第83話 今後の方針会議

夕食までの時間、少し時間が空いたので荷馬車の間をてくてくと歩く。


彼らとはかれこれ2週間近く一緒にいるため、どの荷馬車が誰のものか覚えている。


今、目の前にある荷馬車はバッタ男爵のものだ。バッタ男爵とトマト男爵は、ネオ・カーンが戦争に巻き込まれることをいち早く察知し、家臣団を引き連れてウルカーン出張に出かけた。読みは的中し、命からがら脱出に成功。ネオ・カーンに残して来た財産は失ってしまったが、荷馬車数台分の資産と部下、そして自分とその家族の命は助かった。


「あ、千尋藻さん、お疲れ様です」と、俺に気付いたエプロン姿の僕っ子が言った。


彼女はぱっと見少年のようだが、ちゃんと女性だった。孤児みなしごだったがバッタ男爵に拾われ、こうしてバッタ男爵の世話をしている。


「お疲れさん。暇だから散歩」と答えておく。ここにはスマホもパソコンも無いから、時間つぶしといえば散歩くらいしかないのだ。


「おう千尋藻か。あいつらなら元気だぞ? ウルカーンに着いたら衛兵に引き渡してやる。ワシの知り合いに衛兵の親分がいるからな」と、野太い声がした。


そこには、ふりふりのドレスを纏ったおっさんがいた。こいつはバッタ男爵だ。剣豪とうたわれる凄腕の剣士で、俺の地稽古仲間だ。


ここで言う『あいつら』とは、今朝出会ったハンター達四人のことだろう。モンスター娘を攫って売ろうとしたため、捕らえたのだ。俺達では人攫い未遂者の処理など持て余すので、身柄は貴族であるバッタ男爵達に預けた。


人攫いはウルカーンでも重罪で、未遂だったとはいえ、結構重い罪に問われるらしい。というか、売り先を知っているような口ぶりだったため、これから本職の人が魔術的な何かで情報を引き出すとかなんとか。


「あ、男爵、お疲れです。別にあいつらの健康状態は気にしていませんので。だけどモンスター娘が高く売れるという情報が少し気になる」


「ふん。しばらくしたら、ワシの家を尋ねてこい。結果を教えてやる」と、バッタ男爵が言った。


「そっすね。アリシアのとこの稽古もしばらく続けるんで、会おうと思えば会えますね」と、応じる。


トマトとバッタは、ウルカーンでは寄り親の屋敷に宿泊するらしい。彼らの荘園はウルカーンの街からさらに東に行ったところにあるらしいが、今回はエアスランとの開戦の影響で、しばらくウルカーンに足止めになるだろうとのことだった。


俺達もしばらくウルカーンにいる予定であるため、戦闘メイドの稽古のバイトは続ける予定にしている。うちのネムの修行も兼ねているし、何気に俺の稽古にもなるのだ。俺は、戦闘の素人だから、大いにためになっている。


「あ、そこにいたんだ」と、ひょっこり現われたあいつが言った。


「ギラン、俺に用事?」


「そうそ。ジークが夕食一緒に食べようって。夕食前に少し話もしたいらしい」とギランが言った。


ギランはオオサンショウウオ娘だ。髪の毛は、黒っぽいオリーブ色をしており、今日はツインテにしている。彼女のうなじは髪の毛の色と同じオリーブ色だ。というか、背中一面お尻から太股の裏からふくらはぎまで全てオリーブ色だ。対して顔から胸、下腹部や足の前側は真っ白なのだ。キメが細かいシミ一つない綺麗なお肌をしている。


顔は美少女で天真爛漫な性格だと思う。


俺は、「話か……今後のことだろうな。分かった。仲間に話ししよう」と言って、この場を去る。


ギランは、俺についていくらしく、斜め後ろをてくてくと歩く。


ギランは、後ろから「ねえ、今晩は誰とするの?」と言った。


こいつは、一体何が楽しいのか、夜は必ず俺の布団に忍び込む。殆ど趣味というか日課の領域だ。こいつの頭の中は、ヤルことしか考えていないと思う。これまで、俺と色んなところで色んな事をやった。


「いや、決めていないけど」と、答える。


ギランは目を輝かせ、「今日はさ、久々に二人っきりでしない? 街に行ったら人の目が気になるから、今日はお外で思いっきりしよう」と言った。これは、アレのお誘いだ。


俺は、「まあ、別にいいけど」と答えてしまう。


俺は、なんやかやとこの子の押しには弱い。あの日、人の姿をした悪鬼とやらを殺した日、彼女の求めに応じて、まだ生娘だったこの子とセック○してしまった。一晩中。殺人という嫌なことを忘れるため、少し彼女に甘えてしまったのだ。それ以来、俺と彼女はこういった不思議な関係になっている。もはや、日本にいるはずの嫁とか貞操のことなどはすっぱり忘れ、異世界ライフを楽しんでしまっている。


ギランは、「やった。約束ね」と言って、どこかに歩いて行く。彼女は、その天真爛漫さで、己の若さを精一杯満喫していると思った。


彼女の少し小ぶりなお尻からは、ぬるっとした感じの尻尾が生えている。


彼女が歩く度、その尻尾がふりふり揺れる。その揺れ方は、多分嬉しいときの揺れ方だと思った。



・・・・


モンスター娘達の超巨大荷馬車の前、コンボイメンバー達が、ずらりと並べられた椅子に座っている。今日の話合いは、最初はキャラバンと俺達だけの予定だったのだが、明日にはウルカーンに到着ということもあって、ティラネディーアの行商人やウルカーンの貴族組も参加することになった。


最初にジークが、「多いな。まあいいか。それでは、今後の身の振り方を話し合いたい。というか、千尋藻達の今後を聞かせてくれ」と言った。ジークらは俺達の身の振り方が気になるのだろう。


「ええつと、ウルカーンで金を稼ぎつつ、とりあえず色んな装備を揃えていこうくらいしか考えていない」と、俺が言った。


「自分らは、とりあえず荷馬車を手に入れようと考えている。いくら掛かるか分からんし、戦争準備中のウルカーンで入手できるか未知数だがな」と、小田原さんが言った。


そうなのだ。俺達は行商をする気は無いが、モンスター娘達の様に少し大きめの荷馬車が欲しいと考えていた。うちの冒険者パーティは、人数が15人もいるのだ。宿屋になんて泊まると不経済なのだ。幸い、うちの女性陣は野宿しても大丈夫な連中だし。


「お金の稼ぎ先に、当てはあるのか?」と、ジーク。


「雑用ギルドかな、とりあえず。サイフォン達は水ギルドに行くらしいけど」と答える。俺達は、ネオ・カーンの雑用ギルドのお陰で色んな人に出会えたのだ。結構儲かったし、今回も雑用ギルド……通称冒険者ギルドを頼ろうかと考えている。


「ウルカーンの雑用ギルドは、ワシらの寄り親エリエール子爵の領分だ。困った事があったらワシらを頼れ」と、バッタ男爵が言った。頼もしい。持つべきものは、権力者の知り合いなのだ。


「そうか。しばらく、うちらと連絡を取り合おうぜ。寝床もうちの荷馬車の隣に設置するといい。大八車を駐めておけ」と、ジークが言った。


「それはありがたい。味方が近くにいてくれた方が安心できるしな。護衛の『炎の宝剣』の費用は割り勘でもいいぞ」と、応じる。彼らはもうしばらく雇う予定らしい。結構安くしてもらっているのだとか。


ジークは、「いやいや、お前達に護衛はいらないだろう。人数もうちより多い。それよりもだ、うちらの数人がお前達に懐いている。子作りも、もうお前達でいいという者も出てきているしな。一緒にいてやってくれると嬉しい」と言った。


そう言われても少し困るのだが……この世界の魔術には、避妊が出来るモノがあり、これまではそれで避妊してきた。逆にそれがあるからこそ、安心してセック○ができた。


子作りと聞くとどうしても責任とセットと感じてしまう。異世界で子育てをするつもりは無いのだが……


「前にも言ったが、うちらは子供は国で育てる。父親に負担は掛けないぜ」と、ジークが言った。そう言われてもなぁ。


「まあまあジークさん、その辺は個人で話し合えばいいことだと思う。今決めなくてもいい。しばらくは、少なくとも夜は顔を合せるのだし」と、シスイが言った。


「分かった。それから、ウルカーンとエアスランの戦争のことだが、流石にエアスランがここまで攻め込むのは、最悪でも相当後になると思うんだが、信頼出来る最新情報を仕入れたい」と、ジークが言った。


「それならば、私達のエリエール子爵を頼るか、もしくはヴァレンタイン伯爵夫人のご実家はどうだろうか」と、トマト男爵が言った。


ヴァレンタイン伯爵夫人はケイさんという。おっぱいが大きくボリュームのある髪の毛で、とても色気がある人だ。ネオ・カーンの領主夫人だったのだが、旦那は戦争に負けた時に自害したらしく、今は亡国の未亡人として、実家を頼ることにしているらしい。


ヴァレンタイン伯爵夫人は、「私の実家はエルモア子爵といいます。あなた方は私達の恩人ですから、実家も無碍にはしないでしょう。エルモア子爵家は、ウルカーンの軍務官を務めている家。今は、国軍の輜重隊の一部を任されています。きっと情報を仕入れているはずです」と言った。


話が早いな。


「ティラネディーア組は予定通りかな?」と、ジークが行商人に向けて言った。


行商人は、「はい。我らは、ナナセ子爵の計らいで、シラサギの特産品を大量に安く仕入れることができました。本国に戻れば一財産になります。予定通り、我らはウルカーンの滞在は必要最低限にし、護衛の『土のヒューイ』共々ティラネディーアに向かいます」と言った。彼らは、ネオ・カーンからの移動中、街道で荷馬車がスタックしていたのだ。俺がそれを助けた縁なのか、俺がナナセ子爵を助け出すという言葉を信じ、商売のためとはいえ、逃げずに俺達を待っていてくれた。商魂たくましいと言うか何というか。そんな彼らとも、ここでお別れか。


ジークは、「よし。大体話は聞けたな。そろそろ乾杯しよう」と言った。


皆、自分の焚き火台の方を向く。


これから、バーベキュウ大会だ。


この旅ももうすぐ終わり。俺は、今後の事は少し棚に上げて、今日の飲み会を楽しむことにした。

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