第82話 最後のキャンプ地

今回の旅、最後のキャンプ地に到着する。後もう少しでウルカーンだ。

俺が荷馬車を曳き終わり、軽く体をほぐしていると、続々と後続の荷馬車が到着する。


「今日はここでキャンプか?」と、大八車を引いている小田原さんが言った。その隣にはケイティもいる。


この二人が俺と一緒に日本から転移してきた人達で、冒険者パーティ『三匹のおっさん』の初期メンバーだ。


小田原さんがスキンヘッドで、ケイティがサイドシェードの七三分けだ。


「そうみたいですね。少し早いけど」と応じる。


「じゃあ、ここで組み立てますか」と、スキンヘッドの隣にいた青年が言った。


彼は前の街で仲間にしたジェイクという青年だ。一応、このウルカーンの街までのお供という約束で一緒に行動している。


ウルカーンに着くと、彼とはお別れになってしまう。実は、モンスター娘達とも、一応、ウルカーンまでの契約だったりする。それに、他のコンボイ、トマトとバッタ男爵、護衛の冒険者や別の行商人ともここで解散だ。


ネオ・カーンの街から一緒に行動して、戦争に巻き込まれたり、一緒に温泉に入ったり、短い間だったけど、苦楽を共にしてきたのだ。解散となると少し寂しくなる。まあ、別に会えなくなるわけではないのだが。


少し感傷に浸っていると、ぞろぞろと10人くらいの女性メンバーが俺の方に来て、その中の一人が「水はどうしよう。出しておいた方がいい?」と言った。


彼女らは、ララヘイムという国出身の水魔術士だ。今声を掛けたのは、その代表者、サイフォン・オリフィスという。水色のロングヘアで水色のレース付きのローブを纏い、とても清楚な女性に見える。


彼女らとは戦場で敵として出会ったのだが、殺すのも忍びなかったので捕らえてみたら、全員まるっと仲間になった。冗談のような本気の話。


「そうだな。ここには川がない。用意した方がいいだろう」と応じた。


「了解。ついでにクリーン掛けよっか? 結構汗掻いたでしょ」と、サイフォンが言った。


クリーンとは、水魔術の一種で、服を着たままでも体が洗えるというとても便利な魔術だ。


「あ、ああ頼もうかな」と言たっら、サイフォンがずずいと体を寄せてきて、「綺麗にしとかないとですね。あ、でも、私は汗臭さも好きよ」と言った。


そして、俺の股間から念入りに洗い出す。


こいつはこんなやつだ。貴族令嬢のはずなのに、どこか下品なのだ。サイフォンはオリフィス辺境伯の娘というお嬢様で、格下の子爵家の御曹司と婚約していたが、何故か婚約破棄され、下町でやけ酒して気づいたら、知らないおっさん10人とセック○していたという伝説の持ち主だ。


その後、親から、追放されるか軍隊に行くかどちらか選べと言われて今に至る。


サイフォン以外の10人は、サイフォンの学友達。下級貴族の令嬢や商家の次女やら三女やら。放っておくとおじいちゃん貴族の後妻に入ったり、どこか同レベルの家のこれまた次男やら三男やらとしか結婚できない家格の人達らしい。彼女らは、騎士団でのロマンスを夢見て、サイフォンについていった。


そのはずなのに、俺に捕まり、何故かそのまま仲間になるという……彼女らにとって、今が幸せなのかは分からないが、少なくとも、ここにいる限り命の危険は少ない。戦争中の軍隊よりはという話だけど。


彼女は、全員俺の特別な騎士なんだとか。そういう誓いを立てられている。騎士の誓いの後、サイフォンがノリノリで騎士の誓いの儀式じゃ~などと言って、全員とセック○してしまった。この体は丈夫なので何とか耐えきった。


まあ、今でも肉体関係を続けているのはほんの一握り……サイフォン本人と、その相方、男爵令嬢のベルと、ゆるふわ美人の宿屋の娘くらいだ。


俺が念入りにクリーンを掛けて貰っているところに、別の荷馬車がゴトゴトと入ってくる。

その荷馬車の周りには、メイド服を着て、ハルバードで武装した騎乗兵がいる。御者席には帯剣したメイド服。彼女らは、トマト男爵の戦闘メイド達だ。


俺は、バイトで彼女達の剣の稽古に付き合っている。論理は飛躍するが、俺は彼女ら全員のお尻の触り心地を熟知している。


セクハラOKのバイトだからな……


荷馬車が止まると、中から、ズボン姿のメイド服を着た女性が降りてくる。少しがっしりした体格の女性である。綺麗な銀髪のポニーテールで、お顔の造形は綺麗なのだが、どこか抜けている感じがする顔だ。


「よし、ここでキャンプだ。さっそく食事の準備をするぞ。生活魔術班は調理開始。スカウト班は周りの警戒を頼む」と言った。


「よ、アリシア。元気?」と声を掛ける。


このアリシアというのが戦闘メイドの剣術指南役だ。


メイドとしての腕前は残念なことになっているが、剣は一流だ。俺も彼女と地稽古をするが、俺の反射神経を持ってしても、ぽこぽこと入れられてしまう。


アリシアは素っ頓狂な顔をして、「元気だぞ? どした?」と言った。


「いや、別に用事はないんだけど」


「そうか。今日はもう剣の稽古はない。ああ、食事の後に合流して少し駄弁るか。うちのメイドも喜ぶしな」と言った。


彼女らの雇い主であるトマト男爵は、結構緩い性格らしく、雇っているメイド達に酒を飲ませたり、夜遅くまで駄弁っていても何も言わない。仕事さえきちんとしてくれたら、私生活にまで口を出さないという方針なのだろう。


というかこの戦闘メイド達、先日、エアスランの斥候部隊三十人が襲撃してきたとき、結構な数の兵士を仕留めたらしいのだ。もちろん、アリシア抜きで。もう立派な戦闘メイドだ。俺としては、彼女らは弟子だと思っている。最初はきゃあきゃあ可愛かったが、最近ではビシバシと俺に躊躇なく打ち込んでくる。成長が見られて嬉しい。


俺は、「ああ、そうしよう。夜にまた」と言って、自分達の寝床を造るのを手伝う。


大八車に入っている衝立を立てたり、タープを広げたり……


「今日もアリシアさん来るの?」と、一緒に作業しているネムが言った。ネムもメイド服だ。


彼女はうちのスカウトであってメイドではないが、何となくメイド服を買ってあげて着させている。おっさん達の趣味だ。ネムの方も、特に嫌がらずに着てくれている。本人曰く、結構機能的でいいんだとか。


「ああ、夕食の後合流してくるらしいな」と応じる。


ネムは嬉しそうな顔をして、タープを止めるための杭を地面に打ち付けていく。

メイド服の彼女の帯には、一振りの剣が下がっている。その剣は長さ60センチくらいの直剣で、赤い鞘にしまわれていた。あの剣は俺の剣だ。スパルタカスという百人隊長と戦ったとき、俺の胸に突き刺さった剣をそのまま頂戴してきた。


綺麗な剣で鋭い刃が付いている。ネムが欲しがったので貸したのだ。俺は使わないし。


ネムは、剣士アリシアに憧れていた。


ネムは、5年前は結構良いところのお嬢さんだったが、戦争で街が占領されて人生が一変、洗脳されて自分の親を殺し、その後は地下少年グループに入って盗みをしながら生き抜いてきた。そんな中、同じスラムから剣の腕一本で貴族に召し抱えられるまでになった剣士アリシアの話を聞いて、憧れを抱いた。


偶然が重なり、今はアリシアに弟子入りして剣を習っている。スカウトが剣を使ってはいけないというルールもないし、好きにさせている。


なお、アリシアは最初からスラムで育ったらしい。妹のステシアとともに仲良くスラムで暮らしていたが、生活費稼ぎのために雑用ギルドで野犬を追い払う仕事を受けたりしていたら、剣が強くなったという天才肌だ。アリシアのお顔は美人なので、さぞかし他の男どもから言い寄られたのだろうと思うのだが、別にそんなこともなく、処女のままスラムですくすくと育ったらしい。


雑用ギルドというセーフティネットが、機能した結果だろう。そう考えれば、あの街の政治は、そこまで悪くは無かったのだ。占領初期とその後の軍事面以外は。


しばらく黙々と作業を続け、俺達の寝床と食事処が完成する。


だが、まだ食事には早い。


周りを見渡すと、各々の荷馬車がプライーベートを守るように駐められ、それぞれタープやテントが張られ、椅子にテーブルなどが出されていた。


俺は、暇つぶしのために、少し散歩することにした。

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