第80話 2章 プロローグ 後半 小峰綾子


小峰綾子は、『婚約破棄された公爵令嬢、スキル男運レベル10をゲットし、自分の領地で好きにやります』というタイトルの小説を読み始める。


それは、目付きがとても悪い公爵令嬢の物語。


王立魔道学校の卒業式、その卒業パーティで、彼女は、婚約者であり同じクラスの第二王子から突然婚約破棄される。


周りから嘲笑を受ける中、彼女は毅然とその婚約破棄を受け入れる。何故ならば、この婚約は、自分でもあまり望んでいなかったから。その理由はよく分からなかったが、この主人公、アイリーン・ジュノンソーは、幼い頃からカンが鋭く、度々そのカンの良さで助けられてきた。なので、今回もカンで婚約破棄を素直に受け入れたのだ。


そして、婚約破棄された数日後、アイリーンは父親に呼び出され、今後の事について話し合うことになる。


彼女の父親は武闘派の大物貴族で、戦争で奪った土地に様々な権益を持っていた。その父親は、その一つをアイリーンに分け与えると言った。


彼は、貴族としてとても厳格な性格であったが、アイリーンの事を買っていて、そこで政治をさせてみようという考えに至ったらしい。また、公の場で婚約破棄され、それを素直に受け入れてしまっては、しばらくは結婚も出来ないだろうというのも判断理由だった。


そして、この父親は、娘のアイリーンに一つだけスキルを持って行って良いと言った。


この物語りのスキルとは、どうもそういうものらしかった。スマホにアプリをインストールするかの如く、後からスキルを身に付けることが出来るという設定だった。


スキルと言うのは人体に刻まれた魔術的な回路で、一度焼き付けた回路は消すことは出来ないけれど、改良したり鍛えることはできるとのことだった。


そのスキルは、通常は、専用の魔術士達が人体に魔道回路を生成するための魔道具を作っているとのことだ。それらは売買されていたり、師匠から弟子に受け継がれたり、学校で習ったり、軍隊のみに伝授されるものだったり、あるいは王侯貴族達に伝わるものであったり……中には、出所不明のとんでもない性能をもつスキルもあった。なお、特殊なスキルは、それを宿した本人が死んだときに、回収することも出来た。要はリサイクルが出来るという設定だった。


なので、この大物貴族は、財にものを言わせ、さまざまなスキルを保有しているようだった。


そこで彼女が選んだのものは……それがタイトルにもある『男運レベル10』というもの。


彼女の父親はそれを許し、その後、男運レベル10を宿した主人公は、屈強な部下とペットのフェンリル狼を引き連れ、荘園『シラサギ』に赴任する。


そこは湿地帯のあまり良くないとみられていた土地だったが、自然がとても美しく、アイリーンはそこをとても気に入る。


彼女はそこを発展させるため、様々な事業に乗り出す。まず、その領地に湧き出ている綺麗な水に目を付ける。


この小説の舞台には米があるらしく、ララヘイムという国から稲を取り寄せ、稲作と清酒造りの研究を始めたりした。


もちろん、現実的な林業や川魚の養殖、山菜類の栽培なども同時に行い、実はこの地はとても良い土地ではないかと思い始める。やっぱり、自分のカンは当たっていたのだと書かれていた。


また、彼女はネオ・カーンという街でも活躍する。


ネオ・カーンで貿易を行い、儲かった売り上げで自分の荘園シラサギに投資を行う。人を増やしたり、新しい特産品を考えたり、衛兵を育てたり……


小峰綾子は、これまでの人生で、あまり小説は読んでこなかったが、この物語はちょっとした箱庭を育てているみたいで楽しく読めた。


徐々にシラサギが発展していき、住民も兵士も増えた。ネオ・カーンの街も徐々に活気が良くなり、税収も増え、アイリーン・ジュノンソー……この頃にはナナセ子爵位を継いでいるからアイリーン・ナナセは、仕事のやりがいを感じていたのだが……


ここで、彼女は致命的ミスを犯す。それは、経済を優先するあまり、潜在的敵国である隣国エアスランの侵略意図に気付くのが遅れてしまったのだ。


気付いた時には手遅れで、領主もポンコツだし、兵士の補充や援軍も間に合わず、八方塞がりの状態に。


だが、この世界の戦争は、大物貴族の場合は負けても捕虜にされるだけで金銭で取引されるらしく、命をとられるまではないとのことだった。


だが、貞操は別で、負けたら犯されることは確実らしい。


そんな絶望の中、彼女は不思議な男と出会う。


その男は、自分のペットの世話係として屋敷を尋ねてきた。


ペットのバターはわがまま盛りで、自分以外の言うことはあまり聞かない性格になってしまっていた。自分は仕事で忙しく、かまってやれなかったのが原因かもしれない。


だけど、その男はフェンリル狼という強力な魔獣をいとも簡単に手名付けた。


アイリーンはその男の事が気に掛かり、部下に調査を命じると共に、どうにかして自分の仲間にしようと考える。


といった。


小峰綾子は、一瞬固まった。


この字面じづらには見覚えがあった。それは、目の前の男……


しかもこの男、黒髪鳶色の瞳でグリーンティを知っていたり、描写が日本人っぽい。そして、目線が嫌らしく、アイリーンの胸やお尻によく視線が行くのだと書かれていた。


そういえば、目の前の男もよく自分の胸やお尻に視線が行っていた。


小峰綾子は、雑念を振り払い、スマホ小説の続きを読む。名前が一緒なのは偶然だろうと思うことにした。


このアイリーン・ナナセ子爵は、この男を仲間にしようと話をするが、断られてしまう。


いざとなれば自分の体を使ってでもと考えていたけれど、それは踏ん切りが付かなかったようだ。


相手はおっさんだし、振られた時がショックだからだ。だけど、戦争に負けたらどうせ自分の貞操は奪われる。それならば、目の前の男に処女をくれてやろうと考えた。


小峰綾子は、ここまで読んで、なんでこの貴族の娘はそんな思いに至ったのか不思議に思った。


小説にはカンだとしか書かれていなかった。


アイリーン・ナナセは、千尋藻城と名乗る魔獣と会話が出来る男が、どうしても気になり、その延長上で体を許すことにした。それは、戦争前夜……いや、前夜の前に偶然出会った不思議な男に対する恋であったのだろうと小峰綾子は感じ取った。


なぜならば、アイリーンのスキルは『男運レベル10』であったのにもかかわらず、彼女の周りに碌な男はいなかった。


護衛として連れてきた部下は基本的に脳筋ばかりで、そうで無いヤツは戦争を知らない貧弱な男か、文系で頭がお花畑の連中ばかり。


だからこそ、アイリーンはこのタイミングでいきなり現われた不思議な男に運命を感じ、一瞬で心を奪われたのであろう。だけど、立場上、きゃっきゃうふふの恋愛は出来ないし、身分的に伴侶になることもできない。

だから、自分から強制する形で肉体関係を迫った。


この駄文を読んだ小峰綾子は、少なくともそう整理した。


そして、エッチシーン……この小説は18禁では無いが、『性描写あり』というタグが付いていた。


小峰綾子はそれなりの濃いシーンを期待して次話をタップする。しかし、次の話の冒頭は、『エッチシーンがエロすぎて18禁版サイトに記載します』との説明書きがなされていただけで、エロいシーンは無かった。


小峰綾子は少しだけイラっとしつつ、その18禁サイトに移動し、数タップの末にそのエッチシーンにたどり付く。


そこには、ねっとりぐっちょり、ぴゅっぴゅな表現が描かれていた。


具体的には、主人公のアイリーンがエッチOKのサインを出した瞬間、その男はキスなど省略でいきなりお尻にむしゃぶり付いた。


念入りにアレをして、お尻から太股から足のくるぶしまでを執拗に舐めまわした。


処女が奪われる瞬間、我慢が出来ずに一度外に出してしまう。だけど、直ぐにまた元気になり、合体に成功。その後はねっとりまったりとやり続ける様子が克明に描かれていた。


その表現は18禁サイトだから仕方がないのだが、細部の描写、とりわけ合体部分が分かりやすく、それでいて淫靡な言葉をちりばめつつ最後は子作りセック○的な事をするに至るまでの説明がきちんと書かれていた。


小峰綾子は、そのシーンを読み終わると、何となく目の前の男の下腹部を見る。


そこには、まるでテントが張ってあるかの如く、薄い布地の下で何か堅いモノが屹立していた。


小峰綾子は、部屋の外にこの男の嫁がいないことを確認すると、つんつんとそのテントを揺らし始める。


かつて、させていた男を思い出しながら。


小峰綾子は、その時の男よりこの男の方が……と考え、自分の……を自然な感じで…………た。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る