第50話 温泉の地『シラサギ』と、ネオ・カーンと呼ばれていた街
今日も巨大な荷馬車を曳いて行く。
荷馬車曳きを初めて数日、筋肉が付いてきた。
両足、腹筋配筋、そして肩と腕。
最初からそこそこパワーがあったはずだが、今では格段にパワーアップしている気がする。
腹筋も、おっさんっ腹だったはずなのに、バキバキになっている。
あのネオ・カーンの街を脱出して早四日。普通の旅程よりかなり遅めだ。俺達は、コンボイで移動しつつ、途中狩りをして食料を補充しながら、キャンプ地で寝泊まりするという毎日を送っていた。個人的には、トマト男爵のところの戦闘メイドの訓練も行っている。
最近では、バッタ男爵やアリシアとの地稽古も行うようになった。
この二人はやっぱり別格で、俺の方が身体能力は高いと思うのだが、剣の戦いになるとぼこぼこといいのを貰う。本気で避けようとしても当てられる。本気で反撃はしていないけど、それでも凄いと思ってしまう。
まあ、戦闘メイド見習い達と比べたらの話だけど。
などと考えながら、ふと、空に白い湯気がもくもくと登っているのに気付く。
「おいおいおい、アレって……」と、呟く。
「ん~~? あの煙は、湯気?」と、隣のムーが応じてくれる。
彼女は最初から手足や腹筋がバッキバキだ。今はポンプアップされているから、さらに大きくたくましくなっている。
「着いたか、シラサギ……」
野営生活が始まって四日目。まあ、水魔術ベッドやらなんやらで、そこまで不自由しなかった旅だが、久々に城壁に囲まれた街で眠ることができる。
とても感慨深い。
「いや~あの湯気の根元がシラサギね。やっと着いた」と、俺の隣を歩くサイフォンが言った。
こうしてみると清楚なお嬢様なんだが……こいつらとは、道中は一緒に水魔術の訓練などをやっていた。俺の魔力を使って何かできないかという試みだ。
彼女らが水を生成し、それを俺が一旦奪いつつ魔力を大量に送る。
要は、あの水の壁の再現だ。そして、それを彼女らに譲る。そうすることで、大量の魔力を含んだ魔法の水を、彼女らが自在に操ることができる。そういうコンセプトで、何か出来ないかと研究しているのだ。
「ねえ、あそこに着いたらさ、私達を抱いてよ。何だか本気で心配になってくるじゃない」と、サイフォンが言った。
ララヘイム組の11人は、何かと肉体関係を持ちたがる。
そうでないと安心出来ないのかもしれないが……
しかし、いくら何でも11人全員としようと思うと大変だ。
おっさん的に、ハーレムはいらないのだ。ムラッとした時に出来るヒトがいたらいいなと思う下心はあるのだが、いなくても、まあ我慢できる。
サイフォンは、「ねえ、今晩ね。今晩。特大の水ベッド用意して待ってるから」と言って、仲間達の方へ戻って行く。
俺、何の返事もしていないのに。まあ、夜になったら、またムカデ娘のお世話になろうかな……ムカデ娘の寝床は、今曳いている巨大荷馬車の床下だ。あの狭い空間が落ち着くのだ。
でもなぁ。ムカデ娘との関係は、本人の好意を知っていて、それを利用しているだけの様な気もしてきた。少し悪い気もする。
最初は毒噛みつきの対価のつもりだったんだが。相手の情が本気となると……
それとも、たまにはムーとするか。シスイもたまにやりたがるし。オオサンショウウオのギランは放っておいても勝手に寝床に忍び込んでくるし。
無理に11人とする必要は無いか。でも、あいつらは俺に忠誠を誓う部下だ。信頼関係構築の第一歩は、セック○なのかもしれない。
「はぁ~」
何となく、ため息が出る。贅沢な悩みだなと思った。
「ため息つくと、幸せが逃げるよ~」と、ムーが反応した。
「済まん済まん。ちょっと悩んでた」と、返す。
「どうせ女の悩みでしょ~」と、ムーが言った。するどい。
「そうかもな」
「やっぱり? あのお貴族様とは、全然絡みがないね~」と、ムー。
「ナナセ子爵か? そうだな。ガードが堅いな」
ナナセ子爵は、白おじさんと白青年、それから緑お姉さん達にがっちりとガードを堅められている。
そんなに大事なら、最初から守ってやれよと言いたい。
ナナセ子爵も、積極的に俺に話しかけてこない。まあ、いいか、あの日の事は、彼女の気まぐれだろう。相手は公爵令嬢だからな。
シラサギで少し休憩したら、彼女とはお別れだ。戦争の行方も気になるが、ウルカーンも何時までもやられっぱなしではないと信じたい。そもそも、ウルカーンという国は、戦争が強い国らしいのだ。
そんなことを考えながら荷馬車を曳いて行くと、俺の横を騎乗した白青年がシラサギの方に駆けて行く。きっと、シラサギに連絡を入れに行くのだろう。俺を追い越すとき、もの凄い形相で睨まれた。俺、何か悪いことをしたのだろうか。
まあ、いいか。彼はそういうお年頃なんだろうし、俺も、踏ん切りが付くというものだ。
温泉に入ってゆっくりしたら、旅立とう。
しばらく荷馬車を曳くと、少し開けた平野に出た。
平野の先には、湿地帯が広がっていて、さらにその先には城壁が見えた。その城壁の中から、湯煙がもくもくと立ち上っている。あれがシラサギか。
早く温泉に入りたい。俺は、未だ見ぬ異世界温泉に思いを馳せて、気持ち荷馬車を曳く速度を上げていった。
◇◇◇
おっさんらがシラサギに到着した頃、かつて、ネオ・カーンと呼ばれた街に、続々と兵士が入場してきていた。
入って来た兵士達がまず最初に目にするのは、平民区の広場に飾られた死体。
『セック○自由』という看板が立てられた横には、死んで腐り出した女達がずらりと吊り下がっている。
その横には、『ウルカーンの貴族達が食べた者達』という看板が立てられて、人骨が積み上げられている。その人骨は火葬されておらず、肉片の付いた骨が悪臭を放ったまま放置されている。
さらに、『裏切り者』という看板が立てられた場所には、大量の首が並べられていた。彼らは、この街の反社会的な組織の構成員だった者たち。この街を落とすためにエアスランに協力したが、あっさりと約束を反故にされ、全員処刑されてしまった。
街中は死体の悪臭で溢れ、活気があった街中は静まり返り、もはや経済は死んでいた。
街に入って来た兵士達は、そのまま平民区を素通りし、元貴族区に設けられた兵舎に行く。
その兵舎には、大量の若い女性達がいた。彼女らは、兵士用の女性達で、兵士であれば、誰でも利用可能だった。到着した兵士達の一部は、早速、彼女らを利用するべく、物色してく。
この女性らは、この街で職を失った家族を食べさせるために集められた者達。元々の娼婦は、とっくの昔に略奪され、消費されていた。
そんな元貴族区のさらに先に、かつてネオ・カーンの兵士が籠城していた砦があり、今はそこがエアスラン軍の指令本部となっていた。
作戦会議室の上座に陣取るは、ガタイのいい男。
「シャール元帥、クメール将軍が到着されました」と、身なりの良い兵士が、ガタイのいい男に言った。
「通せ」と、シャール元帥と呼ばれた男が言った。
しばらく経つと、先遣隊を率いていたクメール将軍が部屋に入ってくる。その後ろには、オレンジ色の髪でひたすらニコニコと笑っている女性が従っていた。
「久々だな、クメール将軍。派手にやったようだな」と、元帥が言った。
「少々損害が大きすぎた。反省だな」と、クメール将軍が返す。
「寡兵でこの街の守備兵1200を屠ったのだ。大勝利だと思うぞ?」と、元帥。
「俺の兵は少数精鋭だった。その辺の雑魚と一緒にするな。それが半数近くもやられたのだ」と、クメール将軍。
「そうだったな。ところで、ララヘイムから来た水魔術士を全員捕らえ、拷問に掛けているのは本当か?」と、元帥が言った。どこか攻めるような口調だ。
「ああ。サイフォンとその直属部隊が全員、綺麗さっぱり見当たらない。死体も残っていない。あの状況で、11人仲良く捕縛されたというのも考えにくい。おそらく、脱走か裏切りだ」と、クメール将軍。
「それは、オリフィス家のサイフォンだけだろう。ララヘイム自体は我が国の同盟国だ。これ以上は国際問題になる。開放しろ」と、元帥が言った。
「ふん。俺の捕虜に口を出すのか? 拷問と言っても、男女でセック○させているだけだぞ?」と、クメール将軍。
「……どうせまともな情報は出なかったのだろう?」
「まあな。まあよいか。水魔術士どもは開放してやろう。そして? シラサギ攻略隊の話はどうなった?」と、クメール将軍。
「ああ、この街から脱出したナナセ子爵だな。そいつは、我らの進軍路に荘園を持っている。そこをいち早く潰すという作戦だったな。いいだろう。百人隊を二個付けてやる。我らの出発はまだ時間が掛かる。シラサギへの出陣は、一週間後だろう。それまでに、制圧しておけ」と、シャール元帥。
「ふん。田舎の荘園に碌な兵士はおらん。それよりも、相手が援軍を送る前に、土地を無価値なものにしておく必要がある。百人隊のうちの一つは、罪人部隊を連れていくぞ」と、クメール将軍。
「好きにしろ。カッター部隊はどうするんだ?」
「もちろん連れて行く。カッターで高速移動し、一気に攻め滅ぼす。ああ、そうだ。敵に、手練れの冒険者が付いている。エース級、いや、英雄級を借りるぞ」
「手練れか……まあ、お前がここを落としたせいで、あいつらの活躍機会が少なくなった。英雄級殿らも喜ぶだろう。連れて行け」
クメール将軍は、「準備ができ次第、直ぐに出る」と言って、踵を返す。
クメール将軍が出て行った部屋、一人残されたはずのシャール元帥は、「お前は、シラサギに潜入しておけ」と言った。
「気になるのですか?」と、どこからともなく声がする。若い女の声だ。
「冒険者は侮れん。たまに、とんでもない奴らがいる。私は、この街の攻略は、クメールだけで落とせると踏んではいたが、まさか、あいつの精鋭の半数が消耗しているとはな」と、シャール元帥。
「その理由を、私に確かめろと?」
「そうだ。クメールは、プライドの高い男、正確な情報は上がってこないだろう。情報収集のやり方は、お前に任せる」
「分かりました」
そういった声が聞こえた後、周りの空気がフワリと動いた。
・・・・
クメール将軍は、作戦会議室を出ると、まずは自分の部下の元へ赴く。
そこは元領主館で、この街で一番良い屋敷を自分の根城として押えていた。
クメール将軍が屋敷に入ると、屋敷の奥で、怒鳴り声と女性の悲鳴が聞こえてくる。
「バーンか。相変らず荒れているのか?」と、クメール将軍が門番の兵士に言った。
「はい。男根の全摘出手術で一命は取り留めたものの、女性を抱くという欲求は収まらず、今は張り子を使って、ウルカーン女どもを壊しまくっています」と、兵士。
「そうか……出陣だ。そこを攻略すれば、女が沢山いるはずだ」
「はい、分かりました。出撃はどのような陣営になりますでしょうか」
「直属の部隊は全て出す。それにプラスして、本体から百人隊を二個借りる。
「はは!」
「バーンは、前線に配置させる。一番槍を果たせば、女を沢山くれてやると伝えておけ」
「わかりました」
「ああ、そうそう。これから攻める街には、例の冒険者、『三匹のおっさん』がいるかもしれんぞ?」と、クメール将軍が口元を吊り上げながら言った。
そう言われた兵士は、数秒だけ固まったが、意味が理解出来たらしく、「分かりました。バーン様に、お伝えしておきます」と言った。
「くくく。悪鬼に耐性がある冒険者か……仲間にするか、駄目なら捕らえて、その体の秘密を暴いてやる」
ここに、エアスランはクメール将軍率いる先遣隊を補充。さらに強力な魔術士を加えてウルカーン侵攻を開始する。
三匹のおっさん達の運命や如何に……
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