第87話 英雄エリオンの魔道具


小田原さん達と分れ、ケイティと二人で魔道具屋に入る。


そこは落ち着いた雰囲気のお店で、どこか時計屋か宝石店のような感じだった。


そこに、ビシッと黒い服を着たガタイのよい男が現われて、「お客様、まずはスキル鑑定をお願いしたい」と言った。


ここは高級店だったのか、スキル鑑定されるらしい。俺達は、別にやましいことはないため、普通にスキル鑑定に応じる。


ケイティの卑猥なスキルで少し説明を求められたが、すんなり通された。別にマジカルTiNPOを持っていても、魔道具屋には入れるらしい。


そしてそのまま接客カウンターに通され、これまたビシッとした黒いズボンと白のブラウスを来た若い女性がやってきて、「どのようなご用件でしょうか」と言った。


ケイティが、「要件は二つ、この二つの短剣型魔道具の査定と、折れた剣型の魔道具を杖に改修するための費用の見積もりをお願いしたいのです」と言った。


女性は表情を崩さず、「分かりました。まずは商品をこちらにお乗せください」と言って、黒いトレーをカウンターの上に置いた。


俺達がその上に、折れた剣の束の部分と短剣二本を置くと、「では、確認のため、少々お時間を頂きます」と言って、それを持って奥に下がって行ってしまう。


しばらく待つと、先ほどの女性とは別の女性が、俺達が預けた品物をトレーに乗せて、奥から出てきた。その別の女性は、最初の女性の上司っぽい感じだ。ぴったりめのズボンスーツに身を包み、フリルが付いたブラウスを着込んでいる。青い髪に片メガネを着けており、インテリに見える。


その女性は、「わたくし、この魔道具店で店長を務めさせていただいております。お見知りおきを」と言って、慇懃に頭を垂れた。


「はい。私は、ケイティと申します。それで、いかがでしたでしょうか」


店長さんは、俺達と対面のカウンター側に座り、「まずは折れた剣ですが、こちらの魔道具はエアスラン将校用の上位の雷魔道具です。剣の部分は折れていますが、魔道具としては全く同じように使用出来るでしょう。杖に改修と言うことで、当社でもそう言った加工は可能ですので、詳細を打ち合わせてからお見積もりという形にさせていただきます」と言った。


ケイティはビジネススマイルで、「分かりました。では、お見積もりの方は、また後で」と言った。


「次に短剣の方ですが、純魔鉄製の方は属性が付加されていない魔道具で、ユニオンスキルなどの複合的かつ複雑な魔術の構築用に使用されるものです」と、店長さんが言った。


「ほう。上級者向けなのですね」とケイティ。


「上級者と申しますか、要は、結界や魔術トラップなどの構築のための高度な魔道具です。かなりのチューンナップアがされており、本人の魔術回路に共鳴して魔術が僅かに増幅される仕組みになっています。美しい短剣ですので、美術品としての価値も高いでしょう」と、店長さん。


「本人の魔術回路と共鳴ということは、これは属人的なもので、その人にしか扱えないとか?」と、俺。


「今の状態ならそうです。ですが、設定を書き換えれば同じように使用出来ます。当社では設定の書き換えも可能ですが、どうされますか?」と、店長さんが言った。


「ええつと、売却額と書き換え費用をお聞きしても?」


「はい。買い取り価格は600万円で、書き換え費用は150万円です」と、店長さんが言った。


高っ!! 流石英雄級の所持品。


「それだけの金額の受領は、どうなるのでしょうか。現金受渡になるのでしょうか。税金とかは?」


店長さんは、「10万ストーン以上の売買は、税が掛かりますが、そちらは当社で負担させていただきます」と言った。


「そっちの赤いヤツは?」と、聞いてみる。


店長さんは少し目を伏せて、「こちらは、当社では買い取りができない一品でございます」と言った。彼女の瞳の奥が、キラリと光った気がした。


「あの、理由をお聞かせいただいても?」


まさか、戦利品というのがばれたのか? でも、戦利品の売買は普通に認められていると聞いたのだけど。


「こちらは、契約用の魔道具だからです」


「契約用? 私のスキル『鑑定』では、儀式用のなまくらとしか出てきませんでした」と、ケイティ。


店長は、「鑑定は、ベースとなる基礎知識がないと、正確な情報は分からないのです。特に、物品の由来など、その物質に関係無い情報は、鑑定では出てこないのです」と言った。


そうなのか。便利スキル鑑定といえども、万能ではないということか。


ケイティは、顎に手を添えて「なるほど。続けてください」と言った。


「この品は、銘が入っています。この魔道具の銘は『亡霊』といいます。かつて、ノートゥンのダンジョンの地下50階層で発掘され、王に献上された品との記録が残っている銘と同じです」と、店長さんがこちらの目を見て言った。何故俺達がコレを持っているのか、見極めているようにも見える。


「さて、どうしよう。この『亡霊』だけど、具体的に何の契約とか儀式に使うのだろう」


「ご存じのように、大海原、深い山、地下迷宮などには、亜神に連なる存在がいると言われています」と、店長さんが言った。


いや、ご存じじゃないし。


「その亜神の中には、人間に興味を示し、力を分け与えている存在がいると言われており、実際、我が国の英雄チータラ ティラネディーアの英雄ズウ、ノートゥンの聖女ハナコ、そしてエアスランの英雄エリオン、タケノコの騎士クロサマなどは、そういった亜神の力を借りることが出来ると言われています。


これ、エリオンのだし。というかもう、エリオンいないし。とういうか、聖女ハナコって誰だよ。気になる……


「あの、こ、これが買い取れないというのは、ひょっとして……」


店長さんは、「この短剣は、亜神との契約に使用されるものです。決してこの宝具に価値がないというわけではなく、我々平民が扱って良い物品ではないのです」と言った。


まじかぁ。高価過ぎて売却ならず……


俺達は、ひとまずこのお店では何も売買せず、とりあえず仲間に相談することにした。



・・・・


「おう、こっちだぜ」と、人混みの中からスキンヘッドが手を振っている。俺達を待ってくれていたようだ。


俺とケイティは、魔道具屋で話を聞いた後、ひとまず腹ごしらえをするべく、仲間達が待つ中央市場に向かったのだ。


俺の手には、二本の短剣が握られている。1本は売却価格600万円で、もう一本は『亡霊』という地下迷宮産の謎武器だ。


ケイティは折れた剣を杖にしている。その杖は、今はまだ折れた剣のままであり、分厚い刃が着いているから、地味に重そうだ。その剣は唾の部分が十字に伸びているため、刃を落として棒状にしたら、ちょうどよい杖になりそうだ。


「お待たせしました。まずは何か食べましょう」


小田原さんは、「おう、そうだな、情報交換はメシを食いながらだ」と言って、俺達と一緒に屋台が並ぶ方に歩いて行く。


これから、刀剣類査定の話と、俺達魔道具班の情報共有会議が始まる。

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