第76話 ヒリュウ18歳


ヒリュウは、水魔術が使えた。


なので、ヒリュウが出してくれた水に俺が魔力を注ぎ込み、水の壁と水のベッドを作成する。今日の睡眠はその中に籠って行う。大きめのベッドを造り、その間を壁で囲み、さらに俺とヒリュウとの間に衝立を設ける。もちろん、全て水で造る。並の魔物なら突破出来ないだろう。


横になって、仲間が残してくれた毛布にくるまる。今回は流石に疲れたわ……


お腹も空いているのだが、これから狩りをして火をおこして調理する気力が沸かない。万年を生きた二枚貝であっても、気力と言うのは有限なものであるらしい。


俺は、どかりと仰向けになる。水のベッドがたぷたぷと揺れて、寝心地がいい。


今回も色々とあった。キャンプ地に敵の襲撃、ゴンベエのチャームに掛かった振りをして、虎穴に入らずんば作戦でゴンベエについて行ったところ、逆にゴンベエの方がチャームに掛かっており、森の中でセック○三昧。そこにヒリュウが合流。ノリノリでヒリュウに見せつけセック○。その後、忍者の事情を打ち明けられ、俺達の利害とも一致したため、忍者のお誘いに乗ることに。

そのまま敵地に侵入。そこで敵将達の信頼を得るべく、彼らの前でゴンベエと見せつけセック○。その後バターの夜襲。その後はスパルタカスとの宴会。


やっと眠れると思ったら、デブ猫の来訪。


その後はパイパンといやいやセック○したり、クロサマなるものを拝んで……


その後のゴタゴタで首を切り落とされて、でも自分の正体に気付いて……


それにしても、俺の首を落としたエリオンくんは強かったなぁ。身体能力だけでは勝てない相手がいることを知った。


呪い返しした相手は凄く怒っていたけど。


まあ、魔術とういものは、色々あるということを思い知らされた。


なんやかやと、俺はちゃんとクメール将軍の暗殺に成功したわけだが、ゴンベエはさよならも言わずに立ち去るし、スパルタカスには逆恨みされつつも、剣を形見に貰うし。


異世界に来てからというもの、色々とあるわぁ。気持ちや情報の整理も大変だわ~


などと、考えごとをしながら寝落ちしようとしていたら、俺のエリアにヒリュウが入ってくる。


この水のシェルターは、水の節約のため、壁もベッドもヒリュウと共用だが、俺との間には衝立を立てて入れなくしてあったはずだ。俺は疲れているのだ。明確な自分の意思で他人を殺してしまったし、そもそも朝からパイパンとセック○したのだ。いくら、隣にセック○OKの全裸がいようとも、今日はする気になれなかった。


「よいしょっと……ねえ、しないの?」と、ヒリュウが俺の毛布の中に入ってきて言った。


なお、仲間が残してくれた毛布は一枚だけだった。なので、俺がありがたく使わせて貰っている。ヒリュウはというと、この水ベッドと壁自体が温かくなるため、寒くは無いだろうとの判断で無視していた。こいつ、寒さには強そうだし。


「今日は疲れた」と、応じる。おっさんは淡泊なのだ。


「そう。しなくてもいいけど、一緒に寝てもいい?」と、ヒリュウが言った。


「一緒に寝たら、したくなるだろう」と言ってみた。


ヒリュウは、俺を無視して「すればいいじゃない。私は、そういう約束であなたについて行くし。ああ、寒かった」と言って、毛布の中に入ってくる。全裸の忍者も、寒いは寒いらしい。


「お前、毒女だったよな」と、聞いてみる。毒女とは、体に毒を宿し、キスやセック○などの粘膜接触で相手を毒殺するという特殊な技を身に付けた女性のことをいう。


ヒリュウは、「その言い方は、ちょっと偏見。毒殺するには、事前に毒を宿す必要がある。今の私は毒を宿していないから、今の私とセック○しても、何の支障もない。というか、ゴンベエもそうだし」と言った。ゴンベエもそうだったのか。女忍者というのも大変だな……と思っていたら、「あいつは使う機会なさそうだけど」と、ヒリュウが付け足した。


こいつは、少し辛口なやつだな。まあ、こいつは、寝る前にもう少しお話がしたいようだ。まるで小さい頃の娘みたいだし、少し付き合ってもいいかもしれない。


なので俺は、「そういえば、お前、風呂場で男のブツをじろじろと見ていただろう」と聞いてみた。


「うぐ。そりゃ見るでしょ。あなただって、女子風呂に入ったら、おっぱいとか股間とか見るでしょ? 私のだって、いっつもじろじろと見てる」と返された。


「そりゃそうだ。俺はエロいからな」と、目を瞑ったまま言った。今はもう真っ暗だし、体も疲れているから、今すぐ寝落ちしそうだ。


「それって、あんに私がエロいって言ってる? ねえ、本当にもう。あなた、あれだけゴンベエとのセック○を私に見せつけておいて、顔とか口にひっかけておいて。何も責任取らない気?」と、ヒリュウさん。毛布の中で、俺に体を密着させてくる。この子はもう……


「お前は……ナントカ元帥の寵姫だったんだろう? 性的なことに興味津々なのか?」と、聞いてみた。


「あの人は、首絞めセック○しかやらなかった。丈夫で鍛えられた忍者の体の締まり具合にしか興味が無かった。あなた、あのゴンベエと気持ち良くしてたじゃない。影働かげばたらきの女を、ああして素直に愛せるのって、凄いと思う。ねえ、私じゃだめ?」と、ヒリュウが言った。


少し心が揺らぐが、気になる事がある。


「……お前何歳だよ」


「はい? 十八だけど、それが何?」


「アウト。寝るぞ」


「え? なに? あなた、まさか年増とか巨乳がいいの?」と、ヒリュウが言った。


忍者の里では、巨乳は不細工なのだろうか。

年齢は、まあ、地域や文化によるよな……


だが、俺はこの子に、むすめを感じてしまっている。俺の実娘も十八なので、もはや性的対象ではなくなった。


俺は、消化不良気味のヒリュウを片腕で抱きしめ、そして眠りについた。



・・・・


次の日、俺達の出発準備は早かった。


水のベッドに解散命令を下すだけだだったからだ。この儀式をやっておかないと、後で大変な事になるからな。


ヒリュウは、今はもう霧隠れの術は解いて、昨日の毛布をローブ代わりに羽織っている。


俺は、「今日中に合流するぞ」と言って、走り出す。


ヒリュウも、「分かった」と言って、ついてくる。


お互い空腹だったが、ちゃんと足は動く。俺はともかく、ヒリュウが鍛えられた忍者というのは本当なのだろう。


まあ、俺の場合いざとなれば、泥水からでも栄養が取れるようだが……しかし、脊椎動物だったときの名残なのだろうか、それだけは出来ないと思った。



・・・・


山を越え谷を越え、街道を北にひた進む。


俺とヒリュウが泊まったキャンプ地を過ぎたあたりから、馬の蹄の跡の上に、荷馬車や歩行の跡が付くようになった。そのうちの一つは、超巨大なわだちだ。これはおそらく、モンスター娘達のキャラバンの荷馬車……あいつらが、この道を通ったのは間違いない。少し安心する。


今、キャラバンの荷馬車を曳いているのは、おそらくムーとシスイだろう。


ムーはともかく、シスイは運動嫌いだから、直ぐにバテてしまう。そこまで遠くに行っていないだろうと思う。


そうして街道を疾走していると、「千尋藻!」と声が聞こえる。


この声は……街道をれた森の中に、金髪の女性がいる。草木からひょっこりと顔を出している。


そこにいたのは、ライオン娘のナハト。ライオン娘は、超巨乳の持ち主だが、実は身長がそこまで高くない。体長は長いのだが、ネコ科の動物らしく普段は足を曲げているため、草木に余裕で隠れることができるのだ。


彼女の手には、弓矢が握られているが、こちらに向けてはいない。


俺は、走るのを止め、ゆっくり歩きながら、「そうだ。帰って来たぞ」と、応じた。


「そっちの忍者の子は、水牢を解いたのね」と、ライオン娘。


俺が挨拶するように促すと、ヒリュウは、「改めて、私はヒリュウ。この度、千尋藻について行くことにした。このことは、忍者の里としての責務。願わくば、私を受け入れてください」と言った。


十八歳なのに、ちゃんとした挨拶ができるもんだ。無駄に感心しつつ、話を先に進める。


俺はライオン娘に、「そういえば、俺は、精神干渉とかは受けていないから。事情は皆の前で話す」と言ってみる。


「ま、私は心配していなかったよ、私は。お帰んなさい千尋藻。皆はこの先。キャンプ準備してる」と、ライオン娘が少し楽しそうに言った。


ライオン娘は、このまま監視任務を続けるようだ。ついて来てもらいたかったのに。

嘘を看破できるこの子ナハトがいると、話に信憑性が増すというか……まあ、仕方がない。


俺は、「分かった。監視助かるよ」と言って、ヒリュウと一緒にこの場を後にする。


さあて、これから皆に説明だ。


俺とヒリュウは、そのまま皆がいるキャンプ地に向けて歩き出した。



◇◇◇


時は進み、深夜……


俺は、水ベッドの寝床で、星空を見上げ、ポケェとする。


俺の上には、オオサンショウウオ娘のギランがうつ伏せで覆い被さり、グースカと眠ってしまっている。


俺とヒリュウは、無事にキャラバンと合流出来た。

何故か合流パーティが開かれ、宴会となってしまった。


あの時の襲撃による被害は軽微で、重傷者も小田原さん達の活躍ですでに復帰しているようだった。


ギランの体温を感じながら、あの宴会の様子を思い出す。


ムカデ娘のセイロンに怖い顔をされてトイレに連れて行かれ、一杯噛まれた。

サイフォンに余った水の盾の解除を頼まれ、勿体ないと思いながらも全て解除し、その盾の水は、今は俺のベッドになっている。


ヒリュウは、直ぐにみんなと打ち解けた。元々俺達に危害を加えた分けじゃなかったから、当然と言えば当然だ。若者同士、仲良くやればいい。


そしてあの時、ゴンベエ達が襲撃してきた時の話を沢山聞かされた。皆頑張ったらしい。誰々をどうやって倒したとか、少し血なまぐさい話だけど、勝ち戦というものは、語りたいものらしい。うちのネムが必死に戦いの様子を説明してくれた。概ね小田原さんがカッコ良かったという落ちだ。


途中、アリシアを始め、バッタ、トマト、それから元領主夫人が俺の所に来た。

シラサギの様子を知りたい様子だった。ただ、俺はシラサギ内部の様子はあまり把握していなかった。


一つ確実なのは援軍が間に合って、エアスラン軍がちりぢりになったこと。そのことを伝えると、皆とても喜んでくれた。


なお、俺がクメール将軍を討ち取ったことは、機密事項とし、ウルカーン組には伝えなかった。そのことがどこでどう回ってゴンベエに迷惑を掛けるか分からない。だけど、スパルタカス達があそこにいたからなぁ。まあ、そこら辺はゴンベエがうまく処理してくれるだろう。


ただ、ヒリュウ曰く、『クメールより、エリオンを仕留めた方が凄い』のだそうだ。


彼女的にはそうなのだろう。だが、あいつはほぼ自滅したような感じだった。俺を呪った呪いを返し、その事の仕返しにエリオンくんが干からびたというかなんというか……。とにかく、ウルカーン組は、少しほっとしたらしく、メイド軍団の方に帰って行った。それはそうとして、ヒリュウ合流の情報は絶対秘密にしてもらっている。


ウルカーン組の後は、他愛のない話が続いていたが、宴もたけなわになった時間帯。


片付けを終えたあたり……それからがひどかった。


何を隠そう、俺は、先ほどまでジークとライオン娘ナハトの尋問に合っていたのだ。彼女らに、全ての情報を抜かれてしまった。


つい二日ほど前、このキャラバンとお別れをしてからの情報を、洗いざらいしゃべらされた。

もちろん、何を考えているか分かるように、ジークと繋がったままで。


今回はナハトも乗り気になって、色々と卑猥な質問をされながら、彼女とも……


俺の正体の話をどうするかはずいぶん迷ったが、ちゃんと説明することにした。分かる範囲でだけど。


実は俺は、普通の人間ではなかった……薄々分かってはいたが、本音では少しショックだった。だけど、誰かに話をすることで、気持ちがすっきりした。ただ、俺自身も自分の事を完全に把握できているわけではないので、曖昧な説明になってしまった。


それでも、ジークはそれでいいと言ってくれたから、説明的には大丈夫だったのだろう。ちなみに、俺の正体はここだけの話で、知ることになったのはジークとライオン娘とシスイだけだ。ピーカブーさんは最初から気付いていたと思うけど。まあ、ケイティと小田原さんには今度話そうと考えている。


ひとしきり疲れることをして開放されたあと、今度は待ってましたとばかりにギランがぬるりと布団に入ってきた。


こいつはそこまで求めなかったが、やることはやった。色んな感情をぶちまけられた。


ここからあと一日で、ウルカーンに着いてしまうらしい。この子は、そうなると俺とお別れになると考えているようだ。


ウルカーンに着いてからの身の振り方は、実の所まだ決まっていない。

明日にでもおっさん三匹で作戦会議を行う予定だ。


俺達の目的……それは、この世界の異分子を倒すこと。


異分子とは何か。亜神、神獣、それから、エアスランの英雄くんの最後に相まみえた不気味な存在。おそらくだけど、俺が知らないこの世界の神秘的な深淵はかなり深い。


それとも、ケイティが言うように、ジェイクのような追放者が異分子なのか……


今考えても仕方が無いか……俺は、ひとまず考えることを止め、そして眠りについた。


ザ……ザザ……ザ…… どこかで、潮騒の音がしているような気がした。

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