第121話 二人の合流


俺とサイフォンがホームに戻ると、さっそく幹部を集めて報告を行う。


俺と小田原さんとケイティ、サイフォンにヒリュウ、モンスター娘からはジークとシスイ、それから『炎の宝剣』のリーダーも参加している。


「と、いうわけで、例の話は受けた。報酬は成功時と合せて現金三千万。それから魔道具を数点もらうのと、とある魔道具をしばらく使わせてもらう権利だ。お金はジーク達に分けてもいいけど。道中警備は合同だし」


ジークは軽く首を振り、「いや。俺達はクロサマのお陰で、すでに数億の入金がある。金には困っていない。それよりも、その金でちゃんと警備できる体勢を整えておくんだな」と言った。


「僕達は、基本的にモンスター娘達を守ります。今回の移動は、野営とかの効率を考えて共同作戦ではありますが、基本スタンスは別々の組織です」と、『炎の宝剣』のリーダーが言った。


「それでいいと思うんだが、俺達は旅の素人だ。色々とアドバイス受けたりすると思う」と、俺が返す。


『炎の宝剣』のリーダーは優しい顔をして、「そのくらいならいいですよ。野営中はスカウトを交代で立てるわけですし、その時にでも、いくらでもお教えしますよ」と言った。


「そうか済まない。では、出発は二日後かな。今日は準備に当てて、明後日は練習ついでにエリエール子爵のところまで輜重隊の護衛任務に出かける。そして、作戦にフィードバックさせつつ、ぼちぼちと出発だな」と、俺。


「私が思うに、今日と明日の宿泊場所を変えたらいかがでしょうか。ここには結構長く居ますが、練習というなら、宿泊場所を変えてもいいと思います。警備的なものもありますし」と、ケイティが言った。


「ウルカーンから外に出たら、キャンプが出来る空き地も結構ある。うちらは別にかまわないぜ? ジャームスの試運転になるからな」と、ジークが言った。


ジャームスというのは、新しくやってきた化け蜘蛛のニックネームらしい。

足が短く、ずんぐりしたタイプの蜘蛛だ。大きさが軽自動車くらいあるけど。


「我々は雇い主に従います」と、『炎の宝剣』のリダ。


「宿泊場所をランダムに変えるのはいいかもしれない。じゃあ、これから早速最終準備だ」と、俺が言った。


「自分はロバの飛沫山号しぶきやまごうを連れて物資を補給しにいく。買い出しだな。新鮮な野菜類を買わなきゃな」と、小田原さん。


」と、ケイティが言った。そうなのだ。今回の旅では、あのジェイクが復帰する。ネオ・カーンからウルカーンまで、一緒に行動してきた彼だ。ただ、今回も彼の同行はスイネルまでの短期間だけど。彼は、ウルカーンでもソロで活動していたようだ。この度人手が必要ということで、ケイティが連絡をとって雇ってきた。


「分かったぜ。準備は任せておきな。今日街の近くでキャンプするんなら、明日の朝にも買い足せるしな」と、小田原さん。


「では、私はネム達を連れて、魔道具屋とスキル屋に行って来ます」と、ケイティ。実は、現金一千五百万ストーンは、すでに手元にある。俺が現金取引にこだわったからだ。しかし、ファンデルメーヤさんがいいと言ったからといって、よく俺なんかに多額の現金を預けたものだ。


ともかく、準備金の一千五百万のうち、一千万をケイティに預け、仲間達のスキルを買って来てもらう。


「じゃあ、今日は俺がお留守番かな。もうすぐファンデルメーヤさんが合流するし」


小田原さんが、「了解。じゃあ、自分は早速買い出しに行ってくる。ジェイクとヘアードを借りるぜ」と言って、席を立つ。


「じゃあ、自分も」と言って、ケイティも立ち上がる。


「私は水ギルドに顔を出して、その足でケイティさんと合流する。皆のスキルを調達しなきゃ」と言って、サイフォンが立ち上がる。


水魔術師11人衆は、今日も水ギルドでお仕事だ。明日、俺達は輜重隊任務だから、彼女らは明日まで水ギルドで働くことになるだろう。それから、水ギルドから旅客の依頼も受けている。旅客らの合流は明日になる。


「じゃあ、私は輜重隊任務の段取り付けてくる」と言って、ヒリュウが立ち上がる。今委託している冒険者達と打ち合わせしてくるのだろう。


ひとまず、お昼の15時くらいにここに集合することにし、ここは解散となった。


今日は、集合後、城門外まで移動し、そこで野営することになる。スイネルまでの旅の第一歩だ。



・・・・


解散後、暇なのでピーカブーさんと駄弁ったり、ナハト達とインビシブルハンド会話術の研究をしたりして時間を使う。


そうこうしているうちに、ケイティ達が帰ってくる。ケイティの手には十字の杖が握られている。あの時の大剣を加工したものだ。彼の後ろには、嬉しそうなネムとガイ、とても恐縮しているマルコ、幸せそうなステラ夫妻、マイペースなアイサが一緒にいる。それからサイフォン率いるララヘイム11人衆も。支度金でスキルを買い与えた面々だ。


小田原さん達も、大八車に物資を満載したロバの飛沫山号を連れて帰ってくる。お供のヘアードとジェイクも一緒だ。準備は順調のようだ。


そして……出発の準備がほぼほぼ整ったところで、あの二名がやってくる。いや、良く見ると、旅人風の格好をした人物が付き従っている。おそらく、お忍びの護衛だろう。だが、その護衛もここまでだ。彼らは、本気で平民に紛れ込む。


「待たせたわねぇ」と、質素な服と大きな帽子を身に纏ったファンデルメーヤさんが言った。帽子は綺麗な青い髪を隠すためだろう。


彼女の服装は質素とはいえ、オーラがある。歳の割にスレンダーな体で背筋も良いから、女性的というよりもカッコ良く見える。

彼女らの荷物は、風呂敷に包んだ長持ちが二つとそれぞれ背負っているバックパックのみ。それから武器は、ハルキウ少年が直剣、ファンデルメーヤさんが指揮棒みたいなものを腰に差している。自慢の攻撃魔術用の魔道具だろう。


「いえ。今日はこれから、少し広いところに移動します。御飯は夜になるかもですね」と言った。


これから、大移動の始まりだ。



・・・・


荷馬車三台と大八車一台でウルカーンの城門を潜る。


俺は、練習がてら歩きのガイが手綱を引くスレイプニールに騎乗して移動した。馬上は視界が高く爽快だ。千里眼では味わえない楽しさがある。あれは音が客観的に聞こえるから、どこか臨場感が無いのだ。

街中では、監視をしてもあまり意味がない。精々、交通事故が起きないように、渡ろうとした通行人に声かけをする程度だ。なので、俺はというと、物は試しとばかりに乗馬体験をしている。


護衛対象の二人であるハルキウ少年とファンデルメーヤさんは、街中では目立たないように馬車の中にいる。俺達のおニューであるスレイプニール二頭引きの大型馬車だ。片方の側面に木目が綺麗な板を張り付けており、矢避けになっている。


この荷馬車は、詰めれば十二人くらいは入れる大きさであるが、俺達は人数が多く、何かと荷物が多いために、移動中はせいぜい4人くらいしか入れない。


なので、今回は護衛対象の二人以外は基本徒歩だ。もちろん、御者は御者席だし、屋根の上にヒリュウとネムが登って近くを監視していたりするけど。


また、スレイプニールは、荷馬車を曳く二頭の他に、さらに二頭購入している。一頭はガイ用。もう一頭は当面予備だが、誰か筋がいいやつがいたら、騎乗護衛二騎体制でもいいかもしれないと思っている。モンスター娘達のキャラバンが、ライオン娘とウマ娘の二人体制だから、それの模倣だ。


明日、エリエール子爵達への輜重隊任務は、俺達が務める。本番前の予行練習だ。おそらく、これが最後の輜重隊任務になると思われる。後任は知り合いになった『雪の音色』と『暁の絆』に任せる。アリシアともしばしの別れだ。


スイネルに移った後の俺達の予定はというと、しばらく今回のご褒美の魔道具を使って稼ぐ予定にしているが、魔道具の貸与期限が切れた頃に、今度はノートゥンに行こうと考えている。なので、アリシア達には月単位で会えなくなるだろう。その間に、戦争関連がどうなっているかだけど、まあ、前線にいるウルカーンの国王派とやらに頑張ってもらうしかない。


ウルカーンの武将には、籠城戦がとても得意な人がいるらしく、負けることはないとかなんとか……これからノートゥンやティラネディーアからの援軍も来るらしいし、ネオ・カーンの時ほど焦燥感はない。


ウルカーンは、城壁の外も街中であり、人がそれなりにいるからあまりスピードは出せず、かっぽかっぽと街道を進む。


進むこと数十分、民家や畑がまばらになったところで、前を進むキャラバンからマジックマッシュルーム娘のシュシュマがてこてこと小走りで近づいてくる。


そして、「もうすぐ着くって」と言った。



・・・・


街道から近くで、民家や畑から程よく離れた空き地に荷馬車を入れて駐車させる。


うちのスレイプニール達は聞き分けが良く、御者役のアイサの指示どおりに動いてくれている。俺は、今回の移動でスレイプニールに乗ったけど、馬の扱いはどうも上手ではないようだ。人馬一体とか格好いいとか思っていたけど、早々と諦めようかと考えている。


無事に馬車を駐車させると、全員で一斉に野営の準備に取り掛かる。ヒリュウとネムが屋上に積んでいる幌を下ろし、それをみんなで屋根や間仕切りにする。

幌を固定するための杭を打ち、ロープで縛る。トイレ用の穴を掘り、専用のイスと目隠しを立てる。


「それで、寝床はどうしよう」と、俺が言った。


今回は、15歳という多感な時期の男子がいる。うちには女性も多いし、おっさん三匹は、往々にして彼女らとエロい事をしている。できれば自分のおばあちゃんと一緒に荷馬車の中で寝て欲しいが……


しかし、「ハルキウを特別扱いする必要はありません」と、ファンデルメーヤさんが言った。


「ううむ。順当に行けば、ジェイクとヘアードとの相部屋かな。ジェイクはいびきをかかないから、安眠できるぞ」と、俺が言った。ヘアードの方がたまにいびきをかくらしいが、『ナナフシ』で降りるから、少しくらい我慢してもらおう。


ジェイクは、「僕もいいですよ。最初はみんな一緒に寝ようとしてたじゃないですか。千尋藻さん達、速攻でいなくなったけど」と言った。


そう、ケイティはマジックマッシュルーム娘とデンキウナギ娘、小田原さんはウマ娘とできている。俺もぼちぼちと……


「じゃあ、男はそれでいっか。女子はサイフォンに任せるぞ」


ファンデルメーヤさんは、付き人を連れて来ていないが、本当に放置するわけにもいかない。というか、あの人は、ちゃんと見張っておかないと何をするか分からない危うさがある。なので、水魔術士のベルを付き人にする。実は彼女は、男爵令嬢だったりするのだ。サイフォン曰く、ベルは都会っ子だったので、上位貴族のメイドをやっていたこともあるし、何かと気が利くやつなのだとか。逆に、自分は辺境伯という田舎の貴族なので、がさつでダメなのだと。


さて、俺達旅団の初仕事が始まる。

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