第86話 ウルカーンの街
おっさん三匹と女子二人がウルカーンの街を行く。
ネオ・カーンの街も賑やかだったが、ここも賑やかだ。もちろん、規模はこちらが上だ。
というか、戦争前夜だというのにめちゃくちゃ活気がある。
いや、戦争前夜だからこそかき入れ時なのかもしれない。人がどこかしこで忙しそうに動いている。
戦争とは、大量のモノを消費する行為なのだから、戦場になっていない後方の街は、意外と活気づくのかもしれない。
まあ、戦争の状況は明日にでも貴族組に聞くとして……
俺達は今、戦利品を売るために大都会ウルカーンの街道を歩いている。ネオ・カーンで見たような火がちろちろと灯っている灯籠が至る所にある。さすが炎の神ウルを祭る国家だ。
いつものおっさん三人と、ネムとヒリュウの五人で、手分けして戦利品を運ぶ。
武器屋の場所は、事前にシスイに聞いていたので、そこに向けてひたすら歩いて行く。
大量の人通りをかき分け、雑多な街並みを突き進み、そして、買い取りもしてくれる武器屋に到達する。
ここでは、戦利品の売却の他、うちらの装備も
実は俺達、ここまでの移動でそこそこの蓄えは築いていた。
ネオ・カーンで稼いだ分は全て食料と大八車に化けたけど、俺の荷馬車曳きの報酬として、キャラバンから50万ストーンほどの収入を得ている。
その他、トマトとバッタのコンボイの報酬が20万、小田原さんが回復魔術のアルバイトで稼いだ報酬が20万ほど、シラサギでのトラップ設置代金が50万、さらに、ナナセ子爵からネオ・カーン救出作戦の謝金として100万ストーンを受け取った。
ナナセ子爵達の救出は、本来はお金のためにやったことでは無かったのだが、感謝の気持ちということで、ありがたく受け取ることにした。彼女もお金が無くて大変だろうけど、精一杯の誠意だと思う。
それから戦闘メイドの訓練は、ボランティア価格の1日五千ストーンだったから、ほぼ誤差レベルだ。うちのネムが逆にお世話になっているし、お金が貰えるだけでもありがたい仕事なのだ。
しかも、ネオ・カーンからここまでの生活費は、ある意味タダだったりする。もちろん、最初に仕入れた穀物等の出費は別として、道中で狩りをしたり、ナナセ子爵領シラサギでは現金報酬の代わりに米や山菜、酒などの現物払いを受けたりしたので、現金の出費は無かったのだ。
なので、俺達のパーティは人数が15人もいるのに、ここまでは黒字経営でこれた……あくまでここまでは、という話だが。
これからは、生活費のために稼ぐ必要がある。一応200万以上の蓄えがあるとはいえ、人数が多いからサボればあっという間に貯蓄が底をついてしまう。
まあ、水魔術士11人組は、水ギルドである程度は仕事が貰えると踏んでいるし、雑用ギルドでも何かしら仕事があると考えている。とりあえずは戦利品を売れば、貯蓄の足しにはなるはずだ。
・・・・
武器屋に到着する。いや、防具や衣類も置いてあるようなので、武器屋というか武器も置いてあるリサイクルショップの様なたたずまいだ。
1階が石造りの家で、2階が木造のようだ。
玄関から入り、商品をキョロキョロと眺めながら買い取りカウンターに行く。
カウンターには若い兄ちゃんとおっさんがいて、武器を手にして店に入って来た俺達を見て、カウンターの上を片付け始めた。
俺達はそのカウンターの上に戦利品を置き、「買い取りを頼みたいんだが」と、小田原さんが言った。
店のおっさんの方が俺達の戦利品を見て、「おお、そりゃエアスラン軍の正規品じゃねえか? あんたら、ひょっとしてネオ・カーンから来たのかい?」と言った。
小田原さんは、「まあ、そんなとこだ。こいつらを売りに出したい」と言った。
店のおっさんは、「査定するから待ってな。今は武器が飛ぶように売れている。敵国の武器でも値が付くだろう」と言って、剣を鞘から抜き差しする。一応、手入れはムカデ娘に頼んでいたので、錆びずに美品のままだ。
そのまま、おっさんと兄ちゃんコンビが、剣一本一本に魔術を通して光らせたり、刃こぼれを確認したりし始めた。
俺は時間が掛かりそうだったので、「ちょっと、店の商品見てくる」と言って店の戸棚を振り返った。
壁には、ピカピカに磨かれた刀剣類が並べられ、安物なのか、傘立てのような枠に大量に入れられている剣もある。
俺は、武器はいらないので、靴を見に行くことにする。ネオ・カーンで買った安物のブーツが早速駄目になりそうなのだ。丈夫そうに見えたのだが、結構無茶な使い方をしたせいで、すでにかかとがすり切れ、ソールがぐにゃぐにゃになっている。
「あ、斧がある。
「これ、武器というか道具だと思うぞ?」と、返しておく。
「そうだね。薪割りに便利かも」と、ネムが言った。
「そういえばそうだな。斧がないと薪が割れない。独り立ちするんなら、色んな道具を揃えないといけないな」と言った。今までは、キャラバンの道具を借りていたのだ。
「そうだよ。野営するんなら、料理どうするかも考えなきゃ」と、ネム。
「ううむ。11人組の中に、宿屋の娘がいたはずだ。ヤツを料理番に任命しよう」
「その前に荷馬車を仕入れて、キャンピングカーに改造しようぜ」と、小田原さんが言った。
「そのためには、まずは資金だな。そういえば、ネムは何か欲しいものはないのか?」
ネムは監視任務をしっかりこなしているし、先日エアスランに襲われた時にも敵を一人仕留めている。もうすっかりうちの戦力だ。パーティ資金に余裕が出来たら、お小遣いでもあげたいが。
ネムは少し考えながら、「ううん。身に付けるものはシラサギで貰ったから、別に……あ、そういえば、小手が欲しいかな。訓練用の」と言った。
「そうか。明日から当面の間は戦闘メイドの訓練だからな。買え買え」
ネムは、スカウトなのに剣士を目指しているのだ。でも、子供の部活を応援しているみたいでついつい良い物を買ってやりたくなる。
「うん。皮のヤツがいい。ついでにブーツも買っていいかな。もらった靴が少し合わなくて」
「買え買え。俺もブーツ買う。ついでに普段履きのサンダルも」
「これから寒くなるから、マントがいると思う」と、ヒリュウが言った。
「まじか。こっちの寒さがまだピンと来てないけど、やっぱ寒いのか? 雪降る?」
「雪は滅多に降らないけど、雨が降ると凍えるくらいには寒い」と、ヒリュウ。
「そっか。レインコート的なマントとか、丈夫なタープにテントが必要なのかな」
「いざとなれば、あなたの水魔力とあいつらの水魔術でどうとでもなるとは思うけど、キャンプにはタープがあった方が良いと思う」と、ヒリュウが言った。
この世界のタープやテント幕は、巨大な魔物のなめし皮で出来ているらしい。お値段も結構するし、かなり嵩張るので、荷馬車がないと所持することが難しい。
「結局は荷馬車のゲットが先か」
などと言いながら、ブーツを物色する。だけど、ここは靴屋や皮屋さんではないということもあり、あまりサイズが置いていなかった。
「ここって、試着いいのかな」と、ネムが言った。
「靴はちゃんと試着して選ぶべし。それから、靴下もちゃんと買おう」と、俺が応じる。
それから、ネムとブーツを物色しながら駄弁っていると、「査定が終わったぜ」と、店の奥から声が聞こえる。
俺達は買い物を一時中断し、査定カウンターに向かう。
おっさん三人が揃うと、店の親父が「エアスラン正規兵の剣が1本50万、こちらの宝剣が250万、短剣は魔道具みてぇだから、うちでは扱えねえ。ギルドの管轄が違うんだ。そっちの折れた剣は、鍛冶屋に持って行きな」と、言った。
「ほう1本50万ですか。どうします? 即決ですか?」と、ケイティが言った。
「合計500万か。でも、査定が1本あたり5万違ったら30万も差が出るな」と、俺が応じた。
「計算速!」と、ネムが変な所に食いついた。
「ん? 日本人の特技、九九と暗算だ。それよりも、セカンドオピニオンをどうするかだな」
ネムは、くくってなに? などと呟いている。今度教えてやろう。
「私が思うに、手分けしてはいかがでしょうか。私が魔道具屋に行って来ますので」と、ケイティが言った。
「自分が武器屋の方に行ってくるぜ」
「ん? おいおい、別に騙しちゃいねえぜ。平時よりずいぶん高い値段を付けているつもりだ。今は品薄だからな。だが、宝剣の方は銘が入っているから、美術品としてなら、もっと高値を付けるヤツがいるかもしれねぇ。一番良いのはオークションだが、そっちは税金が取られるし、出所もはっきりさせないといけねぇ」と、店の親父が言った。
「親父、別に疑っちゃいない。だが、少しの手間で身入りが違えば、売る方にも高い方を選ぶ自由があると思うぜ」と、小田原さんが言った。
店の親父は、「そっか。うちに売ってくれれば、ブーツは安く売ってやるよ」と言った。
小田原さんは、「その辺も含めて判断するさ」と言って。カウンターの上の武器を拾い上げた。
それから、魔道具班に俺とケイティ、剣の売却班に小田原さんとネムとヒリュウが付き、手分けすることに。
合流は昼食会場にしている中央市場の入り口にして、ここは解散となった。
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