第85話 ウルカーン到着と別れ
「着いた-」
「着いたねぇ~」
俺の隣のムーが、俺のギャグに併せてくれる。優しい。
街道を抜け、ようやくウルカーンの城門に着いた。
この街の城門は、街の中にあった。
街の外にも街が形成されていると言った方が正確だろうか。
長らく外敵に攻められたことがない街であったため、自然とそうなったらしい。一体土地の所有権がどうなっているのか不明だけど。
俺達は、ウルカーン貴族組の計らいで、貴族用の城門を潜ることができた。簡単なスキル鑑定で通してくれたのだ。もちろん、スカウトスキルのネムも、霧隠れの術を持つヒリュウも問題なく通ることができた。持つべきものは、やっぱり権力者の友人なのだと思った。そのことは、ここも日本も変わらない。
俺達の横を、荷馬車と騎乗の護衛達が通り過ぎ、その騎乗護衛のおっさんが「じゃな、千尋藻さん、ティラネディーアに来た時には、冒険者ギルドに寄って、『土のヒューイ』を尋ねてくれ」と言った。
彼は冒険者パーティ『土のヒューイ』のリーダーだ。
俺は、右手を上げて、「分かった」と応じた。
異世界を巡るのも楽しみになってきたなと思いつつ、街道を進む。
俺の目の前にはウマ娘がいて、駐車場まで先導してくれている。
彼女の腰布がひらひらするのを眺めながら、ひたすら荷馬車を曳いていく。
・・・・
荷馬車用の駐車場前に着く。今はまだ午前中であるからか、結構ガラガラだ。
併走していた荷馬車から、アリシアが「ではな、千尋藻、明日の朝待っているぞ」と言った。
明日、俺は戦闘メイドの稽古のバイトをする予定だ。場所はエリエール子爵だったっけ?
とにかく、明日は朝練のために、トマトとバッタがしばらく宿泊する屋敷にお邪魔する予定だ。
明日の朝にまた会うし、彼らとは、お別れの挨拶も無しだ。だが、ここで少し寂しそうな顔をしている男が一人……
「あのぉ、僕も、ここでいいでしょうか」と、ジェイクが言った。変な言葉使いだが、彼なりにお別れを切り出しているのだろう。
そうなのだ。彼とは、ウルカーンまでという約束でパーティを組んでいたのだ。ケイティが世界の異分子と何か関係あるのかと考えて一緒に行動していたのだが、どうもそういった兆候は無いような気がする。なので、おっさん三人で話合い、彼が望んだら、慰留は無しにしようということになっていた。貴重な男手なので、彼が望むならそのままパーティ続行でもいいかとは考えたのだが……
「そうか。少し寂しくなるな」と、俺が応じる。
「はい。すごく楽しい旅でした。といいますか、私はあなたのお陰で命拾いをしたのかもしれません」と、ジェイクが言った。
「ふうん。行くんだ」と、ネムが言った。意外にも、ネムは少し寂しそうな顔をしていた。まあ、冒険者パーティ『三匹のおっさん』の最年少はネムなのだ。ララヘイム11人組は全員ほぼ同じ歳で11人で連んでいるし、彼女が懐いている小田原さんは二回り以上歳が離れているし。
俺達おっさん三匹は、共に四十代。ネムは十代でジェイクは二十代だ。ネムにとって、ジェイクは歳が微妙に近く、頼れるお兄ちゃん分だったのだろう。
「ああ、ここで別れないとずるずると行きそうで」と、ジェイク。
「元気でね」と、ネムが言った。
「せっかく仕事にも慣れてきただろうに、まあ、頑張れよ」と、小田原さんが言った。彼と一緒に行動していたのは彼だ。色々と思うことがあるのだろう。
ジェイクは少し寂しそうな顔をして、「僕は、やっぱりソロが向いているんです。あ、でも冒険者は続けますし、しばらくウルカーンで活動しますから、助っ人が必要な時には呼んでくださいよ」と言った。
「分かった。達者で」と、俺。本人がソロを望むのなら、慰留はしない。
ケイティは、じっと黙ったまま彼を見つめている。
ジェイクはぺこりとお辞儀をすると、荷馬車のオートキャンプ場的なヤードには行かず、そのまま街の方に行ってしまった。別れとはあっけないものだ。まあ、それも旅の醍醐味というものだ。気持ちを切り替えていかなければならない。
俺は、最後の仕上げとばかりに、キャラバンの荷馬車をヤードに曳いて行った。
・・・・
モンスター娘達のキャラバンと護衛の『炎の宝剣』、それから俺達の大八車を駐車場に止める。それぞれ隣同士だ。
「じゃあ、私らは水ギルドに行ってくる。お金ちょうだい?」と、サイフォンが言った。お金と言うのは11人分のお昼御飯代その他の資金のことだ。今はちょうどお昼だし、外食することにしたのだ。隣のモンスター娘達はせっせと昼ご飯の準備をしているけど。
俺は、「分かった」と言って、十万ほど渡す。お昼代の他、夜の食材の買い出しと、彼女らの身の周りの備品代として少し気を使った額だ。彼女らは、着の身着のまま俺達の仲間になったし、シラサギではあまり若い女性用の下着や服がなかったのだ。なので、ここで調達してくることになった。
サイフォンはお金を受け取り、「サンキュー。お礼はあそこ払いで」と言った。この残念美人は……
そのままララヘイム11人衆は、ぞろぞろと街の方まで出かけてく。
彼女らを見送った後、「さて、俺らは戦利品の整理だな」と言って、大八車を見る。
そこには、大小様々な刀剣類が入っていた。
エアスラン軍との戦闘でゲットした戦利品を、手柄に応じて分けたのだ。
「おう。エアスラン軍正規兵の剣が5本。これらは全て雷の魔道具付だ。それから、バーンとやらが持っていた大剣が1本……まあ、折れて2本になっているがな」と、小田原さんが言った。
大剣使いのバーンくんは、サイフォン達が爆殺してしまったらしく、その時に彼が手に持っていた剣は無残にも折れ曲がっていた。元に戻そうと反対側に曲げてみたら、綺麗にポッキリ折れてしまったそうだ。
「バーンくんの大剣にも、雷の魔道具が付いています。
「いいんじゃない? それからヒリュウがパチってきた高そうな剣か」
ヒリュウは澄ました顔をして、「倒したのはあなただし」と言った。
ヒリュウのやつ、シラサギから逃げる時に何か持っているなとは思っていたが、敵の英雄級エリオンとクメール将軍の武器をかっぱらってきたようだ。
クメール将軍の直剣が1本、エリオンの短剣が2本ある。ヒリュウが言うには結構な値打ちの品らしいのだが、縁起が悪いような気がして使う気がしない。特にエリオンの短剣は結構特殊なものらしく、ヒリュウも使わないそうだ。後で普通の短剣を買って欲しいそうだが。
俺はネムの方を向いて、「ネムはそれでいいのか? お前、一人仕留めたんだろう」と言った。ネムは、なんと敵兵を一人倒したらしい。相手は少年兵だったとはいえ、プロの軍人を倒したのはすごい。剣を習い始めたばっかりなのに無茶したもんだ。
ネムは、「僕はこの剣でいい」と言って、腰に下げている剣を撫でる。ネムの剣は、俺が貸しているスパルタカスの剣だ。細くて短いため、使いやすくてちょうど良いらしいのだ。しかもその剣、スキルを使用していたとはいえ、俺のボディを貫いても刃こぼれ一つしなかった業物だ。
「他の戦利品は全て売却かな」
「自分はかまわんぜ。まあ、魔道具っぽい短剣は、売値を聞いてみて保留でもいいがな」と、小田原さんが言った。
ケイティのスキル『鑑定』によると、クメール将軍の剣は純鉄製のかなり上等な剣で、エリオンの短剣2本は、1本が赤い儀式用のなまくらで、もう一本が高純度魔鉄製の短剣らしい。要は剣の形はしているが、魔術を使うための魔道具なのだとか。ちなみに、俺の首を切り落としたのは、赤いなまくらの方だ。
あの時、あの赤い短剣がにょきっと伸びて、俺の首をはねたのだ。俺としては、縁起が悪いので早く手放したいと考えている。
「ま、とにかく武器屋に行ってみよう。急いで売ることもない」
「ああ、足元見られないようにしようぜ」と、小田原さんが応じた。
俺達おっさん三匹とネムとヒリュウは、手分けして武器を持ち、一路武器屋を目指すことにした。
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