第84話 バーベキュウ大会と、小説の結末


最近恒例の、バーベキュウ大会が始まる。


行商人から少し酒を分けてもらい、ちびちびとやりながらジビエ料理に舌鼓を打つ。


色んなチームのメンバーと混じってわいわいガヤガヤとやる。


そんな一時を過ごしていると、俺の席の横にヒリュウがやってきて、「あ~お腹減った」と言って、俺が育てていたイノシシ肉をひょいぱくひょいぱくと平らげていく。


ヒリュウは監視任務に出していた。交代の時間になったので、メシを食いに戻って来たのだろう。


ヒリュウはエアスランにあるという忍者の里『ヨシノ』の出身で、彼らが借りパクしないように俺の所に預けられている人材だ。要は、俺はゴンベエというくノ一の求めに応じて、ヤツが排除したいと考えていたスキル『悪鬼生成』を操る敵の将軍サマを暗殺した。そのお礼を受けるため、今度忍者の里の長と会うことになっているのだが、いつ来るか分からないため、このヒリュウが俺の元に来て働いていると言うわけだ。というかこいつは、俺達に捕らえられているという体であるため、エアスランに戻ることが出来ないのだ。


体を楽しんでよいらしいのだが、こいつの引き締まってはいるが貧相な体は、まるで自分の実娘みたいで手を出そうとは思わない。しかも、年齢は18歳で娘と同じ歳だ。ちなみに、ギランは美少女風に見えるが、20歳だからセーフだ。意外と年なのだ。


そんなこんなで、こいつには遠慮無く監視や偵察任務を与えている。本人も不平も言わずにちゃんと仕事してくれているので助かっている。


なので、「ごくろうさん。食ってけ」と言っておいた。


さて、お酒も飲んだし少し催してきた……トイレに行くか。


ここのトイレ事情は、仮設トイレだ。地面に穴を掘って、その上に穴の空いた椅子を置いて、四方に木の柱を建てて幌で目隠ししただけのシンプルなヤツだ。一応、男女別に分けられている。


俺がスタスタと少し離れたトイレまで歩いて行くと、タイミングを見計らったかのように近づく人物が……


「あの、その、よろしいでしょうか」と、その人物が少し小声で言った。


彼女は、ムカデ娘のセイロンだ。モンスター娘キャラバンの料理人を務めている。


彼女の体には、所々に黒い外骨格がある。その部分にオレンジ色のラインが入っていたりして、ちょっとカッコ良い。


手足がすらりとした美形で、少しツンとした感じのクールビューティである。


セイロンは、艶のある真っ黒な髪をかき分け、少し恥ずかしそうに俺の返事を待つ。


「ええつと、トイレで? いいけど。終わったあとね」と言った。


セイロンは、「いえ、一緒に入ります。その、すぐにしたいんです。私、どうされてもかまいませんから」と言った。


ふむふむ。クールビューティに見られながら出すのか。まあいっか。


俺は、セイロンと一緒に男子用仮設トイレに入る。男子用は、小の方はみんな草むらで致すため、結構空いているのだ。俺は小もトイレでするけど。


トイレに入った瞬間、セイロンが俺を後ろから抱きしめてくる。俺はかまわず用を足す。彼女と俺は、こういう関係なのだ。


セイロンは、クールビューティな顔で、「ああ、ちろもぉ……お慕いしております。その、行きますね」と言って、俺の首に顔を埋める。


そして……がぶりと噛みつかれ、その後どくどくと何かを注入される。それに伴う激痛……思えば、俺の体は鋭いナイフで突き刺されても傷一つ付かない特別製だ。スパルタカスのブレイクでようやく剣が突き刺さった。木刀で思いっきり叩かれてもほぼ痛みは無い。エリオンの変な呪いで首を落とされたけど、あれは、厳密には物理攻撃ではない。


かつて、七曜の忍者ゴンベエから毒の魔術を喰らったことがあるが、それも目や喉が多少痛かった程度。それなのに、彼女の毒噛みつきは相当痛い。というか、牙が俺の皮膚をちゃんと貫通している。凄い顎の力だ。痛みは、ひょっとしたら、俺の過去のトラウマが原因と思われる……要は、ムカデの毒は痛いという認識が激痛を生んでいるのではないかと思っている。


彼女は、俺を抱きしめながら、ガクガクと震え出す。俺は、彼女のその痙攣を、背中で堪能する。用をたしながら……


そう、ムカデ娘は、噛みついて相手に毒を入れている時に、超絶快感を得られるのだ。ただし、ムカデ娘の毒は超猛毒らしく、普通は患部が壊死し、生死の境を彷徨うことになるとか。


誰かが言っていたが、ムカデ娘が恋をすることは厳禁なんだと。好きな相手と気持ち良くなりたいがために、噛んでしまいたいという欲求が生まれ、そしていずれは噛んで殺してしまう。


だが、俺は痛いだけでケロっとしている。なので、彼女は俺のことを何度も何度も噛みついてどくどくと……


セイロンは、「ぷはぁ……してください。わたし、もう……」と言って顔をとろけさせ、するりと下の履き物を下げていく。


俺は、美顔が破綻した彼女の方に振り返り、優しく抱き締め、その求めに応じることにした。これが俺と彼女の日常。彼女は、猛毒注入後のセック○が癖になってしまっていた。


だけど、俺の方も、彼女の虜に……彼女、名器なのだ。俺は、彼女の名器に…………


そうして、今回の長旅最後の夜が過ぎて行く。



◇◇◇


ガタンガタン・・・ガタンガタン・・・ガタンガタン・・・


夜、居酒屋のバイトを終えた小峰綾子は、一人電車に揺られていた。終電近い電車は、酔っ払いやくたびれたサラリーマンだらけだった。


今日も基本的に同じ生活だったなと思いつつ、安物の鞄からスマホを取り出す。


少しだけ違うことといったら、スマホの無料小説なるものを読んだこと。不意に18禁版を読んでしまい、ついつい……


あの後、あの人の奥さんが帰ってきて、それから少しだけ会話して、そしてバイト先である居酒屋『赤城屋』に向かった。そして今は、そのバイトが終わり、家路についている。


そういえば、あのお話の続きはどうなったのだろうか。

続きが気になる小説は、婚約破棄されたアイリーン・ナナセという女性の物語だ。


自分が陵辱されることを予見し、千尋藻城という男に体を許すところまでは読んだ。


小峰綾子は、スマホをいじり、閲覧履歴から件の小説サイトにアクセスする。


そして、『次話』をタップ。


男との濡れ場の後は、戦の準備に取りかかったようだ。


そして、予想通り敵が自分達の街に攻めて来る。


それと同時に街中で反社会勢力達が一斉蜂起し、あっという間に負けてしまう。


バーンという金髪の若い武将に捕らえられ、そして……ここでも18禁サイトの案内が。


ご丁寧に、濡れ場は読まなくてもストーリーの把握には関係無いと書かれていたため、小峰綾子は濡れ場シーンを読み飛ばすことにした。


そして次話、18歳未満の人のために簡単なストーリーの説明がしてあったが、要はバーンという男に全ての穴を犯され、その後別の兵士10人ほどにも犯され、さらに味方が籠城する砦の前に連れて行かれ、そこで犬に犯されるという内容だったらしい。


小峰綾子はそのシーンが少し気になったが、話の先が気になったため、そのまま画面をスクロールする。


犬に犯されている最中、相手のクメールという敵軍の将軍が出てきて、自分の口の中に靴をぶち込むは頭を踏みつけて高笑いされるわで相当なヘイトを溜める。


その時、颯爽と現われる千尋藻城と、スキンヘッド……


スキンヘッド? 小峰綾子は千尋藻城と一緒に事故に遭っていまだ目覚めない男の一人が、スキンヘッドであったことを思い出しつつ、次話をタップする。


その場は千尋藻城とスキンヘッド、そしてペットのバターくんの活躍で切り抜けたようだ。


そして別の仲間との合流……その仲間は、七三分けのケイティという名前だった……


あり得ない。事故に遭ったもう一人の名前は、高橋ケイティで、ヘアスタイルも七三分けだった。


小峰綾子は、少しぞっとしたが、ここまで自分の知り合いと一緒なのであれば、おそらく事情を知っている誰かが名前と容姿だけ拝借して書いたのではと考えた。


あの人の奥さんか、スキンヘッドの元奥さんか、ケイティさんの同僚の人か、あるいは病院関係者か……


小峰綾子は悶々としながら次話をタップしていった。




・・・・


深夜、ベッドの上、小峰綾子は、少し夜更かしをして小説を読んでいた。


占領された町を脱出した後は、彼女が育ててきた荘園『シラサギ』にたどり着き、温泉シーンが入るなど比較的平和な時が続いたが、敵が再び攻めて来る。


それは援軍という手で凌ぐことが出来たようだ。それにしても、この千尋藻城達は、あっけなく主人公アイリーンを気にすること無く旅立ってしまう。薄情な男だと小峰綾子は考えた。


援軍に来たクロサマという女騎士と、ダイバという60代の最強騎士がとてもカッコ良く描かれており、彼らはその後もシラサギ防衛の要として活躍していく。


クロサマは途中でウルカーンという街に帰ってしまうが、新たに増援も送られ、総勢千人規模の部隊と一緒にシラサギの要塞化に着手する。


クメールという将軍は撃退したが、エアスラン軍の本体はまだ5万の兵士数がいる。


主人公のアイリーンは、五万の敵勢力を食い止めるべく、さらなる援軍要請、伏兵やトラップの配置、兵士の訓練などに邁進していく。


小峰綾子は、だんだん眠たくなり、この小説は一体何話まであるのだろうと思い、目次のタブをタップする。


そこには、ずらりと未読の話が並んでおり、下の方にスクロールしていくと、最終話というものがあった。


なお、この小説のお話にはサブタイトルが付いておらず、基本的に1話、2話……と、数字だけが書かれている感じになっていた。


小峰綾子は、少し躊躇しながらも、その最終話をタップする。


そこには……


『内容がエロすぎたため、18禁サイトをご覧ください』の文字。


小峰綾子はスマホをぶん投げたくなったが、それで損をするのは自分だけであるため、思いとどまる。


だが、その下の方に概要版が書いてあり、少しほっとしてざっと読む……


「はあ?」


小峰綾子は、その結末に納得がいかなかった。


この物語は、婚約破棄されたかわいそうな女性が新天地を見つけ、そこで成功する話ではなかったのか。


小峰綾子は、絶対にハッピーエンドだと思っていたのだ。何故ならば、男運レベル10というチートスキルを体に宿し、これまでもピンチの時には男が助けに来てくれたのだ。


だけど、。しかも、がっつり調教されたと記載されているし。


小峰綾子は小説を読むのを止め、部屋の明かりを消して眠りについた。

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