第39話 ムーという女とバター

俺達は、助けた行商人から、ネオ・カーンの街の情報を聞いていた。

そしてもたらされた情報、それは……


あの時、スタンピードはネオ・カーンの西門でも起きたらしい。いや、規模から察すると、西の方がメインだったと思われらしいのだ。

俺達がいたのは東門で、東からの来襲は無く、おおよそ南からが多く、北から攻めてきたスタンピードは小規模だった。


だがこのスタンピード、実は西からが一番多かったらしい。

直ぐに守備隊が城門を閉じて対処しようとしたところ、街中で反社会勢力達が一斉蜂起した。


ネオ・カーン防衛軍の主力は貴族区の横のやや北寄りの軍区にいたため、直ぐに対応できず、寡兵の城門守備隊は瞬く間に制圧され、門を締めることが出来なかった。

そして、スタンピードが街中に侵入。


平民区がめちゃめちゃなことになっていたらしい。


その時、命からがら逃げて来た人達の話によると、スタンピードの後ろには、黒いネコ科とみられる大きな魔獣がいたとのことだ。今回のスタンピードは、そいつらに追い立てられて、進行方向を誘導されていたのではと考えられる。


そして……スタンピードの後ろには、軍隊がいた。というか、気付いたら街中にもすでに敵国の軍隊がいた。


その国は、やはりエアスラン。用意周到に兵士を街中に紛れ込ませ、スタンピードに併せて一斉に現われたのだろうとのことだ。

ウインドカッターという風の魔術で動く板に乗り、高速で街に接近し、瞬く間に城壁上の兵士を沈黙させ、街の中に侵入。


逃げて来た人が言うには、エアスラン軍はばらばらに駆けつけてきた守備隊と交戦していたが、エアスラン軍の方が強い印象だったらしい。


それから、貴族区の方でも激しい戦闘音が聞こえていたとのことだ。

さらに、悪鬼が出たとの情報が広まったが、真偽の程は不明だとか。民衆が混乱した時は、大体流言飛語の類いが出るからな。


「ふむ。ならば、今なおネオ・カーン軍とエアスラン軍の戦闘が続けられているということか?」と、ジークが言った。


「私達の情報では、軍隊同士の『激しい戦闘が起きていた』という目撃情報だけです。どちらがどうなったか、ということはまだ分かっておりません」と、行商人。


「そっか。エアスランは、ネオ・カーンの元宗主国なんだろ? 平民区はどうなってんだろ」と言ってみる。


「平民区には、魔物が襲い掛かっています。それに、平民区といえど、ウルカーン本国からの入植民や豪商などの屋敷があります。平民区は無防備です。今頃どうなっていることやら」と、行商人が返した。


「さてさて。俺達は、第三国のもんだ。介入はできないが、情報は助かった」と、ジークが言った。


「はい。また何かありましたら」と言って、行商人達が帰って行く。俺達が欲しがっていた情報だった。これが、商人の恩の返し方なんだろう。



・・・


俺は、人数が減った席で、隣にいるジークに「実際、どうなんだろう」と、聞いてみる。


流言飛語の部類かもしれないし、これもハイブリッド戦の一種なのかもしれない。まあ、今回のは彼らが俺に恩義を感じて流してくれた情報なので、ある程度信じていいのかもしれない。


ジークは、「考えてもどうにもならんが、普通の戦争は、野戦だ。戦争前には、だいたい大規模な軍勢をぞろぞろと移動させるから、敵国も侵略を察知できる。だから、それに併せて攻められる方も軍備を整えるわけだ。準備が間に合わなければ、籠城という作戦を取るだろうしな」と言った。


「今回は、それの兆候がなかったと?」


「そうだな。少なくとも俺は知らなかった。俺達、ネオ・カーンに来る前は、エアスランにいたんだぜ? 戦争を起そうという情報も雰囲気もなかった。だが、今の情報ではネオ・カーンに軍隊が現われたと言っていたな……まあ、小規模の軍勢なら、どうとでもなるだろうがな」と、ジーク。


「それって、隠密進軍ができる部隊があるということか? まあ、国交があったんだから、やろうと思えばやれるんだろうな」と、返す。


例えば、近くに隠し拠点を設けておくとか、そもそも軍隊を街中に忍ばせておくとか。


まあ、俺は軍事情報には疎い。しかも、ここは魔術のある異世界だ。魔術を戦争に用いた時の効果とか用い方とか、あまり想像できない。


俺とジークが黙って考え事をしながら黙々と炭火焼きの鳥肉を食べていると、尻尾をヒラヒラと揺らしながらこちらに歩いてくるやつがいる。


「はいは~い! 難しいお話はベッドの中で。今は飲もうよ」と、ギランが言った。手にはお酒を持っている。ギランは一応20歳だ。


「そうだな。飲もう。それで、難しい話をベッドの中でするのなら、俺は千尋藻とセック○するという話でいいのか?」と、ジークがニヤニヤしながら言った。


それは困った。俺にはムーという先約がいるのだが。いや、ジークの肉付きも魅力的ではあるんだけど。


俺が言い淀んでいると、ギランが「あら、アンタ先約がいるの? 誰よ、言いなさい」と言った。


こいつは、嫉妬では無くて、おそらく紛れ込もうとしているのだ。今なら分かる。こいつは、誰かと一緒にするのが好きなのだ。


ふと、俺の後ろに気配を感じる。この気配はおそらく……


その気配は、俺の肩にぼすんと手を置いて「今日はわたし~」と言った。


「ムーか。セイロンだと思ったがよ。あいつ、もうお前以外考えられないって言ってたぜ」と、ジーク。


「そうよね。アンタ、セイロンの毒噛みつきも受け止めてあげてるし。相性いいんじゃない? ムカデ娘と」と、ギランが言った。


いや、ムカデ娘だけはご勘弁を……だが、あの名器の持ち主の超美形が、快楽で表情がぐちゃぐちゃになる瞬間が……


「んふ。でも、今日は私が独占していい? ちょっと激しいのしたいから」と、ムーが言った。激しいヤツ? まじかよ……今までのは手加減していたのか。


「あ~しゃあねぇな。お前は、いつか本気でしたいって言ってたもんな。だが、千尋藻だったらいけるかもしれねぇ」と、ジークが言った。なんだよそれ……一体どんなプレイなんだ?


「ムーが本気なら、私もパス。終わった後に、ひっそりと合流する。体温奪いに」と、ギラン。合流はするんだ……


「今日は始めるの遅かったから、そろそろ御飯も終わりにしよ」と、ムーがジークに言った。


「ま、そうだな。明日もこの山道を越えなきゃなんねぇ。今日の食事は終了だ」と、ジークが言った。


ジークの合図で、みんな一斉に片付けを始める。手慣れたもんだ。


うちのチームも片付けを手伝う。

そういえば、ジェイクと小田原さんの力作である組み立て式寝床が大八車の横に完成している。


だが、俺は今からムーと一対一サシだから、あそこには泊まれない。せっかく造ってくれたのに。


俺は、いそいそと片付けを手伝い、途中ムカデ娘のセイロンに一回だけ噛ませてと懇願され、トイレで噛ませてあげて、そして、そして……


他のメンバーより大きめの寝床。


実は、ムカデ娘とオオサンショウウオ娘の寝床は、馬車の床下だったりする。ウナギの寝床のような細長い寝床に無理矢理入るのだ。彼女らはそれが落ち着くらしい。


一方、ムーの寝床は大きい。荷馬車の真横に設えられたベッド。だが、欠点があり、ここは皆の寝床の中心……やると皆に覗かれる。


だが、これから、ムーとセック○できる。そういえば、俺はかつて、ジークとライオン娘の尋問に合い、これまでの最高のセック○をジャンル別に述べさせられたことがある。


その中に、彼女は複数入っていた。それは、巨乳部門、巨女部門、筋肉部門、抱き心地部門、そして、締まり部門……


俺は、卑猥な質問攻めに合い、ついつい彼女の名前を複数答えてしまったのだ。というか、俺はそこまで女性経験が豊富な方じゃない……必然的に異世界転移してきてからの女性が多くエントリーされているわけで。


そして、その女が俺の目の前にいる。しかも、足を広げた状態で……きっと、俺を満足させられる自信があるのだろう。


ムーはにこりと笑い、小さな声で「きて……」と言った。


すばらしきかな異世界。そしてモンスター娘達よ……


ムーは、「んふ、一杯ぎゅうぎゅうしてあげる~」と言って、下から俺を自分に迎え入れる。


ドゴン! ドゴン! 「なんだ! 魔物か!?」 「何だあれは、デカいぞ!」


外から無粋な音と声がする。だが、今は無視だ。なぜならば、あと少しで……


「あれはフェンリル狼だ! 大きいぞ」


「いや、撃つな! 撃つなと、うちのテイマーが言ってる」「あれは、バターよ!」「何だと! ジュノンソー公爵家の秘蔵のフェンリル狼が何故ここに?」「あいつ、怪我していないか?」


外野がうるさいな。でも、俺は、俺は……今忙しいのだ。


「うぉん!(千尋藻! いるか! いるなら返事してくれ)」


無視だ。ムーも気にしていない。一気に……そして、ムーに力一杯ぎゅ~っとされる。


俺は、ムーのなすがままに……う、うぉおおおおおおおおおおお・・・・・・・何これ何これ。下からなのに、そんな、まさか……


「わん!(頼む、いるんだろ! 千尋藻ぉおおお!)」


あんの駄犬がぁ……頭に血が上る。


俺の下では、ムーが眉毛をハの字にし、必死に動いている。どうしよう。


俺は、ムーをがっちりと抱きしめ、彼女を抱きかかえたまま、立ち上がる。ムーもすかさず俺の首に手を回し、両足を俺の腰に回してがっちりと組む。


体中に血液が行き渡る。左手でムーを背中から抱き寄せ、右手に拳を造る。

ムーの巨大な双丘の隙間から、犬の鳴き声がする方向を探す。右手の方向、駄犬を確認。駄犬は一瞬嬉しそうな顔をするが、直ぐに負け犬の顔になる。


そのままの体勢で、地面を踏みしめる。


一歩、ニ歩……宿地…………


ムーを抱えたまま、もの凄い勢いで、駄犬に向かう。


「死ね!」と言って、拳を駄犬の頭に叩きつけた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る