第99話 それぞれの日常と地下迷宮探索開始
「おはよう千尋藻」と、隣でうつ伏せで寝ていたライオン娘のナハトが言った。彼女の豊満な双丘が水ベッドに押し潰されていて、とてもエロい。
「おはようナハト」と返す。
俺のお腹の上には、すでにギランが張り付いている。
「今日もメイドの朝練だ。起きるか」
「ふぁああ。私も起きよ。ねえ、今日行くんだよね、地下迷宮」と、ナハトが言った。
「ああ、今日はお試しだけど。どんな所か見てくる程度」と応じる。
ナハトは夜目が利くから、地下迷宮探索に昨日誘ってみたのだ。そうしたら、何故か景気づけにセック○することに。
俺は、お腹の上で寝ている夜警明けのギランをそのまま寝かせ、もそもそとベッドを抜け出した。
・・・・
「おはよう」
いろんな人に声を掛ける。
と、サイフォンが椅子に座った女の人のお腹に、手を当てて何かやっている。
その女性は、俺の視線に気付くと、ぺこりとお辞儀をする。ああ、この人は最近飯炊き要員で雇った人だ。
「あ、駄目よステラ。動いちゃだめ」と、サイフォンが言った。
「申し分けございません、サイフォン様」と、その女性が言った。彼女は腎臓が悪いらしく、放って置くと死んでしまうらしい。今はサイフォンが水魔術で人工透析的な治療を施しているのだろう。
「治療中だったか。すまんすまん」
サイフォンは、水晶玉みたいな魔道具を握り絞めて、それとは逆の手で彼女のお腹に手を当てて集中している。あの水晶玉は10万くらいの安物の魔道具で、水魔力を少しだけ蓄えておけるものらしい。その魔力は、俺が提供していたりする。
サイフォンらの魔力は、水ギルドでの仕事で使うからな。
しばらくすると、「ふう。はい。これで今日はオッケー」と、サイフォンが女性のお腹から手を離して言った。
俺はアイサから朝食を受け取りながら、「ところで、こういった治療って、ギルドは関係ないの?」と、何となく聞いてみた。日本では、医療行為は医者が独占している。
「治療に関係するところでいうと、医療の『診断』は医療ギルドの管轄ね。勝手にはできない。ノートゥンには回復魔術ギルドがあって、魔術で様々な病気を治す研究を行っていて、彼らが開発した治療法はそこのギルドが独占しているね。それから薬剤ギルドね。そこで開発された薬剤もギルド独占。彼女に施している水魔術は水ギルドの管轄。ここでの治療の件は、ちゃんと水ギルドに話は通してあるわ。ああ、外傷の手当は別に何の制約もなし」と、サイフォンが言った。
「やっぱり世知辛いな」
サイフォンは少し渋い顔をして、「まあ、ギルドも研究費を捻出したり、人材育成にお金かけてるからね。ある程度は仕方がないでしょ」と言った。
「ま、管轄の話はいいとして、それで、ナイル伯爵の件は、とりあえず任せていいか?」
ララヘイム縁のナイル伯爵に会うという件、仲間達と相談し、会うだけは会おうという話になった。とりあえず、サイフォンだけの面会だ。
自分の子供らを疎開させたがっているという情報は仕入れているが、本当にうちらにそれを頼むつもりなのかは未知数だ。今の所、どこの馬の骨かも分からない俺達に頼むはずは無いだろうと考えている。
「いいけどね。ただ、私があなたに忠誠を誓っていることは言うからね」と、サイフォン。
「仕方が無いだろうな」
「それから、あなた本当に自ら地下迷宮に潜るの?」
「そのつもり。迷宮と雑用ギルド、どっちがコスパがいいか試すつもり」
サイフォンはしかめっ面をして、「あなた、私達のリーダー格なんだから、自分が直接労働するのではなくて、マネジメントに専念して欲しいんだけどね」と言った。だって……楽しそうなんだもん。
「言いたいことは分かるが、俺に貴族対応は難しいと思う。まあ、今は現金収入も少ないから、俺もプレイヤーにならないと」と、応じる。
「そ。今はまだいいと思うけど、いずれちゃんとしてよ」と、サイフォン。重要なことは、ちゃんと判断しろと言うことだろう。
「分かってるよサイフォン。ひとまず、資産を増やすべくスレイプニールのオーナーにもなっただろ。俺が働かなくても良くなったら考える」と、応じる。
そう。牧場見学の後、仲間達と相談し、スレイプニール2頭を購入することにしたのだ。とりあえず手付け代わりに1頭を即金で購入した。だけどまだ荷馬車がないので、そのスレイプニールをガイに貸し出すことにした。彼の稼ぎの一部がうちらに入るという契約だ。彼は、今近場の護衛任務や他の冒険者のサポートなどの仕事を探している。なお、牧場のオーナーであるガストンがガイの保証人になってくれるということで、ガイがスレイプニールを借りパクしたり速攻で死なせたりした場合は、俺達にスレイプニールの支払い義務は無くなる契約だ。
さて、朝メシも食い終わったところで、朝稽古に行きますかね……そしてその後は、地下迷宮のお試し探索だ。
・・・・
それぞれのメンバーが、それぞれの仕事に出かけて行く。
俺とネムとケイティは、ひとまずエリエール子爵邸へ。ケイティはステシアの看病の後は、元バレンタイン伯爵夫人のもとを尋ねるらしい。そこでマッサージのバイトをするのだとか。その後は魔道具屋に行って、短剣の売却金を受け取ったり、クメールの宝剣を見せに刀剣マニアの貴族に面会したりと大忙しだ。
ネムは剣の訓練を終えたら午前中まではメイドの仕事を手伝って、その後は大八車の方に戻って、ステラとアイサらと一緒に
小田原さんは、朝から夕方までずっと荷馬車工房でバイト。現金収入としては少ないが、荷馬車が安く手に入り、なおかつ技術者を一人育成できると思えばコスパは良いと思う。
サイフォンとその仲間達は、全員まるっと水ギルドへ。こちらは、全員で毎日なんと30万ストーン近く稼いでくる。水ギルドでの仕事は、洗濯物屋や体を魔術で洗うクリーン屋に派遣されたりもするが、実は血清製品や消毒用アルコールなどの生成も水魔術でできるとのことで、それらも水ギルドの管轄なのだ。
現在は戦争前夜であるため、これらが大量に発注されており、出来高制でお金が貰えるため、水魔力が続く限り頑張ってもらっている。
サイフォンなんかは、人工透析や怪我人の患部の消毒、腹痛なんかもある程度水魔術で治せるらしく、医療関係で稼いでいるとか。
今の所、彼女らが稼いだ全てのお金は、生活費には回さず、水魔力を備蓄できる魔道具を買いあさっている。毎日俺がその魔道具に魔力を補充してやっており、そうすることで、彼女らの仕事も沢山回せるようになり、収入は加速度的に増えていくはずだ。
俺が水ギルドに行って魔力を売却すればいいじゃん、という話もあるが、俺の異常な魔力量が噂になれば、どこでどう変な騒動に巻き込まれるか分かったもんじゃないため、今の所、それは自重している。
そして今日の朝練を終えた俺はというと、ロバとスザク、ヒリュウとライオン娘のナハト、それから童貞熊のヘアードを連れて、バッタ男爵が所管しているという郊外の地下迷宮入り口に来ていた。
なお、童貞熊と俺が心の中で呼んでいる彼は、居酒屋でサイフォンがナンパした青年で、背格好が丸っこい熊みたいなのだ。若い女性がいない農村で育った彼は、未だ童貞なのだ。怪力スキル持ちなので、
スザクが、「それでは探索用のアイテムを借りてきます」と言って、受付の方に、ロバを連れて行く。その後ろを童貞熊のヘアードが付いてく。
いそいそとスザクとヘアードかレンタルのズタ袋やロープ類をロバの背中に積んでいく。
そして、自分にも膝当てやすね当て、肘当てにヘルメットなどを装備していく。ここでは有料で防具類の貸し出しもやっている。
そして、一風変わった迷宮探索パーティが出来上がる。
まずは手ぶらで軽装の俺。ブーツにズボンにシャツにチェニックだ。他には腰に短剣『亡霊』を下げ、実は何気にピーカブーさんから貰った謎通貨に紐を通したものを首から
他人が見たら、どこからどう見てもこれから地下迷宮に潜ろうという感じではない。
ヒリュウも軽装備で、腰から短刀を下げ、今日は短めの槍も持っている。防具は、一応、革手袋と皮の小手、それからマントを着けている。ヒリュウは、短槍の腕も一流で、実は水魔術と回復魔術が使えるという自己完結型のスキルラインナップなのである。地下迷宮探索にも向いていると思う。
そしてナハトは弓矢に短剣を装備し、肘当てと、おでこにはハチガネを巻いている。少しカッコ良い。
ライオン娘である彼女は、本来、森や草原に潜むのが得意なタイプだと思うのだが、夜目が利くため、連れてきた。本人はピクニック気分で、迷宮探索を楽しみにしているらしい。
「あの、千尋藻さんはその格好なんですか?」と、スザクが言った。彼女はすね当てに膝当てを装備している。どうも、ここにはトカゲ型の魔物が出ることがあるらしく、足を守るのが普通のようだ。童貞熊も同じような格好をしている。
「まあ、俺は丈夫だから」と、答えておく。今回行くのは日帰りできる低階層だし。
「は、はあ」
スザクはつぶらな瞳で貧相な体付き。茶色の三つ編みお下げで、チビ○子ちゃんの脇役キャラに酷似している。スザクの年齢は19歳だしメガネは着けていないため、アニメキャラそのまんまというわけではないのだが……
「さて、準備はいいのか? 行くぞ」
「はい。受付も済ませてきましたので」と、スザクが応じた。
ふと、地下迷宮の入り口付近に、小汚い子供達が群がっているのが見える。何なのだろう。
「あいつら何やってんだ?」と、スザクに聞く。
「あの子らは、ポーターをやりたがっているんです。ここで待っておくと、頼まれることがあるんです」と、スザク。
「そうなのか。俺達には、ロバとお前達がいるから使わないけど、まあ、色々とあるんだな」
スザクは、「ええ、私もその口だったんです。小さい頃は、ああやってポーターのおこぼれを貰っていました」と、少し遠い目をして言った。そう言われると、何だか子供達を雇わない俺がけち臭いみたいじゃないか。
「まあ、今回は人数的に連れていけない。行くぞ」
俺達は、予定していたメンバーで地下迷宮に踏み込んだ。
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