第75話 ヒリュウの合流


忍者二人との約束は、俺がクメール将軍の暗殺に協力する見返りに、忍者の里『ヨシノ』が、俺とその仲間と関係を持つということ。そして、長と褒美について交渉する権利をもらうこと。さらに、その約束が執行されるまで、ヒリュウが俺についていくというものだった。


ヒリュウは、忍者の里の長の娘で、スキル『霧隠れの術』を得意とする。


そのスキルは全身透明になるという優れものだが、着ている服は透明にならないため、その術を使っている間は全裸になる必要がある。


だが、俺のチート級の目は、彼女のスキルを看破してしまうらしい。


俺は無言で前を見て走り続ける。


「ごめん、合流が遅れた」と、ヒリュウが言った。


「いや……俺の仕事は、アレでよかったのか?」


「うん。上出来。あいつは確実に死んでた。身代わりの子も無事だったし、後腐れもないね」と、ヒリュウ。


「ところでゴンベエは?」と、聞いてみる。


「途中まで一緒にいたけど、タイムリミット。あいつは一旦ネオ・カーンに戻らなきゃ。そうしないと、私らが疑われちゃう」と、ヒリュウ。


そうか……あいつは忍者の里の仕事の一環で俺を仲間に引き入れ、そして見事に目的を果たした。お縄になっていたヒリュウも無事解放され、しかも、エアスランにいられなくなったヒリュウを、俺とのパイプ役にしてしまった。そしてこれからは、後方で何か工作でもするのだろう。大したやつだよ、あいつは……


「え? 何? あんたゴンベエ気になってんの?」と、ヒリュウが言った。今は併走し、俺の顔をのぞき込んでいる。


「まあな、お別れも適当だったし」と言った。まあ、一度は体を重ねた仲なのだ。


「あなたさあ、ゴンベエのどこがいい訳? やっぱりおっぱい?」と、ヒリュウが言った。


「ゴンベエのいいところ? そうだなぁ。確かにおっぱいはそうだなぁ。でも、少し大きすぎるよなぁ。結構持て余す」と、言ってみる。だが、今の俺には無数のインビシブルハンドがある。


今度は、きっと大丈夫だ。


「男って……顔は? 顔は不細工でしょ?」と、ヒリュウ。やけに絡むな。


「いや、おじさん的には、顔も悪くなかったぞ?」と言っておいた。


ゴンベエは、丸顔で結構可愛いと思うのだが……


ヒリュウは、「そ。体目当てなだけじゃなかったんだ。今度伝えておく。あいつ喜ぶよ。多分」と言った。


顔も体の一部だとは思うのだが、ゴンベエのことを不細工と感じるヒリュウにとって、顔を褒めるということは、心を褒める事と同列なのかもしれない。


よく見ると、ヒリュウは、サンダルを履いていた。そして、両手に何か長細いものを抱えている。

端からみると、サンダルと長細いものがひとりでに走っているように見えるに違いない。ちょっとしたホラーだ。


「でもさ、誰の目があるかも分からないとこで、会えるわけ無いでしょ。あなたもさ、少しは考えなよ」と、ヒリュウが言った。


「そうか。そういえばそうだな。あいつは、まだしばらくはエアスランで活動するわけだしな」と、返す。


「そ。ウルカーンは、海路でララヘイムに繋がっている。ほとぼりが冷めたら、そっちルートでウルカーンに来るかもって」と、ヒリュウが言った。


そっか。また会えるのか。そう思うと、再会が楽しみになった。


「それよかさ、あなたとしばらく一緒なのは私。どう? 私の体」と、ヒリュウが言った。


チラリとヒリュウを見る。安定の全裸だ。


今は森の中を駆けているから、あまり大きくない胸がふるふると揺れている。


お尻は小さめだが、ちゃんと脂肪は付いており、これまたふるふると揺れる。


腹筋はシックスパックで背筋も立派だ。


顔は……顔は目付きが鋭いガキンちょにしか見えない。シモの世話をデンキウナギ娘がやってあげていたのを思い出す。


ガキはガキだが、日本でいうところの高校生高学年か大学生に見えなくも無い。だが、ここで一つ、違和感が……


「お前、剃った?」


こいつは、下の毛がモッサモサだったはずだ。愛人にならざるを得なかったエアスラン軍のトップに対し、せめてもの嫌がらせとして、下の処理をしていなかったのだそうだ。


「そそ。どう? つるっつるじゃなくて、ちゃんとV型に整えて、短く刈り揃えたの」と、ヒリュウが言った。


ここからじゃよく見えないが……まあ、どうでもいいと思った。


俺が無視していると、ヒリュウが「ねえ、私、心細いんだけど」と言った。大方、これから会う俺の仲間達がこいつヒリュウをどう扱うか心配しているのだろう。


「まあ、あいつらなら大丈夫だ」と返しておく。


「言葉が薄い」


「ああ~はいはい」


これまた元気な子供が増えてしまったか。いや、セック○を知っているだけタチが悪い。


ま、いっか。ひとまず、忍者組の裏切りは無かったと思っていいだろう。


シラサギ攻防戦も、これで一段落着いた。アイリーンも無事だろう。これから両国の戦争がどうなるか分からないが、これ以上は俺が出る幕は無い。


早く仲間達と合流し、ちゃんと謝って、これからのことを相談したい。



・・・・


途中で街道に出て、しばらくヒリュウと走り続ける。


ヒリュウの息が少しあがり、汗を掻いてきたところで、見覚えのある河原に出る。ここは、ゴンベエ達が襲撃してきたキャンプ地だ。

キャンプしていた河原を見ると、さっと何かが動く気配がする。


いや待て……俺はどうしてここに仲間がいると思ったんだ?


そこにあるのはグロ画像……その動くモノは、放置されたエアスラン軍の遺体に群がる野生動物達だった。


俺は、「ここはスルーするぞ。次まで進もう」と、言った。


ヒリュウは、「うん」と言って、素直に従う。


この世界の街道というのは、ちょくちょくこういったキャンプが出来るスペースがある。コレまでの歴史で、徐々に整備されていったものらしい。


今日はもうすぐ日が暮れる。お昼から何も食べていないし、今日中に仲間と合流したかったのだが……だけど、ここで寝るわけにはいかない。


なので、更に走る走る。


街道には、大量の馬の蹄の後がある。きっとシラサギの援軍がここを通ったのだろう。

その街道を、更に北へ北へと走って行く。


一時間近く走っただろうか。ちゃんとうちらのコンボイがこの道を通ったのか少し不安になったところで、次のキャンプ地に着く。


だが、まったく気配が無かった。


ヒリュウがハアハアと言いながら、「ちょっと休憩しよ」と言った。

かなりしんどそうだ。俺は、自分が仲間と合流したいばかりに、相手を思いやれなかったようだ。


「分かった。少し休憩するか……」


俺がそう言ったところで、ふと広場に変な物があることに気付く。それは木の板……あの板は、俺達が衝立にするべく入手してきた廃材では……


俺は、スタスタとその板に近づく。


そこには、『千尋藻さんへ。俺達は先に行く。ウルカーンで待ってるぜ』と、書いてあった。もちろん、日本語で。


そして、その看板の横の木には、毛布が吊してあった。


ジーンときた。


空を見上げる。


もう、太陽は沈みかけていた。


「ヒリュウよ」


「何?」


「お前、空腹は我慢出来るか?」


「大丈夫。忍者舐めないで」


「そっか。今日はここで寝るか」


俺がそう言うと、ヒリュウは、「分かった! クリーン使ってあげる」と言って、表情がぱああっと明るくなった。


こいつ、こういうキャラだったんだな。


俺は、るんるん気分で俺にクリーンを掛けてくれるヒリュウのお尻を見つめながら、何故だが日本にいるはずの俺の実娘じつじょうを思い出した。

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