第45話 キャンプ地への道

#開けましておめでとうございます。ことしも、よろしくお願いいたします。それでは、小説をお楽しみください。


・・・・


俺は、しばらくぶりの友人と再会し、少しだけほっとした。


「いよ! ケイティ。どうだった?」


「はい。勉強になりました」と、ケイティが返してくる。何を勉強したのだろう。服がビリビリに破けているから、それなりに激しい戦闘があったと思われる。


「おう、ケイティ。お前も戦闘したようだな」と、小田原さんが言った。


おっさん三匹が再会を喜んでいる先では、ナナセ子爵がグラマラスな夫人に抱きしめられていた。


凄い胸とお尻の持ち主だ。ミノタウロス娘のムーには負けるが、身長が低い分、グラマラスに見える。


「さて。先を急ぎませんと」と、俺はナナセ子爵に言った。


「分かっている。ねえ、ケイ。私達に残されている時間は少ないわ。この街は、もうウルカーンの街では無い。解って?」と、ナナセ子爵。皆に聞こえるように少し大きな声で話している。


「ええ。領主が拘束を前にして自害した時に、私達がこの街を支配する正当な理由は無くなりました」と、グラマラスな夫人が言った。ケイさんと言うらしい。少し気落ちしているような印象だ。


というか、ここの領主、捕まる前に自害したのか。ひどい拷問を受ける前に、自ら死を選んだと。


「これより、ここにいるメンバーだけで、この街を脱出する」と、ナナセ子爵。


ここにいる女性達の顔が少し険しい物に変わる。


この世界の移動というものは、かなり厳しいものだ。


近くの街まで移動するのにも数日はかかる。しかも、ちゃんと物資を満載した荷馬車と護衛を連れて。休憩場所やキャンプ地などの地理を知っておかないといけないし、何より体力が必要だ。


今回は、緑色の鎧を着けた衛生班が付くし、俺達という護衛戦力が同行する。だがしかし、魔術がある世界とはいえ、女性だらけの移動は厳しいものになるだろう。


「行き先は、『シラサギ』。ここから約四日の位置にある、私の荘園よ」と、ナナセ子爵。


「四日……その、私達に、それは可能でしょうか」と、女性の誰かが言った。


「出来る。ここから約半日のキャンプ地に、彼の仲間達がいます。それに、ウルカーンに向かう途中の、我が国のトマト男爵とバッタ男爵もね。彼らに、補給と道中の護衛を依頼します」と、ナナセ子爵。


皆の顔がみるみると明るくなる。人とは、希望があると元気が出るものだ。


「ここから北に、貴族用の通路があります。そこから密かに脱出します。急ぎましょう」と、ナナセ子爵。


「ばうわん(あっちの戦闘、弾幕の音が少なくなっている。マズいぜ)」と、バターが言った。


「あ~あっちの戦闘、少しまずそう。急いだ方がいいな」と、俺が通訳する。


「分かりました。脱出しましょう。だけどあいつら、ウルカーンにまで攻め上げる気でいる。シラサギからどうするの?」と、グラマラスな夫人。


ナナセ子爵は、「そこから実家に連絡を取るわ。急ぎましょう」と言って、歩き出す。


「ばうばう(北の出口にも敵の臭いがする)」と、バターが言った。


俺は、「北にも敵がいるってさ。どうする?」と、横の二人に言った。


「ふむ。私達で露払いしてこよう」と、小田原さんが言った。


「そうだな。兵士さん、彼女らの移動頼める?」と、白おじさんに言った。


ネオ・カーン軍の殆どは戦場に残ったが、白鎧は5人、緑は3人がナナセ子爵に付いてきた。


白おじさんは、こちらをぎょろりと睨み、「ふん。言われるまでも無い」と言った。まあ、俺はウマの骨みたいなもんだからな。


俺達三人は、ここに来た時と同じように、バターの背中に飛び乗った。


斧を持っているし、金太郎になった気分だ。



・・・・


「……武装した敵兵を瞬殺。貴方達は、一体……」と、グラマラス夫人が言った。この人は、領主夫人であり、伯爵夫人であり、実家が子爵位の貴族である人らしい。


「まあ、三人しかいませんでしたし」と、返しておく。というか、この脱出路の守備兵はバターと小田原さんがあっという間にやっつけた。完全に油断していたし。というか、この世界は通信技術が全く発達していない。通信手段は口頭の他に手紙くらいだ。なので、俺達が攻め入ったり、砦の籠城兵が攻め出て来たりといった情報は入っていなかったのだろう。


「さ、急いで通ってください。我らに追っ手が掛かる可能性もありますれば」と、白おじさん。


ここの門は、門と言っても馬車が通れないほどの狭い門だ。目立たない所にあるし、貴族用の脱出路のようだった。


この御一行は、俺達おっさん三人、ナナセ子爵、元領主夫人の他に、若い女性が30人ほどいる。みんな貴族らしい。大半が下級貴族出身のメイドらしいけど。


さらに、白鎧はおっさんと青年の計5人、緑鎧は女性だけで3人だから、男8人、女35人の大所帯だ。


ちなみに、誰も突っ込まないが、俺の後ろを自動で付いてくる謎の水塊。その水塊には、女性が10人ほど捕らえられている。顔が出ているから、生きてはいるが、今はもうギャーギャー叫ぶ気力も無くなっているらしい。


というか、誰かお漏らししたらしく、水が汚くなっている。我慢仕切れなかったのだろう。


全員が城壁の外に出る。水塊も女性らを内包したままするりと城門を抜け出した。


外は、道なき道だった。


「バター、キャンプ地の場所は分かるか?」


「わん(分かる。だが、山道を進んだ方がいいのか、街道に出た方がいいのか、どちらがいいか選んでくれ)」


「ナナセ子爵、山道がいい? それとも街道に出ます?」と、聞いてみる。


「街道を目指しましょう。相手にはテイマーがいる。追っ手を出されたら、山道でも逃げられない。それならば、距離を稼ぎやすい街道に出ましょう」と、ナナセ子爵。


彼女がそう言うと、バターがゆっくりと歩き出す。それを機に、俺達も歩き出す。今回は女性も多く、しばらく登り道が続くため、少しゆっくりと歩く。


「テイマー? テイマーって、あのティンガロンハットの人です?」と聞いてみる。あの時、全身骨折で倒してしまった。というかトラも猫も倒してしまった。


「彼女、多分、死んでいなかったわ。ところで、あなたは、私の部下でもないし、仕事を請け負っている分けでもないのに、なんで敬語なの?」と、ナナセ子爵が言った。


「え? 人って、最初の印象からあまり変えられないといいますか。何となく?」


「まあ、いいわ。あなたとのことも、いずれはっきりさせないとね」と、ナナセ子爵。


心なしか、今の発言で、俺への注目度が上がった気がする。特に、後ろの女性達から。


「まあ、どうだっていいです」と、答えておく。


「あら? でも、あなた私を助けに来てくれたじゃない。敵の真っ只中に。それはどうなの? 何を望むの?」と、ナナセ子爵。


「いえいえ。あなたが無事ならそれでいいです。お礼は不要です。あ、でも米食って温泉には入ります」


貴族のお礼は、きっとお礼では無い気がするのは、気のせいだろうか。


「まあ! 自分が女にした相手だから、気になって助けに来てくれたと思っていたのに」と、ナナセ子爵。


後が、どっと沸く。女性が30人以上もいるとかなりうるさい。まあ、元気なのは良いことだ。


というか、ナナセ子爵の左右にいる白おじさんと、緑お姉さんの表情が怖い。何なのだろう。まさか、公爵令嬢と性的関係を持ってしまった俺を気にくわないのだろうか。


そんなことを考えつつ、俺達一行は、無事に戦場となったネオ・カーンの街を脱出し、一路、キャラバン達が待つキャンプ地に出発した。



・・・・


「ちょっと、待ってあげて! この子が」と、後ろの女性陣が叫ぶ。


俺は、「ストップ! スト~ップ!」と言って、バターを止める。


バターの背中に乗っている、女性ら四人がぐらりと揺れる。


今は出発してから約一時間。やっと街道に出たはいいが、登り坂が続き、ダウンする子達が相次いでいる。少し強行軍過ぎたか……一応、途中で休憩を挟みつつ進んではいるのだが。


まあ、この子らは、昨日は休んでいないと言っていた。今も、御飯も食べずにずっと歩き続けているのだ。あと数時間の辛抱とはいえ、辛いものは辛いだろう。


「どうする千尋藻さん」と、小田原さん。彼の背中には、すでに別の女性が背負われている。


「俺が背負うか。幸い、ここにはあまりモンスターがいない」


スタンピードが起きたばかりだからだろうか。モンスターが皆無だ。


「警護は我々にお任せを」と、白鎧の青年が言った。


「分かった。俺が背負おう」と言って、地面に座ってしまった女性の元に行く。


「ふむ。私が思うに、全員、アレに入ったら、楽なのではないかと」とケイティが言った。俺は、ケイティが『アレ』と言う、巨大な水塊を見上げる。


『アレ』とは、高さ三メートル、横幅十五メートルくらいの水の壁。そこに、顔だけ出した全裸女性がずらりと並んでいる。

地面にへたり混んでいた女性は、涙目になりながら、ふるふると首を横に振る。


アレに入るのは嫌なようだ。まあ、あの水は、すでに色々と汚れている。排泄物で。


誰だよ漏らしたの。というか、大きい方も浮いている。捕らえられている女性達は、ブツが自分の方に漂ってくると、ギャーギャーと喚きながら遠くに追いやろうとし、更に細切れになって収拾が付かなくなるという悪循環に陥っている。まあ、不思議と臭くないのでいいんだけど。


「じゃあ、おじさんの背中でいいか?」と聞いてみる。平民のおっさんに背負われたくないとか言われたらショックなのだが、一応確認だ。よく見ると、この子はまだ幼い。


その子は、「は、はい」と言って、顔を赤らめる。貴族の子女なら、男性の背中に負ぶされたこともないのだろうか。


まあいいや、俺は、彼女の前でしゃがみ、背中を向けた。


周りの女性陣が手伝ってあげて、その子は、俺の背中に倒れ込んできた。


立ち上がると、軽かった。昨日、ミノタウロス娘のムーを持ち上げたけど、その数分の一の軽さだ。


俺は、未だに息が荒い彼女を背中に負ぶって、歩き出した。



・・・・


数回目の小休止。ここはすでに街道だが、前からも後ろからも全く荷馬車の往来はない。

すでにネオ・カーンの街が交戦状態にあることが分かっているからだろうか。


それに、俺達に向けての追手も来ない。友軍が頑張ってくれているのか、それとも兵士不足なのか、あるいは目的はすでに達成したと考えているのか。


そんなことを考えていると、「次は私!」と言って、疲れたと自称する女性が俺の背中に乗ってくる。彼女は、高校生か大学生くらいの年齢ではないだろうか。少しおっぱいが大きい。


さっきまで俺の背中でゼーゼー言っていた子は復帰した。バターの背中の子や小田原さんの背中の子も交代し、再び出発する。


俺の背中の子は、あの時、ナナセ子爵の方にいた子だ。すなわち、全裸にされてひどい陵辱を受けていた子……なのだが、この子は小さい声で『うへへへ』とか言いながら、俺を背中から抱きしめてくる。


ドサクサに紛れて、俺の乳首辺りをさわさわしてきやがる。まさかセクハラか? というかこいつ、本当に疲れているのか?


俺は、乳首毛を動かして後ろのヤツの指技を躱し、お返しとばかりにお尻をさわさわしておいた。


背中の女性は、「うふん。私がいいなら、今晩、向かいましてよ」と言った。


俺がどうしようか迷っていると、「あら、あなた元気になりましたのね。変わってくださらない?」と、別の女性が言った。女性というか、見た目まだ中学生くらいの子だ。貴族社会の上下関係はよく分からないけど、背中の女性は大人しく降りるようだ。


というか、どうしよう。おっさんの俺が異世界でモテモテだ。ありがとう神様。


まあ、あの状況で助け出したのなら、普段の数百倍はいい男に見えるのかもしれない。お隣のケイティは、未亡人である元領主夫人と会話が弾んでいるし、きっと、今晩落とす気だろう。


俺は、役得役得と思いながら、背中の女性をチェンジする。だが、おんぶをしていると、少し、日本に残して来ている子供達を思い出してしまった。



・・・・


登り坂が途切れ、平坦な道の後、なだらかな下りになる。


この道は覚えている。おそらくそろそろ……


「ばうわう(着いたぜ)」と、バターが言った。


やはり。何となく、水の臭いがする。それから、キャンプ地独特の臭い。消炭やら何やらの臭いだと思う。


ふと、バターの目線を追うと、森の中で小さく手を振る人物がいる。アレはウマ娘。きっと、斥候で見張りをしていたのだろう。


更に歩いて行くと、キャンプ地である河原に着いた。


そこには……


見覚えのある巨大な荷馬車に、中型の荷馬車がいちに、さんし……


ジークとムーが手を振っている。直ぐに全員が気付き、こちらに大きく手を振る。ネムとジェイクもいる。トマトとバッタの陣営は、ぞろぞろと出てきてこちらを出迎えるようだ。まあ、こちらには現役の子爵がいるからな。


着いた。敵の追跡もなく、街からは一人の脱落もなく、何とか逃げ出せた。

それは、友軍の活躍だったのかもしれないけど。まだ安心はできないかもしれないが、ここまでくれば一安心という感じがした。


「お疲れ千尋藻。暇だから、皆で狩りしてたぞ」と、ジークが言った。


「捕れた?」と、聞き返す。


「ぼちぼちな。食うか?」と、ジーク。大きな白い歯を見せて、ニカッと笑う。


「ああ、流石に疲れた。肉が食いたいかな」と、返す。


「じゃあ、今日はバーベキューだ」と、ジークが言った。後ろのムカデ娘がにこりと笑う。彼女が腕によりを掛けて下ごしらえをしてくれるのだろう。


「大きなシジミもあるよ」と、オオサンショウウオ娘が言った。川から取ってきたのだろう。楽しみだ。


俺は嬉しくなって、「ただ今」と、言ってみる。


「「「「お帰り~~~」」」」


皆が祝福してくれた。

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