第133話 一人目の尋問

方針が決まると仕事は早い。


ネムやヒリュウなどのスカウトで辺りを警戒しながら、小田原さんとケイティらが倒れている襲撃者達の武装解除を進めていく。そして、ララヘイム組が造った水牢に下手人達を次々にぶち込む。一応死なれては困るため、顔は水から出しておく。

さらに、ジェイクとヘアードらで馬車の中身をくまなくチェックする。さすが貴族の馬車で、色んな魔道具が装備されていたり、武装も施されているようだ。これらは戦利品だから、うちらのものだ。全部剥がしてかっぱらう。


俺はというと、千里眼で周辺をくまなくチェック。どこにも伏兵や援軍はいない。というか、ここはとても見晴らしがいい。例のダチョウが走っているのが見える。


さて、どうするかと考えていると、前方からジークとシスイがやってきて、「千尋藻、大変だったな。今日はここで野営しようぜ。まだ昼前だが、うちらは周りでダチョウハントでもして遊んでおくよ」と、ジークが言った。シスイは、大きな尻尾をふりふりさせながら、「それにしても、あの一瞬でよくこれだけの数を無力化できたわね」と言った。


「戦闘時間、最後の一人以外は、すべて合わせて20秒くらいだったからな」


ジークはしかめっ面をして、「まったくこのチート男が。それで? こいつらなんなんだ? さっきナハトが尋問に駆り出されていったけど」と言った。


「うちのハルキウ坊やがいるだろ? あのお漏らし少年。どうも彼の関係者みたいだな。こいつら」と返す。


ジークは倒れている人物らを眺めながら、「ふうん。どう見てもお坊ちゃんやお嬢ちゃんだな」と言った。


「身なりや状況的に、ハルキウ坊やの同級生とその従者って感じだな。どうするか。変に犯罪者として衛兵に突き出しても逆にこちらが何かされそうな気がするな」


「確かに、いくら狼藉を働いたからといって、貴族を衛兵に突き出すのはナンセンスだ。まずはナイル伯爵に相談してみることだな」と、ジーク。


「トラブってすまんな。今日はゆっくりダチョウ狩り楽しんでくれ。今度、この仕事の報酬で何か奢るよ」


「ま、俺の能力が必要だってんなら呼んでくれ。ガキとヤッても面白くねぇが、ケイティとの併せ技で女の情報も抜けるからよ」


ジークは、とある条件下で相手の考えを読むことが出来る特殊能力がある。魔術回路スキルではなく、デーモン娘の固有能力だ。彼女のハートアンカー型の尻尾を活用すれば、男性でも考えを読むことは可能なのだ。


だが、あまり関係のないジークを巻き込むのも悪い気がする。そういえば、今のケイティは死角がない状態、すなわち、男でも女でも行けるんだった。一部接触する係は、ケイティが担ってくれないだろうか。


とりあえず、「了解。その時はまたな」と返す。


ジークとシスイが自分達の荷馬車の方に戻って行く。その後、全員で後始末と野営の準備に取り掛かる。


さて、俺達もさっさと方針決めて野営の準備するか。ダチョウ狩りもしてみたいしな。モンスター娘らは、ボーラという狩猟道具で狩るようだ。



・・・・


「これが今回決闘を申し入れてきた人たちのリストです」と、ケイティが言った。


現地語と日本語訳の併記だ。マルコとケイティの合作のようだ。


その紙には、人名とスキルがずらりと並んでいる。


今回の襲撃者は馬車が6台、御者が6名、その他が24名、24名のうち、学生が20名、大人の付き人が4名と……


「了解。伯爵に知らせて相談するか。ところで、ハルキウ坊やは?」


「ファンデルメーヤさんにぶん殴られた後、襲撃者らと一緒に水牢の刑に処されたよ」と、ネムが言った。ファンデルメーヤさん、意外とスパルタだった。いや、俺達に捕まって何かされるより、みずから罰を与えた方が色々と制御できる。それが彼女なりの孫に対しての愛情なのかもしれない。


なお、ネムは、水牢の刑に処された人達の見張り役になったらしい。少し遠くに、水柱から顔と手首から先だけ出した31名がずらりと並ぶ。まだ全員意識を戻していない。


かつて、エリオンくんは、自分で自分の脚を刃物で刺して正気を保った。何らかの刺激を与えたら、目を覚ますだろう。アンモニアがあればベストだが、高濃度アルコールあたりを嗅がせてみようかな。


「ひとまず、ハルキウ坊やの言い訳の先に、襲撃者から事情を聞こう。ニルヴァーナ使っていない人がいただろ? 確か女の人だ。彼女から始めるか」


俺がノリで、こんなこともあろうかと、アイアンクローで倒した人がいたと思う。



・・・・


「やあ、お目覚めかな?」


ひとまずテントを建てて、それの周囲に目隠しのタープを張り、一人分株分けして水牢状態で運び込む。最初は変な色の髪の毛をした女性からだ。

歳の頃は20歳前後と言ったところかな。


気付け薬は、サイフォンが水魔術ですぐに作ってくれた。匂い的にかなり高い濃度のアンモニアだと思う。


「ぐっ……負けたのか。我らは」


意外とお堅い口調の女性だった。メモによると、名前はイタセンパラ。この美人さんは、なんとハルキウ坊やの侍女らしい。坊やが5歳の時から15歳の今までだ。スキルは剣術レベル4、バリィ、盾レベル2、怪力、騎乗、それからプロテクションレベル3に俊足か。侍女というか、ボディガードみたいなラインナップだと思った。萌黄色の髪の持ち主だ。


あの少年は、こんな武闘派美女にケツを拭かせていたのかよ……しかも10年間も。


まずはファンデルメーヤさんが、「イタセンパラ。どういうことか説明してちょうだい。これは重大なことよ」と言った。この二人は当然顔見知りだ。何でも、可愛い孫のために、信頼がおける知り合いの貴族から、特に優秀な女児をスカウトしたのはファンデルメーヤさん本人らしい。


ここにはファンデルメーヤさんの他に、ケイティと小田原さん、筆記役にマルコ、モンスター娘からはシスイとナハトが参加している。


「は、はい。ハルキウ様を奪還する計画があるということで、カルメン様に学園に呼ばれ、一緒に参加することになりました」


「バカなことを。何が奪還ですか。今回の移動はナイル伯爵直々の命令なのですよ? カルメン・ローパーはまだ15歳。勇ましいことを考えてしまうこともあるでしょう。それをいさめるのがあなた達侍女の役目ではなくって?」


「しかし……」


意外にも、このイタセンパラちゃんはファンデルメーヤさんに口答えをする。小さい頃からハルキウ坊やの侍女になって、優先順位を忘れているんじゃなかろうか。


ファンデルメーヤさんは無表情で、「一点だけ教えて、この計画は本当にローパー伯爵のご令嬢が立案されたの?」と言った。


「そ、それは……」


イタセンパラちゃんは、そのまま黙ってしまう。時間の無駄だな。俺はちらりとナハトの方を向く。


ナハトはいつもの調子で、「最初の発言は嘘。その人は、カルメン嬢に学園に呼ばれたから参加することになったのではない。最初から関わっていたんじゃない? ハルキウ坊やと一緒に」と言った。


イタセンパラは、ぴくんと反応する。


ファンデルメーヤさんは無表情で、「主をかばい立てするの? ハルキウは、今日の襲撃のことは綺麗さっぱり忘れていたわ」と言った。


ファンデルメーヤさんは、じっとイタセンパラの目を見つめる。というか、あの坊や、知っていたけど忘れていたのかよ。馬鹿なんじゃなかろうか。


「私は、あなたのことを買っていたのよ。将来、ハルキウと結ばれてもいいとさえ思っていた。あの子も、あなたのこと気に入っていたしね」と、ファンデルメーヤさん。


イタセンパラは少しだけ顔を上げて、「そ、それは、光栄でございます」と言った。


「それは嘘。あなたはハルキウ坊やと結ばれるのなんて、ごめんだと考えている」と、ナハト。おや、ハルキウ振られたよ。というか、無慈悲だなナハト。


イタセンパラは、青い顔をして頭を下げてしまう。こうなると、また面倒なことに。


「デーモン娘のジークさんに、依頼しましょう」と、ファンデルメーヤさんが言った。


イタセンパラはぴくんと反応する。それがどういう意味か、知っているようだ。


「一応、言っておきますが、それをすると生娘では無くなります」と、ケイティが突っ込む。


ファンデルメーヤさんは厳しい顔をして、「これは罪と罰。貴族にとって、その罰は屈辱で取り返しが付かないことになるでしょう。ですが、それだけのことをしたのです。しかも、未だに自分の立場が分かっていない愚かな嘘つき者です。大方、自分達の方にローパー伯爵の令嬢がいて、襲撃された側にハルキウと私がいることで、大げさにならずに助けてもらえると思っているのでしょう。あなた達のことを、甘く見ています」と言った。


ピンときたが、ファンデルメーヤさんは、おそらくイタセンパラとハルキウを分れさせるつもりなのだろう。それはいいんだけど、だけど、今後、ハルキウの『努力』の面倒を一体誰が見るというのか。マルコに一回10万払えばなんとかなるんだけど、ホールの処理の仕方が分からないとか言っていた。


まあ、今はそんなことを考える時間ではないな……俺は、ケイティの方を向く。彼はこくんと頷き、テントを出て行った。ジークを連れてくるのだろう。結局、今回もモンスター娘達を頼ってしまった。


俺は、ファンデルメーヤさんや小田原さんの方に向き直り、今後の事について相談することにした。

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