第92話 居酒屋面接

居酒屋を見渡すと、冒険者風の二人が見えた。二人とも女性だ。


俺は、そのテーブルを見ながら、「次は女性行こう」と言った。


「下心? これ以上女増やしてどうしようってんの」と、サイフォンがあきれた顔をして言った。


「まあ、いいじゃねぇか。向こうの小さなテーブルの二人組よろ」


「はいはい……」


サイフォンは素直に席を立つ。意外とフットワークが軽いヤツだ。サイフォンの形の良いお尻を眺めつつ、彼女を見送った。


・・・・


しばらく待つと、サイフォンは本当にテーブルに座っていた女性の二人組を連れてきた。サイフォン便利だな。俺は、少しサイフォンを見直した。


サイフォンが連れてきた女性二人は、二人とも背格好ががっしりしており、結構なベテラン冒険者のようにも見える。歳は二人とも二十は超えているだろう。


「こんばんは~隣街出身の冒険者パーティ『雪の音色』です」と、手前の女性が言った。鼻筋が通った気が強そうな女性だ。


ケイティがすかさず椅子を用意し、座ってもらう。


「おお。やっぱり冒険者か。それなら同業者だ。パーティは何人?」と、俺が聞き返す。テーブルに男3,女3で座っているから、なんだか合コンみたいだ。


「うちらは、女二人だけのパーティです。二人ともスカウトで、普段は行商の護衛とかやっています。大きな商隊の護衛だと、他の冒険者と合同で仕事を受けることもありますね」との回答。スカウトはどこのパーティでも必要で、夜を徹して監視を行うため、行商の護衛にはある程度のスカウトの人数が必要になるのである。彼女らは、スカウトが少ないパーティのヘルプに入ったりしているのだろう。


「君ら、ウルカーンに来たのはやっぱり戦争目当て?」と、聞いてみる。


「貴族のお抱えになれるんなら、それでも良いかなって思うけど、うちらの人数と実力じゃ難しいかな。ベテラン冒険者勢が貴族に雇われて戦場に行くから、普通の仕事が沢山あるんじゃないかって、田舎から出てきたわけ」と、二人組のうち、気が強そうな方の女性冒険者が言った。


「傭兵団に入ると戦争には行けるけど、ああいう所って男達からちょっかい掛けられるし、傭兵団はパス。なので、冒険者家業でやれるとこを探しているっすね」と、もう一人の女性冒険者。こちらは栗毛のすらりとした女性だ。


「冒険者歴は長いの?」


「6年目っすね。ウルカーン近辺は結構詳しいっす。ネオ・カーンにも行ったことあるんで、輜重隊の護衛とかの仕事にありつければ稼げるかなって」


「今回は勝ち戦みたいだから、危険は少ないだろうし、うまくいけばそのまま御貴族様のお抱えになれるかもしれないし」


ふむ。今回の戦いは、勝ち戦と思われているようだ。きっと、シラサギで相手をはじき返したからだろう。ウルカーン当局が積極的にそう宣伝しているのかもしれない。


「あ、それから地下迷宮の方も、低層階なら大丈夫です」


地下迷宮か。地下迷宮という言葉はちょこちょこ耳にするが、今の所俺達にとって、この世界にある謎施設っていう印象だ。これまではスルーしているけど、今後何かしら関わりが出てくるかもしれない。


「失礼ですが、ご家族、特に配偶者やお子さんなどはいらっしゃるのでしょうか」と、ケイティ。彼女らは、おそらく20代中頃だ。日本でいう大学生くらいだから、なんだか、こちらが面接しているようなイメージである。


「いや。旦那も子供もいないさ。正直に言うと、私らは女同士でもいけるんだ。そっちが楽でいいわ」と、気が強そうな方の女性が言った。


バイセクシャルの方でしたか。だから、女性二人で冒険者に。まあ、人生それぞれ。だけど、そんな彼女らだからこそ、それなりの信頼が置けそうな気がした。


偏見かもしれないが、自分達の世界を失わないために、仕事は一生懸命やってくれそうだ。


「私ら、ウルカーンの雑用ギルドの登録していますんで、もしスカウトがご入り用の際は、メーセージを入れておいて貰えたら。あなたたち、女性が多い冒険者パーティなんでしょ?」


彼女ら、自己防衛のためなのか、あまり男が多い職場はお好みでは無いらしい。


「うちらは何故か女性が多いパーティだね。了解。ご縁があれば」


「は~い。時間と報酬が合えばね~」


ギルドには、メッセージのやり取り機能もあるようだ。覚えておこう。



・・・・


彼女らが去ったあと、恒例の鑑定結果タイムに。


「彼女らのうちの片方の方は、元男性ですね」と、ケイティが言った。


「うん? どういうこと?」


ケイティは、「事情は分かりませんが、元男性です。スキルは、お二人ともレベル3スカウトです。それから睡眠レベル3という短時間で寝だめが出来るスキルを持たれています」と言った。


ううん。男性が女性になって、女性が好きな女性と同衾する……まあ、性や価値観というのは様々だ。


「さてと、時間もまだまだあるな。あと一組くらいいいだろう」と、俺が言った。


「はいはい。次はどなた?」と、サイフォンが応じた。


「カウンターのあの子。あの子、さっき入って来たっぽい」


そこには、旅装束姿の女性が、カウンター席に一人で座っていた。大きなサンドバッグみたいなバッグと剣を地面に置いて、居酒屋の店員と何か話をしている。料理や飲み物はまだ何も運ばれてきていないようだ。


「あ~あなたの好みっぽいね。お尻大きいし」と、サイフォンが言った。


「え!? 俺って、そう見られていたのか」


サイフォンは、「胸よりお尻の方が、視線向けられる回数多いし。行ってくる」と言って、テーブルを立つ。


何となく、サイフォンの後ろ姿を眺める。サイフォンは、胸よりお尻の方が魅力的だと思う。


形が綺麗なのだ。特に四つん這いになった時の形がとても色気がある。


俺がサイフォンのお尻を眺めていると、サイフォンがくるっと後ろを振り返る。


そして、勝ち誇ったような顔をして、カウンター席の方に向けて歩き出した。



・・・・


ウルカーンの居酒屋、綺麗なお尻の水色髪が、カウンターに座る大きなお尻の赤い髪の女性に話しかける。


そして、一瞬で打ち解ける。凄いコミュニケーション能力の持ち主だ。いや、相手が人懐っこいのかもしれない。


サイフォンとその女性は、しばらくカウンター席で駄弁り、そしてこちらのテーブルに歩いてくる。足元に置いてあった大きな荷物と剣を持って。


その女性は、俺達のテーブルに並べられた料理を見て、「いいの? 私、沢山食べるよ?」と言った。身長は俺と同じ170くらいで、赤く毛量が多い髪を、ポニーテールで束ねている。服は丈夫そうな布地のズボンと、質素なシャツの上に大きなポンチョを纏っている。


「いいっていいって。臨時収入があったから」と、サイフォンが言って、俺の左隣に椅子を運んでくる。


うちらのテーブルの上には、まだまだ料理が沢山ある。タコ料理は俺が速攻で平らげたけど。


彼女は人懐っこい笑みを造り、「あ、私アイサっていうんだ。村から飛び出してきちゃった」と言った。


家出娘か? ケイティが適当にお酒を注文している。酔わせようとしているのかもしれない。


アイサは、「それでね。どこかで私を雇ってくれないかなってね。村から武器も持ってきたし」と言って、俺の隣に座る。


座りながら、「うわあ、武器可愛いね」と、アイサが言った。今のは、どうも俺に言ったみたいだ。


「ん? 俺? ああ、これか、これはアクセサリー。武器じゃ無い。カッコ良いだろ?」と答えておいた。


俺の腰には、短剣『亡霊』が下げられている。なまくらでナイフとしては使えないし、俺はエリオンみたいに器用では無いから、これを使って何かをすることもできない。なのでこれは、アクセサリーなのだ。


「ふうん。あ、頂きます。お酒も頂きます」とアイサが言って、目の前の料理をがっつく。良い食いっぷりだ。


ニョッキのクリーム煮込みがまるで飲み物の様に無くなっていく。辛い料理を食べて、かっら~い! などと叫んでいる。元気な子だ。


俺は、そのドサクサに紛れ、タコの炒め物を追加注文しておく。


「さて、あなたは何をしにウルカーンへ? やっぱり戦争ですか?」と、ケイティが言った。


時間的に、この居酒屋面接は彼女で最後かな?


俺達は、この家出娘に事情を聞くことにした。

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