第134話 書き置きと、尋問二人目


。お仕事でしょうか」と、俺が言った。


俺は今、千里眼でウルカーンのナイル伯爵邸まで飛んでいた。そして、伯爵の執務室に入るが、誰もいなかった。というか、屋敷中見て回るが、伯爵本人は居ないようだった。


「この時間帯なら出かけているのかもね。仕方がないか。このメモをノートに書いておいて頂戴」と、ファンデルメーヤさんが言った。


そこには、現地語でさらりと短文が書かれていた。


「どういう意味です?」


「お手紙よ。内容は、『ライン元気? こちらは元気。孫は痛がっています。なぜならば、私が殴ったから』ね」と、ファンデルメーヤさん。


ふむ。『ライン』とは、ラインハルト・ナイル伯爵のことだ。彼をラインと呼ぶのはファンデルメーヤさんだけだ。痛がるとか殴るというのは、ハルキウが何か粗相そそうをして、ファンデルメーヤさんが怒った、すなわち、何らかのハルキウ発のトラブルが発生したということを伝えたいのだろう。まあ、書き置きは誰に見られるか分からないから、これでいい気がする。変な文章になっているのは、単に俺が書き写しやすいように単純な文法のみを使ったものにしたからだと思われる。


俺は、その文字を見よう見まねでナイル伯爵の執務室のノートに書き写していく。インビジブルハンドを使って。


さて、今は尋問の手を休め、少しテントの外に出て休憩している。というか、尋問用のテントの中は、ケイティとジークが使っている。イタセンパラから情報を抜き出すために。ジークはセック○で繋がっている状態の者の考えていることが分かってしまう。だが、ジークは女性だから、当然女性とは出来ないが、それには裏技があって、自分のハートアンカー型の尻尾をオスのホールにぶち込めば、そのオスが致している人物の考えも読めるのだ。


なので、今、あのテントの中ではケイティ、ジーク、それからイタセンパラが一繋ぎワンピースになっているはずだ。


俺は、遠く離れたナイン伯爵の執務室のノートにメモを残しながら、何となくテントから聞こえてくるくぐもった声を聞き続けた。



・・・・


「さて、レポート第一陣か」と、小田原さん。


「できたてほやほやだな」


俺は、テントの中から真っ赤な顔をして出てきたマルコから、メモを受け取った。そういえば、マルコに取りに行かせたのはセクハラだっただろうか。いや、まあ、俺の付き人をするということは、そんな場面もあるだろうし、職種柄だと思って慣れて貰うしかない。


今はその辺は置いておいて……


「どれどれ。イタセンパラは、やはり最初から計画の事は知っていたと。そして……こ、これは……」


「何? 何が書いてあるの?」と、ファンデルメーヤさんが言った。現時点のメモは、日本語で書かれている。ちょっとした暗号のようなものだ。


彼女が心の中で思っていたこと……


曰く、ハルキウの『努力』の後始末が嫌で嫌で嫌で嫌で仕方がなかった。

曰く、自分の方が強いのに、彼に従うのは苦痛だった。

曰く、そもそも、甘ちゃんのガキが嫌いだった。

曰く、ハルキウが自分をお手つきにしそうで、気が狂いそうになっていた。

曰く、なので、棒に皮が被っているのを知っていたが、一度もムいて掃除してやらなかった。皮が被っているのは凄いことだと嘘をついて掃除するのを逃れていた。そうすることで、いざお手つき本番という時に、痛くて出来ないだろうという読みがあった。

曰く、先日キスされた。ぶっ殺してやろうかと思った。

曰く、ダルシィムの事が好きだった。今回の襲撃の時も、ダルシィムの傍らにいた。彼を守るために。

曰く、でも、今日からケイティ様の事が好きになった。


「ハルキウ坊や、思いっきり振られとる……」


というか、マジカルTinPOすげぇええ。そういえば、今回の尋問が始まる前、ケイティが『私に死角はなくなりました』と言った。おそらく、グインとアーツから伝授されたのだろう。愛し方を。元々、彼のマジカルなTinPOは男女関係無く効くものだ。だが、単純にやり方が分からなかったのだろう。やつのマジカルがどんどんチートになっていく。これで、ジークが直接しなくても、男性からの情報が抜けるだろう。


「ええつと、イタセンパラは、最初から計画を知っていたということよね」と、ファンデルメーヤさん。


「そうみたいですね。ついでに、彼女、ハルキウくんのウン○のお世話が苦痛だったようです。というか、別に好きな男性がいるようですね」


何となく、かわの話は省いておいた。武士の情けだ。今度、温泉か何かの共同風呂に入ったときにでも教えてやろう。この世界にはネットやマンガや小説などはないから、そういうことは、先輩や筆下ろしの女性に教えて貰うしかない。


本来、その役目、すなわち性教育の先生は、年上の侍女であるイタセンパラが期待されていたのかも知れないが……


「そっか。私が彼女を侍女にしたのは、彼女が10歳の時。まだ子供過ぎたのね。私の教育方針が間違っていたのかしら」と、ファンデルメーヤさんが言った。


「気休めは言いませんがね、でも、ハルキウ坊やは努力家で真っ直ぐなヤツだと思いますよ?」と、言っておく。本心ではある。


ファンデルメーヤさんはため息をつきそうな表情をして、「気休めありがと。息子ラインにはメッセージを入れてくれたのよね。そっちはしばらく待っておくしかないわね。お昼を取ったら、続きを始めましょう」と言った。



・・・・


「な、何ですの、あなた達。え? ここはどこですの? どういうことです?」


次は襲撃の号令を掛けた少女を覚醒させてみた。一人分の水柱の中に、ウェーブのかかった綺麗な金髪を持つ少女いた。なお、身ぐるみを剥いでいるとはいえ、下着は残している。とっても貧相な体付きが露わになっている。


彼女の記憶は、変な魔術を使った直後で途切れている事だろう。


彼女のスキルは、火魔術レベル4、生活魔術レベル2、プロテクションレベル3。ここまではいいとして、鎖操作,拘束レベル2,縄レベル5,鞭レベル2を持っている。さすが縄師ローパーといったところか。


「カルメン・ローパー、私はご存じ?」と、ファンデルメーヤさんが言った。


少女カルメンはみるみる顔が青くなっている。やはり、持つべきものは権力者だ。ここにファンデルメーヤさんがいなかったら、少々面倒くさいことになっていたような気がする。これで余計な話をしなくて済む。


「……まあいいわ。あなたは、配下に襲撃を命じ、私達に一方的に攻撃魔術を放った。その事実は変わらない」


「そ、そんな、私は決闘を申し込みましたの」


「彼は決闘を承知していませんでした。なので、これは決闘ではありません。私が証人です。あなたはただの襲撃者として処理されるでしょう」


元外国の王族を娶っている伯爵家を襲撃なんて、若気の至りでは済まないような不祥事だよな。幸いこちらに怪我人はいないが。将来ある成績優秀な15歳なんだろうが、このことが明るみになったらどうなるのだろう。


ファンデルメーヤさんは厳しい顔を崩さず、「まあ、あなたが襲撃した組織の責任者は私ではありません。申し開きは彼らになさい」と言った。まあ、彼女はお忍び中だからな。


カルメンの目線が俺と小田原さんに向けられる。急に話を振られた形になったが、確かに、当事者は俺達だ。


俺らの格好はどう見ても貴族ではないから、若い貴族令嬢にとっては、俺達に申し開きをするのは屈辱だろう。


「そ、その、父上に連絡を……」


「ローパー伯爵に連絡を取ってどうするつもり? ご存じ? デシウス・ローパーは法やルールに対して厳格な方よ。それが例え王族であっても、もちろん家族であってもね。あの人はそういう人。だから宰相なの。今回の事で、あなたを助けることはない」


カルメンは絶句し、俯いてしまった。


さて、どうしよう。悪いけど、俺はこの少女の将来なんてあまり興味がない。今、俺が一番知りたいことは……


「今回のハルキウ奪還作戦がどうして武力行使になったのか、そこに別の意図が無かったのかという部分を確実なところで押えたい」


俺がそう言うと、ファンデルメーヤさんが「そのとおりね。ハルキウの馬鹿は、私達とスイネルに行くことをその日のうちに学友達にばらした。子供達は単にお友達を助けてやりたいという思いだったのでしょうが、そこに決闘という意思が入り込んで、しかも過激なものになった。これが悪意からくるものなのか、単なる若気の至りだったのか……ねえ、ケイティさん」と言った。目線はケイティに向いている。まさか……この子を?


「お断りします」と、ケイティ。


「え?」


「流石に彼女は若すぎますし、大した情報は出てこないと愚考します」と、ケイティ。以外と常識人だった。


「そ、そうなのね」


「ですが、従者は、男女問わず、全員情報を抜いておきましょう。ずっと傍らに居たはずですから」


少しかわいそうな気もするが、俺達の今の仕事は要人警護だ。若者の指導ではない。それを間違えてはいけない。用心するに越したことはない。


俺は、情報収集はケイティに任せることにした。


「分かった。情報収集はケイティに任せる。この子はこれ以上尋問しても大した情報は得られないだろう。次は、誰を尋問するか」


俺の呟きに対し、ファンデルメーヤさんが「私の提案だけど、次はノートゥンからの留学生ね。彼は要注意よ」と言った。


意外にも、彼女の表情は、少し緊張しているように見えた。

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