第114話 三匹の会議とウルカーン貴族
「ひとつひとつ、潰していこうぜ」と、小田原さんが言った。
「そうですよ。焦って無理をしてはいけません。時には大胆な判断も必要ですが、ここはどしっと構えておくべき時です」と、ケイティが言った。
今日は、何となくおっさん三人のみの会合だ。おニューの荷馬車の横にタープを広げ、衝立を立てて三人だけで話合っている。少々お酒を飲みながらだけど。
俺達の本来の目的は、一応、この世界の異分子の排除だ。そのために、亜神と呼ばれる存在のリサーチをするというのが当初の予定だった。
だけど、この世界は結構きな臭い。なので、まずは当面の課題クリアを優先し、世界の異分子討伐は急がないという判断をしている。ぼちぼち情報収集をする程度は行うが。
当面の今の課題は、エアスランとウルカーンの戦争の行方次第だ。基本的に、俺達は国家間の戦争には介入しない。アイリーンを助けたり、ゴンベエの依頼を受けた事は、あくまでイレギュラー。俺のこのチートな力は、目立つことには使わない。
なぜならば、いくら俺達がチート持ちだからといっても、最強だとは限らないからだ。世の中は広い。この世には、どんな化け物が潜んでいるか分からない。なので、基本的に、俺達はこの世界で積極的に力は使わないことにしている。経験値やレベルがある世界だったらまた別で、敵を倒してレベルを上げようという話になるのだが、ここは、
なので、今は戦争の動向に注意しながらうまく逃げまわり、地盤を固めることが基本方針だ。
「当面の課題は、戦争の情報の入手。サイフォンが水ギルドの伝手で面会するナイル伯爵の件。外国人排除法の制定。聖女ハナコ。忍者の里との合流。地下迷宮の謎。ついでに言うと人攫いと人身売買の存在とかかな」
「自分らは、ここに来てまだ日も浅い。殆どが特定のメンバーと移動していただけだからな。焦る必要はないぜ。地下迷宮に興味はあるが、今の所絶対に行かなければならないという場所では無い。千尋藻さんが言うような不気味な生物がいるのであれば、なおさらな」と、小田原さん。
「ううむ。とりあえず、バッタ男爵の入り口から行けるホテルかマンションのような建物と仮称地底人の探索は後回しか」
「私もそれでいいと思います。そもそも、この世界に地底人が居ても不思議ではありませんし。今は、サイフォンさんとナイル伯爵の面会を待ち、同時に港街スイネルへの旅の準備を進めるべきです。輜重隊の仕事ももう少し続けるのでしょう?」と、ケイティ。
「輜重隊の護衛の方は、情報収集のためにも続けたい。後は、ケイティの言うとおり、変な法律が成立する前に旅立つために、旅の準備を進めよう。サイフォンとナイル伯爵の面会が終わったら、一気に動きだそう」
もうすでにスイネルまでの旅客も請け負っているしな……
「ああ。千尋藻さんがロバの
忘れていたけど、小田原さんとケイティは、言語理解系のスキルを持っている。あのロバの言っていることが、明確に日本語に変換されて認識出来るほどではないらしいが、何を言いたいか程度は理解できるらしい。なので、小田原さんとケイティは、テイマーの才能があるということになる。
この世界の『スキル』というやつは、極めていい加減だ。いや、いい加減なのは『鑑定』なのかもしれない。もしくはスキルのネーミングそのものがいい加減だ。動物会話というスキルが単に動物の感情を感じ取れる程度のものだったり、生活魔術といっても何種類もあったり、アイテムの鑑定に至っては、殆ど情報が得られないにも等しい。
男運レベル10とかマジカルTiNPOとかよくわからないものもあるし。
「私の方も、戦利品の売却や、魔道具の改修関連は全て済みました。いつでもいけます」と、ケイティ。
ケイティの傍らには、十字架の形をした魔道具があった。本当は、バーンというエアスラン軍の兵士の、雷魔道具付の大剣だったものだ。
「キャラバン隊の化け蜘蛛も届いたしな。じゃあ、まずはスイネルだ。そこに行って落ち着いた後、忍者の里と連絡を取ろう。それからは、ノートゥンに行くでもいいし、その時考えるか」
と、言うわけで個人的に気になっていた地下迷宮の件は保留。地下迷宮は、吸血鬼、地底人っぽい存在、犯罪組織の根城、魔物の発生場所、古代遺跡などなど、色んな謎をはらんでいる。
だけど、地下迷宮は別にウルカーンだけにあるものではない。そもそも本気で潜ろうとなったら、それ用の装備とパーティが必要で、準備に金もかかる。今は後回しが正解だろう。バッタへは書類で知らせておこう。地図とそこで見かけた生物の情報を。鉄筋コンクリートの話は、別にいいだろう。あまり地下迷宮探索に興味なさそうだったし。
俺達は三匹だけの会合は終わりにして、皆で楽しく夕飯を楽しむことにした。
◇◇◇
ここはウルカーン王宮。
謀略と暗躍、妬みと嫉妬、強欲と快楽主義が渦巻く、複雑怪奇な魔窟である。
ここの一室で、国王派貴族、すなわち交戦派貴族らが集まり、会合が持たれていた。
「大鷲の神獣からの速報だ。我が軍は、野戦陣地を包囲していたエアスラン軍を蹴散らしたそうだ」と、とある貴族が言った。
「おお。さすがはダイバとチータラだ」
「鉄壁のチータラが籠城する陣地は切り崩せんよ。シラサギからの遊軍に英雄ダイバを当てたのも良かった。大打撃を被ったエアスラン軍は、体勢を立て直すべく、一旦、ネオ・カーンまで引く様だ」
「ふん。エアスランの弱兵め。我ら単独でも余裕ではないか。追撃隊は出したのだろう? 一応、本格侵攻はティラネディーアとノートゥンからの援軍到着を待ち、準備が整い次第攻めに転じるぞ」
「言われるまでも無い。次こそはネオ・カーンの全ての利権を我らの手に。ついでに、エアスラン側の街や荘園の一部を切り崩してやりましょうぞ」
勝ち戦と聞いて、血気盛んな意見が飛び交う。
その時、とある貴族が話を変えて、「それと、もうそろそろいいのではないか? ララヘイムの件だ」と言った。
「そうだったな。あの裏切り国家め。エアスランの次はあいつらだ。賠償金を取れるだけふんだくってやる」
「ぐふふ。当面は、我が国にいるララヘイム派の貴族を生け贄だ。特にナイル伯爵の言動は目に余る」
「宰相派のやつらめ。ことあるごとに我らの足を引っ張りおって」
「それだけではない。やつらは、ララヘイムとの交易により蓄財をしている。我が国が不景気なのも、あいつらが外国から製品を輸入し、暴利を得ているせいだ」
「ララヘイムだけではなく、エアスランとも交易を進めていたからな。これを機に、あいつらを一気に弱体化させてやろう。例の三法の可決を急げ。ララヘイムは最早敵国だ。多少恨まれても致し方あるまい。先に手を出してきたのはあいつらなのだ」
「そうだ。財産没収の上、追放して奴隷に落としてやれ」
「くっくっく。ここで耳寄りな情報を一つ。ナイル伯爵は、自分の息子達を外国、若しくは辺境に疎開させるつもりだ。三男と自分の妻をエリエール子爵に託したようだ」
「エリエールか。こしゃくな……いや待て。ナイル伯爵には確か四男もいたではないか」
「そうですな。四男は魔道学園に在籍しておったはず。それからヤツの母親はララヘイムの王族出身。きっと、彼らもどこかに逃がすことを考えているに違いない」
「ふふふ。逃げている最中が一番御しやすいのだ。旅の途中でいなくなっても、誰がやったか気付かれぬのだからな」
「ほほう。やるのか?」
「手なずけている地下迷宮の組織と連絡をとりましょうぞ」
「がはは。息子、嫁、母親、全てを奪い取り、そしてヤツ本人は追放してやろう」
「追放、みんな追放だ」
「ぐふふふ。最近、私も何故か人を追放したくてうずうずしておるのですぞ。それから奴隷化ですな」
「実はワシもなのだ。いやぁ……ヤツを追放した時は、ワシはズボンの中で射精してしもうた」
「私も似たようなものだ。あの日の夜は、妻全員と気絶するまでセック○したものだ」
「ナイル伯爵とその家族程度の追放と奴隷化では、もう満たされないかもしれませぬな」
「そうだな。前のウルの巫女を追放したことに比べればな」
「がはははは。私が追放と言い放った時の、あの女のびっくりした顔は忘れられんよ。その後全員で犯し、両手両足と舌を切り落とし、地下迷宮に売り払ったのだからな」
「何が亜神だ。気味が悪い。予言とやらも何処まで信用できたことやら。まあ、今の巫女は我らの言いなりですからな。神官どもも、あの口うるさい巫女は嫌っておったから、今は感謝されていると聞く」
「では、次のターゲットはララヘイム派のナイル伯爵だとして、その次は、やはり、宰相でしょうか」
「もちろんだとも。宰相のローパー伯爵こそ、ナイル伯爵の盟友だからな。ことある事に、我々にくどくどと説教しおって」
「ヤツは清貧とかぬかし、私兵も荘園も持っておらん。王のお気に入りというだけで、いつでもどうとでもできるヤツだ。ナイルが失脚すれば簡単に駆逐できる。ヤツには確か娘がおったから、追放か奴隷化してやろう」
「そしてその次は、やはり、ジュノンソー公爵でしょうか」
「そうだな。同じ国王派ではあるが、やつは、少し危険なのだ。奴隷制にも反対しよって。そもそも英雄ダイバは平民なのだ。あいつは、自分の執事を将軍にまで上げてしまった……軍隊の形も、エアスランに習って国軍を増強する方針を打ち立てている。やつは、将来的に私兵を持つ貴族を危険視するおそれがある」
「自分自身が、公爵という貴族の恩恵に最もあずかっておきながら、貴族制を否定するとは自己矛盾も甚だしい。まあよい。やつを追放から奴隷落ちさせたら、さぞかし気持ちいい事だろう」
「同意だ。娘のナナセ子爵も同じだ。シラサギの英雄などともてはやされておるが、ジュノンソーだけに軍事力が集まるのはまずい。いずれ追放してやろう」
「くかか。あの気が強そうな娘が奴隷落ちしたら、私が一晩だけ買ってまた転売したいですな」
「ぐはは。それなら、セック○講習を受けさせましょうぞ。どうせ抱くなら、上手になってもらいましょう」
「あはははは、それはいい考えだ」
ウルカーン宮廷貴族の夜会は続く。
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