第98話 能力の検証

ウルカーンでの生活のめどが何となく立ったところで、今日は、俺の能力の検証をしようと思い立った。


本当は地下迷宮辺りに潜りたかったのだが、それは後回しにした。


今日は、俺の千里眼とインビシブルハンドの使い勝手を確認する。


なので、仲間を連れて街の外に出て、人気ひとけの無い場所を探す。


メンバーは、ヒリュウ、ララヘイム組からはゆるふわ美人の宿屋の娘、デンキウナギ娘のナインにライオン娘のナハト。さらには『炎の宝剣』から火魔術師をお借りしている。保護者の女スカウト付で。


何故色々なタイプを連れてきたかというと、俺の防御力を試すためだ。このメンバーで、刃物、弓、炎、氷、雷を試す事ができる。ナハトは弓兵役として連れてきた。なお、新参者は連れてきていない。俺の能力をあまり公にするのもどうかと思ったからだ。


スザクやガイら新参者を、正式採用するかどうかはまだ決めていないが、色々やるにしては、人手が足りていないのが事実だ。ララヘイム11人衆は、水ギルドで一稼ぎしないといけないし。なので、彼らが信頼出来そうだったら、本当に雇用を検討しようと考えている。はじめは冗談のような出会いだったけど。ただ、今日は俺の能力の一端を見知ってしまうわけで、まだそれを見せる程には信頼関係は構築出来ていないと判断している。


なので、彼らはケイティやネムと共にお留守番だ。留守をしっかり守るのも仕事なのだ。


今日は、先日購入したロバにお弁当やら何やらを積んで来ている。こいつにも仕事してもらわないとな。


俺は、ロバの首をポンと叩き、「さて。ここいらでいいか。お前はその辺で勝手に草食ってろ」と言った。


ロバはぶひひんと鳴くと、その辺に生えている草をむしゃむしゃと食い出した。餌代タダだから助かる。


さて、検証開始だ。




・・・・


第一の検証。


それは防御力。地面に高さ1.2メートルくらいの棒を地面に立てて、その周囲に大きいインビシブルハンドを展開。その棒の周りをガチガチに固めてみる。棒が、透明なバリアで囲まれている状態になる。


「じゃあ、最初はヒリュウから」


俺のインビシブルハンドをペタペタと触っていたヒリュウが短剣を抜いて、一気に斬りかかる。


ドスっと刺さるが、貫通どころか全く切れていない。かつて、エアスランの魔術士エリオンくんは、俺のインビシブルハンドを見抜き、短剣で切りつけて見せた。その時は、チクリとした痛みがあった。


ヒリュウはひとしきり短剣でインビシブルハンドをざくざくと刺したあと、「これは無理。本気で行くと剣が曲がるかな」と言った。


「そっか。大剣とかメイスだったらどうだろうか」


今日は、パワーファイターを連れて来ていない。


ヒリュウは蹴りを入れながら、「ううん。相当耐えられると思うけど、物理なら、爆発の魔道具か切断系の魔術を使うか……」と言った。


「そうか。魔道具と切断系は今は試しようがない。ブレイク使いが身近にいないし」


ブレイクとは、ただただ刃物の貫通力を上げるスキル。先日、そのブレイクで俺の胸に剣を刺した男に出会った。


「私としては、銃に何処まで耐えられるかが気になる所だけど」と、ヒリュウが言った。


そう。この世界、実は銃が出始めている。まだ一般に流通はしていないし、先日のエアスランとウルカーンの戦争では、銃も大砲もお目にかかれていないが、ヒリュウによると、どうもあるらしい。


この世界には爆発系の魔術があるし、異世界転移者もいるのだから、銃の発想があっても不思議では無い。


どのレベルかというと、マスケットや火縄銃よりもまだまだお粗末な状態らしい。


直径数センチの鉄の筒に金属の球を詰め、爆発系の魔術で鉄球を発射させるだけのものだ。単発だし、砲身に螺旋の溝は掘られていない。


この戦争だらけの世界で銃が普及していない理由は、今はまだ単純な魔術の方が使い勝手がよく、おそらく冶金術があまり発展していない、若しくは鉄の産出が少ないためと思われる。だが、鉱山開発と冶金術が発展すれば、殺傷能力が高い魔道具が開発されてもおかしくは無い。すでに魔術地雷はあるわけだし、それを遠くまで飛ばす技術があれば、大砲や迫撃砲のできあがりだ。


それはそれとして……


「じゃ、次は火ね」


俺がそういうと、ちびっ子魔術士が前に出る。


冒険者パーティ『炎の宝剣』所属のティギーだ。正真正銘のロリっ子だ。


「ほら、ティギー。フレイムで行こう。あのバリアを壊すのでは無くて、熱を加える感じで」と、保護者役のスカウト女性が言った。


炎の宝剣は、イケメンポニーテールの男性リーダーと、寡黙な男性斧使い、ニヒルな女剣士に常識人の女スカウト、そして、ちびっ子女児魔術士の五人構成だ。


ティギーが数秒集中すると、手に持っている小さな杖から、勢いよく炎が吹き出る。ネオ・カーンやシラサギで見かけた一般的な炎系の攻撃魔術だ。


ごおおおおおお……と音を立て、俺のインビシブルハンドが焼かれる。熱には鈍感なのか、あまり熱さは感じない。ぬるま湯に冷たい手を付けた感じのぬくさがある。


一分くらい持っただろうか。ティギーは、「限界」と言って、フレイムを止めてしまった。ずいぶん頑張ってくれたようだ。強力な火炎放射が連続一分持つのなら、かなりの腕前だと思った。


俺は一旦インビシブルハンドを解除し、中に立ててある棒を触ってみる。まったく熱くない。断熱性はなかなかあるようだ。


次に、デンキウナギ娘のナインに雷魔術を使って貰う。


ナインは、背が小さくて可愛らしい顔をしているが、実は結構短気だ。

短気というか、性格がS《エス》なんだと思う。


「喰らえ、サンダー!」


ビジジジジ……


俺のインビシブルハンドに電撃が飛ぶ。ピリっと感じる。冬場の静電気的なヤツだ。刺激としては、炎よりも、結構効く。これは気を付けて置かないと、電撃を喰らった際に、反射的に手を離したり、縮こめたりするかもしれない。


俺がそのことを言うと、ナインはちょっとだけ嬉しそうな顔をした。


俺は、「さて、次は氷と弓だけど」と言って、ナハトと宿屋の娘、確かミリンの方を向く。


「刺突耐性と断熱性は、今までので確認されたんじゃ?」と、ナハトが言った。


「まあ、それもそうだけどよ。凍り付くかどうかも試したい」


この後、とりあえず弓をバシバシ射てもらったり、氷系の魔術をぶつけて凍りつかないかどうか試したりしたが、ナハトの弓でも突き刺さらず、氷は表面が若干凍り着いたが、動きを封じる程のものではなかった。



・・・・


一通りの強度試験を終え、昼食にする。地面にシートを敷いて、皆仲良くお昼にする。


「ううむ。かなり優秀だな」と、呟く。インビシブルハンドで箸を操り、お昼御飯を口に運びながら。


「そうね。それ、防御にも攻撃にも足場にもなるし、見えないから暗殺にも使える。超便利よね」と、ヒリュウ。


ヒリュウの実家である忍者の里『ヨシノ』の長も、インビシブルハンドは使えるはずだが……まあ、娘とは言え、能力の全ては教えられていないのかもしれない。若しくは、べらべらとしゃべるつもりが無いのだろう。


「まあ、生木を握り潰したしな」と、答えておく。


先ほどは握力なども試した。一番大きなインビシブルハンドは、直径50センチの生木を握り潰した。驚異的な握力だ。


逆に、パンチはあまり強くなかった。インビシブルハンドはそこまで早く動かせないし、不思議な事に、質量も少ないからだ。


「俺が思うに、もう一つの千里眼と合わせれば、斥候や遠距離間の情報伝達なんかも出来ると思う」


口には出さないが、この方法で大抵の人なら暗殺したり拉致ったりできると思う。


「はぁ~あなた、言っては悪いけど、こんなとこで冒険者やってる人じゃないと思うわ~」と、炎の宝剣の女スカウトが言った。その横では、ティギーが無邪気にサンドイッチを頬張っている。


「冒険者はついでだついで。生活のためにやってる。まあ、俺の事はあまり言うなよ」


「分かってるわよ。信頼無くしちゃ冒険者はやっていけないわ」と、返された。


「ならいい。さて、お昼御飯がてら、ちょっと、ホームを覗いてみるか」


俺は、もう一つの千里眼を試してみる。


千里眼は、初期位置は自分の肉眼で見える範囲にしか出せない。インビシブルハンドの方は、肉眼でも千里眼でもいいから、視界にある場所だったら、何処でも出せる。


このことがこの二つの能力に制限を掛けている。地味に不便なのだ。


例えば、ここからケイティらがいる大八車の様子をうかがおうとした場合、千里眼をここからそこまで飛ばす必要がある。千里眼を動かせる速度は、自動車が走るくらいだから、早いようで結構遅い。


だけど、裏技として、俺の千里眼は独立した目が沢山あるから、千里眼の視点から千里眼を出現させることができる。要するに、千里眼がいる位置を視界内限定でワープさせることができる。これを連続して使用すると、一気にかなりの距離を稼ぐことができる。


だが、ワープを多様しすぎると、自分がどこにいるか分からなくなってしまう。なので、千里眼ワープを使う際には、一旦上空にまで千里眼を飛ばして、それから何か目印を探して次の千里眼を出現させる必要がある。


その千里眼の視界から千里眼を出す方法を用いて、一気にウルカーンの上空に視点をワープさせる。そして、そこからは目標地点を目指して急降下する。目指すは我が家の大八車だ。


大八車がどんどん近づいてくる。その横に、四角いテーブルがあって、そこに二人が座っている。あれはケイティとネムだな。ネムがテーブルの上で何か書いている。


アレは、数字? ははあ、分かった。アレは九九の練習だ。羊皮紙のような紙に縦横10ずつのマス目を造り、その上に一桁の数字が書かれている。その数字の縦横が交わるところに、その数字を掛けた値を入れていくという九九の特訓法だ。


ケイティがネムに九九を教えているのだろう。


俺の千里眼が、彼らのテーブルの真上にさしかかる。


集中しているネムには少し悪いが……小さめのインビシブルハンドを出し、予備の筆ペンを持ち、使い終わった羊皮紙に『べんきょうじゅんちょう?』と書いた。


ネムがぎょっとし、ケイティは澄ました顔をしている。


『これは千尋藻さんのインビシブルハンドでしょう』と、ケイティが言った。


一方のネムは、辺りをキョロキョロしている。こいつは事態が掴めていないようだ。なので、座ったままのネムのお尻をつるりと撫でておく。


ばっ! とネムが後ろを手で振り払うが、俺はすでにそこにはいない。


『じゃましてわるかった』とメッセージを書いて、俺は意識を戻した。


・・・・


目を開けると、先ほどの昼食会場だった。戻るときは一瞬だ。ケイティのところの千里眼とインビシブルハンドは消失している。だが、


ふむ。これは、万能ではないまでも、使い方次第で色んな事ができるだろう。操作に慣れておくべきだな。筆談用にこっちの文字の練習もするべきだが。


でも、地下迷宮とかにも行きたいんだよな……この都市で勉強もなかなか辛いし。


俺達は、お昼休憩の後は、ぼちぼちと午後の部に移ることにした。


午後の部は、インビシブルハンドを用いた接近戦闘の研究だ。


インビシブルハンドは単なる念力ではなく、擬似的な物質である。それを利用して、空を駆け抜けたり、相手を持ち上げて空輸したりすることが出来る。なので、空輸出来る重さを試したり、様々なことを試す。


結果論として、空輸出来る重さは、つぎ込む魔力の量にほぼ比例した。俺の魔力量なら、相当な量が運べるだろう。

インビシブルハンドで人を空輸するとして、千人くらいはいけそうな気がする。ヒトというのは、実はそこまで重たくないものだ。


だが、インビシブルハンドの欠点は、集中が途切れたら消失してしまうということ。空輸中にそれが起きたら大惨事だ。まあ、この辺は訓練次第かな。


色々と考え毎をしながら、インビシブルハンドと千里眼の性能を試していく。


殆ど俺とヒリュウの模擬戦になった。インビシブルハンドを足場にした立体機動戦術の練習を行ったからだ。瞬時に次の動きを決めてその動きに必要な足場を造る。それを繰り返し、体に覚え込ませる。ヒリュウと一緒に、そういった『型』を造って行く。『こういう動きの時にはこういう風にインビシブルハンドを置く』という型をいくつも想定し、それを反復練習するのだ。


あっという間に時間が過ぎて、今日のところは、ヒリュウやナハト、ナイン、ティギー、ミリン、それからエロロバと一緒に、ウルカーンのホームに戻ることにした。

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