第123話 エクスタシー

ハルキウ少年は、、今日の出来事を整理していた。


今日、ハルキウ少年は、お酒を飲んだ。初めての経験だった。

学園では、当然のことながら禁酒だった。なので、ちゃんとお酒を飲んだのは、これが初めてであった。


今日は、ネムという自分と同年代の女性もお酒を飲んでいたし、誰も止める者がいなかったから、ついつい飲んでしまった。


そもそもハルキウは、自分の体付きは大人と変わらないから、大人と一緒のことをしてもいいはずだと考えていた。というかこの国は、法的には飲酒の年齢制限は無い。その辺りの取り決めは、学園や自治体、各ギルドなどで個別に行っており、国家権力がいちいち規定することでは無いとの感覚であった。


そんな様々な事象があって、ハルキウは今日、堂々とお酒を飲んだ。


結果は、なんだか不思議な気分になれた。ふわふわと体が舞うような感覚になり、視界が狭くなった。体が熱くなり、寒さが吹き飛んだ。そして、饒舌になった。気分が楽しくなったからだろう。


そのことは、一緒のテーブルに座った女性、ネムという子が自分の好みだったからかも知れないと、ハルキウは考えた。


別のヒリュウという子は、食事を取ったら直ぐに夜警に出かけたので殆どおしゃべりはしていない。もう一人、マルコという貧相な女性がいたが、彼女のことは好みではなかった。その他にも、ジェイクという優男とヘアードというちょっと熊みたいな人が一緒だったけど、眼中になかった。彼らはどうせ平民、移動中の約一週間だけの付き合いだ。挨拶は交したが、その後はずっとネムとお話をしていた。


思えば、短期留学から帰って来たのは今日だ。今回の旅は、これから通常の学園生活に戻ると思っていた矢先の出来事だ。


侍女を従え、同年代の学友達と切磋琢磨する生活が一瞬にして吹き飛んだ。


野営はまだいい。学園での移動中も野営だったのだ。だけど、厳格な祖母と一緒で、なおかつ、この商隊の殆どは、おっさんとおばさんだ。例外的に若い人は、今日一緒に飲んだ女性達三人だけだった。モンスター娘達もいたけれど、彼女らは自分には興味が無いようだった。自分は体も大きく顔も良く、成績も超優秀なのに、自分がモテないのはおかしいと、ハルキウ少年は考えたが、どうせこの旅も直ぐに終了すると思えば、どうでもいい気がした。


自分には、お手つきにする約束をした美人の侍女と、カルメン・ローパーという貴族でこれまた美人のガールフレンドがいるというのがその根底にあった。


ハルキウ少年は、まだ自分の置かれている立場に実感が無かった。彼の父、ナイル伯爵は、彼にララヘイム人が迫害されかねない法改正が成立間近だということを伝えていたが、少年にはその実感が沸かなかった。何故ならば、彼はウルカーン王立学園の主席の座を争う優等生で、ウルカーン国王の第五王子とは、親友であったからだ。さらに、ガールフレンドのカルメン・ローパーの父親は、この国の宰相なのである。従って、自分には、そのような法律は関係無いと考えていた。今日の朝まで、世間から隔離された留学中だったというのもある。


というか、自分の仲間達は、自分をここから連れ出すために、策を練ってくれた。


その作戦はこうだ。


まず、このキャラバンの行く手を数台の馬車で遮る。


次に、カルメンが決闘を申し込む。その内容は、『あなた達がハルキウ・ナイルを護送するにふさわしいかどうかを判断するため、今から自分達が模擬戦を仕掛ける』というものだ。


そして、『もし自分達が勝ったら、お前達は役不足だから、出直して来い』と伝える。


当然自分達が勝利するから、護衛に付いている冒険者達はお引き取り願って、一旦ウルカーンに戻る。これで時間稼ぎができるはずで、そのうち自分達の父親などに掛け合って、ハルキウの転校を無しにする。


と、いうものだ。


襲撃の陣頭指揮は、ガールフレンドのカルメン・ローパーが担う。彼女は宰相の娘であり、学園の成績も優秀だ。他の仲間達もとても優秀だし、ハルキウ少年にとっては、勝利は揺るぎないものだった。負けることは考えていない。万が一、何かがあっても、彼女カルメンの父親が動けば何の問題も無く片付くはずだとハルキウ少年は考えていた。今までも、めそうな時に貴族の名を出せば、直ぐに物事が解決したからだ。


襲撃場所だが、ウルカーンからスイネルに向かう途中を予定している。具体的な場所は、貴族出身の仲間達が各所に相談し、割り出すことにしている。貴族というものは、様々な情報が入ってくるものなのである。


ハルキウ・ナイルにとって、自分を護送する千尋藻おっさんの運命は、風前の灯火のように見えた。自分の護送に失敗すれば、彼の立場は修復不可能になってしまうだろうとも考えていた。


ハルキウ少年は、そもそも、自分がお世話になっているおっさんに対し、少しいきどおっていた。彼のことは、最初は下男だと思っていたのだ。服装はダサいし、腰に下げている武器は、人を小馬鹿にしたようなとても小さな短剣だ。


それが、実は20人規模の冒険者クランのボス格だということだ。あの清楚で綺麗なサイフォン・オリフィスも付き従っているし、自分の厳格な祖母とも楽しげに会話している。というか、ここは女性だらけだ。モテていいのは自分のはずなのに、何故おっさんがモテているのか、15歳の少年には理解不能だった。


まあ、あのおっさんの運命もあと少し……ハルキウ少年はそう思い、ベッドの中で、日課をこなすことにした。


日課とは、魔術の訓練だ。


魔術の根源である魔力は、人体に宿る。その量には個人差があり、それは訓練次第で増加させることが出来る。当然、その量は多い方が魔術師として優れている。魔力はいずれ自己回復するとはいえ、こと魔術戦ともなれば、魔力の内包量が多ければ多いほど有利である。戦闘中は魔力を回復している暇などないし、魔力量が多いと出力が高い魔術を連発で放てるからだ。


だから、彼は努力する。今日も魔術を訓練する。魔力を使い切るまで努力する。


何故ならば、使。一回に増加する量は軽微であるが、毎日続けると、塵も積もってかなりの量になるのだ。


魔力を使い切るための方法は様々だが、一番楽で確実なのは、ベッドに横になり、体中に魔力を纏わせる訓練だ。これは身体強化魔術の一種で、それを自分自身に掛け続けるのだ。何度も何度も……


ブブビャ!     シャーーー…………


彼は今日も、魔力を使い切ったようだ。実は、魔力枯渇状態というのは、結構危険なのである。

まずは、全身の筋肉が弛緩して気絶してしまう。それに伴って、うん○としっ○を漏らす。

なので、起きた状態でこれをすると、倒れた拍子に頭を打つなどの危険を伴う。だからハルキウ少年は、いつしかこの儀式を寝ている状態で行うようになった。彼には侍女がいたため、これまで困ったことはほとんど無かった。


今宵のハルキウ少年は、慣れていない旅路で緊張と疲れがあったのかもしれない。お酒が入ったせいもあっただろう。寝る前に、トイレに行くことを忘れていたのだ。だから今日は、量が多く、少しだけやわらかかった。


これは、彼のスキル『エクスタシー』の罪。彼が宿す特殊なスキルは、魔力枯渇時に快感を感じるためのものである。そのため、彼はすでに癖になっていた。お漏らしを。


「うわぁあ!」


同じ区画で寝ていたハルキウ以外の人物が、叫び声を上げる。



◇◇◇


寝床から飛び出し、叫び声がする方に行く。


走りながら千里眼で上空から見下ろすが、やはり敵襲ではない。


俺達の荷馬車の横くらいで、明かりの魔道具がともっている。あの辺りは、確か、ジェイクやハルキウ少年らの寝床だ。まさか、彼の身に何かが?


最悪の事態を考えながらも、現場に急ぐ。


他の寝床などから、ぞろぞろと他のメンバーも出てきている。


数秒後、現場に到達する。

そこには、呆然と立ち尽くすジェイクとヘアード、そして、俺と時を同じくして駆けつけてきた様々なメンバーがいた。


「ど、どうしたんだ?」と、俺がジェイクに言った。彼は、ハルキウと一緒の区画で眠っていたはずだ。


ジェイクはわなわなと震えている。


ジェイクは震えながら、「こ、この子、多分……」と言った。


ん? 変なおじさんでも出たのか?


そこには、ハルキウ少年が一人で寝ている姿しかなかった。


小田原さんが眠っているハルキウに近づき、「おい、起きろ」と言った後、「ん?」としかめっ面をした。何か異変に気付いたようだ。


「まさか、お漏らしか?」と、小田原さん。


小田原さんは、自分の鼻を摘まみながら、ハルキウの顔をぺしぺしと叩く。


お漏らし? そういえば、何か臭い。


「う、ううんん。あ、あああ……むにゃ」


気持ちよさそうに眠ってやがる。股間がテントを張っているように膨れ上がっている。まあ、それは仕方がないか……15歳だからな。


そうこうしているうちに、ララヘイム11人衆や、ファンデルメーヤさんらも集まって来た。


夜警班のネムも走ってきて、「どうしたの?」と言った。


「いや、この少年変なんだ」と返す。


「変?」


しばらく呆然と見つめていると、その変な少年は、寝っ転がったまま、自らズボンを脱ぎだした。


ベッドの上で下半身裸になり、そのままM字開脚を見せる。赤ん坊の頃の、自分の子供達を思い出す。よくオムツの交換をやったもんだ……


だがしかし、彼は15歳。その思春期真っ只中であるはずの彼は、寝そべりM字開脚状態のまま、「出たか……拭いてくれ」と言った。ブツをおっ立てた状態で……


ぶち切れそうになった。

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