な殿部が露わになる。


ホークは、「どうしよっかな。犯しちゃおっかな。でもなぁ。仕事もまだだし、レミィに怒られるかな」と言いつつ、ナインの右肩を剣の束でたたき潰す。ナインが声にならない叫び声をあげる。


「こいつら弱いからいっか。記念に少しだけ。終わったら、直ぐに殺してあげるから」


ホークはそう言って、自分のズボンから……


そして、血まみれの顔を押えるナインの後ろに乗りかかる。


が、あと一歩のところで、ホークの体が止る。


ホークの後ろから、ケイティが両腕を回していた。先ほど体と頭部を剣で突き刺されていたケイティが。


ホークは、いきり立つブツでナインの尻肉をペシペシと叩きながら、「ほう。やるなぁ。お前の不死身とやらも、なかなかの回復力だ」と言った。


ケイティは、「ナイン、逃げろ。私は大丈夫ですから」と言った。


「がああ、ケイティ、どこ? 駄目だよ」


「ごめん。ナイン」


「ケイティ!」


「本当はね……」


「よっと。もう少し」


「私は、夢の一つに……」


「やっぱウザい。お前は死ね」


ホークは、やっぱり集中したいと思い、自分にしがみつくおっさんに向けて、風魔術を使用した。

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