第67話 夜の狼と夜の猫

深夜、野営地のテント。異様な熱気に包まれた異様な空間の中、一人の男が呟いた。


「私はもういい。最後の見回りをして、朝まで休む」と、長身イケメン君が言って、椅子から立ち上がる。


「エリオン殿、うちの女性兵士なら、誰でも使っていいぞ」と、クメール将軍が言った。


長身イケメン君はエリオンというらしい。彼は、それには答えず、テントから出て行ってしまう。


あのイケメン君、俺とゴンベエのラブラブセック○観賞に堪えられず、出て行ってしまったようだ。


俺とゴンベエは、お求め通り、テーブルの前で、激しく絡み合っていた。ゴンベエさん、チャームに掛かっていた時並だ。俺も頑張る。


目の前の男も、パイパンという女性テイマーとしてるんだけど。一体なんというシチュエーションだよ……


「私もそろそろ行くぞ」と、クメール将軍が言った。


俺は、必死でそっちを見ないようにして、ゴンベエとノリノリでこの状況を楽しむ。楽しまないと損だ。


その後、パイパンの辛そうな声が聞こえ「ふう。今日はもう一度ベッドでするぞ。お前達、もういいぞ」と言って、少しぐったりとしたパイパンを抱き上げて、テントの奥に行ってしまう。


誰もいないテントに、二人残されてしまった。


「どうしよう」と、目の前のゴンベエに言った。


ゴンベエは、「好きって言って。最後まで愛して」と返し、俺を強く抱きしめた。



・・・・


『敵襲! 敵襲だ』と、テントの外で声がする。


ここに奇襲ということは、『シラサギ』側が野戦を仕掛けてきたんだろうか。


「どうしよう」と、抱き合うゴンベエに言った。


「もう、急いで。それから、ゴンちゃん大好きって言って」と、ゴンベエが言って、動きが激しくなる。本気で最後までしたいようだ。


ここは本陣。さすがにここまでは敵は来ないだろう。総攻撃ってわけでもなさそうだ。


俺達は周りの世界を忘れ、もう少し没頭することにした。


俺が「ゴンちゃん大好き」と言ったところで、テントに誰が入って来て、「あの……ゴンベエ殿、もう分かったから、余所でやってくれないか」と言われてしまった。


そこには、あきれ顔のクメール将軍がいた。



・・・・


エアスラン軍の野営地をゴンベエと駆ける。そこまで本気で走ってはいない。俺は、本気でエアスラン軍に加担するつもりはないからな。


「ゴンちゃん、後でちゃんとさせて」と隣のゴンちゃんに言ってみる。


「時と場所によるけど。戦闘中で無ければ、キスとハグはいつでもOK」と、ゴンちゃんが言った。


どうもチャームに掛かっている人物は、そういう行動をするものらしい。しかも、それにちゃんと応じてあげないと、術が解けてしまうことがあるのだとか。じゃあ、俺がここにいる限り、ずっと、ゴンちゃんが相手をしてくれるということか。それはまあ、なんというか……


俺は、改めてゴンちゃんの体付きを見る。すらりとした足、丸いお尻、ロケットおっぱい。凄い体だ。


役得役得などと思いながら、今晩が楽しみになり、戦場をゆっくり走る。

この軍団は三百人程度。野営地もそこまで広くない。


戦闘音がする場所には直ぐに着いた。

だが、味方が大騒ぎしているばかりで、敵の姿がどこにもない気がする。


その時、夜の森から銀色の何かが突撃してくる。


そして、エアスラン軍の塊に突っ込む。そのエアスラン軍の塊も、魔術でバリアを張ったりして防いでいる。あの銀色はまさか……


「あいつは、バター」と、俺が呟く。


「ん? 知ってんの? あれはフェンリル狼。ジュノンソー公爵家の虎の子。実子のナナセ子爵に与えた個体とみていいと思う」と、隣のゴンちゃん。


「知ってる。俺、アイツの世話係やってたんだ」と返す。


「ふうん。私が出ると殺しちゃうけど、どうする?」と、ゴンちゃんが言った。


「そうだな。ここは俺に任せてくれ」と返す。


アイツを殺すとアイリーンが悲しむ。というか、バターを失うと、シラサギの戦力が落ちる。それは避けたい。


ゴンちゃんは、「任せた。私は森を警戒しておく」と言って、森に突っ込んで行く。


さあて、アイツをどうにかして引かせるか。でも、俺がここにいることばれるなぁ。いや、あいつの言葉を解するのは、今のとこ俺だけだと思っておこう。


考え毎をしながら、今は友軍のエアスラン軍の塊の方に行く。今の俺はエアスラン軍の服を着ている。近づいても警戒されないだろう。


なので、「助太刀だ!」と言って、纏まって戦っていた一団に近づく。今、バターは少し離れている。


「うん? 罪人部隊の服だが、お前は誰だ?」と、その中の一人が言った。罪人部隊?


「俺はゴンベエ殿の仲間だ。安心してくれ」と、言ってみた。


ゴンベエは、エアスラン軍の英雄級魔術士で、一応、クメール将軍の配下には入っているが、客将という位置付けで、エアスラン全軍の中でも地位自体は将軍に次ぐ高さがあるのだとか。優秀な魔術士はとても優遇されているらしい。ここは、彼女のネームバリューに期待しよう。


エアスラン軍の人は、「おお、そうか。助かる。私は百人隊長スパルタカス。敵はあの化け物だ」と、言った。


なんと、隊長さんでしたか。彼は、ぼろぼろの皮鎧を身に纏ったイケオジだ。


「俺は千尋藻。敵はあの化け物だけか?」と言って、森の方を見る。


「千尋藻殿か、敵は歩兵もいたが、今は見かけない」と、スパルタカス隊長が言った。


その時、俺達の右から、銀色の獣が突っ込んでくる。


ふむ。アイツは鼻がいい。俺の存在には気付いているだろう。それでも突っ込んでくるか。勇敢なやつだが、早く引かせないと、ゴンベエにコロコロされてしまう。


俺は、「家に帰れ、バター」と言って、前に突っ込む。


「バウワン!(裏切ったのか? 敵なのか?)」


「勝負だ」


「バウ!(お前は、お嬢さんの気持ちも知らずに!)」


バターは牙を剝き、両爪を出して俺に飛びかかってくる。


やっぱり大きいな。俺は、マスターキーはキャラバンに置いてきたから、今は手ぶらだ。


だが、こいつなど、素手で十分!


「ふん!」


爪を避け、すれ違いざまに、バターの顎にアッパーを入れる。


ボゴン! と音がして、バターの頭が揺れる。


「キャウン!(痛え!)」


さて、帰ってくれるだろうか。


バターは一瞬だけフラッと揺れて、真っ暗な森の奥に消えていった。


俺がじっと森の中を見ていると、後ろで大歓声があがる。


「うぉおおお! すげえ!」「お前凄いな」「誰なんだあのおっさんは」「あの化け物が逃げて行ったぞ」


少し恥ずかしい。


そんな中、先ほどの隊長さんが俺の所に来て、「敵は逃げたようだ、千尋藻殿。流石ゴンベエ殿の仲間と言ったところか」と言った。


百人隊長スパルタカスか……日に焼けた顔にごつい手。静かな瞳のおっさんイケメンだ。だが、貴族には見えないな。


この世界の兵隊は、殆ど貴族と聞いたが……いや、魔術に秀でたものを登用したり、いざ戦争の時は、貴族が平民や下級貴族を雇うこともあるのだったか。要は、平民に過剰な軍事力を持たせないのがこの世界の流儀……いや、エアスランは中央集権国家だった。ララヘイムも。平民の隊長さんがいても不思議ではない。


俺はとりあえず、「逃げたようだな」と言っておいた。


「間違い無いだろう。これから、俺は隊の被害状況把握と報告がある。その後でなんだが……」と、スパルタカス。


なんだろうか。俺は、ゴンベエといちゃいちゃしたいのだが。


「今日は少し酒が出ている。一杯やらないか?」とスパルタカスが言った。



・・・・


エアスラン軍の野営地。


俺はというと、他のおっさんやらお姉さんらに囲まれて、貧相なバーベキュウをしていた。ゴンベエはいない。早く戻ってきて欲しい。


そんな中、スパルタカスが戻って来て、「死者は無し。重傷者2人に後は軽傷だ」と言った。


意外と被害は出なかったようだ。まあ、小規模な夜襲は、相手を休ませないとかの効果を狙ったものだろう。


「いやあ、俺らもあんたがいてくれて、心強いぜ。今日は散々だったからな」と、隣のおっさんが言った。


俺は、スパルタカスが戻ってくるまで、散々兵士達の愚痴やらを聞かされていた。

罠が凄くて死者が一杯出たとか、足をやられたとか、貴族出身の部隊がいけ好かないとか、クメール将軍直属の部隊がとても強いだとか。ララヘイム出身の水術士に可愛い子がいるだとか。


そして、この部隊のことも。ここは、罪人部隊。エアスランで何らかの罪を犯して服役していた者達で組織された部隊で、それを束ねるのがスパルタカス隊長だ。


彼は、元々任侠の人で、瞬く間に罪人部隊を掌握し、意外と統率が取れているんだそうな。罪人達のカリスマってところだろうか。義理人情に厚く、人格もいいとかで、みんなでこの戦争を生き残り、恩赦を貰ってシャバに帰ったら、スパルタカス隊長の下で会社でも立ち上げようとか言っていた。


俺達が、ウルカーン側のためと思って、何気なしに造っていたトラップ。実際に掛かって怪我をするのは、こういった下級兵士なのだ。本来、彼らには、何の罪もないのに。まあ、これは戦争。仕方がないと割り切るしかない。


「よし。みんな、ありったけの酒を持ってこい。明日が正念場だ」と、スパルタカスが言った。


兵士達は大喜びで、酒を取りに行く。


この辺で捕ったと思われる獣肉が、炭火で焼かれる。


この人達、俺を歓待したいようだ。俺はバターを殴っただけだし、明日は積極的に戦闘には加わらない予定なので、かなり悪い気がする。


だけど、何時死ぬかもしれない連中の明るい一幕を、俺が壊すわけにもいかないと思った。


俺の隣に座っていた兵士が席を空け、そこにスパルタカスが座る。


「改めて、よろしくな千尋藻。俺はスパルタカス。聞いてのとおり、ここは罪人部隊だ。だが、みんなこの戦争が終わると、恩赦で罪が無くなる。人生をやり直せるんだ」と、スパルタカスが言った。


俺は、何気なしに「ああよろしく」と返した。


「持ってきましたぜ」と、酒樽を持ってきた兵士が言った。


「開けてしまえ。明日も、生き延びるぞ」と、スパルタカスが言った。


大歓声が起きる。


これが軍の野営場か。まあ、戦闘が始まってまだ間もないし、こうやって景気づけているんだろう。俺は、隊長の酒を断ることができず、一緒に飲むことにし、ゴンベエがあきれ顔で探しに来るまで、宴会は続いた。



・・・・


深夜、やっとスパルタカス達に開放されて、ゴンベエと一緒に寝室に行く。


「はい、ここが私の根城」と、ゴンベエが言った。そこは、みんなの野営地から、少し離れている箇所だった。大きな岩の影で、静かで安全そうな所だ。


俺とゴンベエの野営地は、当然一緒だ。ここで別々に寝たら、怪しまれる。なので、一緒の簡易テントに入る。


「どうする? さっきの続き、する?」と、ゴンベエが水魔術で顔を洗いながら言った。バターに邪魔されて最後までできなかったからな。


「どうしよう。今日は流石に疲れたな」と、返す。今はもう深夜だ。酒も入ったし。


次の瞬間、ゴンベエにキスされ、「遠慮しなくていいのに」と、ゴンベエが言った。


「一応だけど、私がいること忘れないでね」と、毛布の中から声がした。そこにはヒリュウがいた。流石に寒いらしい。俺用に支給された毛布の中にくるまっている。


「ついでにヒリュウちゃんも抱いたらいい。一応、声は出さないで」と、ゴンベエ。


ヒリュウは、「私は寝る。したけりゃ勝手にして」と言って、背中を向けて寝てしまう。


ゴンベエは、「じゃあ、私も寝るけど、したくなったら起して」と言って、そのまま自分の毛布入ってしまう。だけど、毛布の半分が空いている。あの毛布の部分に、俺が入れということだろうか。


まあ、今日は、もう寝るか。流石に疲れた。一日中、荷馬車を曳いて、夕方の晩飯中に襲撃があって、ゴンベエと一緒に森に逃げて、そこでセック○三昧。ゴンベエが正気に戻ってからお話をして、そしてエアスラン軍に。そこで見せつけセック○をして、そうしたらバターの奇襲。それから罪人部隊のヤツラと宴会。


俺は、そっと、ゴンベエがいる方の毛布に入る。


そうしたら、「ちっ負けたか」と、ヒリュウが言った。


「ん? どうした?」


「私とゴンベエのどっちに入ってくるか、気になっていただけ」と、ヒリュウが言った。


変なことを気にするやつだ。全く……と思いながらゴンベエと一緒の毛布にくるまる。


ヒリュウは、「寒いし、一緒にいてよ。これからしばらく一緒なのは、私だし」と言って、ごそごそと毛布を二枚重ねにし、俺達の方に入ってくる。可愛いところもあるもんだ……。なお、ヒリュウが言うとおり、ゴンベエはエアスラン軍に残る予定だ。なので、俺とゴンベエは、早くて明日、遅くても明後日にはお別れすることになる。


俺は、少しだけ寂しい気持ちになり、忍者二人の体温を感じながら、眠りに……ニャー


いや、眠りに……『ニャー(話がある)』


『ニャー(出てくきてくれ)』


「猫か……」と、ゴンベエが言った。


「ああ、猫だな……」と、返す。


『ニャー(助けてくれ。そして、あの男を、クメールを倒すために、協力して欲しい)』


何だと? この猫は何者だろうか。それに、クメールを倒すと言うことは、今の俺達の目的と一緒だ。


「なあ、ゴンベエ」と、目をつぶるゴンベエに話掛ける。


「なあに?」と、ゴンベエが返す。俺に足を絡めてくる。セック○を求めていると勘違いされたようだ。


「俺、あの猫の言葉が分かるって言ったら、信じる?」と、言ってみる。


『ニャー(剛の者よ。お前に、頼みたいことがある)』


ゴンベエは足の絡みを緩め、「信じる」と言った。


俺がテント膜から顔だけ出すと、そこには、一メートルくらいのデブ猫がいた。ここに来た時に見た猫だ。

俺は、本日、もう一働きすることにした。

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