第93話 居酒屋カオス

「いやいや、私が村を飛び出したのは戦争したかったからじゃなくて、村が嫌になったから。冒険者にでもなろうかなって思っていたら、この戦争騒ぎでしょ? だから、今ならどこかの御貴族様の愛人兼用心棒とかになれるかなって」と、アイサが言った。


本当に完全なる家出娘だった。


「あなたって、一体何歳なのよ。愛人っていう歳にも見えないけど」と、サイフォンが言った。女性に歳を聞くのは失礼な気がしたが、同性からの質問だからセーフだろう。


「私、今年で26。完全なる行き遅れ。碌な男いなかったもん。うちの村」と、アイサさん。日本人で26歳なら、大卒就職数年目の初々しい若者って感じだが、彼女はどこか肝っ玉母ちゃんみたいな雰囲気がある。まあ、腰のくびれとお尻とおっぱいの大きさからして、色欲はそそられるのであるが……


「そう。どんな村だったのよ。さっきの子は年頃の女性がいなかったって言ってたけど」と、サイフォン。


「うちは馬と鷹の産地なんだ。種付けして育てて出荷して。何代か前の鷹師が、魔獣の鷹を生ませることに成功してね。それで大金持ちになって、一時期は凄い発展した村だったんだけど、だんだん廃れていって」


「ほう。君も鷹師ができるのかい?」と、ケイティ。


鷹の魔獣がいたら、偵察や伝言にはとても便利な気がする。


「いんや。私は馬の方。来る日も来る日も馬の世話。それでさ、うちって、田舎で娯楽が何もないでしょ? それに、普段から馬の種付けとかやってるから、もう男も女もセック○しまくってて」と、アイサ。話が変な方向に行っているな。


「田舎というものは、往々にして性におおらかになります。特別なことではありませんよ」と、ケイティ。


「そう? 私なんか、たぶん村の全ての男とセック○したと思う。弟や親父も求めてくるし」と、アイサ。それは凄いな……


「近親相姦も、田舎では珍しいことではありません。避妊の魔術があれば、かわいそうな子が生まれることもない」と、ケイティ。


話が変な方向に行っているが、ケイティは普通に対応している。流石だ。


「まあ、家族同士で子供を作るのは禁忌だね。娯楽でセック○はするけど。それでね、うちは5人の弟達がいて、そいつらに毎晩付き合わされるわけ。そりゃ、彼氏もできないよ」と、アイサが言った。


「それは壮絶だな。その歳頃の男子なんて、猿みたいなもんだからな」


「そうそう猿だよ猿。月のモノが来たときだって求めて来るし、それに村長もさ、おじいちゃんなのに絶倫で、仕事中しょっちゅう求めてくんのよ」と、アイサが言った。凄いな村長。


サイフォンが少し目を見開いた表情で、「その村の女性ってみんなそんな感じなの?」と言った。


「そうそう。みんなやってる。女同士の会話でもさ、だれのセック○が良かったとかそういうのばっかり話すの。もちろん、男同士もそうでさ、私が一番抱き心地が良いっていう話になったらしくって、みんな私とやりたがんの」と、アイサ。


「それで村人を全てコンプリートしたわけですか」と、ケイティ。


「そそ。それでね、村長が私とやったあとに、お前とのセック○は飽きたから、別の穴でさせろって言って来たわけ」


「それはひどいですね」と、ケイティ。


アイサはお酒をぐびりと飲み、「それでね。村長ぶん殴って家出してきたってわけ」と言った。


「なるほど」


「アナタ達、見たところお金持ちそうだけど、どうかな、私」と、アイサが俺を向いて言った。


今の状態でどうと言われても……


俺がどうするか言い淀んでいると、「この人達、別に女体に飢えていないから。あなたに何が出来るのかが重要」と、サイフォンが言った。上から目線でいったな。でも、最初が肝心ともいうし。


今回は情報収集のつもりだったんだが、何時のまにか新しい仲間の面接という感じになっている。


「私のスキルは、馬の種付け用なんだよなぁ。スキル『種付け』と、『悪臭耐性』を覚えています。それから、一子相伝の『動物会話』っていうやつ」と、アイサが言った。


「動物会話だって? それってテイマーになれるんじゃ」と、俺が反応する。優秀なテイマーは凄く希少だと、アイリーンが言っていた。


「いやいや、そんな凄いもんじゃなくて、何となく動物と意思疎通が出来る程度のスキルかな」と、アイサ。


程度の差があるらしい。


「あの、剣の腕とかは?」


「素人。この剣は、村長の家からパクってきた」


なんという豪傑。


「種付けはともかく、ひょっとして馬の世話ができるのか?」と、小田原さんが口を開く。


「アナタ達、ひょっとして馬車持ち? もちろん出来るよ。雄雌いたら増やせるし」


「いや、正直に言うと、まだ持っていない。これから探す予定だ」と、小田原さん。


「それなら、良い馬の目利きも出来るよ。書類関係も出来るし」と、アイサ。


「書類?」


「そうさ。荷馬車は勝手に所有してはいけないんだ。ちゃんと届け出がいるし、税も納めないといけない。案外面倒なんだよ」


そうなのか。自動車税みたいなもんか。その辺は先輩冒険者の『炎の宝剣』にでも聞けば教えてくれそうだが……


さて、どうしよう。今日は別に仲間を増やす予定は無かったけど。


俺は、チラリと小田原さんの方を見る。小田原さんは、にこりと笑う。


次にケイティを見る。


ケイティは、「彼女に怪しい所はありません」と言った。要は、スキルの内容などに嘘は無かったということだろう。


「とりあえず、明日荷馬車を見に行くから、一緒について来て貰うか。アドバイザーとして。日当くらい払うよ」と言った。お試しで使ってみようと考えた。


「ほんと!? 助かった。今日からどうしようかと思っていたんだ」と、アイサが言った。


「ん? ひょっとして文無し?」


「そうそう。さっきはこの居酒屋に住み込みで働きたいってお願いしていた所だったんだ」


マジかよ。ダメなパターンの家出娘じゃねぇか。


「あ~助かった。移動で有り金全部使ってしまって、今日は何処で寝ようかと途方に暮れてたわけ」


「いや、俺達も野営だが……」


今の俺達は荷物は殆ど持っていない。なので、宿か家住まいと思われたようだ。というかこの子、すでに俺達と一緒に行こうとしている。厚かましいというか、人懐っこすぎるというか。


アイサはにこりと笑い、「私も野営でいい。毛布は持ってきてるから」と言った。


そういう問題ではないんだが。どうしよう。まだ仲間でもない未婚の女性を連れ込んでいいものだろうか。さすがの小田原さんも苦笑いだ。だけど、本当にNGなら、ここで誰かがストップを掛けるはずだ。


「ひとまず、約束できるのは明日のアドバイザーだけだ。寝るのは、どうする? スペースあったか?」


「まあ、ジェイクが抜けた分、スペースはあるが」と、小田原さんが言った。


「じゃあ決まり。あなた達なら、セック○してもいいよ」と、アイサが言った。


まあ、毎日村人達とセック○していたんなら、今更だろう。


「まあ、いっか。セック○はともかく、ここで見捨てるのも忍びない。だけど、本当に荷馬車買うときには仕事しろよ」


「うん。私、こう見えて学校通ったんだから。文章も計算もできるし」


ふうむ。内政系か……うちは人数が多いから、そういう人材も必要なのかもしれない。サイフォンともよく相談しなければ。


「あ、あのぉ」と、知らない女性に声を掛けられる。考え事をしていたから、反応が遅れる。


「え? あ、はい。何でしょうか」と、応じる。


彼女は、明るい茶髪を両サイドに三つ編みで束ねた若い女性。旅人用のブーツとマントを身に纏い、腰には剣を下げ、背中には大きなリュックを担いでいる。目が小さく、体は貧相で、少し内気な印象を受ける人だが、一体何用なのだろうか。


「あなたがた、ひょ、ひょっとして人材のスカウトの人でしょうか」と、その女性が言った。


何か盛大に勘違いされている。


居酒屋中の視線が集まる。


「いや、別にそうじゃない」と、応じる。


「え~でもさ、私が仕事したいって言ったら、考えてくれたじゃない」と、アイサが余計な事を言った。多分、悪気は無いんだと思う。


「あの、私、在籍していた冒険者パーティが解散になってしまいまして、私を雇ってくれるパーティを探していたんです」


「いや、一体何で解散に?」と、真面目に答えてしまう。


「元々男4,女4の冒険者パーティだったんですけど、仲間の男子達が戦争に行きたいって言って、私達女子グループが反対したら、それで解散になってしまって。それで、気付いたら私一人になっていたんです」と、その女性が言った。


うぐっ、何故だか気になる。何故この子がぼっちになったのか気になる。だけど、それを聞いたら居座られてしまいそうだ。


「その、泊まるところだけでも……このままだと私、娼館の門を叩くしか無くて。いや、叩いたんですけど、いらないって言われたんです」


それはかわいそうだが、俺に彼女を救ってあげる義理は無い。


「すまん。少し声が聞こえたんだが、仲間を募集している風だったんでな。自分は騎乗弓が得意なんだが、先日馬がやられてしまって、商売あがったりなんだ。だけど、元手があれば、絶対にまた仕事が出来るはずなんだ」と、知らないおっさんが言った。


そうこうしているうちに、また知らないおっさんがやってきて、「いやいや俺だって、これまで全ての貴族には断られたが、絶対に俺は役に立つ。嫁さんが病気なんだ。お願いだから仕事をくれ」と言った。


「いや~ここは一つ、みんな連れてさ、おっさんらの根城で二次会しようよ」と、アイサが言った。


こ、こいつは何を言って……


「まじか。良いのかよ」「良かった。安全なところで眠れる」「嫁さん連れて来てもいいか?」


俺達のテーブルを囲み、わいわいがやがやとなる。ちょっと待て。何でこんなことに。


「まあ、あそこ、基本的にみんな野宿ですよね」と、ケイティが他人事みたいに言った。


その時、居酒屋に弦楽器っぽい音色が響く……


綺麗な音色、静かで、だけどどこか嵐の前の静けさを思わせるイントロだ。


数秒後、綺麗なソプラノが響く。女性の歌声だ。


居酒屋の中が、一瞬で静かになる。


これは、こういうサービスがあるのか、もしくは弾き語りなのか……


俺は、女性の美しいソプラノを聴きながら、このカオス状態をしばし忘れ去った。

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