第55話 見えない忍者ヒリュウ

温泉が湧き出る一角に、高さ二メートルほどの水の柱があった。その水柱には、女性が顔と手だけを出した状態で埋まっていた。


この状態だと、魔術は使用できないし、自傷行為をすることも出来ない。


彼女、捕らえた後、ケイティに任せて情報を抜いたはいいけれど、その後全く口を聞いてくれないのだ。なので、彼女をこれからどうするか、判断に迷っている。ナナセ子爵に任せてもいいのだが、それだとおそらく、この子は殺されるだろう。それだと少し忍びないし、連れて行くにしてもお荷物だし、しゃべってくれたら少しはこちらも考えようがあるのだが……


なので、俺は彼女とコミュニケーションをとるべく、ケイティと小田原さん、そしてオブザーバーにサイフォンを連れて、上忍ヒリュウの様子を見に来たのだ。


俺は、その捕らわれの女性を前にして、「さてと……しゃべる気になったかな?」と言った。


「死ね」と、彼女が邪悪な顔をして言った。初めてしゃべるとこ見たよ。声質的に、結構若いのではないか。


「ふむ。しゃべりはするが、協力的ではないな」と、言いつつ彼女の乳房に目が行ってしまう。


今、全裸だしな、彼女。だけど、少しスリム過ぎるかな?


彼女は、お胸は普通サイズにあるが、お尻が小さい。髪は黒髪で肩に付かないくらいの長さだ。お顔は、愛想は無いが、可愛い感じかな。どことなくスポーツ少女の様な風貌だ。競技でいえば陸上中距離だろうか。


俺の目線を感じ取ったのか、「変態」と、彼女が冷たい表情で言った。少しカチンときた。こいつは、自分の置かれている立場を理解していないのかもしれない。


「よし。お前は、まだ本当の変態を知らない。念入りに教えてやろう。変態というやつを」


その視線、ジェイクにとってはご褒美かも知れないが、俺には通じない。俺は、水柱の後ろに回り、水の中に手を突っ込もうとする。日本人を舐めるなよ?


「あー待って、あなた、この女とヤルつもり? そいつ、毒女よ」と、サイフォンが言った。


毒女とは、体の中に特殊な毒を宿す女……もちろん、キスやセック○した相手を殺害する目的で毒を宿す。


まあ、俺はどうも毒には強いし、ケイティは不死身だしな。毒は効かなかったのだろう。だが、気になる事が一つ。


「ん? こいつ、ナントカ元帥の愛人って話じゃなかったっけ?」


「ナントカ元帥ではなくて、シャール元帥、愛人ではなくて寵姫。元帥の方は、毒を無効化する何かを使ってんでしょ。まあいいけど、彼女の処遇、私の意見を言ってもいい?」と、サイフォンが言った。


「まあ、いいけど」と、俺が返す。


「殺処分一択よ。そして、何もなかったことにして、口をつぐむの」とサイフォン。


忍者の彼女、殺処分と聞いても全く表情を変えない。一緒にいるケイティも小田原さんも異論は口にしなかった。


「忠告としては、それが正しいんだろうな」と、応じる。生かしておくと面倒だというのは、理屈の上では理解できる。


「忍者の一族は、何かと面倒なのよ。上忍が捕らえられたと分かったら、おそらく追っ手が掛かる。口封じのためよ。ただ、こいつは姫だから、殺害したことがばれても恨まれて何されるかわからない。だから、何事も無かったように殺して燃やして灰にするのが正解」と、サイフォンさん。


「忍者の掟か。追っ手が掛かるとは、暗殺部隊を送られるということかな?」


「そう。キャラバンにも迷惑が掛かるかもね。タケノコ島の代表者が忍者の里と直々に手打ちしたら話は別かもしれないけど」と、サイフォン。


「ふうむ。見えない忍者ヒリュウ。今回のエアスラン軍の総大将、シャール元帥の寵姫。忍者の里のおさ一族の三女にして、本人の忍者としての実力も最高峰。当然、今回のウルカーン討伐軍の機密も知っていたわけで……ただ、忍者の里に関する秘密は得られていないと……」


「おそらくだけど、彼女達は、読心術に対する訓練を受けている。機密中の機密は読ませなくしていると思う」と、サイフォン。


「ヒリュウさんは、主に暗殺や諜報員として、シャール元帥専属の忍として活躍していたそうです。シャール元帥の好きなセック○は首絞め。彼は彼女とセック○しても良いように毒耐性を付けた体で、来る日も来る日も彼女の首を絞めて楽しんでいたそうです。恋人と言えるかどうか分かりませんが、その方も変態ですね」と、ケイティ。


「エアスラン軍は、このシラサギの街を速攻で攻略すべく、三百人規模の先遣隊が派遣され、カッターと呼ばれる高速移動手段で三日後にもここに到達する。責任者はクメール将軍、ネオ・カーンの少年達や本国の兵隊を吸収している。うち百人は罪人部隊で、占領下の街に放たれると虐殺、略奪も厭わないと言われている。そして、英雄級のエリオンとゴンベエの二名が同行か……」と、小田原さんが言った。少し楽しそうだ。特に、『英雄級』のところが。彼は強敵と出会うのが楽しみなようだ。


小田原さんは、ここに転移してきたときに、あえて拳で戦うためのスキルを選んだ。要は、そういう人なんだろう。素手すてゴロでどこまで強くなれるかを試したいんだと思われる。


「一応、言っておくけど、うちら二日後にはここを発つから。そのゴンベエさんとは戦えないから」


「ゴンベエさんは、このヒリュウさんと同郷の忍者らしいぜ?」と、小田原さんが言った。やっぱり嬉しそうだ。


「同郷と言っても、名前がゴンベエだもんな。どうせおっさんだろう。エリオンさんは?」


「いやいや、ゴンベエさんは女性だそうだぞ? 容姿は、このヒリュウさん曰く、不細工らしいがな。エリオンさんの方は御年35歳のイケメンらしいな。魔術理論の天才で、対人戦闘能力も素晴らしいが、トラップやセキュリティタイプの魔術の専門家らしい」と、小田原さん。


ゴンベエさん女性なんだ……日本語版の報告書読んだはずなんだが、先入観で読み流していた。でも、不細工なんだな。


「だがまあ、そいつらと俺らが出会うことは無いな。逃げるし。で、こいつどうしよう」と、ヒリュウのお尻を撫でながら言った。時々びくびくってなって楽しい。


今は、彼女の下半身は、水柱の外に出ている。

いたずらしようと思って。


「とにかく、あなた、この女としないでよ。そ、その、私がするとき、毒が残っていたら嫌だから……」と、サイフォン。顔を赤らめている。今、ここには突っ込み役のベルはいないから、滑りっぱなしになっている。


「でもどうしよう。ここに残して、万一敵に奪われたら俺達のことがばれるし、足手まといを連れて行くのも嫌だし、殺すのも寝覚めが悪い」


「自分で手を下すのが嫌なら、このまま山奥に捨ててくればいいのよ」と、サイフォンが言った。


「こいつが裏切ってこっちにつく可能性は? 俺達は、別にウルカーンの人間じゃないんだぞ?」


サイフォンは少し顔を歪ませて、「ないない。私達はホントにレアケース。私は、事実上実家を追放されて、あわよくば戦争で死んでしまって欲しい立場だったしね。対してこいつは違う。現役ばりばりの忍者の姫よ」と言った。


もう一度、チラリとヒリュウを見る。


引き締まった体をしているが、小さな背中、小さなお尻……こいつは、エアスラン側の人間というだけで、別に俺達に悪さした訳では無い。俺達はウルカーン側の人間ではないのだから、こいつをエアスラン人と言うだけでコロコロしていいものか……


「はぁ~まあ、。別に、足手まといでもいいや」と、俺が言った。ここでこいつを殺したら、俺はもう日本には帰れない様な気がする。いや、日本に帰れるかどうか知らないけど。


「分かった。自分はそれに従うぜ」と、小田原さん。


「私も異議なし。一度は体を合せた相手……殺すのは忍びない」と、ケイティ。ケイティのやつは、拷問と言いつつやったらしい。この子、結構若いと思うのだが……


「こいつ、メシは食うんだろ?」と、サイフォンに言った。食事拒否とか面倒なことをするやつだったら、マイナスポイントだ。


「食うね。大食い。ブツも沢山出す」と、サイフォンが嬉しそうに返した。


「方針は決まったな。一日一回は水を入れ替えてやる。そして、お前は、俺達にとっては敵対者じゃないと信じたい。俺らは、縁があってウルカーンの貴族の荘園にいるが、別にウルカーンの人間じゃ無い。ならば、お前の忍者の里と、俺達は和解できるはずだ」と言った。


「あの時の尋問も、忍者の里に関することは極力避けたはずです。そこのところ、よく考えてください」と、ケイティが言った。


サイフォンは、「私達、あなたらの味方で良かったわ。じゃあ、今日もラブラブセック○して寝よ」と言って、俺に腕組みした。


色々と突っ込みたかったが、突っ込んだら負けだと思い、俺は無言でサイフォンに腕組をされながら、ここを後にした。


ヒリュウは終始俺と目を合せなかったが、まあ、いつか心を開いてくれるときが来るだろう……

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