第128話 出発前夜、愛し方のそれぞれ

「旦那。今日からしばしの別れだ。今日は俺らも千尋藻サンらと一緒に野営していいか? せっかくだし飲もうぜ」


赤髪のグインが、人懐っこい笑みを浮かべて言った。彼は、冒険者パーティ『暁の絆』のリーダーだ。


今はウルカーン城壁の前、街に行っていた小田原さんや水魔術士組とはすでに合流している。俺達コンボイは、街には入らず、これから今日の野営地を適当に探す予定にしている。


一応、輜重隊の護衛は、貴族街のエリエール子爵邸までなのだが、帰りは別に貴重品を積んでいる分けではないし、『雪の音色』の二人に任せ、『暁の絆』の方は、俺達と一緒に来たいらしい。


彼らとは、一度昼食は一緒したが、お酒を飲んだことはない。彼らは、これからもこの輜重隊任務を続けるわけだし、親睦を深める意味でもいいかと思い、OKを出す。


すると、青髪のイケメン、アーツが、輜重隊の荷物に紛れ込ませていたとみられる酒樽やらバックパックなどを下ろす。アレにテントなどが入っているのだろう。


彼ら二人がいそいそと荷物を俺達の荷馬車に積み込んでいると、ケイティが俺の所にきて、「千尋藻さん、彼らはホモセクシャルの方だと思います」と言った。


なるほど。二人ともガタイがいいから、どっちがどっちなんだろう。少なくとも、うちの女性らにちょっかい出すような人物ではないことが分かり、少しほっとする。彼らは二人ともイケメンだから、男女の仲に発展するヤツが出たら面倒だと密かに思っていた。その代わり、男男間の関係の問題も出てくるが、野郎の方は自己責任で防衛して欲しい。もしも、彼らが俺達の仲間を無理やり襲うのだったら、それはただの暴行者として排除するだけの話だ。


「そっか。人に迷惑かけなけりゃいいや。彼らはモンスター娘に対する差別意識も持っていないまともな奴らだし、ホモだからNGというわけにはいかんだろう」


ケイティはにこりと笑い、「そうですね。分かりました」と言った。



・・・・・


街道を移動し、夕方の暗くなる前、偶然発見した空き地にひょっこりと駐車させる。今回、護送中の野営地は、最初に決めておかないようにしている。


俺達は水魔術士が多いから、近くに川が無くても野営ができる。ここからスイネルまでは基本的に平地で、適当に荷馬車で走っていても、野営ができそうな空き地が結構あるらしい。なお、この世界、柵などで囲まれていない土地は、基本的に誰の所有地でもないため、勝手に野営しても問題はない。


荷馬車を停めると、みんな一斉に野営の準備に取り掛かる。


ハルキウ少年も、ネムやマツリらと一緒にタープを広げるのを手伝っている。意外と手慣れている。学校で習うのだろうか。


聞いた話だが、ウルカーン王立魔道学園は、国内の優秀な魔術士を発掘しつつ、彼らを育成することを目的とする。特に、国が欲しているのは魔道兵だ。この世界の軍事力は、如何にして優秀な魔道兵を集められるかにかかっていると言ってよい。

なので各国は、国立の学校を建立し、地方から魔術の才能のあるものを集め、そして魔道兵として通用するような愛国心と魔道技術をはぐくませる。


ただ、そこはやっぱり貴族社会。いつの間にか備品や教育費にお金がかかるようになり、経済力がある貴族や豪商の子弟らが多く在籍するようになっており、貧乏人は通えない。もちろん、国内には様々な専門学校はある。ジェイクやアイサもその専門学校に通っていたらしい。


かつて誰かが嘆いていた。魔道学園の本当の理由は魔術士の発掘と登用にあるのに、今では貴族やお金持ちの為の機関になっていると。


そう考えると、貴族を解体させたエアスランという国は、ひょっとして兵士のレベルが高いのかもしれない。平民と元貴族分け隔て無く人材を登用できるのだから。


まあ、俺が少しだけいたクメール軍は、平民出身の隊と貴族出身の隊で壁が出来ていたけど。


俺が考え事をしていると、調理担当のミリンが来て、「今日もバーベキューにする? お昼に狩ったダチョウ、早く食べてしまった方がいいかも」と言った。


ダチョウは、防塁の行き道、林の先でくるくる回っていたやつをウマ娘が仕留めてくれた。あの鳥は、凄い速さで走るけど、ビックリさせると頭を地面の中に突っ込んで現実逃避するから、意外と簡単に捕まえることができるとか。今日は新鮮なダチョウ肉で一杯か。



・・・・・


今日は、おっさんグループでバーベキュウのテーブルを囲む。すなわち、俺、小田原さん、ケイティ、グインとアーツだ。


俺達のバーベキュウは、大きな焼き網を置いてみんなで立食するのではなく、テーブルの中央に小さな七輪みたいなやつを置いて、個別に食べる。なので、意識しないといつも同じメンバーになってしまう。


なお、ファンデルメーヤさんは、水魔術士組でわいわいやっているし、ハルキウくんは同年代や少しお姉さんな人ら、すなわちマルコやネム、ヒリュウやマツリらと食べている。楽しそうに談笑しており、打ち解けたようでよかったよかった。


野生のダチョウ肉は、アルコールを混ぜたタレに付け込ませてあって、臭みが消えている。多少淡泊だが、焼いて食べるとなかなかおいしい。足とか骨とかアラの部分は化け蜘蛛ジャームスのエサになるし、なかなか狩りがいのある得物だ。今後も見つけたら狩ろう。


それに、今は出発したばかりだから、野菜も新鮮だ。


「いやぁ、千尋藻さんらのおかげで、貴族の仕事が受注できた。これでしばらく食いっぱぐれはねぇ。街から日帰りだから、生活も楽だしよ」と、グイン。大柄な体に似合って、大きなジョッキでお酒をぐびりとあおる。


「しかし、ここのパーティメンバーはみんな美人揃いだ。モンスター娘たちも噂通りの美しさ。うらやましい」と、アーツ。


「美人なのは同意。いいだろ。ところで、あなたら4人パーティじゃなかったっけ?」


先日昼飯を食べた時は、確か普段は4人と言っていた。


「ああ、お昼をおごってもらった時はそうだったんだが、このたび正式にパーティが分裂したんだよ」と、グイン。少し寂しそうだ。


「私達の他に、火魔術士とスカウトがいたのですが、傭兵団に入ったんです」と、アーツ。


なお、この目の前の二人はどちらもオールマイティキャラらしい。騎乗護衛もできるし、迷宮も潜る。そして剣も魔術も使える感じだとか。結構優秀だ。


「傭兵団か。戦争特需ってやつかな」


「はい。冒険者だと、貴族のお抱えにならない限りは、せいぜい輜重隊の護衛補助くらいですから」


「この国の傭兵団はどういった連中なんだ?」と、小田原さんが口を開く。興味があるのだろう。


「大きいのは『薔薇の穴』というところで、本部はティラネディーアにあります。男しか入団できない所ですが、団結力があり、かなり強いです。小さいのは沢山あって、中には地下組織と繋がりが噂されているような危ないところもありますね。私の元仲間達が入ったのは、ウルカーンの中堅どころで、実はウルカーン王家御用達のエリート集団なんです。この国の第二王子に雇われて、今はすでに前線配備されているはずです」


噂の第二王子……その部隊って、釣られて9割消耗したところじゃないよな……


「そうですか。冒険者って、結構パーティメンバーを変更されるので?」と、ケイティが言った。


「そうだな。入れ替わりは結構あるな。酒場で知り合った連中と組むこともある。依頼内容で人材を微調整する感じだな。今回別れたやつらも、戦争から戻ってくれば、また組むこともあるだろう」と、グイン。


「ほうほう。話は変わりますが、冒険者にはランキングとかあるのでしょうか」と、再びケイティ。色々と知りたいみたいだ。


「冒険者の評価に公定法は無いが、ギルド毎にランクを設けているところはある。そうでないと新人が難しい仕事を受けてしまって失敗することがあるからな。ウルカーンのギルドだったら、一番上がSで次がA、それからB,C,D、Eと続く」


彼らは、先日の4人パーティ時代はBだったが、今はCランクに下げてもらっているらしい。ランクが高いと、色々あるんだろう。難しい仕事を頼まれたりとか。今は二人だから無理はしたくないといったところかな。


「ははあ。なるほど。お話は変わりますが、男性同士の愛し合い方について、少し教えて欲しいことがあります」と、ケイティが言った。


何言ってんだこいつと思ったが、グインは「お? いいぜ」と応じた。平然としている。


ふむ。この世界では、ホモは普通なのだろうか。向こうの世界でも、今は意識が変わり始めている。ホモは別に恥ずべき事ではないし、ここで男同士の愛し合い方を聞いても、別にどうということはないという気がする。例えるなら、お酒の席でどんなおっぱいの形が好みか語り合う程度だろうか、そう思っていた方が、精神衛生上いいかと思った。


それから、ダチョウ肉が無くなるまでケイティの質問攻めは続いた。男性同士の愛し合い方も色々と聞けた。食事にはとても気を使っているらしい……


興味があるなら試していいぜと言われたが、俺は丁重にお断りさせていただいた。ケイティは少し悩んでいた。死角を無くしたいらしい。


そうして、夜は更けていく……


さて、セイロンの寝床に行こうかと思って立ち上がったら、ララヘイム11人衆が一人、宿屋のミリンが俺の肩をポンと叩いた。ミリンは、ゆるふわピンク髪美人の抱き心地ばつぐん娘だ。そういえば、俺は今日、彼女らとやる約束をしていたんだった。久々の11人全員とか……普通の人なら、軽く女性恐怖症になるレベルの人数だ。こいつら、ほぼ全員肉食系だし。


まあ、いいか。今の俺には、インビジブルハンドがある。多分、大丈夫だ。


俺は、ミリンに腕を組まれ、巨大な水ベッドに連行されていった。

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