第37話 エアスランの奇襲攻撃

時は少し遡り、三匹のおっさんがネオ・カーンを出発した日の朝、すなわちスタンピードが街を襲った日、ネオ・カーンの街のとあるホテルで、一組の男女が目覚める。


最初にむくりと起きあがった金髪の大柄な男性が、横で眠る水色髪の女性を見下ろす。


二人とも全裸だ。


大柄な男は、「そろそろ起きようぜ」と言って、無防備な女性のおっぱいを掴む。


おっぱいを揉まれた女性は、「ううん、止めろ。うざい」と言った。


男は、「もう一発してやろうか」と言って、女性の体をまさぐる。


女性は、「誰がするか」と言って背中を向けてしまう。


男性は苦笑いをし、「昨日はあんなに可愛かったのによ」と言った。


女性は、「ばか。アンタは、黙って私を楽しませていればいいの」と言って、むくりと起き上がる。


「けっ、かわいげがねぇぜ、サイフォンさんよ」と、男が言った。


サイフォンは、「バーン、あんたもここにいるヤれそうな女が私だけだから、言い寄ってきただけでしょ」と言った。


バーンは、やれやれといったポーズを取り、「してって言ったのは誰だよ」と言った。


サイフォンは、「ちょうど良いところに良さそうなチ○ポがあったから、誘いに乗っただけ。私、本当はもうちょっとおっさんがいいの」と、返す。


バーンは、「おっさん? まあ、いいけどよ。今日は出陣だぜ」と言って立ち上がり、その辺に散らばっていた自分の服を拾って身に付けていく。


サイフォンは、「そうね。最初にスタンピードを起すんでしょ? でも、あの子大丈夫なの?」と言いながら、自分の髪を手透きで整えていく。水色の、美しい髪だ。指の間には薄い水が張っており、何かしらの魔術で髪を洗いながら寝癖を直しているものと思われた。


「魔獣使いのパイパンか? あいつの、テイマーとしての実力は本物だぜ?」と、バーンが答える。


サイフォンは、「そういうことを言っているんじゃないの。」と言って、自分も立ち上がり、脱ぎ捨ててある服を身に着ける。


「そうらしいな。5年前の生き残り。あいつ、自分で自分の親を殺したんだってよ」


「でもさ、洗脳教育受けてたんでしょ? 大丈夫なの?」


「ああ、あいつには、妹と、それから一緒に逃げて来た小娘達がいる。そいつらの身柄はエアスランだからな」


「ふうん。人質ってことね。まあいいわ。今からここでスタンピードが起きるのを待てばいいのよね」


「そういうことだ。同時に、この街で暴動が起きる。そして、ここの防衛軍がスタンピードや暴徒鎮圧のためにばらけた段階で、俺達が一気に貴族区になだれ込む」


「あなたの部下50人と、私の水魔道兵10人、たったこれだけで貴族区を占領できるのかしら」


「暴動には数百人の反社会的なヤツらが合流する。それになぁ、。後続の150も直ぐに来るだろうさ」


エアスランの潜入兵、バーンとサイフォンの二人と、彼らが率いる合計60人は、スタンピードが起きるその時まで普段と変わらぬ生活を続けていた。



◇◇◇


森の中、周囲から死角になっている洞窟に、総勢150人の強襲部隊が潜む。


その洞窟の更に奥に、今回のウルカーン攻略軍の特務部隊を率いるクメール将軍がいた。

クメール将軍の隣には、巨乳のGGと呼ばれている女性がいて、将軍に胸を揉まれているが、無表情のまま立ち尽くしている。


その二人の前には、ティンガロンハットに鞭を持った女性がいて、ニコニコと笑っている。


「行くぞ。復讐の時だ」と、クメール将軍が言った。


「……分かった。スタンピードを起せばいいのね」と、ティンガロンハットの女性が言った。


クメール将軍は、「行ってこいパイパン。手加減はするなよ?」と言って、おっぱいを触っていた女性のスカートをおもむろに下げて、股ぐらをまさぐり出す。


ティンガロンハットの女性、パイパンは、目線をずらし、「はい……」と答え、そのまま踵を返し、部屋から立ち去る。


「血の雨だ。ふはははは」


パイパンが立ち去った後、薄暗い洞窟では、将軍の高笑いと女性のくぐもった声がひたすら響き続けた。



・・・・・


しばらく後、ネオ・カーンの街の周囲、あらゆる所の地下迷宮から続く穴という穴から、魔物が這い出てくる。


それは、超巨大な蜘蛛、ヤスデ、ゲジゲジ、トカゲといった、普段地下にいるはずの魔物達。さらに、穴を利用して生活している熊や狼の魔物も含まれている。


それらは、黒く大きなトラに追い立てられて、一気に地上に這い出る。さらに、黒く大きなトラをサポートするように、巨大なネコ科の魔獣が走り回り、まるで羊の群れを誘導する牧羊犬のように、魔物の群れをネオ・カーンの街に導いていく。



◇◇◇


屋台街で、一組の男女がピザっぽいものを食べている。


「まじい」とバーンが言った。


「アンタ、美味しそうとか言って買ったのは誰よ。責任持って食べなさい」と、サイフォンが本気で嫌そうな顔をして言った。


今、この二人は暢気に屋台デートしていた。


なかなかスタンピードが起きないので、少し早めの腹ごしらえをすることにしたようだ。


だが、その時、街がざわつき始める。


「お~い、スタンピードだってよ」「まじか。ここの所、物流が鈍ってんのに、これでさらに鈍るなぁ」「城門閉じちまうからな。外にいる行商人達大丈夫かよ」「ここの街には優秀な守備隊がいる。魔物くらい大丈夫だろう」


バーンは、「ふん。やっと来たか。さてさて、ここの守備隊がどう出るか」と言って、テーブルに立てかけていた大剣を握る。


そのバーンの後ろに、これまた屈強な男が近づき、小声で「では、バーン様、我らはこれにて」と言った。


バーンは、「ああ、任せたぜ。存分に暴れてきな」と応じた。


潜入兵の一部は、暴徒を率いて守備隊をばらけさせる計画だ。


「私達はどうするの?」と、サイフォンが言った。


「そうだな。守備隊の動きを見極めて、ジャイアントキリングを目指す。とりあえず、ここは部下に任せ、貴族区の近くに行っておくか」と、バーンが答える。


「せっかくの悪鬼あれを、悪鬼討伐隊にぶつける分けにも行かないでしょ? どうすんの」と、サイフォン。


「だからよ。平民区で悪鬼が出たと流言を飛ばす。悪鬼討伐隊がのこのこ出てきたとこで、暴徒と通常戦力で足止めして削る。悪鬼は貴族区の方で解き放ち、貴族の私兵や正規軍の相手をさせる。それで俺達は、さっさと領主館を占領するという寸法だ」


「行政府のトップを押えてしまえば、後は烏合の衆だもんね」


「そういうことだ。まずは、平民区でかく乱を行い、敵さんに兵を吐き出させる。その隙に、先鋭50名で領主館を押えるぜ」


「私のとこの水魔術士は直属の10名でいい? あいつらの攻撃って炎ばっかりだから」


「まあ、今回はララヘイムが俺達に付いている時点で、ウルカーンに勝ち目はねぇ。楽勝だ」


二人が、駄弁りながら歩いて行くと、どこからともなく武器を手にした数十人の戦士が付き従う。


そのうち、「暴動だ! 西門で暴動が起きてるぞ!」「悪鬼だ! 悪鬼も出た! 悪鬼討伐隊を連れてこい!」「東門でも暴動だ! 警備兵を呼んで来てくれ!」「街中でも暴動だ! ありゃあ不良少年グループだ! 兵士を連れて来てくれ!」などど、様々な声が上がる。


そのいくつかは真実であったが、中には流言飛語の類いも混じっている。用意周到に準備されたネオ・カーン攻略戦が、今開始された。



・・・・


バーン率いる精鋭歩兵が、ネオ・カーンの市中で牙を剝く。


金髪の大男バーンが、「けはは! ほおうら、悪鬼だぜぇ!」と言って、魔物から逃げていた住民を大剣で切りつける。


「悪鬼! あれが悪鬼なの?」「逃げろ! 討伐隊を呼べ」


人々が散り散りになって、逃げ惑う。


「アンタは……市中で暴れちゃだめって言われなかった?」と、水色髪の清楚な女性が言った。


「いいんだよ。なかなか軍が派遣されてこねぇからよ」と、金髪の大男が返す。


街中では、すでに至る所で炎が上がり、略奪や女性に暴行するものまで出てきている。


そして、大通りでは、我が物顔で魔物がうろついている。


バーンは、「城門はうまく制圧したようだな。しばらく暴れようぜ!」と言って、逃げ惑う住民を切り伏せていく。



・・・・


バーンは、目に付く人々を切りつけた後、「さてと、そろそろ貴族区に行くぜ! 断首作戦だ」と、自分の部下達を振り返って言った。


その時、「バーン様、あれは強化人間です」と、部下の一人が言った。


部下の言う先には、身長2m以上で、筋肉が異常に発達した大きな男がズシズシと歩いていた。


「強化人間? おお、あれか。悪鬼討伐用の狂戦士! 仕留めておくか」と言って、大剣を持ってズカズカと大男の方に歩いてく。


手に棍棒を持った、筋肉が異常に発達した大男が、自分に近づいてくる者に気付く。


「ぐぅがぁあああ! おああああ!」


言葉にならない声を発し、金髪の大男を殴り付ける。


その後ろでは、「どうした! 悪鬼か!」などと叫んでいる男がいる。それは、この筋肉だるまの飼い主。いや、調教師といったところだろうか。悪鬼討伐用に知性を奪っているとはいえ、命令には従うようにしつけてあるようだ。


バーンは、「ほらぁ、悪鬼だぞ!」と言って、筋肉に斬りかかる。筋肉も負けじと棍棒を横凪にし、バーンをけん制する。


「意外と強ぇえ! ほらよ」と、バーンが言って、相手に何かを投擲する。


そして、筋肉大男の目の前で炸裂する光の球。強烈な光が大男の視力を奪う。


「隙あり」と言って、すれ違いざまに足の腱を切りつける。


ブチンという音がし、筋肉大男が片膝をつく。その隙を逃さず、屈強な戦士達が次々と筋肉大男の体に剣を突き刺していく。


「な、何だお前らは。まさか、エアスランか?」と、飼育係が言った。


バーンは、「そうだよ」と言って、飼育係の頭上に大剣を振り下ろした。


その後、バーン達は、周囲にいた悪鬼討伐隊員達を、奇襲で撃破していく。今のバーン達の服装は、冒険者のそれと変わらない。一見では敵と識別されないことが功を奏していた。


バーンは、「へっ、じゃあ、今度こそ本命だ。全員、貴族区に行くぞ」と、自分の部下達とサイフォンに向けて言った。


その部下達の数名は、長さ180センチくらいの長細い包みを持っていた。それは、人一人がすっぽりと入るくらいの大きさだった。

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