第46話 占領地ネオ・カーンと、BBQ

エアスランの奇襲攻撃から一日経ち、混乱の渦に巻き込まれていたネオ・カーンの街は、徐々に落ち着きを取り戻していた。


いや、略奪対象とされたウルカーンの商店や各種ギルド、それから貴族区は略奪の限りが尽くされ、すでに略奪するものがなくなっただけなのかもしれない。


そして平民区の中央広場には、下級貴族の女性達や、捕らえられた女性兵士らが全裸で張り付けにされ、『セック○自由』の立て看板の元、大衆に晒されていた。


そんな元ネオ・カーンの現在の支配者は、つい数時間前まで敵が籠城していた軍区の砦を我が物としていた。


その執務室に、クメール将軍の部下が入ってくる。


その部下は、「クメール将軍、街は、マフィアどもを使い、ほぼ手中に収めています。秩序も戻りつつあります」との報告を入れる。


「ふん。あいつらは、軍の本陣が着いたら全員殺せ。下手にこの街の利権に食い込んでいるから邪魔だ」と、クメール将軍がこともなげに言った。


「分かりました。少年グループの方はどうしましょう」と、部下。


「あいつらに、今後の利用価値があるとすれば、それは肉壁だ。兵士にして最前線に送り込んで使い潰せ。飯と女を与えて言うことを聞かせろ」と、クメール将軍。


「はは! 女は捕らえた緑軍を使ってよろしいでしょうか」と、部下。


「セック○が出来そうな女は、百人くらいはいたと思うが、二十人は前線に回していい。残りはお前達で使っていいが、効率よく使え。本陣のヤツラも女を欲しがるだろう。少しは残しておけ」と、クメール将軍。


「は! 分かりました」


「ところで、行方不明のサイフォンはどうなった?」


「それが、依然として不明です。奇襲を受けた時までは確認できたのですが、それから依然として行方がしれません。サイフォンとその側近十名の姿もありません」


「そうか。死体すら無いとはな。だが、杖の魔道具と着衣の一部は残されていた。巨大な水塊が動いているのを見た者もいる。裏切ったか、相手の虜囚になったか」


「あの場で、わざわざ十人以上を捕らえるなど、考え辛いでしょう」


「ふん。分かっている。あいつらは裏切った可能性が高い。ララヘイム派遣兵の残りは捕らえておけ」


「はい。続けて、あの場から逃げたナナセ子爵と元領主夫人達ですが、北部の脱出路の警備兵が殺害されておりましたので、間違い無くそこから脱出したものと思われます」


「そうか。今は追っ手を出せる余裕はない。出しても逆に討ち取られる可能性が高い。ナナセ子爵なら、どうせこの先の自分の荘園に向かうだろう」


「はい。ナナセ子爵領『シラサギ』は、今回の進撃ルート上にあります。遅かれ早かれあそこには大軍が押し寄せますれば」


「そういうことだ。GGも殺され、女どもも奪われ、忌々しいがな……少し気になる事もある。あのおっさん達の素性とスキルだ。この街で何か分かれば良いがな。いずれにせよ、次のシラサギ攻略戦は、あいつらがいることを念頭に作戦を立てなければならない」


「はい。続けてバーン様ですが、謎の人物との戦闘により、射精し続けるという強力な魔術を掛けられ、このままでは衰弱死の恐れがあるため、今、全摘出手術を行っています」


「摘出? しかも全てだと?」


「はい、全摘出です」


クメール将軍は少し渋い顔をして、「そうか。それは、大変だな」と言って、自分の下腹部を見る。


そこには、包帯で巻かれた女性が横たわっており、今まさに繋がっているところであった。


「パイパン、魔獣を失ったお前に残っているのは、女としての体だけだ。分かるな?」と、クメール将軍。


「ぐ……はい」と、パイパンが答える。辛そうにしているが、顔はニコニコとしている。


「あの戦いで、GGを失ってしまった。あの変態め……まあよい。あいつは次で仕留める。お前は、今日から俺とセック○三昧だ」


「はい……が……」


「俺のスキル『身代わり』は、俺の体液の一部が体に入っていないと作動しない。一番いいのは精液だ。唾液や血液では確度が落ちる。だから、お前は常に俺の隣にいて、俺がしたくなったら股を開け。パンツは面倒だからはくな。いいな」


「……あぐ、はい」


「お前は、俺が脱げと言ったら脱げ。舐めろと言ったら舐めろ。そして、俺の代わりに死ね」


「ぎ……」


「お前の妹達は、エアスランにいる。それを忘れるな」


辛そうな顔をしていたパイパンは、再びニコニコと笑って「はい」と答えた。


「将軍、最後に、捕虜の男性兵士と、幼い子供はいかがいたしましょう」と、部下が言った。


「子供は、捕虜の貴族どものエサだ。食わせろ。それが無くなったら、次は、捕虜の男性兵士をエサにしろ。ちゃんと目の前で締めて料理しろよ。くくく、餓死したらかわいそうだからな。エサはちゃんと与えないといけないなぁ」と、クメール将軍が言った。


「分かりました」


「では、行くぞパイパン。出すなよ。全部体に蓄えておけ。出したら、骨を一本ずつ折る」


「はい」


パイパンは、ニコニコとした表情で固まりつつも、将軍をしっかりと受け入れていく。


「本陣到着まで後三日。その後、この街の占領が完了する前に、シラサギ攻略隊を出す。ああ、シラサギで捕虜を取るつもりは無い。根切りだ。一人残らず殺してしまおう。エアの楽園をこの手に……」


そう言うクメール将軍の目は、赤く光っていた。



◇◇◇


「よくやった! さすがは千尋藻だ。俺の見込んだ男だ」と、おっさんが言った。


俺の隣に陣取るおっさんは、すでに酒が回っていて、俺の肩をバンバン叩く。


ここは、圧倒的に女性が多いというのに、俺はというと、おっさん達で固まって飲んでいた。


いつもの三人と、キャラバンで雇っている『炎の宝剣』のリーダーと、俺が助けた行商人の護衛『土のヒューイ』のリーダーだ。今、俺の肩をバンバンしているのは彼だ。さらに、冒険者グループの男性メンバーも一緒だ。


俺が助けた行商人は、俺がナナセ子爵を連れて来ると読んで、このキャンプ地に残ることにしたらしい。他の商隊はすでに出発しており、ここにはいない。


ここに残った行商人は、要は戦争特需にあやかろうとしたわけだ。ここに残り、ナナセ子爵に自分達の商品を買ってくれないかと持ちかける思惑だ。もちろん、普通に売るより高値で。これからシラサギまでは数日かかる。街から脱出してきた人数を考えると、ナナセ子爵側も、食料等の物資は欲しいだろう。


今、ナナセ子爵とトマト男爵、そしてバッタ男爵は、その行商人と交渉中だ。


と、いうわけで、暇になった冒険者パーティのリーダー会議と称して始まった飲み会は、小さな囲炉裏を囲んで俺がひたすら肩をバンバン叩かれるという状況になっている。


「僕は、追っ手が掛からないかが心配だったけど」と、炎の宝剣のリダ。


「あいつらは寡兵で奇襲してきたんだ。俺達にかまっている暇はねぇだろう」と、土のヒューイのリダ。


この二人は、元からの知り合いらしい。


俺の向いでは、筋肉質の斧使いが、焼いた骨付きの肉を頬張っている。良く似合う。今日は皆で狩りをしたらしく、そこそこの成果があったらしい。


ああ、周りではあんなに女性達が多いのに、なんで俺はここでむさ苦しい男どもと……リーダー会議というのなら、せめてジークとシスイを連れてきたらどうだ。


なんて思いながら、焼いた貝を食べていると、「あのさあ、ちょっと話があるんだけど」と、後ろから声がした。振り向くと、そこには、『炎の宝剣』のスカウトと幼女魔道士がいた。


「何だ? どうした?」と、リーダーくんが応じる。


「アレよ、あれ」と、女スカウトが水の壁を指さして言った。


あの水の壁は、排泄物まみれになっており、その中に10人ほどの敵魔術士を捕らえている。全員全裸で。


「ああ、あれな。あれがあるから、俺達男はこっちでしんみりと飲んでいるわけだ」と、リーダーくん。そうだったのか。目のやり場に困るからこっちで飲んでるのか。


「そうじゃなくって、子供の教育に悪いと思って。それに汚いし。食欲わかないし」と、女スカウトさん。どことなく、遠回しに俺にどうにかしろと言っているように聞こえる。まあ、気持ちは分かる。


「でもさ、どうするんだ? 十人なんてどうやって捕らえておくんだ?」と、リーダー君。


「そうだけどさ。せめて水を入れ替えるとか、服を着せるとか」と、女スカウト。ごもっともだ。ただ、残念なことに、水の入れ替え方法を俺は知らない。


「少し、話をしてみるか」と、俺が応じる。


俺は、彼女達の事は見て見ぬ振りをしていた。外国の捕虜なんて面倒だし。

というか、ここまで勝手についてきたのだ。あの水魔術の壁。



・・・・


と、言うわけで、水壁の前までやってきた。お酒を片手に。


壁の前では、ぎゃーぎゃー騒ぐ女性達とデンキウナギ娘らが、何やら言い合いをしていた。


この壁の中の女性達、清楚な感じがするのに、どうも口が汚いというか。


「早くここから出しなさいよ。お願いよ、もう」と、水色の髪の女性が言った。


「だーめ。騒ぐとまた電撃いくよ」と、デンキウナギ娘。


「ざけんなよ、このチビ。私を誰だと思って……あががっががが」


水色の髪の女性がデンキウナギ娘に悪態をつき、お返しとばかりに電気を流されたようだ。


「ぎゃあ、サイフォン様がまた漏らした! もう嫌! ここから出して、ウン○が、ウン○が流れてくる」と、別の女性が叫ぶ。髪で片目が隠れている細身の美女だ。


先ほどの水色髪の女性が、電撃で痺れ、大の方を粗相したようだ。サイフォンと呼ばれた女性は隅っこの方に蹴られて追いやられ、他の女性全員は反対側に避難している。少しかわいそうだ。


どうしよう。これはどうすればいいんだ?


とりあえず、水の壁を見上げてお酒をちびりと飲む。マズい。あの水の壁、固形物が一杯浮いている。


というか、水が白い。この水、飲まなくても、ずっと浸かりっぱなしじゃ流石に病気になるのではなかろうか。


「汚ねぇ……これ、どうしよう」と呟く。


その時、俺の肩を指でちょんちょんと叩く人物が……後ろを振り向くと、ピーカブーさんがいた。相変らず気配が無い人だ。


ピーカブーさんは、貝の中から顔を出し、「見に来たの? 御飯が不味くならない?」と言った。


「まあ、そうなんだけど……これ、やったの俺だし」


「やっぱりね。あなたなら、こんなことは朝飯前。こんな水魔術士レベルじゃお話にならない」と、ピーカブーさん。


「あなた、タケノコ島のアンモナイト娘ね。お願い、この水魔術解いて。もう限界なのよ」と、俺達に気付いた囚われの女性の一人が言った。


「何が限界なんだ?」と、問いかける。


女性は、足をもぞもぞさせながら「その、あの……」と呟く。少し恥ずかしそうだ。


「ほう。喉でも渇いたのか? 少し恵んでやろう」と言って、お酒の入ったコップを口に近づけてやる。


「いや、止めて、その……」


「けけけ、漏らせ漏らせ。お前らも漏らせ。全員でお漏らしして仲間になろうぜ?」と、端っこに追いやられていた水色髪の女性が言った。いつの間にか感電から復活したようだ。


「何なら飯も食わせてみようか」と言って、デンキウナギ娘に目配せする。彼女は嬉しそうにバーベキュー会場の方に駆けて行く。


「ここ、明日の朝にはどんなになっているんだろうなぁ」と、呟く。数をちゃんと数えると、ここには11人いる。11人分なら、もの凄いことになっていそうだ。中の女性達は、顔が真っ青になる。


「お願い、何でもするから、ここから出して」と、とある女性が言った。


「あのなぁ、こっちは、何でもしようと思えば出来る状態なんだぞ? 何でこちらが譲歩しないといけないんだ?」と言ってみる。


「え? 何でもって、例えば和姦とか?」と、水色髪の女性に返される。彼女、とても清楚な顔をしているのに、言うことが卑猥だ。というか、顔が少しにこやかだ。さては、体を許せば、こっちが折れると思っているな? 舐めてる気がする。


「可愛い顔して言っても無駄だ。お前達は、後一週間くらいそのままだ」と、言ってやった。


この水、どんなに汚くても、臭いが外に漏れないようなのだ。なので、見た目を我慢すれば、まあ耐えられる。


「ぎゃー嫌ぁあああ!」と、目隠れ属性の女性が叫ぶ。


「うっせえ!」と言って、デンキウナギ娘が持ってきた昆虫の蒲焼きを口に突っ込む。


その女性は苦しそうにむせたので、お酒を口の中に流し込んでおいた。



・・・・


ひとしきり皆に食事を与えると、水色髪の女性が、「あのさあ」と言って、注目を集める。


「ねえ、もうそろそろ、真面目な話をしない?」と、水色の髪の女性が言った。とても真面目な顔つきだ。今まで全く恥ずかしがっていなかったのに、胸やら股間を手で隠している。何故か、指の隙間から少しだけ中身が見えるように……


まあ、俺もこいつらの処遇をずっと棚に上げておくつもりは無いが、あの街の惨状とナナセ子爵達に行われた仕打ちを考えれば、まだまだ溜飲は下がらない。


なので、「それは今度な。なんか、乗り悪いし、開放するの止めた」と言って、踵を返す。


「ぎゃぁあ! サイフォン様がしくじった!」と、髪で片目が隠れている女性が言った。テンションが高い。お酒が回ってきたのかな……


「うっさいわね。でも、今のは本気だったのに」と、サイフォンさんが言った。


「ウンコ漏らした後に言うことじゃないわよ! タイミング最っ悪!」


「だってだってだってー!」


こいつらうるせぇ……


「あ~、お前ら、まだまだお腹が空いてひもじいだろ。誰か御飯食べさせて。水は、まあ、沢山あるからいいだろ」と、言ってみた。


「お? 任せておけ。私は、人に食べさせるのは得意なんだ」と、見知った声がした。


「ん? アリシアか。こいつらの世話、任せていいか?」


「ああ、任せておけ。水は、こいつらを包んでいる水を飲ませりゃいいんだな?」と、アリシア。こいつ、イケズでは無く、本気でそれを実行しそうで怖いが……


「いいぞ。人は、水が無いのが一番辛いらしいからな」と、応じておく。


まあ、後はアリシアに任せよう。こいつら元気だし、死にはしないだろう。


俺が飲み直そうと後ろを振り返ると、鬼のような形相をした『炎の宝剣』の女スカウトがいた。


そういえば、俺がここに来たのは子供の教育のためだった。まあ、いっか。許してくれ。

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